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地獄の建国者達  作者: ぞの
3/5

不穏な動き

初めて出てくる登場人物がたくさんいますが、うまく説明できるように頑張ります。

  数日前 大ラックラリーボ帝国帝都ヴィンクー

 ジェハンナンの西にあるこの島国の帝都では、多くの人でにぎわっている。最近では身分の高いものだけが乗れる「車」というものが普及してきた。この国は諸外国と違って珍しく左側通行である。大通りでは何台か何台かの車が走っている。

 一方で、路地裏では、身分の低い人たちが「この野郎」と身分の高い人に言われ、殴られている。この国では、こんなことは日常茶飯事だ。毎日のように差別や暴力が蔓延している。 

 

 そんな中、首相官邸では閣議が始まろうとしていた。 

  閣僚の席には続々と各大臣が座り始めた。やがて全席に各大臣が座った。最後に大帝国総理大臣レクラス・ジョンが座った。ジョン内閣は6年前に成立た長期政権だ。


「全員揃ったようであるので閣議を始めよ……」


席に着いたレクラスがそういったが


「お待ちください総理、私から話があります」


ハードン・クレイマン陸軍大臣が首相の発言を遮った。


「何の話だ。今日は予算法案を決めなくてはならないから手短に話してくれ。無理ならまた後日の臨時閣議でも……」

「いえ、たぶん今日は私の話だけで閣議は終わるでしょうが、予算法案よりもずっと大事なことです。なにせ、ヒープラスリック王国との戦争準備が整ったのですから。ようやく10年前の雪辱を果たす時が来たのですから」

「そ、それは本当なのかね」


とレクラスが食らいついた。そこに


「詳しくは、私が話してもよろしいでしょうか」


とエレナ・メルッチャー魔法軍大臣がそういった。


「2か月前、我が大帝国は王国への反乱工作が成功しました。王国は極東で魔導軍の3分の1を失いました」


 エレナがそう説明すると、イルナス・テッペン気象庁長官が


「それだけではありません。現在、中央大陸極東の地域では雪解けの雪崩によって列車が動かず、反乱制圧のために向かった魔導軍と魔剣軍の全戦力、陸軍の7分の1が動けない状態です。山奥のインフラが整っていないところで起きたので、復旧には最低でも1か月はかかる見込みです」


と補足した。


「そういうわけなので王国の魔法系の軍や陸軍の一部が一切動けないわけです」


とエレナが言うと、そこに


「ちょっと待ってください。僕は何も聞いていません。今日の話も初めて聞きました。詳しい説明を求めます」


イニエル・リクベル法務大臣兼内務大臣がそういった。


「そういえば、総理と外務大臣、軍部の人間以外には話していませんでしたね。何から話せばいいかしら、イニエル」


 そう言われるとイニエルは


「まず、どうやって王国内で反乱を起こさせたのか知りたい」


 と訊いた。


「簡単なことよ、王国第4魔導師団に我が国の諜報員を送り込んだのよ。コードネームは『オファサーマーダー』。その諜報員と内通して今回の反乱を起こしたのよ。反乱に加わった人は皆、祖国のために死んだと勘違いしたでしょうけどね」

「なかなか、恐ろしいことをしますね」

「リクベル、なぜ私がヒープラスリック人に同情しなければならないの。彼らは憎きヨーロウ民族よ。それともリクベル、彼らに情でも移ったの」


 エレナは元々、ポーク駐屯魔導軍の人間で、ヒープラスリックと何度も戦っている。そこでいくつもの同胞が死んでいくのを見てきたのだ。そのため、人一倍ヒープラスリックに対する恨みが強い。


「そんなつもりはない。ただ少し気になっただけだ。それよりも、もう1つ聞きたいことがある。なぜ第5次ヘジャック戦争から10年たった今なのか。もっと前から攻撃する機会はあったはずだ」


 イニエルは話を変えようとした。


「それは、私じゃなくてイルカン・ジャンク外相に聞いたほうがいいでしょう。ね、ジャンク外相」


 エレナはジャンク外相に話をふった。


「はい、私たちは10年前から極東の島国であるデザルフド帝国に目をつけていました」

「その帝国が何の関係があるというのだ」


とイニエルが突っ込んだ。


「なにせデザルフドはヒープラスリックと極東で海を挟んだ隣国であり、インドゥフェレン諸島という両国海峡にまたがる諸島に領土問題を抱えているのですから。現在、その諸島すべては王国の支配下にありますが、帝国がそれを黙ってみてると思いません。ですから、我が国は、いづれ両国が戦争になると見越していました」

