一章10話 戦闘訓練「スペックが勇者」
いつものように昨日よりも少しやっかいになっているマインがぶっ倒れるまで相手をした後、その様子を見学……いや、観察していたソウマの訓練に移る。
マインはこれからソウマの方の訓練に移るから放置だ。その内クラッドが回収に来る手筈になっている。
「ソウマにはまず武器を選んでもらった方がいいんだろうが……」
ソウマがどの武器を選んでも俺には教える技術は無い。俺に教えられるのは俺の戦い方だけだ。それも、システムスキルを使わないやり方に改編して教えないといけないからちょっと考えないといけないんだがな。
「参考に見せた戦いがあれじゃ選びようが無いか」
マインの場合はもう自分のやり方が決まっているからその制度を上げる手伝いをするだけで良いみたいだが、ソウマは一から教えないといけない。記憶喪失ってことが有るから教えるなら何に関しても一からなんだが……。
マインがレベルそのままでも徐々に成長しているように、レベル以外でも強さに影響する要素はあるみたいだ。なので、とりあえず基礎的なトレーニングはやらせるが、多分ソウマは魔法の方が向いている。
マインは戦闘マップで確認できるステータスでも脳筋だと分かり易いが、ソウマもMPが異常なので魔法タイプだと分かり易い。まぁ、魔法よりの万能ぽくなれば問題無いだろう。
「師匠は素手で戦ってますよね? 他は魔法もだけど……」
あ~、ソウマには素手か魔法で戦っている所しか見せた事が無いな。でも俺の本来の武器は弓だ。
「いや、俺は本来なら弓を使うんだが……今は弓が無いから出来る方法でやってるだけだな」
フラッシュタスクや命中予測のシステムスキルに加えて、下手にレベルが高いから適当にやっても戦えるんだよな。だから、焦って弓を用意する必要が無い。弓もあれば安心なんだが、色々あってどんどん後回しになってるんだよな。
「師匠の弓、見てみたいです!」
と言われても、スキルで必中にするか命中予測で必中状態に調整して撃つだけだから何の参考にもならないと思うんだがな。
「機会が有ればな……」
とりあえず色々やってみるか、武器選びも色々試してから決めればいいだろう。
こうしてトウマの特訓が始まった。
思った通りソウマには物理戦よりも魔法の才能が有る。魔力、MPが豊富なんだから低レベルなのに魔法が撃ち放題というのものも有るが、ゲームではできない複数魔法の同時行使をやらせたらあっさりやって見せた。フラッシュタスクが無いので俺のやるのよりは劣るが、この世界の者は基本単発でしか魔法を行使しない。俺が知っている奴等がしょぼいってだけかも知れないが……今度クラッドたちに聞いておこう。
武器の方はとりあえず杖を持たせた。叩いたり突いたり薙いだりできるから、ここからどの武器にでも移行できる……のか? まぁ、ソウマ次第だ。
魔法も俺みたいにアイテムボックスが無いので、魔法石を杖や腕輪なんかにセットしておくのが普通だ。
道具袋に突っ込んでおいたりポケットに入れてたら取り出しに時間がかかるし、どの魔法石がどの魔法なのかを把握するのに手間がかかるからだ。その辺りをゲームでは魔法石の装備と言う形で表現して、キャラごとに魔法の得意不得意によって装備枠の数を変えたりしていた。
現実ではそんな装備枠なんて無いから好きなだけ装備すればいいんだが、数が増えればそれだけ管理が大変になる。ソウマは魔創術師なので、魔法石を見ればどんな魔法が刻まれているのかを判断する事は出来るが数が増えればそれだけ嵩張る。
だからソウマには杖と腕輪に装備する魔法を選ばせる、これは戦い方が決まって行くうちに変わっていくだろうからソウマ任せだな。俺はアイテムボックスが有るから気にせず種類を用意したが、全属性使えると選択肢もそれだけ膨大だから選ぶのも大変だろう。
物理魔法共に通常の訓練を続け、ある程度戦い方が決まったらソウマとマインをぶつけてみる。
最初の方はマインの圧勝、ソウマが何かする前に速攻をかけてそのまま圧倒する形で終わったが、暫く経つとソウマも対策し始める、攻撃魔法で牽制してみたり、俺が嘱託騎士試験の時に騎士団長にやったように地壁でマインの行動を制限したりだ。ソウマは俺が教えたハインライトの魔法を多用しマインの虚を突くが大抵は二度目から通用しない。
何と言うか同じレベル帯とは言えほぼ魔法も使わずに二度目からは対応して見せるマインの脳筋っぷりも異常だが、同じ手が通用しないからと次々と別の手を考えるソウマのセンスも異常だよな……。
瞬時の発想や対策はスキルで思考時間を得て予測で最善手を探すやり方の俺では出て来ない。
こいつら、勝手に強くなるんじゃね?
