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一章5話 道中の馬車の中「全部いける?」

 クラッドの用意した馬車は結構しっかりした造りの2頭引きの幌馬車だった。

 御者席にはクラッドが座り馬車を動かし、俺たちは中で適当に過ごしている状態だ。


「こっちが火球(ファイアボール)で、こっちが炎弾(フレイムバレット)な」


 今、俺はリエルの要望で火属性の魔法刻印を中心に紙に描いていっている所だ。

 さっきまで魔創術についてソウマに講義していたリエルも、ソウマと2人して俺の手元を覗き込んでいるので、軽く説明しながら描き進める。

 馬車の操作に関してもソウマの魔創術の講義もリエルとクラッドが交代で行っている。

 俺は馬の扱いなんて知らないし、魔創術に関してもゲームの設定をそのまま読むぐらいしかできない。一応、ハインライトで自分が魔法を使っていた経験を話すことは出来るが、今ソウマが受けている講義は魔創についてだしな……。


 ソウマが魔創を見よう見真似で成功させた翌日、ツバイティアを出発した後からリエルの魔創術講座が始まった。

 どうやら、せっかくソウマに魔創術の才能が有るのだから、国の魔創術師試験を受けさせて正式な魔創術師にしてしまおうという事らしい。

 ソウマって記憶喪失の子供なんだが大丈夫か? 記憶が戻ったり親が出てきたら面倒な事になるんじゃないか?

 こういう世界だとソウマみたいな境遇になると完全に過去と切り離して考えるのが普通なのか?

 まぁ、もっと昔の事は分からないが、あの白ローブ共に連れられているよりはマシか……。

 魔創術師ならそれなりの地位も得られるだろう。


「こうね~」


 リエルが器用に揺れる馬車の中で魔創の儀式を行う。

 紙に刻印を描いている俺もだが、整備されている街道とは言えよくやるな……。

 すぐに試しておきたいから自分に適性の有る赤、火の属性の魔法刻印を優先して教えてくれと言ったんだろうが……空とは言え魔法石の管理をもうちょい考えろ。

 ソウマが真似して魔創の儀式を始めているぞ……。今回は前みたいに他の色の魔法石は出ていないから砕ける事は無いと思うが……。

 相変わらずソウマの使う魔創術は勇者君のそれだ。


「「魔創(マジッククラフト)炎弾(フレイムバレット)」」


 リエルの魔創が成功して、ソウマの魔創が……えぇ、成功するのかよ。

 ソウマは複数属性持ちか? 地と火か、攻撃と防御バランスが良いな。


「リエル、成功して喜んでいる所悪いが……」


 俺はそう言ってソウマを指差す。


「あぁん、ソウマ勝手に魔創術使っちゃ駄目でしょ、まだ魔創術師試験受かってないんだからぁ」


 子供がやる事とは言え、国にとっちゃ無断で魔創術を使うのは犯罪だからな。

 それもそうなんだが、リエル、お前は自分の魔創術に集中し過ぎて周りが見えてないぞ。

 知っていて止めない俺も悪いって言えば悪いんだが……知るか。


「ルイもぉ、気づいているなら止めてよぉ」

「知らん、そもそも俺が正式な方法で刻印済みの魔法石を手に入れていると思ってるのか?」


 正式に手に入れているならその魔法石を持ったままじゃ簡単に国外になんて出れない。船の護衛なんかの仕事に就くなら条件付きで可能なんだろうが俺はただの冒険者だしな。

 実態はただの冒険者って言えるような実力じゃない事は自覚しているが……都合の良いスキルのおかげってのが大きいからな。


「できればこっちの魔法も教えて欲しい所だが……」


 刻印済みの魔法石を作ってくれと言った時のように簡単にはいかないよな。


「さすがにそれは無理よぉ、まぁ、ルイになら魔法石を提供するぐらいは構わないけど」


 いや、魔法石ってじっくり見れば中に刻まれている刻印って見えるんだぞ。良いのか?


「本気か?」

「構わないわよぉ、それで刻印が分かる訳じゃないしね~」


 あ、こいつ気付いてないのか……もしくは世界の設定的に気が付けない? 魔創術師なら魔法石を見ればどんな魔法が刻まれているかは感覚で分かるけど、どんな形の刻印が刻まれているかは分からないって所かな。

 多分俺みたいに異世界人とか言う特殊な奴じゃないと見えないって事だろう。真実はどうか分からないが……。

 俺ってレベルの限界突破やシステムスキルとか以外にも色々恩恵が有りそうだな。

 最初から説明が無いからここまでなのかこれ以上に何か有るのか分からないが……あるものは有難く利用しよう。


「貰えるなら貰っておく」

「とは言え、あたしは地属性の魔法石は持ってないのよねぇ」


 結局駄目じゃねぇか。

 どうして空の魔法石は他の種類も持ってるのに刻印済みは持ってないんだよ。持ってても使えないからだろうが……。

 てぇか、火属性でもいいからくれ。

 昨日は勘違いされたが、俺全属性使えるんだぞ。


「僕が作る?」

「だぁか~らぁ、ソウマはまだ魔創術を使っちゃダメなのぉ」


 ソウマを叱るリエルの目の前にひらひらひらと手を翳す。

 

