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一章39話 蒼鉱石「スキルレベル1」

「お兄さん! 採掘に行くので手伝ってください!」


 フェヴリエに戻って来た翌日、ミリルが朝早くから扉を壊さんばかりの勢いで俺の部屋に飛び込んで来た。

 馬車内でウトウトしていたが、昨日は戻って来たのが夜遅くだったのでゆっくり寝てようと思ったのだが……。

 まぁ、これまでの異世界生活で培った危機察知能力が警笛を鳴らして目が覚めたので、俺は咄嗟にベッドの下に身を隠していたんだけどな。


「? お兄さん?」


 今日はリエルたちもネージュの話を城の方へ報告に行くって事で俺には仕事が無い筈だからゆっくりすると決めたんだ。


「あれ? 居ませんか~?」


 見りゃ分かるだろ、さっさと諦めて出てけ。って、こっち来んな!


「う~ん、ベッドがまだ暖かい…………」


 おい、俺がさっきまで寝てたかどうか確かめているんだろうけど、なんでベッドの下に居る俺の視界からミリルの足が消えるんだ!


「やっぱり、この暖かさは、ほんの、数秒、前まで……ここに……」


 嘘だろおい! 寝息が聞こえだしたんだが……ミリルの奴、人のベッドで寝始めやがった!?

 魔剣作成なんて変な(レア)スキル持ちでも、こいつはまともだって思ってたのに……まさか、マインと接している内に毒されたか!?


「あ、でもこれなら見つからずにゆっくりと……俺の寝る場所がねぇ」


 別の部屋借りるか、リュイン辺りに言えば用意してくれるだろ。

 多分今もその辺に隠れているだろうしな……。


「ん~、お兄さん?」


 げ、リュインを呼び出そうとベッドの下から出た途端に目を覚ましやがった。


「あれ? ここ、お兄さんの部屋!? 嘘、アタシが寝ている間に連れ込んで!? お兄さんはそんなことする人じゃないって信じてたのに!」

「盛大に勘違いするんじゃねぇ! お前部屋に突撃してくる前から寝ぼけてんのか!?」

「おおっとぉ、何っすか何っすかぁ! ルイ様ついにやっちゃったっすかぁ?」

「お前は呼んでもねぇのに出てくんな! てか、いつかやると思ってたような言い方止めろ!」


 てか、リュインはどうせ見てたよな!? 職務を全うするならここは誤解を解くところだろうが、煽りに来てんじゃねぇよ!


「あ、そうだった、ごめんなさい。お兄さんに魔物除けとして採掘について来てもらおうと思って来たんでした」


 あっさりと復帰したな、さっきまでの奇行は寝ぼけていたのと寝起きだったからか? そうであってくれ、ここ頭おかしい奴が多いんだから、まだまともだと思ってる奴はそのままでいてくれ。


「採掘? ネージュの所で鉱石とドラゴンの鱗貰って来たばかりじゃないのか?」


 一応俺がネージュに頼んだから覚えてるぞ。


「昨日からその鉱石を加工しようと工房に籠っていたんですけど、炉を最高温まで上げても加工できないんです」


 遅い晩飯の後見かけないと思ったら、工房に籠っていたのか。

 ん? 昨日から工房に籠ってた? ミリル普通に寝不足なんじゃないか?

 じゃなきゃ直前まで男が寝てたベッドに潜り込んで寝るような奴じゃない筈だ。


「それで、明け方に前に親方が言ってたことを思い出したんです」


 こいつやっぱり徹夜してるんじゃないか……。


「んで、何が要るんだ? 何なら俺が採ってこようか? その間寝ててもいいから」

「いえいえ、アタシは大丈夫です! 一緒に行きますから、行きますからね!」


 ああ、こいつも普段はまともだが、鍛冶に関してはネジが飛んでたな……。


「まぁいいけど、何取りに行くんだ? それって売ってないのか?」


 今はまだ早い時間だから店が開いてないかも知れないが、もう少ししたらそう言った店も開くだろう。


「う~ん加熱草でも良いんですけど、時期じゃないので市場じゃ出回っていませんね。今回取りに行こうとしてる熱硬炭は希少なので買おうと思うと凄い値段になるんですよ」

「あ~、そうっすね~加熱草なら安価で手に入るっすけど……」

「え? 今の時期出回ってませんよね?」

「加熱草は毒草っすからねぇ、有るとこに行けばこの時期でも有るっすよ」


 毒草、そんな物取り扱ってる店なんて碌なとこじゃ……そう言やリュインは称号アサシンメイドってなっていたな。そういう店も知ってるのか?


「それでも抗熱岩は取りに行く予定でしたから、ついでに採掘して来るんで大丈夫ですよ」


 なんか知らないアイテムの名前がポンポン出て来るな。

 戦闘で使うようなアイテムじゃなきゃ、シナリオ中に出て来ない限り名前も出て来ないんだから、仕方ねぇっちゃ仕方ねぇんだがな。


「結局取りに行くのが一番手っ取り早いって事か?」

「うん、それに、お兄さんだったら沢山持って帰れますよね」


 アイテムボックスに放り込めば重さなんか関係ないからな。

 でも必要な分だけにしておけよ、ネージュの話に資源の枯渇でドラゴンの襲撃が来るってのが有ったからな。

 まぁ、まだあの襲撃担当のドラゴンは回復してないだろうけど。


「必要な分だけな」

「はい、じゃぁ行きましょう!」


 早く早くと急かすように手を引かれ、そのまま部屋を出る。


「あ~、街の外に出かけるなら馬車用意するっすか~?」


 リュインが着いて来ながら訊ねて来る。

 そうだな、場所だけ教えて移動中に寝ればミリルも落ち着くだろう。


「大丈夫です! お兄さんが走った方が早いですから!」

「あ~、それはそうっすね」


 あ? 確かに馬車より俺のが早いが、結局俺一人で行くのか?

