序章8話 味方だったかもしれない者「無視した俺が悪いんだけどさ!」
ティリアスから逃れた後は何事も無く街道を進むことができた。多分俺を追い越していった兵士たちは皆中心都市で検問を張っていたんだろう。ティリアスは遠征に出てると言っていたと思うのだが、俺と入れ替わりぐらいのタイミングで戻って来たんだろうな。そんで、誰かに俺の事を聞かされて追って来たと……。
マジに戻るんじゃなかった……ノーマルエンドが駄目だった時点で放浪しときゃ良かったな。
シィルの事は気になるが、ティリアスが上手くやってくれるだろう。そう考えながら歩いていると……。
「いっ!」
頭部への衝撃と共に視界の端で俺のライフ表示の数字が微減少する。
ヘッドショット!? 普通こんなの喰らったら一発で死ぬんだが、相手の攻撃力と俺の防御力に差が有り過ぎて最低値しかダメージは出ていないようだ。この世界、痛みに関してはゲーム的な面が強く出ている。さっきのヘッドショットも当たった時にダメージに比例した程度の痛みを感じるだけなので、今はもう痛みも無い。攻撃に使われたと思われる矢も地面に落ちているし、俺の頭部に有る筈の傷も無い、ライフ値の数字として処理されている。
これだから俺は相手の射程外からの一方的な攻撃か一撃必殺な戦闘スタイルになったんだ。どれだけ攻撃しようが、相手のライフが残ってれば普通に動いて来るし、反撃が来る可能性が十分に有るからな。
「つうか、今敵の射程内に居るのか!?」
戦闘マップを確認する。俺が歩いてきた方向の弓系の基本射程ギリギリに赤のアイコン、さらに後ろに複数の赤アイコンが出現していた。
チッ、ちょっと戦闘マップの確認をしていなかったらこれかよ、ずっと戦闘マップを確認しながら進めって話だろうが、戦闘時でもないのに意識を戦闘状態に保つのは精神的に疲れるんだよ!
愚痴ってる場合じゃねぇ、とりあえず隠密だ隠密、次の攻撃にこのまま身を晒せない。
姿を消して戦闘マップから敵アイコンの詳細を確認する。
盗賊……か、ハインライトの追っ手ではないみたいだ。ティリアスの様なスキル持ちでも無い限り、隠密で隠れてしまえば見つかりはしないから大丈夫だろう。今は盗賊の懐をあてにするような状況じゃないし、このままやり過ごそう。
俺が消えた事に気が付いた盗賊の一団は俺の潜む茂みのすぐ側から見当違いの場所までばらばらに散って探り始める。
「バカな、確かに命中したはずだ」
そんな統率の無い一団の中に知った名前が有る……。やり過ごそうかと思ったが予定変更だ。
そいつは、俺にヘッドショットかました奴でもあるようで、仕留めたと思った俺が消えた事に動揺しているみたいだ。
名前はシフォン、今俺が向かっている町に有る協会の孤児院で暮らして居る子供たちの中で最年長の少年で、他の孤児たちの纏め役、いいお兄さんと言ったポジションにいる筈の少年だ。条件を満たせば本来の勇者の仲間にもなる。孤児院の食事情を向上するために狩人やっていたから、俺に弓の射程ギリギリからヘッドショットかましたことで分かるように弓の腕は抜群、仲間内でも初期の方に加入させられる遠距離攻撃のできる人員、そのまま育てればラストバトルでもかなり使えるユニットなので、俺がゲームをしていた時はほぼメインメンバーに入っていた。
「何でお前が盗賊とつるんでやがる……」
気になったが、このままじゃゆっくり事情も聞けなさそうだ。仕方ないのでシフォン以外の盗賊共を排除することにした。
