表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/53

一章3話 主人公「っぽいな」

「自己、紹介?」


 暴走の影響でボロボロのローブではあるが、牢に設置された寝台に寝かされていた少年が身を起こし首を傾げて紺色の瞳をこちらに向ける。

 白一色のローブはボロボロ、灰色の髪もぼさぼさになっているが……俺と随分扱いが違うな。

 俺は床に放置されて毛布すら用意されていない牢屋に放り込まれていたが、少年は寝台付きの牢で寝具に包まっていたと……。差別良くない。


「ああ、俺は上月(こうづき)瑠衣(るい)、瑠衣で呼んでくれればいい。一応冒険者だ」


 まだ何の依頼もこなしてないけどな。とりあえず少年を怖がらせないように名乗り


「ルイさん……冒険者?」


 冒険者は知らんか? 年齢的に関わる事もほぼ無いか?


「わからないならただの放浪者って認識で良い」

「どの口がただの放浪者だなんて……まぁ良いわぁ、あたしはリエル、フェヴリエ国所属の魔創術師よぉ。それでぇ、こっちのおっさんもフェヴリエの魔創術師、クラッドおじさんと呼んであげてぇ」


 女はリエル、おっさんはクラッドか。


「僕はおっさんって歳じゃない……僕がおっさんならリエルはおば……」

「なぁに?」


 クラッドの方を向いたからリエルの表情は見えないけど、多分ものすっごい良い笑顔を浮かべてるんだろうなぁ。クラッド、女性に歳の話をするとは……その上おばさんなんて言いかけるなんて、クラッドの冥福を祈って置こう。


「僕……なまえ……」


 大人2人がもめている間に少年は? と目で尋ねるが、少年の口からその名前は出て来ない。


「僕は……あれ? 僕は……誰?」


 あ~あるある、暴走後目が覚めたら記憶喪失ね~よくあるよくある。やっぱこいつ俺がなんかしなくても主人公じゃねぇの? まぁこのまま主人公として進めよう。


「多分魔力暴走(オーバードライブ)の影響か? まぁ……とりあえずソウマって呼ぶな」


 いつまでも少年って言うのはなんなので適当に名前を付ける。なんとなくで魔創術の魔創を入れ替えてそのまま読んだだけだ。


「ソウマ……」


 少年は俺が勝手につけた名前を確認するように何度も口にする。でもこれ、記憶喪失の方が都合が良いな。価値観なんかが真っ新な状態なら、きちんと説明すれば素直に魔力制御を覚えたりしてくれるだろう。暴走は反抗されるよりは早期に抑えられそうだな。

 しかし、ソウマが記憶喪失だとすると、死んだ白ローブ共が何者だったかが分からないな。記憶が有ったとしても子供が理解してるかどうかわからないが……。


「後ろのおっさんとお姉さんは気にするな。色々混乱しているだろうがまずは話を聞け」


 ソウマの灰色の髪をくしゃりと撫でて返事も聞かずに話し出す。


「俺たちはお前の事を知らない、ソウマが覚えていない以上知り合いや保護者を探すこともできない」

「…………」


 意味を理解していないのか、それともまず話を聞けと言った事を守っているのか、ソウマはじっとこちらに瞳を向けている。


「やっぱ、何も覚えて無いんじゃこれからどうしたいかとかは考えられないんだろうな?」


 黙って聞いてろって言ったからかソウマの性格なのか分からないが……ソウマがこくりと頷く。


「まぁそうだろうな。そんで、こっちとしてもこのままソウマを放り出すわけにはいかない。お前の持っている魔力は他の人より多く強いんだ。ちゃんと制御しないと周囲に破壊の力を撒き散らすぐらいにな」


 ちょっとソウマの顔が青くなってるな。表情も少し強張っている。いきなり自分の中に爆弾が有りますって言われてるようなもんだからな。


「解決策はある。1つは大丈夫な年齢になるまで魔法石に触れない事、これは生活の中にも結構魔法石って使われてるから普通に暮らす場合は難しいな、もう1つは魔力制御を覚えるこれが一番手っ取り早いが当然制御を覚えるまでは魔法石に触れられない。つまり、1つ目の方法の期間を短くできる方法だな」


