表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

5,死闘と決着

 戦闘の中で、勇者キョウマは違和感(いわかん)を感じていた。目前の敵が想定を(はる)かに超えてしぶとい。ただの魔王のはずなのに。今まで何人も殺してきたはずなのに。

 __ステータスは圧倒的に有利なはずなのに。


 しかし、魔王カインの方とて、息を切らして何とか持ちこたえているような危うい状況だった。

 このままでは決着も時間の問題だろう。さてどうする……。

 そうカインが思案しているときだった。


「__極大光線魔法(サンライト・ビーム)!!」


 辺り一帯に(ひび)(わた)詠唱宣言(えいしょうせんげん)の後、天からの極太レーザーが勇者キョウマを目掛(めが)けて降り注がれた。勇者はそれを()けたが、光の柱はその威力(いりょく)を維持したまま彼を追いかける。


 カインは振り向き、この魔法の詠唱者(えいしょうしゃ)を目視した。


「エールか!」


 そこには複数の魔法陣(まほうじん)に囲まれた女神エールがいた。服をはためかせながら玉虫色の(あわ)い光に包まれていている。


 勇者キョウマは光を(かわ)しながらエールに問いかける。


「あれ?確か神様は世界に直接干渉(かんしょう)できないって聞いてたんですけど」

「確かに神界ではそういう決まりになってましたよ!でも何せ、その神界が制圧されちゃいましたからね!」


 なるほど。と勇者は微笑(ほほえ)み、女神の目と鼻の先まで迫る。


「__じゃあ、ごめんなさい」


 一瞬だった。近付かれるまで何も見えなかった。エールは時が止まったかのような錯覚(さっかく)を覚える。勇者の右手には魔法の光。予備反応とその緑の(かがや)きから察するに、先の『生滅の破砕(バイオ・ブレイク)』なる魔法か。

 そこまで分かっているなら、後はその範囲(はんい)から()け出すだけだ。……しかしながら、エールは目を見開くばかりで身体を動かせなかった。それぐらいの刹那的(せつなてき)な出来事だったからだ。


 __横から()りの割り込みがなければ、彼女は間違いなく死んでいただろう。

 エールの時の流れは正常に戻り、吹き飛ばされた勇者キョウマは百メートル程の長い砂ぼこりを立てて失速した。


「あ……カインさん……!」

「無事か、エール」

「こここ、怖かったぁ……」

「しっかりしろ、阿呆(あほう)。……だが、良く()えてくれたな」


 そう言って、カインが笑みを(こぼ)す。初めて見せる彼の優しい表情に、エールは顔を少し赤らめさせた。しかし好意を向けられた本人はそれには気付かず、すぐに勇者キョウマを注視する。


「もうそろそろだ。(やつ)の……異世界勇者の化けの皮が()がれる」

「え?」


 エールは遠くに()している勇者キョウマを見やった。彼は中々起き上がらず、つい先程までと比べて明らかに動きが鈍くなっていた。


 そして、その変化に最も(おどろ)かされたのは、他ならぬキョウマ自身だった。


「な、何だよこれ?何で俺、怪我(けが)なんか……」

「__簡単な話だ」


 見上げると、そこには魔王と女神がいた。

 いつの間に……いや、(ちが)う。奴らは普通に歩いて来た。ただ俺が、ぼうっとしていただけだ。


 なおも状況の理解が追い付いていないキョウマに、魔王カインは冷酷(れいこく)に言い放った。


「自分のステータスを見てみろ」


 その提案はキョウマにとって、身の毛もよだつ末恐(すえおそ)ろしい結末を示唆(しさ)していた。


 どうして一々、そんな提案をするんだ?俺のステータスは最強なんだ。今更(いまさら)見る必要もない。

 ……いや、見たくない。今、何が起きているのか、奴が何を見せたいのか、俺にだって少し考えれば分かる。

 __自分がただのザコに戻っただなんて、認めたくない。


 しかしこんな状況においても、好奇心(こうきしん)には逆らえない。知りたいという欲には(あらが)えない。なぜならそれが人間だからだ。魔王はこれを理解した上で提案しているのだ。

 キョウマは心臓の底から(ふる)えていても、自分のステータスを確認することを自制できなかった。


HP:62、MP:14、攻撃力:27__ああ、もう十分だ……。


 キョウマは糸の切れたマリオネットのように、その場にうなだれた。その姿はまるで、ただいたずらに『そのとき』を待つ、許されざる囚人のようだった。


 大剣(たいけん)を手にした魔王が、キョウマを見すえたまま後方のエールに聞く。


「エール。死んだ異世界転生者はどうなる?」

「……戻れる身体があれば、そこへ戻ります」

「戻れる身体が無ければ?」


 エールは何も答えない。

 魔王はただ一言「そうか」と(つぶや)き、大剣を振りかぶった。


「……勇者キョウマ。お前はやり過ぎたんだよ。残念だが、ここで死ね」


 キョウマは抵抗(ていこう)も反論もしなかった。__自分が最強じゃなければ、こんな世界に意味などないのだから。


 大剣が振り下ろされ、勇者キョウマの肩から斜めに、一閃が走る。

 不思議なことに彼の身体から血のような(たぐい)は出ず、その全身は虹色に(かがや)く粉となって霧散(むさん)した。それら全てが風に流され、やがて世界の一部となるまで、二人はただ、見送り続けていた。


 __現実世界では、トラックに()かれた田中恭馬という男子高校生が一命を取り留めたらしいが、異世界の住人がそれを知る(すべ)はない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