最初の一人をぶん殴って気絶させたことで隠密が解ける。盗賊と俺とのレベル差なら隠密を使い直す必要も無いのでそのまま他の盗賊を殴りに行って二人目を気絶させる。隠密状態からの奇襲から始めたが、盗賊共はまだ事態について来ていないので調子に乗ってどんどん殴り倒していく。残った盗賊が身構えた頃には、この場に来ていた盗賊のだいたい半分を気絶させた後だった。
残った盗賊もシフォン以外をレベル差に物を言わせて殴り倒す。
「何なんだお前は」
残ったシフォンが弓を構えつつも諦めたような声を漏らす。
「お前、狩人だよな? 手出ししちゃいけない奴ぐらい察知出来ただろ? 鈍ったか?」
素手の俺と弓を構えている遠距離攻撃シフォン、優位がどっちに有るかと言うとシフォンなんだが、この場合シフォンに俺も使っている必中のスキルが有ると言っても、来る攻撃を感知していさえすれば迎撃できるレベル差が有るので単純にステータスの高い俺の方が優位だ。
訊ねはしたが、シフォンも自分の感覚が俺の危険度を知らせているんだろう。既にシフォンに抵抗の意思は無いように見える。
「分かるよ、気付くのが遅れたけど、でも、もう手遅れだ」
「いや、人を化物でも見るように言われても困るんだが……これをやった後じゃ仕方ないか」
ヘッドショットを喰らったうえで平気な顔してシフォン以外の盗賊を十数秒で無力化してるんだからな。殺しちゃいないがライフ表示はゼロ、戦闘不能だ。放っておけば衰弱とか肉食獣や魔物に食われるとか何らかの要因で死ぬだろうな。どうでも良いが……。
「俺の事はちょっと強い旅人だと思っておいてくれ。俺の事よりも、お前は何やってんだよ? お前この先の街の孤児院の奴だろ? 他の孤児……兄弟共を放っておいていいのか?」
「どこまで僕の事を知っているんだ……」
どこまでって、ゲームの設定で分かっている程度の事だな。今、クリア後の事で知っているのは個別エンドに入った時の各仲間キャラのその後だけだ。要するに、誰の個別エンドにもい入っていない今現在の状況は何も分からない。だから訪ねているんだろうが……。
「いいからキリキリ吐けぇ、(転がってる盗賊を)殺すぞ」
「ひぃ! わ、わかった。なんでそんなこと聞きたがるのか知らないけど……」
自分が殺されると勘違いしながらシフォンは簡単に事情を説明した。まぁ、予想通りではあったんだが……。要するに勇者がシフォンを仲間にするためのイベントに勇者が全く絡まなかったから色々なんやかんやあってシフォンたちの親代わりをしていた孤児院の先生は事故死(多分殺されたんだろう)、シフォンは盗賊に墜ち他の孤児たちはいつの間にか出来ていた借金(でっち上げられたんだろうな)の形に奴隷にされたと……。
この世界に奴隷制度なんてあったか? 設定じゃ無かったと思うんだが……この世界のゲームとは違っている部分なのか、語られていない設定では有ったのか……。
兎に角、一応勇者のポジションにいる俺が何もしなかったのが原因か? 勇者が居ないと対処することができないようなイベントってのもどうかと思うがな。
「兄弟たちを取り戻すために金が要るんだよ!」
そういう事らしい、盗賊として有る所からぶんどって、最終的には利用している他の盗賊共を捕らえて懸賞金を得る計画だったらしい。悠長な……そして一般人への被害を考えろ。やるなら懸賞金を稼ぐとこだけだろうが。
シフォンを仲間にする為のイベントって、孤児院の有る土地が目当ての奴が企てた計画を潰せば良かった筈だ。
とは言えこの段階だと既に色々終わっているのか……シフォンたちの保護者は消されて憶えの無い借金で住む場所を奪われついでに子供たちも連れて行かれたと……本当に悠長にしている場合じゃないんじゃないか?