「ちょっと待て、その話を聞く限りこの戦争にはデザルフドも参戦する風に聞こえるが、その認識であっているな」


 というイニエルの確認に対し、イルカンは


「そうです、リクベル法相。なにせ、あとは両国皇帝陛下の許可が下りれば、同盟を締結出来るのですから」


 と答えた。


「水面下でそんなことを進めていたとは驚きだ。それでいつ宣戦布告するのかね」

「本当なら、同盟締結とすぐ同時に宣戦布告の予定でしたが、1か月の延期になりました」


イルカンの言葉を聞いたレクラスが


「それはどういうことなのかね、ジャンク外相。もう宣戦布告文書は作ったのに、日付けを変えなければならないじゃないか」


 と面倒くさそうな顔をしながら言った。


「本当はデザルフド帝国には極東にいる王国の反乱鎮圧部隊と戦って負けてもらうつもりでしたが、状況が変わりました。王国軍の移動列車が直り、鎮圧兵が移動中の時に攻撃を開始します」


とハードンが答えた。


「帝国が勝っても負けてもこの大帝国には何の影響もないじゃないのか」


 レクラスにとってデザルフド帝国の運命なんてどうでもよい。関心があるのは祖国大ラックラリーボ帝国の未来だけだ。逆に祖国のためだったらなんだってする。


「総理、それについてはまず、デザルフド帝国の(一応の)参戦理由を抑えなくてはなりません。帝国の参戦理由は主に2つ。1つ目は王国保護国のキュールト国の独立。そしてもう一つはティレーヤラン共和国の北部に駐屯する王国軍の撤退です。2つの国はどちらも中央大陸極東に位置しています」


 ハードンがそう説明した。


「それが我が国の利益になるのかね」


 とレクラスは聞いた。


「話はこれからです。帝国は我が国にある秘密外交を持ちかけました。もし、戦争に直接協力して勝利したら、ティレーヤラン共和国の3つの港の租借と()()を共和国内で密売することを黙認すると。中央大陸極東の港を掌握し、()()を密輸するということは我が国への利益は計り知れません」

「誰がそんなことを言っていたのかね」


 とレクラスが聞くと


「帝国外相です。安心してください首相、奴らは発展したとはいえ腐っても新興国です。ましてや、世界最強の我が大ラックラリーボ帝国の足元にも及ばないでしょう。つまり、この秘密外交は絶対に守られるでしょう」


 とハードンは自信気に答えた。


「成程、確かに帝国を助けることは我が国の利益につながる。それならハードン、開戦時期を遅らせるのは、支援としては小さいのではないか」


 というレクラスの疑問に対しハードンは


「ですから、陸軍としては海軍を極東に派遣してほしいのですがね。どうですか、ウェリンスター・ハロルド海軍大臣」


と言った。ハードンの頼みに対し、ウェリンスターは一切表情を変えずに


「嫌です。なんでそんなところに大帝国誇りの海軍を派遣しなければならないのですか」


 と拒否した。


「では、どうすれば海軍を動かすのかね」


 というレクラスの問いかけに対して


「俺の2つの要求を呑んでくれたら考えます。1つは、ポークにおける反乱鎮圧を急いでください。()()()()()()()()でわざと起こした反乱なのに2か月もかかるとは何事だ。王国との戦争のために1か月未満で終わらせろ」


と答えた。その要求に対しレクラスは


「わかった。ポーク植民地近隣の大帝国領植民地から軍を派遣し、最新の兵器も投入しよう。それでもいいかね、クレイマン陸相」


ハードンは何の躊躇いもなく頷いた。レクラスやハードンにとって反乱鎮圧は簡単なことである。


「そしてもう一つの要求ですが、戦後すぐに王国と同盟を結んでください」


 官邸が一瞬で凍り付いた。エレナはすかさず反応した。


「貴様、さっきの話を聞いていたか。我々はムーシビエレス民族なのだぞ。ヨーロウ民族と同盟など……」


 エレナは過去の因縁からヒープラスリック王国が本当に嫌いなのである。エレナの怒りに対し、ウェリンスターは


「メルッチャー魔相、今の情勢をわかっているのですか。先の大戦で何の罰則もなかったゲヒルベンシャーは今や強大な軍事力を手にし、このままだと我が国はいずれ追い抜かれます。そのために包囲網を再び作るべきだと。それに我が大帝国は、民族的にはヒープラスリック人ことヨーロウ民族は敵かもしれないが、歴史的にはゲヒルベンシャーが敵だ。そうだろ」


