一章18話 ミスリル「暇つぶし」
相変わらず輸送予定の装備は作成中なので暇だ。
そんな訳で、今日は昨日ミリルに言われたミスリルタートルの素材を取りに来た。
とは言っても坑道内のミネラルタートルがまだアクティブ状態のままだと突っ込むのも面倒なんだが……戦闘マップで地壁越しに確認する限りじゃ、赤アイコンのミネラルタートルは見当たらないな。
「案外ボス個体を倒した事に対しては怒ってない?」
まだ確認できているのは入口の方だけだから用心して進むとしよう。
まだ魔力が維持され残っている地壁を解除しながら一昨日と同じ道を進む。
「今回も俺は地壁要員ですか?」
今日は用事が入っていなかったらしく一緒に来たソウマが聞いて来るが……。
「いや、魔法を使わせる事を期待して連れてきたわけじゃない。ソウマも魔物の解体、剥ぎ取りを憶えておいた方が良いと思ってな」
ソウマが記憶喪失になる前は知らないが、記憶喪失以降にソウマが剥ぎ取りを見た事は無い筈だ。冒険者じゃなくとも戦う機会がある立場に身を置くなら憶えておいて損は無い筈だ。
「でも、どうしてアタシも一緒なんですか」
今回の坑道探索メンバーは俺、ソウマ、リュイン、ミリルの四人だ。
「俺たちはミネラルタートルの剥ぎ取り方法を知らない」
俺に魔物の解体を教えたリュインもミネラルタートルの解体方法は知らなかった。本人曰く……
「やった事の無いから知らないっす」
だそうだ。知っている方法はやった事があるって事か?
ミネラルタートルは無暗に狩る事が禁止されているから倒した事も解体した事も無いらしい。それで、最初はダオンのおっさんに方法を聞いてみたんだが、それならミリルも知っているから連れて行けと言われたので遠慮無く連れ出したわけだ。昨日聞いたミスリルタートルの剥ぎ取りに行くって言ったらホイホイついて来たミリルが変な奴に攫われないか少し心配にはなったが……。
「ミネラルタートルは甲羅がそのままそれぞれの種類を冠する鉱石です。後は各部の肉が薬や食料になりますけど、倒したのが二日前なら肉の方は止めておいた方が良いですね」
なんだ、それなら甲羅を引っぺがすだけか。
「甲羅だけって事は、本当に一個体からとれる量は少ないんですね」
「そう、それにミネラルタートルの寿命は案外短いので大地に還ってくれる方が、アタシたち鉱石を必要とする者としては助かるんですよ」
会話しつつも戦闘マップでミネラルタートルが敵対の赤アイコンになってないか先を確認しながら進むが、赤アイコンの敵は全く現れずミスリルタートルの死体が放置された場所にたどり着けた。
「敵対している奴が居なかったな」
あの狂ったように追って来たのは何だったんだ? 日が経って忘れる程度の怒りだったって事か?
「おそらくミスリルタートルの後釜が決まったか現れたんっすね」
後釜? ああ、前のは群れを統率していたリーダーが居なくなったから暴走していたって事か。
今は新しくリーダーになった奴が統率しているから落ち着いているって事か?
「とりあえず解体しちまおう」
ミリルに教わりながらミスリルタートルの甲羅を引っぺがす。肉は二日放置して鮮度が落ちているので放置だ。方法だけは聞いておいたが、今後ミネラルタートルを狩る事も無いだろうから生かす機会は無いだろう。
「ミスリル、ミスリル~、あ、でもこの量だと……」
剥ぎ取ったミスリルタートルの甲羅を持って小躍りしそうなほどに上機嫌のミリルは早速どんなものを作るか考えているようだ。
剥ぎ取り終わったミスリルタートルの死体を処理して来た道を戻る。必要分の採掘も前の時に終わっているからこれ以外にここに用は無い。
ついでに残っていた地壁を全部解除していった。設置してたのが俺とソウマだったから丁度良かったな。人の設置した魔法を解除するのって面倒だから……。
「あれ~? 師匠?」
剥ぎ取ったミスリルをミリルに任せて工房に戻る直前に、昨日正式に手に入れた大剣槍の試し斬りを終えて帰って来たらしいマインに見つかった。
「そう言えばミスリルを取りに行くって言ってたね~」
なんだその期待に満ちた目は……やらんぞ、てか、お前武器新調したばかりじゃねぇか。
「うん、凄いよ~ミネラルタートル相手の時は刃をたてて無かったけど~、魔力込めなくても前の剣よりずっと斬れ味が良いの~。魔力を込めれば師匠の地壁も斬れるんじゃないかなぁ?」
ほう……だが、やってみろとはもう言わないからな。
