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一章38話 幼竜の旅立ち「なんかちらついてるな」

 幼ドラゴンのアオを預かる事が決定したが、俺たちはまだネージュの住処に留まっていた。

 ドラゴンの本来の役割や、何かあった時に行われる彼らの忠告を正確に王に伝えようと大人たちが千夏の通訳でネージュの話を聞いているからだ。

 なんかさらっと重要な話が出て来たみたいだからな……クラッドが悴む手で必死にメモを取っている。


「てか、フォスは向こうに行かなくて良いのか?」


 ドラゴンに思う所があるような感じだったんだが、さっきもマインの始めた訓練の方に行ってしまったからそれでいいのかって思っていたんだがな。


「ドラゴンの役割がどうであれ、僕のやる事に変わりはない。時間稼ぎの囮、ドラゴンに対する生贄と言う意味での竜騎士ではなく、ドラゴンを倒せる騎士になる」


 話を聞く限りだと、ここのドラゴンはこの大陸を守っている、国にとっては倒しちゃ駄目な存在なんだけどな。

 気候を制御したり、火山の噴火を抑えたりとドラゴンが凄い存在な事には変わらない。正しく理解していないと今後もミネラルレの二の舞だってんでリエルたちも必至だと言うのに、マイン(こいつ)は……。


「ししょ~、結局ドラゴンは~いつになったら倒していいの~?」


 倒さねぇしお前一人じゃ倒せねぇよ、話聞いてねぇのかよ……マインだし聞いてないんだろうな。

 ソウマとミリルが根気よくマインに説明している。

 やっぱり、マインがどんどん馬鹿になって来ていないか? レベル上げてもステータスが下がってるなんて事は無いんだけどな。


「荒事担当はミネラルレを襲ったドラゴンだけらしい、今は僕が相手してやるから引っ込んでいな」


 フォスがマインを引きずって行き模擬戦を始めた。マインはとりあえず何らかの訓練を課しておけばややこしくされなくて済む、付き合いの浅いフォスでも理解しているとか、マイン……残念な奴。


「あ゛~、俺も手伝って来るか……」


 そう言ってアルトも模擬戦に加わる。

 残念な子でも、俺のシステムによるレベルアップと元々の戦闘センスで実力が馬鹿みたいに伸びているマインにフォスが苦戦しているので、アルトが援軍を買って出てくれたようだ。


「ところでお兄さん、この辺の鱗や鉱石って持って帰ってもいいですか?」


 マインの説得から解放されたミリルが周囲をきょろきょろと見回しながら聞いて来る。


「俺に聞くな……てか、鉱石とか落ちてんのか?」


 ドラゴンの巣なんだから鱗ぐらいは有るかもしれない。


「ネージュさんの力の影響なのかな? 周囲の鉱石が魔力を帯びた鉱石になっているみたいですよ」


 あ~、はいはい、ファンタジーな設定ね。あるある。


「取り過ぎたり、入手場所を広めたりしなけりゃ良いんじゃね?」


 ミリル一人が多少採取する分には問題無いだろうが、取り過ぎたりここでその鉱石が採れることを知った奴らが押しかけて来るようなことになったらミネラルレの鉱山と一緒の状況になるだろうから注意が必要だろうな。


「ギャウ~」


 お、大人たちの話に退屈したのか、さっきまで千夏の腕の中に居たアオが抜け出してこっちに来た。


「どうした?」


 って聞いても千夏じゃないから分からないんだよな。

 とりあえず干し肉でも食わせておくか。

 アイテムボックスから取り出した干し肉をちぎって高めに放り投げる。


「ギャッギャウ~」


 取り出した瞬間から干し肉を目が追っていたアオは落下地点の下に素早く駆け込み口で干し肉をキャッチしてそのまま咀嚼する。


「ギャウギャウ!」


 次を強請っている様なので干し肉をちぎっては投げちぎっては投げを繰り返す。

 連続で放り、きわどい場所を狙ってもアオは頭から滑り込むように飛びつき干し肉が地面に落ちる前にキャッチして見せた。


「ギャギャウ!」


 楽しんでいるみたいだ。

 退屈だっただけで構って貰えるなら何でも良かったみたいだな。


 手持ちの干し肉が半分ぐらいになるまでアオと遊んでいるとネージュとの話し合いは終わったようで、リエルたちが孵る準備を始めた。

 ミリルがここの鉱石とかを欲しがっているので、俺はアオを千夏に押し付けネージュの元に向かう。


「ここの鉱石ちょっと貰って行っていいか? 後その辺に落ちてるあんたの鱗も」

「クルゥ?」


 あ、千夏が居ないと言葉が分からなかったな。


「大丈夫だって、分かってるとは思うけど取り過ぎないようにって」


 千夏にこっち来いと手招きして通訳を頼むとあっさりと了承がもらえた。


「え? これは?」


 ついでと言った感じに千夏がネージュから青い魔法石のような物を貰っていた。見た目は魔法石のようなのだが……でかい、前に見た砦を建てる魔法が刻まれた魔法石よりも更にでかい。


「ドラゴンの体内で生成された魔法石の一部?」


 あ、魔法石であってるんだな。

 あの大きさでも一部なのか……そこいらの魔物とは生きている年数が違うからそうなるか。


「人の使う魔創術には使えないけど、アオが戦えるようになるって……先輩、魔創術って?」


 道中の魔物に普通に襲い掛かっていたアオは十分戦えていると思うんだが?