「やってる~?」
2人が切磋琢磨しているのを眺めているとリエルがやって来る。暇なのか?
「まぁ、多分順調だな。もう放って置いても勝手に強くなるんじゃないか?」
てか、スキルを使って色々実践して見せただけで俺が教えた事は殆ど無い。
「でもぉ、二人とも少しずつルイのやり方に近づいているわよぉ」
スキル無しで俺のやり方に寄せて来ているこいつらは何処かおかしいんだよ。
マインの正面戦闘は、俺がフラッシュタスクと予測を使って更に今のレベルの身体能力が有るから出来るんであって、スキル無しじゃ俺にはできない。
ソウマの魔法複数同時行使も、俺がスキル無しにできるかは分からない。
「そうだ、あのソウマの魔法複数同時に行使するやつって一般的じゃないのか?」
「魔法の並列行使は高等技術よぉ、あたしやクラッドでも頭への負担が大きいからあまり使いたくないものぉ」
おぅ、やっぱりソウマ異常じゃねぇか。最大三つぐらいまでだが平然と並列行使してやがるぞ。
「ソウマは並列行使が高等技術だって知らないからな、俺がやってるのを見て普通に出来るもんだと思ってやっちゃったんだろうな」
「知らないって怖いわよねぇ、と言うかぁ、今質問したという事はぁ、ルイも知らずに使っていたんじゃないの~?」
まぁ、そうなんだが。俺の場合はスキル頼りのものだから苦労はそれほどないんだよな。
「あ、そうだ、なんか適当な弓無いか? 俺の本来の武器が弓だって言ったらソウマが一回見てみたいって言ってたんだが、弓は前に無くしちまってるんだよな……調達しようとは思ってたんだが、素手と魔法で何とかなっちまうからずるずると今まで用意してなかったんだ」
「素手でも魔法でもあれだけやれるのに本来の武器は弓なの~? それはあたしも見てみたいわぁ」
こういう会話をしていると、そろそろ来そうだな。
「これで良いっすか?」
アサシンメイドのリュインがその手に弓をもって出現した。
こいつ、多分だが常に俺に張り付いてるような気がする。多分隠密スキルを使われているから戦闘マップにも映らないが……俺にも直感系のスキルが有れば分かるんだろうか?
俺も隠密スキルは使うが、人に使われるとやっかいなものだな。
「前にマインに用意した練習用の弓ねぇ、マインはちょっとだけやって向いてないって使わなかったけど~」
あの戦闘スタイルならそうだろうな、遠距離攻撃でやるより突っ込んで行く方がマインらしい。
俺の場合はこっちに来た当初の魔物と対峙する恐怖心から弓、遠距離攻撃を選んだのが今一番馴染んでいるってだけだ。
弓を受け取り、使用に問題が無さそうな事を確認し終えると、丁度ソウマたちの訓練も終わったようだ。
結果はソウマが伸されて終了。マインの体力が残るように早めに終わっているとはいえ、俺と模擬戦をした後にソウマのと模擬戦なんだが、ここは経験の差が出てるって所か?
とりあえず今は一回弓の射撃をソウマに見せよう……命中予測で調整してぶっ放すだけなんだけどな。
庭に生えている適当な木に向かって弓を構えアイテムボックスから取り出した矢を番える。
まずは適当に木に当たればそれでいい。当てるだけなら調整は殆ど要らない。
当たったらその矢に向けてもう一本矢を放つ。先に刺さっていた矢の筈に次の矢が突き刺さり筈から両断して木に突き刺さる。
それを何度か繰り返した後、最後に上に向かって弓を引き落ちて来る矢で木に刺さった矢を撃ち抜く。
「ま、動いていない的にならこれぐらいは出来るな」
後は複数の矢を番えて、これも命中予測で調整して放つ同時撃ちとか可能だ。調整しているから全部当てられるが威力がバラけるのは仕方がない。
「動いてる的は~、これで良いかしらぁ? 灯」
リエルが赤い魔法石を取り出して小さな明かりを灯す。その灯を操作して高速で動かし始める。
「動きが不規則過ぎんだろ! しかもは速ぇえよ!」
だが、上方で動き回る灯に狙いをつけて撃ち抜く。
「何とか当たったな」
「一発で当てといてよく言うわぁ」
そりゃ一応、ソウマの師匠なんだから少しは凄いとこ見せとかないとな。
後日、ソウマが弓も練習したいと言い出したのでこれまで俺が弓を扱って来た経験からいくつかできるアドバイスをすることになる、こういったものはやって憶えるしかないと思っているのでその後はソウマ任せ、ソウマの頑張り次第だ。
ソウマもマインも成長がおかしい気がするので何とかやってしまうんだろうな。
俺も師匠の肩書が霞まない様にもうちょい成長できないか考えた方が良い気がするな……。




