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地獄の建国者達  作者: ぞの
1/5

6万年後も繰り返す。

ゆっくり書きます。

何卒よろしくお願いします。

 イシュテン歴1964年2月13日

 ドゥビーゾ共和国からゲヒルベンシャー連邦行を走る列車に乗って、俺とシェルミーはついに念願の祖国に帰ろうとしている。まもなく夜が明ける。西には、この世界にある3つの月のうち赤い月である紅蓮の月が沈もうとしてる。

 

 「ケルン様、もうすぐゲヒルベンシャーに入国します」


 そう言ってシェルミーは寝ている俺を起こした。シェルミーはずっと起きていたようだ。


 「2年間、長かったですね。これでようやく帰れますね」

 「そうだな」


 違う。お前にとっては2年かもしれないが俺にとっては24年間も耐え忍んでたんだ。一緒にするな。それにしても……


 「ようやくだ。ようやく()()()()()に帰れるのだ。今までの人生でこんな喜びを感じたことはない」


 そうこうしているうちに、列車はゲヒルベンシャー領内に入り、国境付近のチーイーム駅にとまった。


 「シェルミー、降りるぞ。忘れ物はするなよ」


 と言ったが俺も席の机に置いていた()()()を忘れそうになり危なかった。この本を忘れることだけは許されない。


 「ケルン様、もし、もしですよ。私が検問所に引っかかったら、どうします」

 「大丈夫さ。ばれはしない。もしばれたとしても力ずくで突破する」


 それに、俺はお前をだませ通せているんだし。


 「列車を降りたら速やかに検問所に行ってください」


 (なま)り口調のゲヒルベンシャー語をしゃべる車掌がそう乗客に言った。車掌がなぜ訛っているのかは地方出身だからだと勝手に思った。まあ、そんなことはどうでもよかった。俺たちは素早く列車を降りた。

 

 今日、この日、ようやくゲヒルベンシャーの大地を踏むという24年間の夢がかなった。


 「俺を産んでくれてありがとう、母上……! 」


 なぜだか分からないが、自然とその言葉が出てきた。その時、何かの視線を感じた。後ろを振り向いてみたらあの車掌と目があった。車掌はすぐに目をそらした。


 大丈夫、ばれてない。ばれるはずがないのだから。

 




 24年前 イシュテン歴1940年4月9日


 この世界には、中央大陸と呼ばれる大きな大陸がある。その内、北西の地域をジェハンナンという。ジェハンナンには3つの民族がすんでいる。東部にヨーロウ民族、残った西部のうち、北部に住む人々がムーシビエレス民族、そしてその南に住んでいるザウダータイズ民族。これらの3つの民族を三大民族と言う。

 ヒープラスリック王国とはヨーロウ民族の1つであるヒープラスリック人の国である。この国は東は大陸の極東から、西はジェハンナンの東部までを占める東西に広大な領土を持つ国だ。