 答えも聞けないまま邸の外に出た。


「さっ、行きましょう!」


 そう言ってミリルが背中に抱き着いて来た。


「えっと……え?」


 何がしたいんだこいつ?


「早く早く!」

「どうしろと?」

「南門から街を出てまっすく街道を進んでください。後はその都度誘導します」


 要は、このままミリルを背負って走れという事か?

 まぁいい、ミリル一人背負って行くぐらい楽勝だ。


「落ちるなよ」

「行ってらっしゃいませ~」


 リュインに見送られながらミリルの足を両手で固定してしっかりと背負い、ミリルの負担にならない程度の速度で駆けだした。


 街道を走りながらミリルに目的地を聞くが南の方としか言わない。行く場所さえ聞けば戦闘マップを頼りにして俺だけでも辿り着けると思うんだが、ミリルは移動中に仮眠をとる気は更々無いらしくずっと興奮しっぱなしだった。

 人の背中で鼻息荒くされると放り出したくなるんだが……やらないけど。


「この辺りの山です!」


 ミリルの指示通りに進み、街道から逸れて出て来る魔物を蹴り殺しながら森の中を駆け抜け川を跳び越えて崖を駆け上り気が付けば山の中に居た。

 この辺りという事なのでミリルを背中から降ろす。

 ミリルは辺りをきょろきょろと見回し周囲を探りながら山の中を進む。

 この間見たステータスに有った探索のスキルを使っているみたいだな、ミリル自身は使っている積りは無いんだろうけど……。


「熱硬炭は活動を完全に停止している休火山で見つかることが有るんです」


 って事は、ここは休火山って事か? 


「熱硬炭は燃える石と同じようにも使えるんですけど、燃える石よりも高温が出せるんです」


 石炭の上位互換ってとこか? まぁ良く分からんが高温が出せる燃料ってことだな。


「熱硬炭はそれ自体が熱を発していて、外気に触れると冷めて表面だけ変質します。その変質した部分が抗熱岩、炉の内側の加工に使おうと思っている熱に強い鉱石です」

「熱硬炭が有れば両方手に入るって事か」

「はい、でも掘らずに探すなら抗熱岩の方ですね。この辺りの気温だと見える部分は確実に変質していますからね」


 ああ、そりゃそうだな。

 それと、外気に触れたら変質する、それで熱硬炭が希少になるのか。


「あ、有りました!」


 見つけたらしい。

 スキルが有るとはいえ、こうもあっさり見つけられるとマインたちのようなぶっ飛んだ奴らの同類に思えて怖くなってくるな。


「後は、どこまで変質しているかですね」


 俺の不安なんかお構いなし、気づきもしないミリルは興奮気味に、それでも慎重に採掘を始めた。

 ミリルの採掘の音だけが響く中、戦闘マップに有った赤アイコンが徐々に集まって来ているように見える。

 これは、ミリルの採掘の音に魔物が呼び寄せられたか? これだけ音を出していれば見つけて下さいと言っているような物だが……そう言えば、最初ミリルは俺に魔物除けとして付いて来て欲しいって言ってたな。

 これだけ魔物が集まって来るなら襲って来る魔物を相手しつつ採掘するのは凄く面倒だろう。ましてや、放って置けば変質するような物を集めようって言うんだから採掘の方に集中したいだろうな。

 ここに来るまでと帰りの足や荷物運びもさせられるようだが、まぁ、魔物の相手(これ)が当初の俺の役割だよな。


「お兄さん、もしかして魔物来てますか?」


 ミリルが採掘の手を休めないまま聞いて来るので、気にせず続けろと返しておく。


「レベルだけ見ればミリルたちでも十分余裕が有る相手ばかりだ。なら、威圧だけで散っていくだろ」


 ミリルの居る方だけ除いて全方位にスキルを使って威圧をかける。

 徐々に近づいて来ていた赤アイコンが勢い良く離れて行く。

 自棄になって突っ込んで来る魔物が居なくて良かったな。

 そうしてしばらく魔物が近づいて来る度に威圧をかけている内にミリルの方も終わったようだ。


「どうだった?」

「上々です。ここだけで必要量は揃いました」


 なら良かった。

 採掘した物は熱硬炭と抗熱岩に分けてあり熱硬炭の方には変質しないように処理もしてあるようだ。

 全部アイテムボックスの中に放り込み、再びミリルを背負ってフェヴリエへの帰路につく。


「寝れるなら寝とけ」

「え~」


 微妙にマイン化してるじゃねぇか、一徹だけでも結構来てるんじゃねぇの? ホント寝とけよ。


「どうせ戻ったらそのまま加工作業を始める気だろ? 帰るだけなら案内も要らないから寝てろ。寝ないなら戻ったら無理矢理寝かしつけるぞ」

「分かりました……」


 渋々と言った体だが、直ぐに寝息を立て始めた。普通に疲れていたようだ。

 改めて、ミリルを落とさないように背負い直して起こさないように振動を抑えて走る。





「どうしてですか~!!」


 邸の戻って目を覚ましたミリルが炉を抗熱岩で加工して熱硬炭を用いてネージュの所で貰って来た鉱石を加工して作り上げたのは、魔力を用いて水鉄砲程度の水を跳ばせる魔剣だった。

 今回分かった事は、体調いかんに関わらず、ミリルの魔剣は当たり外れが大きいという事だった。

 スキルレベルが上がれば改善されるかな?


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