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2.白兎

 


 愛菜の身体から発生していた光はすっと消えていく。元の状態に戻る。その一部始終を美咲と蓉子ははっきりと見た。


 いったい何が起こったのか、2人はボーッと愛菜を見ることしか出来なかった。


 突然理事長が2人に声をかける。


  「2人とも、今の力を何としても身につけて欲しいのじゃ…む、奴らが神気を感じたようじゃ、愛菜!」

  「はい!…いぶきはなちてはねのくにそこのくににます、ハヤサスラヒメ!」


  愛菜が胸に手を当てそう唱える。さっき見た淡い黄色の光が愛菜を包む。その光は更に強まり、愛菜を覆っていく。


 愛菜の姿が変化する…白と黄色のレオタードのような服の上に羽衣のような薄布を纏っている。頭には何故か兎の耳…?


 突然、理事長室におかしな事が起きた。何やら黒い影が侵入してくる。その影は床や天井からスーッと現れた。


 「立花君、波多野君、こっちに!」

 

  理事長が2人を呼ぶ、2人は何が起こったのかわからないまま、理事長の机の方に移動した。


 「良いか、この机より前に出るでないぞ!」

  「は、はい!」

  「わかりました!」


  理事長室に現れた影は徐々に姿を変えていく…。人の形だが、見た目は影そのものだった。


 変身した愛菜が影人と向かい合う、影人は3人だ。


 「理事長、あの娘大丈夫ですか?」

 「まあ、見ていなさい」

 「私達は力になれませんか?」

 「心配なかろう、2人とも愛菜を見ているのじゃ」


 先に愛菜が動く、影人は愛菜を取り囲むように移動する。右の影人に回し蹴りを打ち、その瞬間に左の影人の懐に入って左の肘を打つ。正面の影人には常に気を放ち侵入させない。


 しかし、影人もすぐには倒れない…。また立ち上がり攻撃してくる。しかし動きは鈍く、愛菜の動きを捉える事ができない。愛菜が理事長に向かって叫ぶ。


 「白兎様!瑞宝(みずたから)を使います!」

 「分かった、仕方あるまい!」

 

 愛菜は影人と戦いながら何かを唱える。


 「…ひとふたみよいつむななやここのたり、ふるべ、ゆらゆらと、ふるべ…ちかえしのたま!」


  愛菜のお腹辺りに眩い光が現れ、丸い形を成していく。神々しい光だった。

 その光を受けると、影人は足の方から消滅していく…。光の玉は一度大きく輝き、影人の消滅とともに光が消えていった。


 理事長室に静寂が戻る。美咲と蓉子は立ったまま、しばらく動く事も出来なかった。

 いつの間にか愛菜も元の制服姿に戻っている。理事長は大きな椅子に座り、2人に声をかけた。


 「2人とも驚いたじゃろう…さっきの黒い影が(穢れ)と呼ばれるものじゃ」

 

  美咲と蓉子ははっとして、理事長の方を向く。美咲が理事長に話しかける。


  「さっきのはいったい…それにあの娘は何なんですか?輝いて、変身して…何、魔法少女?」

  「まあまあ、落ち着きなさい」

 

  蓉子もたまらず声を上げる。


  「落ち着いてらんないわよ!あんなの、訳わからない!」


  理事長はふぅっとため息をつき、話を続ける。


 「2人とも、話を聞いてもらえるかな?ここではなんじゃのう…」


  そう言うと、理事長はおもむろに机の引き出しを開け、何やら装置らしきものを操作する。

 突然、理事長室の壁が動き、隠し部屋の入り口が現れる。


  「2人とも、儂について来なさい…愛菜もじゃ」

  「はーい」

  愛菜は軽い返事をし、理事長の後をついて行く。

 美咲と蓉子は躊躇いながらも、理事長たちについていった。

 扉の先は地下に降りる階段がある。階段を降りるとその先は広い部屋になっており、情報端末や巨大なモニターらしきものが並んでいた。広い部屋の中央にソファーがあり、そこに理事長と愛菜が座る。理事長は2人に座るよう声をかけた。


