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異世界人~檻中の英雄~  作者: リジア・フリージア
序章 第二幕の始まり
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序章10話 魔法は添えるだけ 「そう言えば戦利品が全く手に入ってない……」

 この世界の魔法は、魔法石と呼ばれる物に魔力を込める事で使う事が出来る。


 この屋敷の入り口に有った呼石も魔法を利用した物だな。あれは更に加工がしてあるようだから完全に魔法だけって訳じゃなさそうだが……。


 魔法石は自然界の魔力が集まり結晶化した物で、他に魔物の体内で生成される魔法石も有るんだが、俺がこの世界に来てから一度もアイテムドロップなんて無かったから魔物からの魔法石って手に入るのか分からん、まぁとにかく魔法だ。


 この魔法石に魔印を刻むことで魔法を創るのが魔創、本来の勇者やハインライトの城に居た爺さんなんかが持って居るスキルだ。後天的に覚えられるものではないらしいので、この世界に来た時、初期の状態で持ってなかった俺には覚えられないスキルだな。


 とは言え、刻印済みの魔法石かありそれを扱えるだけの素質が有れば魔法は使える。

 誰にでも使える無属性の他に属性が6っつあり、魔法石の色と属性が対応している透明の無属性、赤の火属性、青の水属性、黄の地属性、緑の風属性、白の光属性、黒の闇属性と大まかに分けられ、ランクが1~5ランクまである。


 本来の勇者は全属性の適性がありランクが全て5、あらゆる魔法を使いこなせる上に魔法を創る魔創スキルまである公式チートだ。俺の方は残念ながら魔創スキルは無いが全属性使用可能だ。ランクは火水地風が3光闇が1だが、適正さえあればランク以上の魔法も使う方法は有るのでそこまで気にしなくてもいいだろう。


 肝心の刻印済みの魔法石だが……当然魔創スキルの無い俺には作れない。まぁ、魔創スキルが有っても国の認可を得ていないと使ってはいけない法が定められている。

 マッチや懐中電灯代わりの魔法を使用する魔法石は国も簡単に売ってくれるが、戦闘用の魔法石となると話は別だ。国の認可を得るという事はその国の魔創術師になるという事。そうなった殆どの者がハインライトの爺さんのように国のために働くことになる。ゲームだと勇者が魔創術を使えるから仲間は攻撃魔法も使い放題だったが……。実際は国が魔創術士を抱え込んで魔法を独占している状態だ。

 だが、当然国の認可を得ていない魔創術師は存在する。とは言え、国の認可を得なければ刻む印すら容易には調べられないのが現実だ。それでも、普通なら一般に出回らない戦闘用の魔法石は法外な値段で取引されるのだからそれで儲けようとする輩は何処にでも存在する。

 俺はそんな奴らにゲームをやって憶えている刻印を魔法石に刻んで貰い刻印済みの魔法石を手に入れた。


地壁(アースウォール)


 三十路が部屋から出ると同時に部屋の外に居た兵士が雪崩れ込んで来ようとしていたが、アイテムボックスから手中に取り出した黄色い魔法石に魔力を込め呪文を唱えると、扉の前床に黄色い魔方陣が描かれ、そこから地の壁生成され、これ以上兵士が部屋に入って来られないようになる。ゲームなら戦闘マップ上に1×1マスで高さ5の壁オブジェクトを生成する魔法だ。敵の進行ルートを防いだりできる。この世界では術者の意思で壁の厚さや高さ、形なんかを調整でき、防御にも使える。


 普通の魔法使いなら杖やブレスレットなんかを加工して魔法石を埋め込めるようにしていつでも魔法が使えるようにしているが、俺の場合はアイテムボックスから瞬時に手中に取り出すことができる。使い終わったら即アイテムボックスに仕舞えば邪魔にもならない。


 後は、部屋に残っている兵士を片付けて窓から逃げれば良い……窓の外の兵士? 俺が本気で逃げたらついて来れない筈だから問題無い。もし追い付かれて邪魔になるようならぶっ飛ばせば良いだけだ。

 とりあえず、今は……この、邪魔な室内の奴を片付けるか……。


 捕らえろって命令にもかかわらず兵士が殺気満々で剣を突き出してきたので、フラッシュタスクと命中予測で回避して腹に拳を叩き込む。鎧に阻まれるが兵士程度が身に着けている鎧の防御力ぐらいなら貫ける。

 鎧はへこみ、殴った衝撃は兵士に届く。兵士のライフがゼロになり、さっき出した地の壁に向かって吹っ飛んで行く。


「そう言や、敵が吹っ飛ぶのもゲームには無かった事だよな……」


 ゲームでは戦闘中にどれだけダメージを与えようと敵がその場から移動する事は無かったがここでは違う、やっぱりここはゲームの世界ではなく現実だという事だろう……。

 まぁ、それは置いておいて、今は逃げ道の確保だ。


 不用意に突っ込んで来た兵士があっさり吹っ飛ばされたものだから他の奴等は二の足を踏んでいる……なら、戦闘マップで兵士の動きに注意しつつ窓に向かう。とっとと逃げよう。


「出て来たぞ! 殺れ!」


 おい! 外の奴等も殺す気満々だぞ! ハインライト兵士にはロクなのが居ねぇな!

 まともな奴は今何処で何やってんだ!?


