一章35話 深雪山「目的地どこだ?」
前話でアルトを同行させるのを忘れる失態……修正しています。
「なぁ、だんだん寒くなって来てないか?」
高速馬車のおかげで進行が順調なのは良いのだが気が付けば随分と辺りが冷えているように感じる。
馬車内が魔法の技術だか何だかで快適な空調に保たれているから気が付かなかったが、休憩をとる事になり馬車の外に出ると肌寒さに身が震えた。
「ネージュの住処に向かっているんだから寒くなって来るのは当然だろう」
クラッドの声に振り返ると、こいつ……もこもこの付いた暖かそうな上着を羽織ってやがる。
クラッドだけじゃなく他の奴らも暖かい格好で馬車から出て来た……そのまま出て来たのは俺だけかよ、これだと俺が一人はしゃいで飛び出したみたいじゃないか。
誤魔化すようにメニューを操作してアイテムボックスに入っている防寒用の上着を装備する。
「ネージュの住処ってどこだよ……」
そう言えば目的地を聞いていない。
「言ってなかったか? 蒼竜ネージュは大陸の北、凍連山脈の深雪山シュツアルトに居る筈だ」
先に言っとけ……いや、俺がちゃんと聞いておけばよかっただけか。
聞くからに寒そうな場所じゃねぇかよ……防寒具とか登山用の道具なんかはアイテムボックスに入っちゃいるが、聞いていればちゃんと準備できたんだけどな。
「セルンは大丈夫か?」
ここまで外にむき出しの御者台で馬車の操作をしていたセルンに声をかける。
馬たちの世話をしているセルンは普通にメイド服を着こなしている……まぁ、この寒いのにメイド服だけなのに普通過ぎるんだが……。
「はい? 大丈夫ですよ?」
何が大丈夫なのかと聞いたのか分かっていなさそうな感じで返された。
リュインもだけどメイド服だけなのにこの寒さで上着も着ずに平然としているのはメイドの普通なのか?
「ギャウギャウ~!」
「あっ! アオ!」
俺と同じようにメニューから装備を変更して防寒仕様になっている千夏が楽しそうに飛び出して行ったアオを追いかける。
アオの首にちっこいマフラーを巻いたのは千夏か? ドラゴンなんて元々全裸で平気なんだから必要ないとは思うが……。アオの機嫌は良さそうだ。
その機嫌が良いアオが突っ込んで行くのは、馬車を止めた少し先の道にたむろしている牛の群れ。
牛って言っても魔物だ。
角は六本ほど多いし体毛っぽいのは全部細い棘、攻撃的なフォルムをしていやがる。
レベルも結構あるし、あれは下手な攻撃力じゃダメージが入らないな。
「ギャウウ!!」
それを平然と棘ごと喰い破るアオ……わぁお、幼竜つおい。
レベル差が有る筈なんだが……それだけドラゴンが強いって事か?
てか、いきなり襲い掛かるなよ。
確かに進む先に棘牛がたむろしているから一旦止まったんだが、あいつら放って置けばすぐに居なくなるって話じゃなかったか?
「仕掛けちやったなら殲滅した方が早いね~」
続いてマインも飛び出して行きフォスやアルトもそれに続く。
「アルト、お前素手じゃ……」
「あ?」
問題無く殴り倒してるな、棘をものともしていない。
まぁいいや、倒すのは好戦的な奴らに任せて剥ぎ取り剥ぎ取りと。
棘は固いだけのごみ、なんらかに使えそうではあるが買取はされていない。でも肉は大変美味なので高値で売れる。
まずは余分な棘を削ぎ落し、それから肉を切り分けて保存用の皮袋に詰め込み魔法で温度を調節してからアイテムボックスに放り込む。腐る前に街に着きそうになかったら食わなきゃもったいないが、高速馬車なら問題無くつけるだろう。
っと、そろそろ戦闘が終わるな。マインたちのレベルを上げておこう。
ソウマは参加していないが、まぁ、もう前上げた分の動きに慣れているみたいだから一緒に上げておこう。
リエルや千夏とアオの表示は無いので上げられないが、どうやったら表示されるんだろう?
そろそろ本気で調べないとステータス表示されてる奴とされて無い奴で差が出過ぎるな。
「ぎゃう~、ぎゃう~」
「もう、勝手に暴れちゃ駄目だよアオ、ねぇ、聞いてる?」
美味そうに仕留めた棘牛の生肉を棘ごと喰らうアオに千夏が説教しようとしているようだが、アオの方は気にも留めていない。
アオも千夏に懐いてはいるが、要所要所で千夏すら蔑にするよな……まだ生まれて間もないから仕方ないって思っておくぐらいで大丈夫だろうか? 千夏に手に負えなくなったら力づくで躾けるぐらいの積りはしておこう。
さて、ステータスだな。
どうしてソウマたちは表示されて千夏たちは表示されないのかだが……。
表示されるようになったのは不帰の森での戦闘以降だよな? ソウマたちに剥ぎ取りを指示した後視界の端のNEWに気が付いて、それでメニューを確認したらステータスにソウマたちの表示がされていたんだ。
NEWの表示されたタイミングから考えると森での戦闘がきっかけと思って良いんだろうか?
