序章9話 善者偽善者「お前は引っ込んでろ!」
「暫く姿が見えないからどうしているのかと思えば、こいつらを捕らえる為に出ていたのか」
盗賊たちを引きずりながら衛兵の詰め所に押しかけた俺とシフォンを見て、衛兵のあるおっさんが安心したようにそんな声をかけて来た。まぁ、俺じゃなくシフォンに対しての言葉だ。
この街の孤児院で暮らして居たんだから突然姿を消せば心配してくれる人もいるんだろう、おまけに孤児院はもう潰されているって話だからシフォンの置かれた状況も大体は想像がつく。
「そうそう、こいつ頑張ってここまでしたんだから賞金には色付けてくれよ」
「いやさすがにそういう訳にはいかない、ってあんたは?」
「ただの旅人、こいつの協力者だ。だから、取り分を増やすためにも賞金に色を……」
まぁ、賞金を上げさせるのは無理だった。俺の交渉技能なんて無いようなもんだしおっさんお独断で上げられるようなもんでもないだろうから仕方ない、最初から期待もしていないしな。
積もる話のありそうなおっさんを無視して賞金を受け取り詰め所を後にする。
結構な額になったな、こんだけあれば俺の今の装備が何点か購入できるんじゃないか? やっぱり賞金首の賞金を受け取らないのはエンディングへの遠回りになってたな。まぁ、どのみち意味無かったんだが。
「で、賞金に色を付けさせるのは無理だったが、足りるのか?」
おそらく、シフォンが想定していたタイミングよりも早い段階で盗賊を収穫してしまったうえに俺が盗賊の貯めこんだお宝を全部ちょろまかすのは止めたから足りないんじゃないか?
「正直、全員買い戻すだけの金額には足りない」
まぁ、予想通りだ。
とりあえず足りない分の金額をハインライトでぶんどった報酬で補えるか聞こうと思ったが、盗賊団の賞金に加えていきなり大金を取り出すのを周りに見られると面倒な輩を引き付けるかと思い宿を取る。俺も旅の疲れが有るし、シフォンもずっと盗賊共の所に居たんだから疲れているだろう。
「てなわけで、これで足りそうか?」
安宿の2人部屋を確保して周囲に警戒対象が居ない事を戦闘マップで確認した後、ハインライトでぶんどった報酬の残りを全額備え付けのテーブルの上に取り出す。
「凄い金額、これの出所って……」
「怪しい物じゃない、正当な討伐報酬だ」
ただし、魔王の討伐報酬な。早く子供たちを助けてやりたいからこのまま提供する気でいる。自ら課していた無意味な縛りも無くなった今ならこれ位はすぐに稼げるだろうという事は盗賊共の賞金で分かっているのでポンと出す。そもそも、条件を満たせば仲間になる奴が居るとか言っても、ここはゲームそのままじゃないんだから断ればよかっただけなんだよな。エンディングが機能していなかったからそれすらも意味が無かったわけだが……。
「それなら良いんだけど……まぁ、あれだけ強ければ……」
いや、盗賊が貯め込んだ強奪品をあてにしていた奴が気にする事か? 素の性格からなら気にするのは分かるんだが、こいつさっきまで盗賊に雑じってたからなぁ……。
「そうだな、これなら全員分には足りるな」
まぁ、足りるんだったら細かい事は良いが……。
「足りるんならさくっと買い戻して来いよ」
「いや、それが……扱っている商品が商品だから、こんな昼間からは対応してくれないんだ」
あ~、そうなるのか……面倒な、もっといい加減でいいじゃねぇか。ゲームにも出てきていない商売だし、明らかに合法じゃないから目立っても駄目なんだろうけど、裏街とか目立たない場所で24時間経営してろよ。
「そうなると、夜になるのを待つのか……部屋取って正解だったな……適当に休んでるから時間になったら呼んでくれ」
なんだかんだでここまでの徒歩の旅で疲労がたまっているからな。
ステータスの表示的には全く疲れていないんだが追っ手を警戒しながらだから精神的な疲労がな……ステータスが人間越えていようと、俺も人だって事だな。
この街では検問はやっていなかったみたいだが、衛兵たちに俺の情報が回っているかもしれないんだよなぁ……そこはティリアスがちゃんと真相を確かめて対処してくれていることを願う以外に無いか。駄目だったら逃げるしかないんだが、一応子供たちとついでにシフォンの今後を確認しておきたいんだよな……。
「分かった。僕はその間に子供たちと住める場所の確保を……」
ああ、そうか、孤児院の方は既にぶっ潰されてるんだったな。だが、資金の方は大丈夫なのか?