地壁(アースウォール)


 黄色、地属性の素質持ちなら大抵の者が使えるランク2の魔法だが、この世界では形が選べる。設置場所は俺の足元、俺が上に立てるだけの厚さで少し斜め向きに傾けて出現するようにイメージし、高さは限界まで高くする。地の壁が出現する勢いを利用したジャンプ台だ。

 俺の足元に黄色の魔方陣が描かれ、そこから壁が出現して高さが最高になる瞬間に合わせて俺も跳ぶ。屋敷の塀を跳び越えて向かいの屋敷の屋根に着地、そのまま屋根伝いに何軒か屋根を跳んで移動して夜でも人通りの多い通りに飛び降りる。

 戦闘マップで見ると後ろから追って来ている奴が居るので着地する前に隠密(ハイド)を発動して姿を消し、人混みにぶつからないように移動する。

 よし、撒けたな。追って来た奴らは姿を消した俺の事を見つけられずに全く見当違いな場所でうろついている。

 とりあえず逃げれたのは良いが、どういう状況だ? 

 追っ手に見つかったってのは分かる、三十路が追っ手に雑じってるのは……まぁいい。混じっている動機が俺にとっては悪夢だが、ティリアスが向こうで真相を調べて動いてくれたとしても止められそうにない相手だ、そこは仕方ない。

 だが、俺の居場所がばれたのはなぜだ? 手配書でも出回っているのか? それなら盗賊共を換金に行った時に騒ぎになっているはずなんだが……。

 シフォンたちには迷惑をかけたな……さっさと街を出て行くことにしよう。

 シフォンは盗賊から足洗って子供たちも保護されてたからここでやる事はもう無いな。気兼ね無く逃げよう。


「あ……何も言わずに逃げて来たから使わなかった金を返してもらってない……」


 あれ、俺の全財産と弓を売った金も入ってたんだけど……。

 今から返して貰う為に戻る訳にもいかないんだよなぁ、まぁ大丈夫だろう。レベルが高いから武器が無くても素手で何とかなる。むしろ人相手なら素手の方が手加減がし易い。金はまぁ……シフォンたちにこれから必要だろうからあのままで良いか……俺の方はどうにでもなる。今なら気兼ねなく盗賊共が換金できるからな。


「日も沈んじまったが……行くか」


 隠密状態のまま街を抜け出して街道に出る。追っ手は来ていないようなので街から少し離れた所で隠密は解いてしまう。


「夜行か……」


 夜目ってスキルが有るから夜でも問題無いと言えば問題無いんだが、この夜目ってスキルはゲームに無かったんだよな。と言うか、ゲームに出て来るスキルは魔法を作成する魔創以外は能力補正スキルか戦闘スキルだけだ。そもそもゲームだと夜だろうが洞窟の中だろうが戦闘中の命中率なんかには全く関係が無かった。が、この世界では違う。俺の命中予測は夜目のスキルを取る前とその後では劇的な変化が有った。

 多分夜目以外にもゲームに出てきていないスキルが有るんだろうなと予想はしているけど、メニューに有るスキル欄の俺が習得可能なスキルには表示されていない。レベルが上がるとそのレベルに合った習得可能スキルが増えていたから最大レベルに達している俺にもうスキルは増えないと考えているが、まぁ、十分に戦えているから問題無い。

 まぁ、さっさと逃げて、平穏な生活を手に入れるぞっと……。









――――――――――――――――――――――――――


「そうですか、無事に行きましたか……」


 頭のおかしな姫と兵士共の撤収したアルガーノ邸で館の主と共にその報告を聞いたシフォンは息を吐き胸をなでおろす。


「魔法を使用し屋敷から出た後は屋根伝いに大通りまで逃走、人混みに紛れた所で見失いましたが王国の兵士たちも発見できていないようなので上手くに逃れられたものと思われます」

「良かったよ、私たちではあの姫様を止められないからね」

「と言うか、何なんですかあの姫さん。いきなり兵士に囲まれた時はどうしようかと思いましたよ! おかげで、これは売らずに手元に残せましたけど、返せないんじゃ意味が……」


 売りに行く途中でハインライトの姫に遭遇したことで手元に残った弓に目を落とし、シフォンはやるせなく呟く。

 シフォンは弓を売りに行く際に姫と騎士共に囲まれ逃亡した勇者を捕らえるために協力しろと命令されていた。

 一般市民どころか盗賊に雑じっていたシフォンでは姫に逆らう事も出来ず、兵士たちに案内されるままにアルガーノ邸にたどり着き勇者をおびき寄せ捕獲するという作戦を伝えられた。その時に目的の子供たちは既に保護されていることを聞いていたが、姫の命令で会う事は作戦が終わるまで許されなかった。仕方なく何も知らないふりをしながらアルガーノ邸に勇者を誘導した……まぁ、誘導しなくても目的地にたどり着く勇者に戦慄もしたが、おかげでたいして誘導する必要も無く上手く事が運んだが、その内に残る罪悪感は盗賊と共に活動していた時と変わらない。


「彼は世界の声に有った魔王を倒した勇者なのでしょう? ならあの姫に簡単に捕まったりはしないでしょう、彼が無事ならいつか返せる時が有りますよ」

「そうだと、いいんだけど……」


 シフォンは、理由はよく分からないが自分を助け、盗賊団に潜入していたその目的にも協力してくれた者に対して恩を仇で返すことになってしまった。彼、勇者の事は気になるが、これから保護者の居ない状態で子供たちと共に生きて行かなくてはならない為、気にしている余裕などないだろう。アルガーノも支援すると言ってはくれていたが、いつまでも頼る訳にはいかない。

 しかし、売れば生活の助けになるその魔王殺しの弓を、シフォンは生涯大事に保管していたと言う……勇者と再会し、返すこと叶わぬまま……。


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