 と淡々と答えた。


「……し、しかし、現実的に戦後すぐに同盟などできるのか」

「王国の同盟国でゲヒルベンシャーの西の隣国、我が国と海を隔てているプルンデレン共和国を通せばいいじゃないか。かの共和国は、世界一ゲヒルベンシャーのことを憎んでいるのだぞ。話はすぐに通る」


このようなエレナとウェリンスターの言い合いにレクラスはうんざりした。2人は昔から仲が悪かったことをレクラスは知っているからだ。


「ハロルド海軍大臣、メルッチャー魔法軍大臣、言い合いはそこまでにしてくれ。私はウェリンスターの要求をすべて受け入れようと思う」


 レクラスはそう言った。


「ちょっと、総理」


 エレナは納得いかない様子だ。


「すまないエレナ。その代わりウェリンスター、海軍はいくつ動かすのだ」

「現在、中央大陸南部の植民地や傀儡国、保護国にある海軍をすべて動員します。具体的には、戦艦8隻と巡洋艦20隻ですかね。これくらいあれば十分でしょう。後は海軍提督に軍を動かすよう言っておきます」

「了解した。それでは、話は終わりだな」


 とレクラスに言われたので、ハードンは


「はいそうです。後は綿密な侵攻計画を立てるだけですが、それは軍部にお任せください」


 と言った。


「わかった。私は明日、忙しいのでここで失礼する。……はあ、結局予算案の議論ができなかった」


そう言ってレクラスは席を立ち、官邸をあとにした。レクラスが官邸をあとにすると、エレナがウェリンスターに


「ねえ、どうしてそこまでゲヒルベンシャーが嫌いなの」


と、訊いた。


「奴らは、我々の()()()()を奪った。取り返すまでは我が大帝国の敵だ。いつかは、復讐として、ゲヒルベンシャーの大地をブルドーザーでまっさらにしてやりたい」


 エレナは、ぽかんとしてしまった。そして


「そんなものにいつまでこだわっていんのよ」


 それに対してウェリンスターは呆れたようにして


「どうやら人を殺しすぎたせいで、お前は感覚が狂ったようだな。この大虐殺者め」


 と言い放った。それに対してエレナは、


「今、私のことを大虐殺者って言ったわね。じゃあ、イニエルはどうなの。あいつは、新植民地法や新奴隷法、治安安全法で何人の人を殺しているの。あの大虐殺者に比べたら、私なんて比じゃないわよ」


 と言った。急な不意打ちを食らってイニエルはびっくりした


「そんな、とんでもない。僕はこの大帝国を思って、法務と内務を全うしている。それに僕が大虐殺者だって。僕が法相と内相になった5年間でラックラリーボ人の死者が増加したって話は聞いたことがないけど」


 ……そうやって言い争いをしているうちに、ハードンが


 「ほら、やめんか。周りを見てみろ。みんなお前たちの醜い争いを見て、呆れているぞ」


 と仲介した。3人が周りを見渡すと各大臣たちがくすくすと笑っていた。


 「うう……恥ずかしい」


 エレナがそういった。


 「わかったならもう……」

 「そういえばハードン、息子さんは元気にしてる? 」


 エレナがハードンの話を遮った。


 「ええ……まあ……」

 「確か名前は」

 「……スレイマルだ」

 「そうそう、確か陸軍入ったのでしょ。最年少で少尉になったって聞いてびっくりしたわ。半年で将校になるなんて、やっぱり才能ね」

 「そ、そうですね……、まあ……私に負けず劣らず…ですよ……」


 ハードンがお茶を濁したせいで空気が悪くなった。ハードンが言葉を詰まらせるのは珍しいことだ。



 それはそうと、大帝国と王国の間に軍靴近づいているのは確かだ。

 ここから、地獄の序章が始まるのだ……。


皆さんこんにちは

まさか、この反乱に大ラックラリーボ帝国が絡んでいたなんて驚きですね。


さあ、軍靴の足音が近づいている王国と大帝国とデザルフド帝国の運命はいかに……


そしてウェリンスターの言っていた魔女の力とは……



次回もぜひ読んでください

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