「ん~なぁに?」


 手品をするようにアイテムボックスから魔法石を取り出して行く。

 人差し指と中指の間に赤い魔法石を……そしてひらりと一度手を振り、中指と薬指の間に緑の魔法石……更にもう一度手を振り、薬指と小指の間に青い魔法石を取り出す。


「あらぁ、未知の魔法石……」

火球(ファイアボール)雷戟(ライトニング)水落(アクアドロップ)

「いぃ!?」


 おもむろに手を馬車の後方の外に向けそれぞれの魔法を発動させる。

 馬車の後方に赤、緑、青の魔法陣が出現すると、そこから火球が飛び出し、それを追うように雷撃が奔る。続いて火球と雷撃の着弾点に向かって魔法陣からやや上気味に飛び出した水球が放物線を描いた後叩き付けられる。


「ん、貰える物は貰う」


 アイテムボックスに魔法石をしまいながらリエルに再度強請る。


3属性(トゥリア)……いえ、4属性(クオット)!?」


 なんか、知らない言葉が飛び出して来たな……。つり屋? ふぉと? 似てる言葉は……いや、ゲーム世界独特の造語だったら予想付かないか……。


「ルイ、あなた本当に魔創術師じゃないの?」

「俺に魔創術が使えるなら自分で魔法石を作ってると思うが」


 俺に魔創術が使えるならハインライトでの旅ももっと楽なものだっただろうな……もぐりの魔創術師に魔法石を作らせるのに結構な金を使ったからな。あの金が有れば今メイン武器無しのままなんて事にはなってねぇだろうな。


「でもぉ! 魔創術師でもないのに複数属性持ちなんて居ないわよぉ!」

「見つかってないだけだろ?」


 とは言え珍しいだろうな。俺の知っている全属性持ちは勇者君だけだがその勇者君はこの世界に来ていない。その勇者君の仲間になるキャラでなら2人2属性使える奴が居るが、全属性は勇者君以外には知らないな。


2属性(ドゥオ)でも魔創術師以外だと伝記に残るような英雄しか居ないのぉ!」


 俺も一応魔王殺しで英雄って言えば英雄なんだが……全属性使えたのは元からだ。

 戦闘マップでステータスの深いとこまで見れるなら魔創術師以外の複数属性持ちを探しても良いんだが、俺の戦闘マップで見れるのは名前と称号、レベルとライフと魔力量、それと敵性の有無ぐらいだ。

 ハインライトに居た頃に出て来た魔物や人は称号とレベルである程度のステータスは予想できたし、スキルのデータもあったから低レベルの時から結構立ち回れたけど、大陸も違うしこれから先海で撃退した様な知らない魔物が出てきてもおかしくないんだよな。

 まぁ、今ならレベルでごり押しできるから問題無いが……。

 通常メニューの方のステータスなら属性適性からスキル、装備している魔法まで確認できるんだが、今そこに表示されているのは自分だけだ。

 多分仲間ならステータスが見れると思うんだが、どうやったらシステムに仲間って認識されるんだろうな?


「それより、さっきから言ってるトゥリアとかクオットってなんだ?」


 リエルは俺が全属性を使えるって知って混乱しているが、だからって俺にはどうすることもできないので代わりに疑問をぶつける。


「え、あ~、扱える属性が1つ増えるごとにぃ、2属性(ドゥオ)3属性(トゥリア)4属性(クオット)って言ってぇ、光と闇を含めて5属性(クイン)6属性(アルト)って言うのもあるけど、後天的に適性を得られる光と闇を含めちゃうと2属性(ドゥオ)4属性(クオット)って言えてややこしいから、普通は含めないで4属性(クオット)までしか使わないかなぁ」


 複数属性持ちのそれぞれの呼び方か。ゲームでそんなん出て来なかったと思うんだが?