「とりあえず、盗賊ってこいつ等だけじゃないよな?」
アイテムボックスから取り出したロープで転がした盗賊共を縛り上げながらシフォンに確認を取る。
「アジトの方にまだ残っている。実力はこいつ等と大差ない、数が問題なだけで……」
数の暴力は馬鹿に出来ないからな、シフォン一人じゃ期を見るより他に方法が無いか? 衛兵や自警団に連絡するんじゃ懸賞金は手に入らないだろうからなぁ……なぜアジトの場所を知っているかとかも疑われそうだし。
「そんじゃさっさと片付けに行くか、案内ヨロ」
「は? 何を……」
「子供たち取り戻すんだろ? 手伝うからさっさと案内しろって」
「ほんと、何なんだお前……」
異世界人なんて好き勝手やって適当に場を引っ掻き回す、そんなもんだろ? 元の世界の友人も言ってたぞ。孤児院の子たちが奴隷にされているなんて状況放っておけないからな。
今回の件はシフォンたちを助ける筈だった勇者が存在していないからこんな状況になっているんだろう。ん? って事は、もしかしてこれ本来勇者が居る筈の位置に居る俺が何もしていないせいか? あ~、こりゃ責任取らないとだな……まぁ、普通に子供らを放っておく訳にはいかないから最初からやる気なんだが。
シフォンに案内させて拘束した盗賊共を引き摺りながら盗賊のアジトにたどり着くが見張りは居ない。シフォンに聞いた話だと、シフォンが入ってから遠距離から奇襲して戦闘不能状態の相手から金品を奪うってやり方で派手にやっているらしいが、なんでそんなに余裕なんだ? 以前より派手に動くようになったなら討伐される危険も増すだろうに……シフォンも派手に動いて盗賊たちの懸賞金が上がるのを狙っていたらしいしな。
「まぁ良いか、サクッとやって来る」
「うん? えぇ!? 消えたぁ!?」
騒ぐな、気づかれるだろうが……。
シフォンを残し隠密を使いアジトの中に潜入、気づかれないように一人ずつ処理していく。魔王を倒すまでの道中でも資金調達の為にやっていた方法だ。最後に戦闘マップで残っている無事な奴が居ないかを確認して……ほい終了。
「終わったぞ~」
「うそ、もう?」
何を不思議がってる、お前さっき目の前で自分以外の盗賊共を無力化されてるだろ。
「転がした後に縛ってるから運ぶの手伝え、さすがに人数が多すぎて俺だけじゃ運べない」
と言葉では言っているが纏めるのが面倒なだけだ。実際には俺が限界突破レベルのステータスに物を言わせて引き摺って行くんだからな。レベル最大でも英雄クラス、英雄ってだけでも人外扱いになのにそれを超えているとなると完全に人外のステータスだ。だから縛っているロープが切れないようにだけ気をつけていれば行ける筈だ。
「そんじゃ次は不自然じゃないぐらいに貯めこんだ金目の物をちょろまかす」
「全部じゃないのか?」
俺が盗賊を襲った時は全部巻き上げてたんだけどな。あの時は討伐した賞金首の数で仲間に加入する奴が居るからそいつを避ける為に懸賞金を受け取る気が無かったからだ。盗賊共をお上に突き出したとしたら当然アジトやそこに残っている金品にも調査が入るだろう。その時に全部かっぱらって何も無いなんて状態だとまず最初に疑われるのは盗賊共を討伐した俺たちになると思うんだよな。もしかしたらそんな細かい事気にされないかもしれないが、この世界がどれぐらい適当か分からないから危ない事はできない。俺だけなら疑われても逃げれば良いが、シフォンにはこれから子供たちを助けた後、彼らの面倒を見ながら街で平和に暮らしてもらわないといけないからな。
「てなわけで、ここのを奪うのは分からない程度にだ」
「……わかった」
一応納得はしたか? できれば全部持って行ってしまいたいんだろうがそこは今後を考えると仕方がない。
「それもあるが、お前はこのまま戻っても大丈夫なのか? 賞金の受け取りとかは俺がやるから大丈夫だろうが、盗賊共がお前が居ない事を変に思って騒いだら疑いがかかるぞ」
「その辺りは対策してる。こいつらに対しての名前は偽名で名乗ってるし、元の身元が割れるような会話もしていない。顔さえ見られないなら問題無い」
大丈夫ならいいか、それならさっさと貰う物貰ってこいつらを引き渡してしまおう。