 2人が腰掛けると、理事長は話初めた。


 「ふむ、2人とも因幡の白兎の話は知っておるかな?」


 突然、理事長がおかしな質問をした事に戸惑いながらも美咲は答える。


 「はい、大国さまに助けられた兎の話ですよね?」

  「それとさっきの事と何か関係あるんですか?」

 「まあ、話を聞きなさい」


  理事長は優しく話しを続ける。


 「この学園の名前の由来はその白兎じゃ。その理由を今から話すのじゃが…また少し驚かせてしまうかも知れんのう」 


  2人は理事長の方を見たまま黙っている。理事長は話を続ける。


 「さっき愛菜が変身した姿を目にしたと思うが、実は儂にも似たような事ができるのじゃ…驚かずに見ていてくれ」


  そう言って理事長は目を閉じる。一瞬の事だったが、2人の目の前で理事長の姿が小さくなっていく…。人だった理事長が、白い小さな獣に変わる…。その姿はいつも校舎の脇で良く見ている。そう、兎だ…。

 2人はその様子を見て同時に声を上げた。


 「えーーーっ!」

 「えーーーっ!」


  そんな2人を見て愛菜はクスクスと笑っている。理事長だった兎はその姿のまま話を続ける。


  「すまんのう、実はこれが儂の本当の姿なんじゃ…」

  「り、理事長は兎…」

  「もしかして、今朝の声は…」

  「そう、儂の声が聞かれてしまったようじゃな…しかし、この姿の時に儂の声を聞ける事はほぼないのじゃがな」

 

  2人は困惑しながらも、兎理事長の話を聞く。


  「この姿の時は特別な者にしか声は聞こえないのじゃ。しかし、2人にはその声が聞こえた…これは君たちに特別な力があるという証明じゃ」

  「特別な力、ですか…」

  「いえ、そんなものある訳ありません…」

  「いや、さっき愛菜の姿を見たじゃろう…あの力を2人とも持っておる。そしてそれは愛菜以上に強力なものじゃな」

  「私あんな風に変身なんてできません!もちろん、お蓉にも…」

  「あの力は(神気)というものじゃ。2人にはその神気が間違いなく備わっておる。そして儂はその力を持つ者をずっと探しておったのじゃ…」

  「ずっと探していた…?」

  「それが私達なの…?」

  「ふむ、さっき因幡の白兎の話をしたのじゃが、それが本当の話だったと言ったら信じられんかのう?もっとも儂が今話しているのを見ればわかるかも知れんが…」


 兎の理事長は人のように二足歩行し、前足を後ろに組むような姿で机の上を行ったり来たりしながら話す。


  「ああ、そうじゃった、儂の本当の名前を伝えてなかったのう。儂の本当の名は少彦名(すくなひこな)と言う。これはカミムスビノ神が授けてくれたものじゃ。そして、愛菜はカミムスビノ神の神子で、あの力を授かった…。儂は普段はハクトと呼ばれておる」

 

  「もしかして因幡の白兎って理事長ですか?」

  「うむ、儂じゃ。もう、2千年以上前の話じゃがのう、ほっほっほっ…」

  「2千年…って理事長はいったい…?」

  「うむ…君たち、造化三神について聞いた事はあるか?」


  美咲と蓉子は顔を見合わせてお互い顔を横に振る。


 「じゃろうな…一番古い神、歴史書に少しだけ載っているだけの神なのじゃが、これらの3柱の神がいわゆる神と呼ばれる存在と言える。そして儂と愛菜はカミムスビノ神の加護を受けておる。そして2人にはミナカヌシとタカミムスビの2柱の神の加護を得て欲しいのじゃ」


  2人は兎の理事長に答える。


  「その前に、目的を教えて頂けますか?」

  「そうです、あの影のような人…(穢れ)でしたっけ?あれを倒す為に戦っているのはわかりますけど…」

 

  兎の理事長は話を続ける。


 「うむ、余り話す事はないのじゃが…儂の事を話そう。儂の元の姿は、皆と同じ人じゃった…。この姿はのう….実は…本当の儂ではない…少し長い話になるのじゃが、2人とも大丈夫か?」


  2人は兎の理事長に向かってうなずいた。

 



 





 

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