表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界人~檻中の英雄~  作者: リジア・フリージア
序章 第二幕の始まり
7/53

序章6話 行った事の無い場所へ「観光もしてぇなぁ……」

 ハインライトの中央都市、騎士共が俺を追い抜いて行った時から分かっていた事だが、街の門に厳重な検問の態勢が敷かれていた。


「まぁ、隠密(ハイド)で入るんだが……」


 魔王を倒した影響で数が減っているとはいえ、外は魔物の跋扈する世界だ。大きな街は基本的に周囲を防壁で囲まれているが、普段の出入りにそれ程制限は無い。魔物が入り込まないよう門に見張りが数人立っているぐらいだ。

 こっち側は入る人が少ないようで空いているが、こんな検問が有るんじゃ他の門は混雑していそうだな……。

 無事に街に入れたら、俺を探しているハインライト兵が居ない事を目視と戦闘マップで確認して隠密を解除する。

 この街はハインライトの中心部ではあるがどうもゲームで感じていた程の活気が無い……ああ、もうすぐ王都で祭りが有るからか。ハインライトの中心部でも明日にでも祭りの始まるような時期だと人は少なくなるか。

 俺も出入りに検問張っている場所に長居する気は無い、食料を補充したらさっさと街を出よう。多分この国に居る間は下手に宿に泊まらない方が安全だろう。

 色々すっ飛ばしたイベント類がどうなったか気にはなるが、のんびりしていると見つかりかねないからな。

 賑やかと言える通りに来ても、露店なんかは祭りの方に出張に行っているのかあまり並んでいないな。必要なのは保存食とか日持ちのする食材なので露店に用は無いんだが……アイテムボックス内の時間が止まっていれば出来上がった物を突っ込んどくだけで良かったんだけどな……そこまで都合良くは行かない。何でも保存できるって思いこんでいた頃に気づかずに生モノを放置して後日ひどい目にあったからな。暫くアイテムボックスに入れた物から腐臭がしてやばかった。臭いが消えるまで時間がかかったからあれ以降は気をつけるようにしてはいる。

 臭いはともかくとして、俺は食事にはあまりこだわりが無い。城で豪華な食事につられたのは、魔王を倒すまでの道中で碌なものを食べて来なかったからその反動ってだけだ。これからは大丈夫だろう、食料が尽きて行き倒れるなんてことには早々ならないだろうし……もしなった時は反動がやばそうだな、多分食事に釣られやすくなる、食事をくれた相手にもの凄い恩を感じるとか? なりそうだな。自分の事ながら気をつけないとな。


「と言う訳で串焼き三つね」

「あいよ!」


 旅の間は自炊か保存食だから街では良い物を食っとかないとな。追われている立場で何を暢気な? 良いんだよ追っ手なんて大した脅威じゃないんだから楽しんで行かなきゃ損だ。それに、祭りに釣られずにここで商売を続けている店に貢献してあげないとな。祭りを楽しめなかったって言うのもちょっとあるけど……。

 てなわけで、しばらく買い食いを続ける。祭り特有の遊戯の出し物は無いが、今の俺だとレベルが上がり過ぎていてどれもぬるげー状態になっているから別にいい。


「とか思っていたら……有るんだ?」


 ゲームでもミニゲームで有ったくじ引きだな。話が進む度に景品が変わり、ここでしか手に入らないアイテムなんかも有って、毎回当たるまで引き続けた物だ。ゲームでなら金は余る程だったからそれ程痛手ではなかったが、魔物から金銭もアイテムも手に入らない今の状態じゃ無駄遣いはできない。


「あ、おにーさん一回どう?」


 無駄遣いできないって考えているのに、くじ引きの店員に声をかけられる。って、あれ? この店員……。

 勇者の仲間になる奴だ。アルバイターのミツキ、ストーリーの最初の方から度々登場するが、加入に条件が有り仲間になるのは中盤以降、ストーリー本編ではあまり絡んで来ないが戦闘面で優秀で、俺たちプレイヤーはお前絶対ただのアルバイトじゃないよな! と感想を持つことになる。この世界で俺が多用している隠密(ハイド)スキルをゲーム内で使える唯一のキャラだったりする。俺の使っている隠密とゲームの隠密って微妙に違っているんだけどな。

 まぁ、それはもういいとして、魔王討伐後のくじ引きのラインナップが少々気になる。どれどれ?

 参加料は、ストーリーの中盤位のくじ引きの値段だな。進む毎に値段が上がって行くので今この値段と言うのはどうなんだろう? ラインナップが変わっていない? 今はこの値段設定なだけ? とりあえず景品のラインナップは?


 5等 ヒールリーフ 薬草だな回復量も少ないので中盤以降に使う事は先ず無い。くじの半額程度の価値の上に店で買えるので実質ハズレ。

 4等 キュアフルーツ これも回復用のアイテムだなヒールリーフよりは回復量が多いが、終盤の回復アイテムとしては使えない。くじの値段の1.5倍の価値だが売ってもくじの値段の0.75倍。ちなみにドライフルーツ状態なので生よりは保存が利く。

 3等 リフレッシュミント 状態異常を回復する薬草だな。ゲームじゃなければ、これ一つで毒から混乱麻痺と何でも治せるんだから値段以上の価値は有るとみていいんだろうが設定価格は低い。

 2等 ヒールポーション 終盤も使える回復薬だな。値段的には売値がくじの倍で素材を集めて合成しないと手に入らないアイテムなので当たりと言って良い。保存も利く。

 1等 マナポーション 魔力の回復薬だ。回復量は少ないが魔力の回復薬自体が希少で、俺の知る限りこれ以上の魔力回復薬は無い。希少な素材が必要な合成かレアな魔物との戦果でしか手に入らないので大当たりだ。

 特賞 リバイブナッツ やべーもん持ってくんな! サブイベントに出て来るイベント用アイテム死者蘇生薬のメイン素材じゃねぇか! これ動く死体生成薬の素材でもあるんだぞ! サブイベントでは死者蘇生薬の作成は失敗で、甦らそうとした依頼者の恋人がゾンビになって襲って来たから倒す流れだ。下手に流通させない方が良いことは間違いない。

 てか、回復系ばっかりだな。魔王が倒されて魔物が大人しくなった感が有るから需要が減って在庫が余ったか?