「…………」
「おい、無いなら無いって言えよ。また変に盗賊行為に走られたら子供たちの為にならねぇんだからな」
えっと、俺の手持ちももう無いし、今から賞金首を狩っているような時間は……無いか余程運が良くないと戦闘マップで探しながらでも賞金首と出くわすなんて無理だろうな。俺の運じゃ多分無理だ。手っ取り早く金を用意するには……魔創術師の爺さんと飲んでた酒でも売るか? いや、もっと手っ取り早い物が有るな。酒だと量を売らなきゃだから処理がめんどくさい、ゲームのように売る数を選んで売却って訳にはいかないからな。
「はぁ、これやるから売っぱらってから行け。ちゃんと鑑定できるとこで売って足元みられるなよ、多分いまなら値段なんてつけられなくなってる筈だからな」
と、メイン武器にしている弓をシフォンに渡す。魔王をぶっ殺すのに使ったやつだ。元々店売りの弓の中では最強装備だが、今は魔王をぶっ殺した後に確認したら弓が進化していて、魔王特効とか魔物特効の効果が付加されている。ゲーム中に武器が進化するなんてそんなシステムは無かったから俺も詳しくは把握していないんだがな。
「これ……店で売ってる一番高いやつ?」
「そう、そんでちょっと色々曰く付きのやつ」
大丈夫? 呪われないかって? 魔王の怨念的なものでも憑いてたら呪われそうだな。今まで持ってる俺が呪い耐性なんてものが無くても大丈夫なんだから大丈夫だろうけど。心配ならさっさと売って来い。
「ま、まぁ、行って来る」
そして、空の茜が紺色に移り変わる頃にシフォンが戻って来た。
「お帰り、住む場所は見つかったか?」
「あ、うん……ただいま。大丈夫、住む場所の目星は点けて来た」
ん? なんかそわそわしてるな……早く子供たちを迎えに行きたいのか? まぁ、途中で盗られたりとか不測の事態を警戒して子供たちを買い取る資金は置いて行かせたからな。今は俺のがシステム的にしまっているから取られる心配は無いが、俺以外には取り出せないからな。
「時間は?」
「今から出ればちょうどいい時間になる」
それじゃ、行くか。子供たちを買い取る資金を取り出しシフォンに預ける。
今は俺も一緒だからなんらかの不測の事態が起ころうともどうにかできるだろう。
シフォンの先導で夜の帳の下りた街を暗い方へ目立たない方へと進んで行く。やがて裏路地に入ってすぐの場所に構えている店の前でシフォンが立ち止まった。
「ここが奴隷商?」
確かに裏路地に面しているが普通の服屋に見えるんだが?
「ハッキリと言うな、表向きはただの服屋なんだから」
そうみたいだな、それもこんな立地にもかかわらず結構繁盛しているようだ。店に入ると、こんな時間にも関わらずまだ客が結構残っているみたいだ。店の横には、お貴族様が使うゴテっとした馬車も止まっていたな。どっちの客かは知らんが……。
奴隷なんて扱っているんだから、その客層が利用するような店でカモフラージュにするのは良い手か……。服屋なんかだと商品さえそろえれば幅広い客層が出入りしてもおかしくないな。
そうこう考えているうちにシフォンは店の奥の方に居た店員と何かを話し、店のさらに奥へと通される。俺も何も言わずについて行っているんだがシフォンが話を通しているので咎められる事は無い。
さてさて、金は用意した分で足りるかな?