「教えてなかったか? 部屋の灯を点ける時に魔力を流してるスイッチとかは魔法石だぞ。魔創術はその魔法石で魔法が使えるようにする術だ」


 適当な魔法石を取り出す。


「この、中に刻印が刻まれた魔法石と適性が有れば、魔法石に刻印されている魔法が使える」


 因みに千夏の魔法適性は赤と青がレベル3、黄と緑がレベル2だ。全部3の俺より若干低いが、従魔にアオが付いているからか、蒼レベル3とかいう適性が追加されていた。


「へ~」

「今度ソウマに護身用の魔法石を作って貰おうか」

「任せてください」


 ソウマとマインは全属性の魔法石が作れるがその全部に蒼は含まれていないんだろうな。

 二人ともそんな属性は持っていないから千夏がってか契約状態のアオが特殊なんだ。


「ま~た不法に魔法石作る算段してる~」


 帰りの準備を終えたリエルとクラッドが一応注意して来るが、もう今更だ。


『それでは、その子をお願いします』


 そう鳴いてネージュは目を閉じた。

 なんでも、アオを生んだ時に力を消耗しているので、しばらくは大人しくしていないといけないらしい。

 そのせいで、卵を易々と盗まれてしまったとか言っていた。

 卵を運んでいた馬鹿以外に盗んだ奴が居る筈なので今のネージュを放置するのは拙いとレシオンが護衛と定期的な見回りをするらしいが、帰る俺たちは何もできないから頑張ってくれ。


「あ」

「ギャウ~」


 ミリルも採収を終えて、いよいよ出発と言う所でアオが千夏の腕から抜け出してネージュの頬と言うか頬の下辺りに自分の頬を擦り付ける。


「クゥ」

「ギャウウ!」


 どうしたのと薄く目を開くネージュに対して行ってきますと告げるように鳴いたアオは戻って来ても千夏の腕の中には戻らず、千夏の横を歩き出した。

 ネージュに立派に成長するとその背中で告げるように……。


 って感動的な感じに締めようかと思ったんだが、帰りも雪の中進むんだよな? 面倒くせぇ……。

 異常気候の根源をネージュが制御しているからこの山の麓の村でも人が暮らせるぐらいにはなっているらしいが、本来は放って置くと、どんどん雪と氷で周囲を侵食していくそうだ。どういった原理かは聞いていない。ダメージ喰らってもライフがゼロじゃなきゃ一瞬痛いだけの世界で理屈を求めてもねぇ……。

 アオを生んだことでネージュの力が弱まっているので、今は例年よりも降雪が多く寒さが厳しいようだ。

 これで本格的に寒い時期になったら麓の村は大丈夫なのかと考えたがその辺りは大丈夫な程度の力は残っているそうだ。


「あ、千夏。ネージュに貰った魔法石アイテムボックスにしまって置いて必要な時だけ取り出すようにしときな、アイテムボックスの中に入れていれば盗られる事は無いから」


 この世界の奴にアイテムボックスは認識できていないし、アイテムボックスの中から物を盗むようなスキルは無い筈だからな。


「うん、そうする」


 一応俺も持っているカモフラージュ用の道具入れ、千夏は俺の言った通りに自分の道具袋からアイテムボックスに蒼の魔法石を移したようだ。

 そして、氷の洞窟を抜けて雪の中を下山する。


「っと、レシオンまた居るぞ」


 行き同様に先頭のレシオンに魔物が潜んでいる事を知らせる。

 魔物に飛び掛かって行きそうなアオはさっきの干し肉で腹が満たされているのか、それともネージュと邂逅して少し成長したのか千夏の横を大人しくついて来る。

 アオの方が賢いんじゃないかと、レシオンの魔法を受けて姿を現した魔物に突っ込んで行ったマインを見て思う。

 マインはどうしたらいいんだろう? 仮にも師匠なんだし一度しっかりと言い聞かせた方が良いんだろうか? でも、マインならなんだかんだであのままでも上手くやりそうな気がするんだよなぁ、主人公補正的な何かで……。

 まぁいいか、致命的な何かをやらかさないように見張るだけはしておくが……。


「ギャウウゥ……」


 アオが呆れているような気がする……。


「師匠、マインの無鉄砲は直らないと思いますよ」

「俺もそんな気がする」


 最近はソウマもマインと言い合う事が少なくなって来たからな……ソウマも諦めたか。


「それよりも卵を盗んだ奴らが気になるんですけど……」

「でも、今更調べようがないだろ? 犯人らしき怪しい奴を見たって目撃者は居たっぽいけど……」

「雪に紛れるような白い服を着た奴等って、雪に紛れるようなって部分を消して考えると、何か思い浮かびませんか?」


 それだと白い服着た怪しい奴らって事になるけど……。


「記憶を無くす前の俺を保護、と言うか誘拐した奴らって白いローブを着ていたって聞きましたけど……」


 あぁ、そう言えばあいつら白いローブだったな、何か関係あるのか? いや、あの時も何か引っかかったんだけど……なんか大事な事をど忘れしている気がする。

 今回卵を盗んだ奴らがそいつらと関係が有るのか、目撃者の言う様に雪に紛れる為に白い服を着ていて偶々色が被っただけか……判断がつかないな。


「何とも言えないな……」

「場所がここじゃなければっぽ関係性は疑えるんですけどね」


 もし、同じような奴らがやってるなら又何かやらかすんじゃねぇか?

 あ、これってやばくないか?

 リエルたちに教えておいた方が良いか?


「少なくとも、卵を盗んだ奴は捕まらずに残ってますからね」

「うゎ、そうだな。これまた何か起こるんじゃないか?」


 目の前に状況が有るならともかく、潜まれたんじゃ俺じゃ判断できないな、どうするかを考えるのはリエルたちに任せよう。


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