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最終話:再会のその日まで

【レティシア視点】


 誰かに抱きついて甘えるなんて子供のころ以来だ。

 貴族にふさわしくない私でも、貴族らしく淑女であろうとする努力は怠らなかった。


 だけど今だけは許してほしい。

 もう二度と会えないと思っていた人と再会できたのだから。


 いつもは優しい表情のアルベルトだけれど、王国騎士団に務める騎士なだけあって鎧姿だととても凛々しい。

 まじまじと顔を見つめながら会話していると、アルベルトが不意に顔を逸らす。


「どうしたのですか?」


「いや、その……」


 歯切れ悪い返事をしつつ頬を指で掻く様子を疑問に思い、更に顔を近づけて観察するとその頬がうっすら紅い。

 どうやら恥ずかしがっているのだと気が付くと、私も急に恥ずかしくなってきた。

 名残惜しいけれど抱きつくのをやめて横に座りなおす。


「とりあえず場所を変えませんか?ここでは落ち着かないでしょう」


「でも外は今頃大騒ぎだと思うわ。屋敷から家宝まで持ち出しているし。一応書置きはしてきたのだけれど」


「あー、探さないでください、だけでは探してくださいと言っているようなものですよ。嘘でも翌日には戻るなどと書いたほうがましだったかもしれませんね」


「!?……どうして書置きの中身を知っているの?」


 アルベルトの話を聞いて驚いた。

 彼は亡霊となってずっと私の傍に居たという。

 私が絶句していると、勘違いしたアルベルトが慌てだす。


「あ、いえ、傍に居たといっても寝室などには立ち入っていません。ですから淑女としてのプライベートは守られていますので」


 必死に言い訳するアルベルトが可笑しくて、思わず口元を押さえながら笑ってしまう。


「そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。アルベルト様が紳士なのは分かっていますから」


 それにアルベルトになら私の全てを見られても構わない……とはさすがに恥ずかしいので言えなかった。

 アルベルトの死後の状況をお互いに確認したのだけれど、彼はずっと私の傍に居て把握していたので、私が彼の状況を一方的に聞くことに。


 彼はこの〈英雄の地下墓〉でギリアスに殺された後、すぐに亡霊となって私の元に現れたのだという。

 不謹慎だけど死後も私の元へ来てくれたと思うと私は嬉しくなってしまった。

 最後にアルベルトは少し躊躇ってからこう言った。


「〈開花の霊薬〉ですが、偽物の可能性が高いです。何故なら私の加護が微塵も増幅されなかったからです」


 ダスター商会はギルバート王子の紹介だったと聞いて、私の中に暗い感情がふつふつと芽生え始めた。


「そうですか、ダスター商会も殿下の差し金だったのですね」


「伝えるべきかどうか悩みましたが、もし俺だけでなく貴方や他の客にも偽物の霊薬を売りつけているなら、放ってはおけないでしょう」


 本当に私と違って周囲に気配りができる人だ。

 私なら王子とダスター商会への復讐で頭の中が一杯になっていただろう、というか今聞いてなっていた。


「それじゃあ私が飲んだ霊薬がもし偽物だったのなら、どうしてアルベルト様を召喚できたのかしら?」


「それは……」


「それは?」


 再びアルベルトの顔に朱がさしてくる。

 きっと私の顔も赤くなっているに違いない。

 二人とも同じことを考えているようなので、それ以上の言葉は要らなかった。





【アルベルト視点】


 ダスター紹介が売っている〈開花の霊薬〉は偽物だった。

 レティシアが再び購入して成分を調べさせた結果、加護を増幅させるような効力は一切ないことが分かった。


 王家御用達の商会ということで不正を指摘できる存在が少なく、〈開花の霊薬〉を売る相手や頻度も調整していたため明るみになっていなかったようだ。


 レティシアも公爵令嬢とはいえ、いわくつきだから言いくるめるとでも思ったのだろうか。

 逆に不正は貴族の手順を無視して、それこそ王家を敵に回そうが許さないレティシアである。

 追及の手を緩めることなくダスター商会を糾弾し、最終的に取り潰してしまった。


 この一件でギルバート王子はダスター商会との関係は別商会から紹介されたのだと、直接の関与を否定。

 俺への悪意があったかどうかは有耶無耶となった。


 今にもレティシアが王宮へ突撃しないかと冷や冷やしたが、ダスター商会を潰してとりあえず溜飲を下げたようだ。

 必死に止めてくれたご両親に感謝しなければ。


 結局霊薬は偽物だったので、レティシアの加護が増幅した理由は謎だ。

 いや、お互い恥ずかしくて口には出さなかったが、お互いを想う心……きっと愛の力だったのだろう。


 しかしあれ以降レティシアが俺を守護聖霊として召喚することはできなかった。

 愛の力が足りないとは思わない。


 そもそも加護の力というのはそう簡単に増えたりしないので、一度でも俺を召喚できたことは奇跡だったと言える。

 霊薬が本物だと信じ切っていたレティシアの素直さも大きかったはずだ。


 騒動が落ち着いてから暫くして、レティシアは貴族の地位を捨てて〈地神教〉の神殿に入った。

 公爵令嬢としての人生は完全に諦めたことになるので、俺としては複雑な心境だ。


「アルベルト様、見ていてください。必ず加護の力を成長させてもう一度貴方を召喚してみせますから」


 あれ以来見えてないのに、レティシアは神殿の自室に俺専用の椅子を用意してそこに話しかける。

 亡霊という俺の存在がそこに消えずに居ると信じて疑っていなかった。


 公爵家の広い屋敷と違って寝室であり着替えもするこじんまりとした部屋だ。

 着替えの際は部屋の外に出ているのだが、最中も部屋にいる前提で話しかけるのはやめて欲しい。


 レティシアが信じてくれている限り、俺も消えるわけにはいかない。

 今のところ消える気配はないが、気をしっかり持って?亡霊をやっていこうと思う。

 彼女に再び召喚される日まで、俺はずっと見守り続ける。 




 ……公爵家の伝手で手に入れたのか、レティシアは怪しげな魔術書を自室でこっそり読んでいることがある。

 死霊魔術に関する本のようで、下手したら禁書の類ではないだろうか。


 地母神のお膝元だというのにたいした度胸だ。

 目的のためなら手段を選ばない彼女らしいが、できればちゃんと守護聖霊として召喚して欲しいものである。

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