 その王国の王宮で、ある大きな産声が上がった。その産声は、まさに悪魔の誕生の瞬間だった。


 「オギャア、オギャア」

 「おめでおめでとうございます、皇太子陛下」


 使用人らしき人がそういった。


 「まあ、、かかわいい」


 赤ん坊を抱いている母親らしき人がそういった。


 「この子はきっとこの国を支えるたくましい子になるぞ、きっと」


 先程、皇太子陛下と呼ばれていたこの赤子の父親らしき人がそういった。

 彼の名は、レールル・ロザフス。現皇太子ガルテン・ロザフスと愛人のフィルメ・ロザフスの間に生まれた。ガルテンにとっては4番目の息子で、9番目の子供となる。

 二人とも子供の誕生を喜び、幸せに満ちている顔をしている。



 「生まれてきてくれて、ありがとう」



 フィルメがそういった

 その時、


 トントン

 「失礼します」

 「ああ、メルムールか……。入ってよいぞ」


 と、ガルテンが言った。

 メルムールは、ガルテンの正妻である。ちなみに、ガルテンには13人もの愛人がいる。そのうちの一人がレールルの母であるフィメルだ。

 メルムールの他にもう一人、10歳ぐらいの小さな男の子が入ってきた。


 「父上、おはようございます。」

 「おお、我が息子よ、久しぶりである。元気にしておったか」

 「はい。それと、父上、今日母上と庭で散歩をしていたんですけど、そしたらですね……」

 「こら、カルテラ、静かにしなさい」


 メルムールにそう叱られたのは、彼女の息子であり、この王国の次期皇太子であるカルテラ・ロザフスである。レールルにとっては腹違いの兄弟である。


 「ほら、カルテラ、弟にあいさつしなさい」

 「弟? もしかして、あの赤ん坊も僕の弟になるの」

 「そうですよ、カルテラ様」


 とフィルメが優しく答えた。


 「へえー……。ねえ、フィルメおばさん、僕も抱っこしていい」

 「ええ、もちろんいいですわよ」


 そう言って抱きかかえていたレールルをカルテラにそっと渡した。


 「こんにちは。僕、カルテラっていうんだ。君のお兄さんになるんだ。義理だけどね……。まあ、そんなことはどうでもいい。君、名前はなんていうの」

 「アァ、フェ、ウゥ」

 「ふふ、きっと『僕は、レールル・ロザフス』って言ったんでしょうね」


 フィルメがそういった。レールルは今にも泣きそな顔をしている。


 「ごめんなさいね、うちの子が迷惑をかけて……」

 「いいんですよ。むしろ弟思いのいいお兄さんなんですね」


 この国の妻と愛人達は基本的に仲が悪いということはほとんどない。むしろ仲がいいまである。(陰ではどうしてるか知らない……)


 「ああ、そういえば、ラクスマスはどこに行ったのだ」


 突然、ガルテンがそう使用人に尋ねた。


 「ラクスマス様なら王都郊外の屋敷にいると思いますが……。急用でしたらお呼びしましょうか」

 「ああ、お願いしよう。ただ……、今王都ポグスーを彼が歩いて大丈夫なのかね」

 「ラクスマス様のことですし、おそらく大丈夫でしょう」

 「そうかそうか。では、私もそろそろ本殿に戻るとするか」


 するとそれを見たカルテラが


 「父上、もうどこかへ行ってしまうのですか」


 と寂しがった。


 「少し、急用ができたんだ。大丈夫、またすぐ会えるさ。今度はお前の面白い話でも聞かせてくれ」


 ガルテンがそういうと、カルテラは笑顔になってガルテンに手を振った。ガルテンも手を振り返してから部屋を出て行った。


 「私もこの子を外に連れてってあげようかしら」


 そう言ってフィルメはレールルを連れて王宮の庭へ行ってしまった。





 ラクスマスという男はルーラフ家が営んでいる王都郊外の屋敷に居候してる人である。


 「ラクスマス様、王宮から電報がどいています」


 と、この屋敷の支配人であるルーラフが言うと


 「差出人は誰からだ」


 と、白髪で、杖を突いてる老人に言われた。この男こそ、ラクスマス・ウラルフである。彼は退役軍人で、10年前の戦争のときに左足を負傷したため、杖を使わないと歩けない状態である。ちなみに、5年前までは、大佐として軍に勤めていた。


 「皇太子さまからです」

 「じゃあ、行かん」

 「しかし、この文言から見るに、行かなければ殺されるんじゃないでしょうか……」

 「そんなわけあるか、あほか。それに、俺は足が痛くて歩きたくないし、今のポグスーを歩きたくないし」

 「いや、あなたいつも普通に屋敷を歩いているじゃないですか。それにここはポグスー郊外とはいえ王宮まで歩いて30分もかかりませんし、変装すれば大丈夫でしょうし……、というか初めからラクスマス様の命なんか狙われてませんし」


