一章0話 海上「魔法だけでなんとか……」
港で結構な騒ぎを起こしたが、ティリアスが話を付けた事も有り船は通常通りに出航した。
船旅は時間がかかり目的地まで二十日ほどかかるらしいが、ここ数日は天候の荒れも無く順調に進んでいるように思う。
まぁ、そう油断している時が一番危ないんだがな。例え天候悪化で海が時化っても船乗りに任せるしかないから俺じゃどうにもできねぇし……のんびり海を見ているぐらいしかやる事も無いんだよなぁ。
「お? 魚?」
今日もやる事が無く、甲板でぼーっと海を見ていると遠くの方で海面に魚の群れが跳ねているのが見えた。あれ魚だよな? 俺の知らない形しているが魚の種類なんてそんなに知らないからあてにはならない。この世界独自の魚なんて腐るほどいるだろうしな。
「てか、多すぎないか?」
ス〇ミーか? 魚の群れが集まって絶え間なく跳ねてるから巨大な蛇でも居るように見えるんだが……。
って、本当に居ないか? 魚の群れが形成する蛇に交じって本当にでかい蛇が居る。
周囲の俺以外の乗客も気が付いたようでなんか騒ぎ出したぞ。
「アクアサーペントだ! 誰か護衛の冒険者呼んで来い!!」
魔物か、さすがに海の魔物は知らないな。戦闘マップを展開して詳細を調べてみる。
ん? 赤アイコンが無い。それに魚が多くてどれが魔物だかも分かんねぇ。
「魔物は何処ですか!」
もう来たのか対応が早いのは良い事だ。
「な! アクアサーペントが二体も!?」
え? ちょっと、魚群と魔物の見分けもつかないのか?
護衛らしい冒険者たちのその反応に慌てる。戦闘マップで赤アイコンになってないって事はあのアクアサーペントって魔物はこっちに敵意を向けていない。その生態がどういったものなのか知らないが、迂回すれば済むならそれに越した事は……。
「炎弾!」
待てやぁ! 冒険者の一人が持っていた杖にはめ込まれた魔法石に魔力を込め呪文を唱え魔法を発動させる。杖の先に魔方陣が展開され、そこからサッカーボールぐらいの大きさの火球が六発魚群とアクアサーペントに向かって放たれる。
「よし! 一匹仕留めた!」
よしじゃねぇよ! 仕留めてもいねぇ! 蛇の方には殆ど効いてねぇし魚群の方は散って逃げただけだ!
戦闘マップで魚群のアイコンがバラバラに散って消えて行くが、一つだけ残ったアイコンが敵性の赤に変わった。
詳細は……シードラゴサーペント・レベル35 ㏋489/508 MP216/216
「ん?」
アクアじゃなくシー? んで、ドラゴ? うわぁ、下位なら良いが……多分アクアサーペントってのよりは上位だろうなぁ、名前的に。ライフが減っているのはさっきの魔法か?
「もう一発! 炎弾」
「お前ばっか活躍させるか! 火球!」
もう敵対してるから殺るしかないんだが、魚群を散らしたぐらいで調子に乗られても困るぞ。そもそも回避できたかもしれない相手なんだからな。分かってんのか?
再度放たれた火球六発に加えて一抱えぐらいありそうな大きめの火球一発が蛇に向かって行くが、蛇は海水を巻き上げて火球を消火してしまう……。
「くッ、生意気な!」
一匹倒したって勘違いしているからか相手の方が強いって考えにならないんだろうな。続けて他の護衛共も魔法を放つが蛇は海中に潜ってそれらを回避する。
「チッ、逃げたか」
いや、逃げてねぇ。戦闘マップの赤マアイコンは船の方、こっちに近づいて来ている。ってか、こいつらこんな堂々と魔法を使うって事はどっかの国に所属しているか認められた冒険者だろ? なのにお粗末すぎねぇか? 俺みたいに違法に手に入れた刻印済みの魔法石を大っぴらに使っているって訳じゃないよな?
「氷壁」
アイテムボックスから青い魔法石を手中に取り出して小声で呪文を唱え船の下、海中に氷の障壁を展開する。地面が無い場所で地壁の方は使えないからな。
直後に船を突き上げる衝撃が襲ったが、氷壁が蛇の攻撃のダメージを殆ど受けたので船へのダメージはほぼ入っていない。因みに氷壁は耐久値以上のダメージを受けた為砕けて消えた。
「うをおぉ! 下から来たぞ!!」
うるせぇ……護衛なら騒いでないで船を守れ。こっちは一応魔法石なんて持ってたら駄目な立場だからこっそりとしか戦えないんだからな!
「氷壁出すだけじゃ埒が明かないよな……」
とは言え派手な魔法は使えない、今も下から攻撃して来たから周囲の奴等にばれないように防御できただけだ。海上に身を出して突っ込んで来られたらバレるの覚悟で魔法を使うか? このクラスの魔物だと護衛共は当てにできないようだし、適当な剣ぐらいなら有るから投擲スキルで投げるか? まぁ、投げちまったら完全に武器が無くなるんだが……。無理してでも弓を仕入れとくべきだったか? 矢ならアイテムボックスに腐るほど有るんだがな。
「くっそ! また来るぞ!!」
色々考えていた俺の思考を他所に、蛇は再度下から攻撃しようとしているようだ。
「ラッキー、んじゃカウンターだ。氷柱壁」
氷壁とは別の青い魔法石を取り出して呪文を唱える。同じように氷壁を出す魔法だがさっきの氷壁より一つランクが上だ。氷壁と同じと思って破壊しようと攻撃すると壁面から無数の氷柱が飛び出て来る。串刺しになれ。
「うわぁあああ! きたぁああ!」
だからうっせぇ、騒ぐしかやる事無いなら船の中に避難してやがれ。
さっきと同じように船を下から突き上げる衝撃が襲ったが、その後戦闘マップで赤アイコンが遠ざかって行くのが確認できた。
「行ったか……」
船の周囲に赤い血が広がり海水に混じって薄れていくのが見える。カウンターは成功したみたいだな。結構ダメージが入ったようなので撤退したんだろう。
魔法石をアイテムボックスに戻して海を眺める作業に戻る。
船員や護衛の冒険者が何か話しているようだが、戦闘マップで確認する限りじゃもう危険はない。いちいち説明するのも面倒なので言わないが……。
この後も何度か魔物が出現することはあったが、船に取り付いて甲板に乗り込んでくるような奴ばかりでシードラゴサーペントの様な大物は居なかった。甲板に乗り込んできた小物は護衛の冒険者たちが対処していた。普通には戦えるんだな。でも、船の護衛なんだから海の中の奴にも攻撃できるように準備しておけよ。まぁ、メイン武器の弓を用意していない俺が言うのも何なんだが……。
蛇や小物以降も魔物の襲撃が何度かあり、ハインライトの港を出航してから二十一日後の朝、目的地であるフェヴリエの港街ツヴァイティアに到着したのだった。