だが、戦闘だけならそれまでに何度もやってるよな? それに、クラッドとは不帰の森でしか共闘していない……条件が厳しいんだろうか?
条件があるにしても回数じゃないよな……あの時あの場に居た全員の表示がされたから戦闘内容が問題なのか?
だとしても不帰の森でのような包囲された状況での戦闘はあまりやりたくないぞ。
まぁ、アオが突っ込んだせいで戦闘にはなったが、棘牛の肉も回収し終わったし、少し試すか。
進行方向の魔物はアホ共が倒したから問題無い。
戦闘マップを見ると他にも魔物は居るみたいだが、こっちに気付いていないか積極的に襲って来る魔物じゃないかだ。
道は開いたがとりあえず休憩はしようという事だがその間にそいつらを叩く。
「てな訳で、千夏、ちょっと付き合ってくれ」
「えっと、どういう訳かな?」
分からないながらも素直について来てくれる千夏にレベルアップやらステータス表示やらを説明する。
千夏もゲームには詳しくないようだが、俺と同じ世界の出身なだけあってこっちの奴らに説明するよりは説明が楽だ。
「てな訳で、ついでだしパワーレベリングするか……」
ただでさえ新規の千夏はレベルが低いのにこのままだと差がもっと酷くなる。ステータス表示がされなくとも千夏だけ集中してレベル上げして少しでも差を縮めておこう。
レベルが上限でも俺の方に入る経験値はプールされるから無駄にはならないしな。
クラッドに適当に周りの魔物を掃除すると伝えて千夏と二人で休憩地点を離れる。
「ギャウ~」
当然のようにアオも着いて来たが……まぁ、千夏とはセットだし、幼いとは言えドラゴンの力が有るから問題は無いな。
周囲の罪もない魔物を各個撃破していこう。
「まずは投擲でギリギリまでダメージを与えるから適当に仕留めてくれ」
手近にある小石を拾い手の中で弄びながらダメージ予測で丁度良い加減を割り出す。
加減が分かったので投擲スキルに必中も乗せてのんびりと草を食んでいる魔物に……。
「ギャウ!」
小石を投げる前にアオが魔物に襲い掛かってしまった。
「おい!」
「アオ~!」
あ~あ、魔物のライフが簡単に吹っ飛んだ。
当然俺には経験値は入って来ないが……お? 攻撃していない千夏のレベルが上がったぞ。
これはあれか? 千夏のスキル命名でアオと千夏に繋がりが出来ていて経験値が共有されるとかか?
それならアオが暴れ回った魔物を倒しまくれば千夏のレベルは上がるが、それだと俺のメニューにステータス表示されないんだよ……。今の戦闘では当然俺の視界にNEWの文字は無い。
「そう言う訳だから、次は大人しくしててくれよ……」
「ギャウ!」
返事は良いんだけどなぁ……ホントに分かってるのか?
千夏ももう一度言い聞かせたみたいだからとりあえずは信じるけど……次やったら拘束するからな。
「居た居た、んじゃアオにやられる前に投擲と……」
「ギャウゥ」
心外だと言わんばかりに唸るアオは無視だ。これまでの自分の行動を思い出せよ、信用なんてできる訳ないだろ。
「BUMOO!」
俺の投擲をまともに喰らった魔物は瀕死状態になりその場で倒れる。
これなら千夏でも止めをさせるだろう……。
「ギャウ!」
「あ~もう! ア~オ~!」
ってコラ!! またかよ!
いや、経験値は入るんだし、アオが倒しても千夏が倒した扱いになるのか?
お、あっさりと視界の端にNEWの文字が出て来た。これはいけたか?
ステータス表示に千夏の名前が増えている。
ついでにアオも表示されているが、千夏のおまけなのかレベルやステータス値だけでスキルなどの細かい表示はされていない。
千夏のステータスは千夏に教えて貰ったものと大差ない、レベルアップによって上がった分が違うぐらいだろうか? アオのステータスは……やばいな、俺の同レベルの時の数値の倍ぐらいある。これは、ドラゴンと人との違いだろうか?
まぁ、なんにせよこれで千夏のレベルも上げられるな……うん、上げられる。
となると、表示される条件は何だろう? 森での戦闘と合わせて推測すると……う~ん、一緒に戦えば良いんだろうか? でもそれだと、ソウマたちはもっと早く表示されても良かった筈だよな……。
「目的は果たせたし、戻るか……」
「あ、表示されたんだ?」
「ああ、でも表示される方法をちゃんと確認するためにリエルでも試す必要があるな」
馬車に戻って今度はリエルを誘い残っている魔物を倒しに向かう。
「デートにしては色気が無いわね~」
「デートじゃねぇよ。誰が魔物倒しに行くなんてデートで喜ぶんだよ」
ふざけた事を言いながらも着いて来てくれたリエルと一緒に千夏とやったように魔物を倒すとリエルのステータスも表示された。
やっぱり、一緒に戦うと表示されるみたいだ……最初の頃にソウマたちのステータスが表示されなかったから他にも条件があるかもしれないが、その正確な条件は確かめようがないからな。
とりあえずの方法が分かってだけでもよしとしよう。
よし、親ドラゴンのとこに着くまでに出来るだけ強化すっぞ!