 ラクスマスはそうルーラフに言われると彼を睨んだ。軍人として、一般市民である彼に言い負かされたことが悔しかったのだ。


 「はぁ、要件を聞こうか」

 「先程、皇太子さまとフィルメ様の間に息子様が生まれたのは知ってますか」

 「知らないね。そもそもフィルメって誰だ。まあ、大方、あいつの愛人だ何だかなんだろうけど……」

 「そんなところです。で、その息子様に用があるそうです」

 「え、そこでなんで俺が出るん。俺とそのガキに何の関係があんだよ……。はぁ」


 ラクスマスは少し考えて


 「じゃあ、行くか」


 そう言って帽子をとると


 「ほんとに歩いて行くんですか。先程は言い過ぎたというか……、取り敢えず何か手配しましょうか」

 「いや、たまには外を歩きたい。ずっと屋敷にいたら気がめいりそうだからな」


 そう言って彼は外を出た。





 王都のメインストリート沿いに進めばすぐに王宮につくはずだ

 「これはひどい」


 とラクスマスが言った。

 そう言うのも無理はない。今のポグスーの人々はお祭り状態になっているのだ。多くの家にヒープラスリックの国旗が掲げられてる。

 これはレールルの誕生を祝ってる……、というわけでは決してない。

 第5次へジャック戦争という世界最強で世界中に多くの植民地を持つ大ラックラリーボ帝国と資源が豊富な南部のヘジャック州をめぐる戦争に勝利したのだ。ただそれだけだったらいいのだが、これに便乗して、すでに強盗なども行われている。特に、王家は、反王党派が蜂起するのを恐れている。だから、王都のそこらへんに近衛兵が目を光らせている。


 「ちっ、ただの国境紛争で勝っただけなのに」


 ラクスマスは元々、南方部隊の軍人であるため、大帝国との戦争経験がある。仕方ないので彼は回り道を使った。





 予定よりも王宮に遅く着いたラクスマスは、王宮の警備隊に皇太子からの手紙を見せた。


 「ああ、ラクスマスですか。どうぞお入りください」


 そう言われると彼は急いで門をくぐって、ガルテンがいる部屋まで向かった。

 部屋に着くと対面の席にガルテンが座っていた。


 「こんなとこまで呼び出してなんの用だ。俺は忙しいんだぞ」


 そう言いながら、何の断りもせずに席に座った。


 「相変わらず、口の利き方が悪いし、態度も悪いな。まぁ、そんなことは目をつぶっておこう」


 「早く、本題に入れ」


 「本当に、何も変わらないな……。じゃあ、本題に入ろう。軍をやめてニートなお前に朗報だ。先程、私に9番目の子供が生まれた。名はレールルと名付けた」

 「()()()()()()()()()

 「その子の世話をお15年ほどお前に任せようと思う」


 一瞬、ラクスマスはわけがわからなくなった。そして、我を取り戻して


 「どういうつもりだ」


 と聞くと


 「借りを返してもらう」


 とガルテンが答えた。

 「借り」とは、この性格だから多くの軍人に嫌われていて、なかなか出世できないラクスマスをガルテンが大佐まで推薦したことだ。


 「違う。俺が聞きたいのは、どうして俺がその役目に選ばれたのか」

 「レールルには軍事に関して王家を支えてもらおうと思ってる」

 「嘘つけ。本音はなんなんだ」

 「今はまだ教えない」

 「ちなみに拒否権はもちろん」

 「ない」


 とガルテンは満面の笑みで断言した。


 「っ……、分かった、少し席を外して考えさせてもらう」

 「少し待ってくれ。もう一つ質問がある。このたびのヘジャック戦争についてどう思う」


 そう聞いた瞬間、ラクスマスの顔は真剣になって


 「かの大帝国は賢い国だ。今か今かと復讐の機会をうかがってる。今すぐにでも軍備を増強してその時に備えるべきだ」


 と言ったがガルテンは


 「しばらくは戦争にならないと思うが、一応親父には……国王には言っておく」


 とあまり真剣に受け止めていなかった。ラクスマスはそう言ってすぐに部屋を出た。部屋を出たら、まず煙草に火をつけた。基本的に王宮内では禁煙だが、彼はそんなことお構いなしだ。廊下を歩いていると、この王宮の大きな庭を見つけた。その中に赤子を抱いて、何か赤子に話しかけている女性がいる。きっと、彼女らがフィメルとレールルなのだろうとラクスマスは思った。