 どの道、殺さないなら誰かが魔法石に触れさせないように見張っていないといけない。その期間を短くする為に魔力制御を覚える事を選んでくれると有難いんだが……。


「どうだ?」


 正直判断材料が少なすぎるとは思う。記憶が無いから言われたことを信じていいのかの判断すらできないだろう。だから、ソウマは必然的に選ぶ。


「覚えます。魔力制御」


 うん、と頷いてもう一度ソウマの頭を撫でた後、その手を引いて立ち上がらせる。


「おら、大人共。乳繰り合ってないでさっさとここから出せ……あ、やっぱいいわ勝手に出て行くから」

「あ~待って待ってぇ!」


 入り口は魔創術師2人が邪魔なので格子をぶち壊そうとした俺をリエルが止める。


「お前らはもうちょっと大人らしい態度をだな……」

「ハイハイ、分かってますぅ! ほらクラッド、話はついたから報告、街を破壊しようとした不審者は自爆、その際に怪我を負った者2名を保護。冒険者の方は特に問題無く回復、子供の方は記憶喪失の為、引き続き保護します。一応、この子の知り合いは探してみるけどぉ……」


 多分見つからないだろうな。その方が主人公っぽいからなって言うのはひどい理由だが……白ローブがソウマの親ならもう死んでるし、最初の印象通りにソウマの魔力に目をつけてどこかから攫って来たなら両親はもう居ない可能性が高い。


「う~ん、この白ローブ何か引っかかるんだよなぁ……ソウマ、とりあえずこっちに着替えようか、ボロボロになってるし……」


 なんか白いローブに嫌な予感を感じ、アイテムボックスから適当に俺の予備の服を出してソウマに渡す。

 実際ローブはボロボロだから多少ぶかぶかでもこっちの方が良いだろう。


「それじゃリエル、僕は報告と少年の知り合いを探す手配を……」

「は~い、任せるわぁ、あたしたちはぁ暫く待機かなぁ」


 そう言ってクラッドが先に地下を出て行き、俺たちもリエルに連れられて牢を出る。

 牢を出てそのまま外に出ると、当たりは真っ暗で全くと言っていいほど人通りが無くなっていた。


「俺らどれだけ寝てたんだ?」


 港に着いたのが朝だったからその日の夜か?

 ソウマと2人で田舎から出て来たばかりの奴みたいにキョロキョロ当たりを確認しながら、リエルたちが拠点にしている宿に案内された。


「2日程よぉ、おかげで偶々こっちに来てた私たちも足止めされたんだからぁ」


 2日ねぇ、魔力切れを起こすとそんなに眠らないと回復しないのか? 今後魔力残量には気をつけとかないといけないな。


「そりゃぁ、お疲れ」

「まぁね~、遠目に空に上がる破壊の光を目にした時から厄介事の予感はしてたんだけどねぇ」


 もしかして魔力暴走が有った事自体には気が付いていた? 被害がほとんどないから信じられなかったって所か?


「魔創術師が見れば、あれが魔力暴走(オーバードライブ)だってことぐらい判断できるわよぉ? ただ、空に上って行く魔力暴走(オーバードライブ)の光なんて聞いた事無いからねぇ」


 そう言うものか? 俺の場合はゲームとエフェクトが同じだったから気づけたんだが。


「あなたは、魔創術師じゃないわよねぇ?」

「そうだな」


 俺の居る位置は勇者君の居る位置の筈だが俺に勇者君が持っている魔創のスキルは無い。スキルが無ければ魔創術師にはなれない。


「魔創術師でもないあなたがぁ、逸早く魔力暴走(オーバードライブ)に気付いて対応できたって事が信じられないのよぉ」

魔石懐放(マナブレイク)は見せただろうが……魔力暴走(オーバードライブ)に気付けたのは別の場所で見たことがあるだけだ」


 疑り深いな……まぁ、ゲームじゃ魔創術師ってそんな奴ばっかだったか? ハインライトの魔創術師の爺さんが緩かったから忘れがちになってる感じがするな。

 そう言えば、俺が高い金払って魔法石を作って貰ったもぐりの魔創術師も、やってる事が違法(やってる事)だからかなり神経質で用心深かったな。


「う~ん、やっぱりそれきちんと教えなさいよぉ」

「多分素質が居ると思うんだがな……レベル低い時の俺にできたんだから魔創術師ならできるか?」

「れべる?」


 大人しく俺の服の裾を掴み付いて来ていたソウマが首をかしげながら疑問の声を上げる。

 ここの奴等って俺とは違う感じでレベルアップしてるから、レベルってもの自体知らないか?