「まぁ、使えるランクは高くないからな……」

「そうなのぉ? それぞれどれぐらいまでつかえるの?」

「全部ランク3だ」


 そこそこ威力のある中級魔法まで使えるが、大軍を相手にするには心もとないってとこだな。しかも俺のランクには成長限界のマークがついている。いくらレベルが上がろうが訓練しようがこれ以上上のランクには成長しないという事だ。

 この世界で実際に使ってランク以上に威力が有るだろうって魔法もいくつかあったからランク分けなんてたいして当てにできないし、魔石懐放(マナブレイク)を使えば適性ランク以上の魔法も使えるんだけどな。


「魔創術師じゃない者が4属性(クオット)で最上級魔法まで使えるなんて言われたら魔創術師の立つ瀬がないわぁ」


 魔創術師はランクがどうあれ適性さえあれば魔創が出来るんだからランクを気にする必要はないと思うぞ、魔創術師の強みは自分で魔法石を作れる事だからな。


「ソウマの適性数やランクが気になるな……試すか?」


 全属性のランク5魔法石を取り出してソウマを見る。


「ん? なにするの?」


 ソウマは興味深そうに俺の手元の魔法石を見るが、リエルはソウマと一緒に俺の手元の魔法石を見てまた慌てだす。


「どうしてルイが使えない最上級の魔法石まで持ってるのよぉ!? て言うか、どうして全属性出してるのぉ!? まさかソウマも!?」


 そう、ソウマにも火と地以外の属性適性が無いか試さないとな。ソウマが主人公なら全属性に適性があってもおかしくない筈だ。


「属性適性を試すなら基礎か初級でやってぇ! こんな街道で最上級魔法なんて撃たせないでぇ!」


 使えるかどうかも分からんのに焦る焦る。

 まぁ、魔力暴走(オーバードライブ)引き起こすぐらいだから素質は有るんだろうな。


「あの~、騒いでいるところ悪いけどお客様だよ」


 ずっと馬車の操作に集中して中の会話に加わらなかったクラッドが呆れたように声をかけて来た。

 てか、お客様ってなんだ?

 誰か居るって事だよな? とりあえず戦闘マップを確認する。


「おおう、盗賊か……ソウマ、丁度良い的が来てくれたぞ」


 戦闘マップで馬車を囲むように布陣している赤マーカーの称号盗賊LV10前後(ザコ)共を確認してソウマを伴って外に出る。

 正面の道を塞いでいる盗賊はお決まりのセリフをクラッドに投げかけているが、相手をしているクラッドはどこ吹く風、盗賊たちに冷たい視線を向けるだけで話を聞いていないように見えるが腕輪に取り付けられた魔法石に魔力を込め、いつでも魔法が使える状態にしているな。

 正面の盗賊をクラッドが眺めている間に、馬車から飛び出して来た俺とソウマに対して、森の木々の間に身を隠した盗賊共が弓でこちらを狙って来た。

 アイテムボックスから剣を取り出して命中予測を駆使して全ての矢を斬り払う。


「ソウマ、あっちだ緑のランク2、雷戟(ライトニング)な」


 ソウマに指示を出し、アイテムボックスから緑色の魔法石を取り出して渡す。


「はい! 雷戟(ライトニング)!」


 ソウマが呪文を唱えると緑の魔法陣が出現し、指示した位置に魔法陣から雷撃が放たれる。ライフの消失、戦闘不能を確認っと。

 とりあえず風属性も使える……3属性(トゥリア)は確定。


「次は逆側の草ん中に隠れてやがるから、青のランク2、氷槍(アイスランス)だ」


 馬車の反対に回りさっきと同じようにアイテムボックスから青い魔法石を取り出して渡し、雷戟(ライトニング)の魔法石は回収してアイテムボックスにしまう。


氷槍(アイスランス)!」


 ソウマはなんの疑いも無く魔法石に魔力を込め呪文を唱える。こういう危険な状態で使えるかどうかも分からない魔法石渡されても、普通なら使わないよな……ソウマが記憶喪失だからか、ただ単に性格がそうなだけかは分からないが……。まぁ、やり易いから良い。

 魔法の方はしっかり発動して草むらに隠れていた盗賊を戦闘不能にする。

 4属性(クオット)確定だな。魔創術も使えるし勇者君と同じか、完全に主人公だな。


「正面の方は……」


 終わってるな、ソウマの方は俺が居るから大丈夫と判断したのか、リエルがクラッドと一緒に正面にいた盗賊共を何らかの魔法で拘束していた。

 クラッドの近くに居る盗賊共が見えない何か、多分風で拘束されていて、リエルの側で転がっている盗賊が麻痺の状態異常になっている。どっちも俺の知らない魔法だな。……魔法だよな?


「朗報、ソウマも4属性(クオット)だ」

「ま、まぁ、ソウマは魔創術師だから4属性(クオット)でも……おかしくはないわよねぇ」


 なんか、自分に言い聞かせるように言ってないか?


4属性(クオット)か、これは本当に死なせなくて正解だったな」


 こらクラッド、死なせなくてじゃ無く殺さなくてだろうが。

 いろいろやらかしてる俺が言えた事じゃないが、自分のやろうとしたことを誤魔化すなよ。

 だが、魔創術師で4属性(クオット)、これならソウマの扱いは悪い物にはならないだろう。後は、ソウマが子供なのを良い事にていよく利用されないか見守るだけだな。


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