 ラクスマスはゆっくりとレールルを見たら、目があってしまった。そして次の瞬間、ラクスマスは突然倒れてしまった。





 ラクスマスは目を覚ました。


 「ここは、どこだ。夢なのか」


 ラクスマスは顔を上げてゆっくりと周りを見渡した。そこには、町中に炎が渦巻いていた。目の前には、大きな建物が燃えていた。


 「なんなんだ、あの鉄の塊は」


 空を見上げるとラクスマスには見たことのないものが飛んでいた。しかもそこから何か落ちて、それが爆発している。

 町は逃げる人であふれかえって、その人たちに銃口を突き付ける者や魔法を放つ者もいる。


 「嫌だ、死にたくないよ」

 「誰か助けて」


 と逃げる人もいれば


 「いたぞ、こっちだ」

 「逃がすもんか」


 と銃を持ちながらそう言ってる人がいる。彼らは何の躊躇もなく人を殺してる。彼らは何者なのかラクスマスは分からなかった。そして、ラクスマスは彼らが2種類の別々の旗を持ってることに気づいた。ただ……


 「どっちの旗も、いったい何なんだ」


 ほぼすべての国旗を覚えてる彼でさえ、知らないものだった。そうしているうちに、鉄の塊は町を焼き尽くし、火はどんどんラクスマスに迫ってきている。周りは死体だらけだ。

 その時


 ―聞こえるかウラルフ・ラクスマス


 「嘘だろ、その声は」


 周りには死体だらけなのにどこからか声が聞こえる。


 ―私がそなたに告げた使命を今果たせ


 「そ、それはつまり」


 ―これは、お前が使命を果たさなかった未来の姿だ。目的を忘れたか? 必ず使命を果たせ。


 「そうだ、俺は……」


 ラクスマスの足元に火が来た。そして、


 



「おい、大丈夫か、しっかりしろ」


 ラクスマスは目を覚ました。目の前には、ガルテンがいる。彼は夢を見ていたのだ。彼は子供の時に言われたある言葉を思い出した。


 ―貴様に不思議な夢を見させる子供が現れるだろう。その子供を……―


 「ああ、思い出したよ」


 ラクスマスは不思議な笑みを浮かべた。


 「なあ、あのレールルって子は特別な力でも持ってんのかね」

 「魔法のことか。持ってる可能性はあるだろうが……」

 「そういうことではない……、15年だ。15年だけレールルの面倒を見てやる」


 ガルテンは急なラクスマスの返事にぽかんとした。


 「お前、ほんとにどうしたんだ。いつもは最後の最後までいやなことは断るくせに」

 「いやなもんか。少し興味が出たんだ。もしかしたら……」


 ガルテンは余計にわからなくなった。


 「とりあえず、屋敷にいるルーラフ家に電報を入れてくれ。もう、戻らないと。あと荷物の配送も伝えてくれ」


 ラクスマスは立ち上がた。そして、大きな一歩を踏み出した。彼にある強い決心が固められた。



 こうして、世界がまた一歩地獄に近づいたことをこの時はまだ誰も知らない。



 


 

どうも初めまして、ぞのです。

初めて小説を書いてみたので、拙い文章ではありますが、これからもぜひ読んでくれたら幸いです。



さて、最初からいろんなことがたくさんありましたね。

24年後の男女はいったい誰なのか、


ラクスマスが言っていた「またその名前かよ」とはどういう意味か…


ラクスマスの過去と目的とはいったい……!!


そして、タイトルの「6万年後」の意味とは……?!



次回もぜひ楽しんでください



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