「レベルは大まかに説明すると強さかな?」


 強さが低いってなんだよ……。まぁいいか。

 俺のレベルアップはゲームと同じで、倒した相手から経験値を得る。その経験値がメニューのレベルアップ項目にプールされるのでそれを各ユニットに割り振る形だな。今は俺一人しかいないからレベルがカンストした後の経験値はずっとプールされている状態だ。


「教えるのは良いが……元々俺は教わる側(学生)だからな……それも、たいして真面目じゃない方の。だから、俺の説明じゃよく分からんと思うぞ? こいつに魔力制御も教えなきゃいけないし」


 あ~、そうだよなぁ、実際どうやって教えよう? 俺はゲーム感覚で適当にやったら適当に出来たからやりたい事を明確にイメージするって位しか分からないぞ。


「それはぁ、あたしも手伝うから~、と言うか、あたしたちが教えるものだと思っていたけどぉ?」


 あ、やってくれるのか? なら任せよう、魔法使いや魔創術師は魔力制御の専門家だろうからな。


「んじゃ、任せる。正直俺じゃ教え方が分らんからな」


 ソウマに魔力制御を教えるのを任せる代わりに、俺が魔石懐放(マナブレイク)をリエルに教えるって事で話を纏めていると宿に着いた。

 着いてすぐにリエルが店員に話を通して俺とソウマでひと部屋を用意する。

 流れでだろうけど、もう俺とソウマをセットで扱ってるな。まぁ、ソウマの面倒を見る気でいるから適当に保護者扱いしていてくれると都合が良い。

 そして、宿代の方はリエルが持ってくれるみたいだ。助かった……今の俺の持ち金だと安宿に泊まれるぐらいしか残っていないから、ランクの高い宿っぽいここの支払いは無理なんだよな。


「にしても……」


 俺とソウマの腹の音が同時に鳴り響く。

 休む場所もできて落ち着いたからか、体が腹が減っている事に気が付いたみたいだ。


「朝昼晩の3食の代金も宿代に含まれているから食堂に行ってみれば? 今の時間ならまだ間に合うはずよぉ」


 宿代に込みの食事で2日程何も食べていない空腹が満たされるとは思えないが、お言葉に甘えさせてもらおう。

 ソウマと共に宿の食堂に案内してもらう。


「食堂と言うか……レストラン?」


 宿のランクから大衆食堂みたいな感じじゃなさそうだとは思ってたけど……高級レストランの方に寄り過ぎだ……泊る部屋の方はまだ見てないが、宿代いくらになるんだ?


「大丈夫よぉ、あたしこう見えても貴族だし、国の魔創術師はお給料高いのよぉ」


 代金を出してるのはリエルだったな。この世界の貴族ってのがどんな扱いかよく分からないが、金は持っていそうだな……まぁ、貴族以前に魔創術師の懐を俺が気にする事じゃない。


「大変美味しくいただきました……」

「いただきました」


 胸の前で手を合わせて食事を終えると、ソウマが俺の真似をして同じように胸の前で手を合わせる。


「ソウマ、食事を終えたらごちそうさまだ」

「ごちそうさま?」


 刷り込みみたいなあれが働いているのか? これも補正系の何かなのか、ソウマが俺の真似っこするので俺なりに教育しておこう。一般常識ぐらいなら俺でも何とかなるだろう。まぁ、異世界の常識だが……この世界の基になってるゲームはその異世界産だ。問題無いだろう。

 早々に食事を終えたリエルはテーブルに積み上げられた伝票に視線を向けて冷や汗を流し、ようやく食事が終わったとホッとしていた。

 宿代込みなのは一食分だから、俺が遠慮せずに追加注文した分は当然追加料金が発生する。もちろん俺は金持ってないからリエルの払いだ。俺だけじゃなくソウマの分もついでに頼んでたから2人分の追加料金だな。


「んじゃ、ソウマ手を合わせて……

「ごちそうさま」」


 財布っぽい物の中を確認しているリエルを後目に食後の挨拶を教え終えた。ソウマは記憶喪失だからか素直でいいな。


「う~、想定外、明日からの支払いはクラッドに頼むとしてぇ……うぅ、早く王都に帰りたいかもぉ」


 リエルが今後の予定を立てているみたいだな。ソウマの魔力制御の訓練もあるからよく計画を立てておいてくれ。

 とりあえずこの日は腹が満たされて満足したのでリエルの取った部屋に案内して貰い休む準備をする。

 部屋にある魔法石を使った道具はとりあえずアイテムボックスの中に隠してソウマが寝ぼけていても触れないようにする。ついでに魔法石の現物をソウマに見せて触らないようによく言い聞かせておく。

 一通りやり終えたのでさっきまで眠っていたが今日はもう休むことにする。ついでにおはようとおやすみも教えておく。


「ソウマ、おやすみ」

「おやすみ、ルイさん」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