3.白兎理事長の説明その1
兎の姿の理事長はゆっくりと話し始めた。兎の姿ではあるが、何故か所々仕草が人っぽく感じるのは、やはり理事長が元々人だったからかも知れない。
「…儂がこの地に訪れたのは、紀元前2世紀頃になる。儂は大陸の皇帝に不老不死の霊薬を届ける事を約束し、旅に出たのじゃ…当時は航海技術も進んでいなかった…。大型船5隻でこの地、と言っても、もっと西の地じゃったがな」
蓉子が何かに気づき、兎理事長に声をかける。
「あの、理事長…その話が本当でしたら、私も知っている人物が理事長って事になるんですが…?」
「え、お蓉、これって有名な話なの?」
「うん、中国の古い歴史書、史記に書いてあるけど…」
兎の理事長が答える。
「うむ、少し途方も無い話に聞こえると思うが、聞いて欲しい。おそらく波多野君の考えている人物で間違い無いはずじゃ…。そう、儂はこの日本に辿り着いたのじゃが、船団はバラバラになり、儂もかなり衰弱しておった。それを助けてくれたのがイザナギとイザナミの夫婦じゃった。こちらでは大神と呼ばれる存在じゃったのう。場所は今の島根県、出雲と呼ばれる地方じゃ」
美咲もイザナギ、イザナミの名は知っている。でも神様じゃ無かった…?
「イザナギ達の一族は、大陸から来た儂らを手厚くもてなし、本当に良くしてくれた。住む場所まで提供してくれたのじゃ。儂と一緒にいた者達はそれでも数百人はいたのじゃが、その者達と共に儂らはそこに住み初めたのじゃ。いつしかその場所を(葦原中国)と呼ぶようになった。その当時の儂は徐福と名乗っておったのじゃが、こちらに長く住むようになり、ここでの名前が必要になってのう…」
蓉子は徐福の名前を理事長から聞き、やっぱりと声を出した。美咲はなんとなく名前を聞いたことがあるくらいだった。
「儂らはしばらく中つ国で生活しておったのじゃが、はぐれた仲間達や、不老不死の霊薬の事も気になっておったのじゃ。まず西を目指し旅を始めた。今の九州方面じゃ。そこで驚いた事に、大陸で滅んだ国の子孫達が暮らしておるのがわかったのじゃ。今の熊本辺りに滅んだ呉という国の子孫が、そして越の国の子孫も移り住んでおった。しかし、この国同士は当時からずっと仲が悪く、日本に来てもいつも小競り合いをしておった」
蓉子が相づちするように声をかける。
「呉越同舟って事ですね?」
兎の理事長が続ける。
「波多野君は流石、中国武術を学んでいるだけあって、良く知っておるの…うむ、そうじゃ。しかしそれだけではなく、古来からこの地に住んでいた者達もおってのう、三つ巴の争いになり、更に酷い状況になっていった。これは今から2千年も前の話じゃ…。そんな中、儂はイザナギ達の一族にこの地の仲裁を頼んだのじゃ。儂は製鉄の技術を授けていたので、この地にはまだ少なかった鉄を大量に持っておった。その力は強力で、イザナギ達は仲裁に成功したのじゃ。これがいわゆる倭国大乱の始まりじゃな…」
美咲も倭国大乱は聞いた事があった。段々理事長の話に引き込まれていく。理事長は続ける。
「2人とも物部氏は知っておるじゃろう?」
「はい、蘇我氏に敗れた豪族です」
「確か神道を擁護していたのが物部氏で、仏教を擁護したのが蘇我氏…」
「うむその通りじゃ、その物部氏は儂と一緒に大陸からこの地に来た一族でのう、儂は物部一族を九州にも住まわせ、今で言う警察のような役割を担ってもらった。そして儂はまた旅を続け、離れ離れの仲間を探したのじゃ。日本各地に徐福が来たという伝説があるのはそういう訳じゃ…。そして儂はしばらく旅を続け、仲間を見つけたのじゃが、その場所が東北、この秋田だったのじゃ」
兎の理事長の話にどんどん引き込まれて、次の展開を期待している2人がいた。