「まいど~」


 とりあえず一回やってみたけど案の定5等のヒールリーフだった。これ当たり入ってんのかな? 元の世界の祭りの出店なんかで、当たり商品は展示しているだけでくじの中に当たりは入っていないって言うのが俺の常識なんだが……。ゲームじゃないからってこんなとこまで現実に寄ってたりしないよな?

 ムキになって当たるまでやるのも馬鹿々々しいのと、既知のキャラクターが何かイベントを持って来ないかを警戒してこの場を去る。何も無い状態なら突発イベントは歓迎なんだが……今は追われている身だからな。

 一通り腹を満たした後、旅用の食料を買いに向かうことにした。

 暫く彷徨って店を見つけ減っている分の保存食等を買い漁る。珍しい物は世界設定がゲーム基準だから色々有るが……まぁ、食事に奇をてらう必要は無いだろう。少なくともこの国に居るうちは娯楽は控えた方が良い。

 後は……装備は問題無い、ゲームでは必要なかった手入れも欠かしていないからまだ十分使える状態だ。回復アイテムの類は保存の利くポーションが幾つか有るが、そもそもの話、フラッシュタスクと命中回避予測で攻撃をもらわないように動いているから自分にはほぼ必要ないんだよな。

 食料以外の旅の道具もまだ使えるので買い直す必要はない。保存の利かないアイテムボックスだが量はほぼ無限って位に入るので、調理器具、食器、野営道具、寝袋、そういった物は予備もアイテムボックスに突っ込んである。


「なら、もう出発するか……」


 俺の知っているイベントはもう終わっているし、仲間になる奴らも勇者の仲間であって俺の仲間じゃない。逃亡中の身で同行者を増やすって言うのも戴けない。俺一人なら隠密を使えば追っ手はどうとでもなるが、隠密は自分にしか使えないからな。隠密だけじゃ同行者の安全を確保出来ないから面倒だ。

 仲間と言える奴ができるとしても別の国に行ってからだな。よし、さっさと出発するか!

 隠密スキルを使い検問に居るハインライト兵をスルー、その後は順調に街道を進んでいく。

 目的の港街まではあと一つ街を経由して行けば良いだけだ。距離的には徒歩だと十数日かかるが……この世界に来てレベルがカンストした今の状態ならこの距離も走れば半分ぐらいの時間には短縮できるか?

 まぁ、そんな目立つこと追われる立場でやろうとは思わないけどな。


「君! ちょっと訊ねたいんだが!」


 暫く進んでいると、戦闘マップで反応の有った後方から近づいて来る騎手に声をかけられた。


「は……いぃ!?」


 無警戒に振り向いてから失敗に気が付いた。戦闘マップで適を示す赤の表示じゃなかったから大丈夫だと思って確認もしていなかったが、俺に追い付き、馬に跨りこちらを見下ろして来るその騎手は間違いなく、今やハインライト騎士団の団長となっている男。本来の勇者の最初期の仲間であるティリアスそのひとだった。


 あぁ、くそ! なんで戦闘マップが敵として認識していないんだ? 確かに俺自身も自分が使っている技能に対して全部理解している訳じゃないけども! 


「すまない、私はハインライト騎士団で団長を務めるティリアスと言う者だ。今、勇者と偽って城内に取入り、金品を強請り取り、メイドの少女を毒牙にかけ姫にも手を出そうとした犯罪者を追っている、此方に逃げて来たような怪しい者に心当たりは無いか?」


 は? 誰が犯罪者だ誰が!


「いえ、知りませんね」


 俺が貰ったのは報酬であって強請ったわけじゃない、シィルも愛でてはいたけど手を出してはいない、三十路は論外だ。

 もしかして間違った情報でいもしない人物を探しているからティリアスは俺に敵対していないって判定なのか? どうなんだ戦闘マップ!?

 答えの出せない問を無機物? いや、システムなんだからなんだ? 概念? いや、システムで良いのか。そのシステムに心の中で問を飛ばしながらティリアスに応える。

 俺を探している奴だって気が付いていないならそのまま去れ!


「そうか、だが例えば、王都で祭りがあるこの時期に逆方向へ向かう人物なんかに心当たりは……」


 俺だよ! そんな事は分かってるんだよ! お前だって俺が怪しいから声かけて来たんだろうが!


「あ~、しいて言えば自分がそうですけど……そもそも自分はこの国の者ではなく、祭りの時期と言ったものには関係が無いので」


 フラッシュタスクまで使ってなんとか言い訳を並べてみる。更に嘘は言っていない筈だ!


「他国の者か、それは足止めをしてすまなかった」


 そう言うとティリアスは俺を追い抜き先に進む。

 ふい~、何とかなったか。俺自身は関わりが無いけどゲームに出て来る仲間としてはよく知っている奴だからななんとなく戦い難い。争わないで済むならそれに越した事は無いんだよな。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