「師匠の地壁よりも俺の地壁で試すのが先じゃないかな? まぁ、マインに易々と砕かせる気は無いけどね!」
こいつ等は、張り合うな……まぁ、勝手に切磋琢磨してくれるのは楽で良いんだけどな。
「暫く工房が使えませんから加工は後日って事になりますけど」
ミリルの所属するダオンの工房は今は依頼の装備作成でフル回転しているから仕方ない。
「できれば弓が良いが……無理なら剣でも良いからな」
こっちに来た当初なら剣で戦闘するのには腰が引けただろうが、戦闘への慣れが有り、基本的な能力が上がっている今なら近接武器でも問題無い。今は弓も剣も無くなっている状態だからとにかく武器が欲しいんだよな。無くても何とかなっているって言えばそうなんだが……。
「まぁ、任せる」
「は~い」
ミリルにミスリルを任せ、俺は今にもこの場で試合そうなソウマとマインを街の外に引率していく。張り合うのは良いが周りに迷惑のかからない場所を選べ。
「それじゃあ、やって見せてよ……地壁!」
模擬戦をしても大丈夫な場所に着いた途端ソウマが地壁をソウマとマインの間に展開する。
「ふっふっふ~見てなさ~い!」
お、マインの持つ大剣槍に魔力が流れて行くのが分かる。十分に魔力が行き渡ったのか、刀身が薄く緑色に光り、その周囲に風の流れを感じる。よくある表現だと刀身に風を纏っているって所だろうか?
「うりゃぁ!!」
勢いよく地壁に大剣槍を叩き込むも、地壁を僅かに削るだけに留まる。
「てぃえぇい!」
続いて突きを繰り出すも、刀身が五ミリ程めり込んだだけに終わった。
「むむむ」
「ほら、あんまり調子に乗らない事だね」
芳しくない結果にマインが唸ってソウマが挑発した後も何度か試すが、その後の結果も変わらず。
マインの大剣槍は緑、風の魔力を持った鉱石が使われている風属性らしいから黄の地属性魔法、地壁とは相性が悪いってのも有るのかな……。
「こっちならどうだ? 氷壁」
こっちなら相性的には大剣槍の方が勝っているはずだ。
「む~~~!」
お、こっちは壊せるみたいだな。んじゃ次。
「風壁」
これはハインライトの方じゃなくフェヴリエの魔法だな。ソウマが学んだ魔法を全部作ってくれるから、こっちの魔法もどんどん手に入るんだよなぁ。戦う手段が増えて有難い限りだ。
さて、風壁は厚い空気の膜で阻み風圧で相手を押し返す魔法防壁なんだが……。
「てりゃぁああ!!」
地壁は壊せずに気落ちしてたのに氷壁を容易く破壊して調子に乗ったのか速攻で突っ込んで来たな。
でも、それは前の二つとは少しタイプが違うぞ。まず、風で押し返されて簡単に近づけない。
「む、む、む~~、猪口才な!」
そのまま突っ込むのは無理と判断したか、突きの態勢を取る。
そして、魔力をいっぱいまで込めた大剣槍を突き出しながら突っ込む。
「お~、押し返しにくる風を斬り裂きながら突っ込んでるな」
あの武器に魔力を流せばそれぐらいはできると……。
「凄い力業……」
隣で様子を見ているソウマは呆れている。
まぁ、ソウマなら別のもうちょいスマートな方法で突破するだろうからな。
「基盤は似ているが、マインはソウマとは真逆のタイプだからな」
見方によってはソウマに出来ない事がマインにできて、マインにできない事はソウマができるっていいコンビになると思うんだけどな。何故かこいつ等は張り合う……。
「え~、似てますか?」
嫌そうだな。
四属性とか初期ステータス、レベルとライフマジックポイントぐらいしか見えて無いけど、それが低レベルにしては高めなところとか……物覚えが異常に良いとか。ソウマは魔創術関連に、マインは近接戦闘に偏っているけどな。
「両方センスが異常だ。羨ましい事にな……」
「師匠が言えた事じゃないような……」
俺のはレベルによるごり押しだから合ってるんだよ。魔法だって俺はお前らと同じ四属性なのに普通の方法じゃランク3までしか使えないんだからな。
とか話したり考えたりしている内にマインが風壁を破壊した。
「炎壁は流石に止めとくか?」
属性的に不利だし、下手するとマインは何も考えず炎の壁に突っ込みそうだ。
だが、依頼の装備ができるまでまだ時間がかかりそうだから訓練と称してソウマとマインに色々試させるか……スキル無しでも再現できそうな技はいくつか有るし、魔法もハインライトとフェヴリエの物があり、組み合わせ次第でいろいろできるだろう。二人の強化も見込めるいい暇潰しになるかな。