貴族が利用する部屋やオーダーメイドの為のサイズを測る部屋だと思われる扉を総スルーして、壁と一体になるようにカモフラージュされた扉の先に通される。
当然のように服を売っているフロアとは雰囲気が一変した薄暗い店内のカウンターで、シフォンと執事服を着た中性的な顔立ちの男が交渉を始めてすぐにシフォンが声を荒げた。
「もう居ないだって!?」
「ええ、先日皆纏めて買い取られて行きました」
男は今にも掴み掛らんばかりのシフォンに冷静に答える。
「暫くは売らないでくれって!」
「ですから、暫くは売りませんでした。しかし、こちらも商売です。いつまでも維持費だけがかかる商品を置いておけないのは当然だと思いますが?」
まぁ、奴隷って言っても人だもんな。食費や病気にかかったりしないように最低限の世話をする人手が要る……そうなると日が経つ毎に出費が嵩んで行くんだな。
「っ……だったら誰が買って行ったのか」
「店の信用にも関わるのでお答えできません」
まぁ、そうなるよな。ここで脅しても面倒なだけで確実に聞き出せるわけじゃないし……どうせ面倒なら子供たちの名前をシフォンに聞いて戦闘マップで虱潰しに探すか? この方法だと俺しか探せないかし、街の外に出られてるともう探し用が無い気もするが……。
暫く奴隷商の男と言い合っていたシフォンも言葉だけで男が折れる事が無いのを理解し、渋々と引き下がる。漸く男から離れたシフォンに時間はかかるが子供たちを探す方法が有る事を小声で告げここは一旦引こうと提案する。
「わかった」
えらくアッサリ納得したな。まぁ、子供たちが既に居ない所でごちゃごちゃやっててもしょうがないか。
「邪魔したな」
「いえいえ、構いませんよ。それと……」
一言だけ告げて店を去ろうとした俺たちの背に、店員の男が何か言おうとしている様なのでちょっと立ち止まる。
「貴方たちの求める商品は子供と言えそれなりの数が居ましたからね、一度にそれだけの人数を購入できる方など、この街でも限られているでしょうね」
…………あぁ、そうか。
「わかった、ありがとう」
店員の男に礼を告げ店を出てすぐシフォンがどうやって子供たちを探すのか聞いて来たが、戦闘マップの事をどう説明すればいいものか分からなかったので、そうゆう能力が有るで適当に納得させた。俺、シフォンには化物みたいに思われてるようだからこれで無理矢理押し通す。
「とは言えあまり遠くまでは調べられないから金持ち連中から探って行く、案内を頼む」
最後に奴隷商の店員の男が子供たちはこの街の奴に纏めて買われて行った事を教えてくれた。
ばらばらに買われたり、他の街の奴に買われたりしていたら探すのが大変だっただろうが、買ったのがこの街の奴で子供たち全員を纏めて買えるほどの奴なら、ある程度あたりがつけられる分まだ探し易いだろう。
シフォンの事情を知っているのか、奴隷商の店員の男も立場が有るだ筈なのにヒントをくれて助かったな。まぁ、真意の程は分からないがな……。
「それなら、近くから回って行って貴族街の方へ向かう形か……」
そうだな、ある程度あたりはつけられるだろうが手あたり次第になるだろうから地道に探していくしかないな。
「…………」
シフォンの案内で貴族とか大店の商人とかそういった奴等の構える屋敷を回りながら戦闘マップで子供たちの名前を探す。俺が調べている間シフォンはずっと無言で待っているが、俺は他人から見れば何もない空間に暫く視線を走らせて居る居ないの判断をするだけなのによく文句も言わずについて来れるな。俺が足りない資金を用意したとか俺の盗賊との戦闘とか色々有るんだろうが……まぁ、いいか。
いや~、それにしても酷いな……まだ孤児院の子供たちは見つかってないが、お貴族共の屋敷を調べていると大体半分ぐらいの確率で怪しい隠し部屋や奴隷称号の付いた者が見つかる。なんて言うか、ゲームに出て来ない部分はなんか闇が深いよな……。この世界のゲームのファンとしてはあんまり知りたくなかった。いや、ゲームとこの世界は別物だ気にしないでおこう。
そうして暫く、買われて行った子供たちを探していると、シフォンがここから貴族街だと言った入り口付近の屋敷内に子供たちの名前を見つけた。
「居た……」
けど、称号が奴隷じゃないな。
「本当に分かるんだ……」
シフォンから聞いた名前の子供は全員屋敷内に居るから同名の別人って事は無いとは思うんだが……。
「ここ、アルガーノさんの屋敷だ……」
ん? 知ってる奴か?
「毎月孤児院に寄付をしてくれていた人の家だ。どうして、アルガードさんの所に皆が……」
「知り合いなら聞いてみればいいだろ」
そう言ってシフォンを伴い正面から堂々と扉を叩く。中から反応は帰って来ない……ぶち破るか?
「待って待って、ほら其処に呼石が有るから!」
拳を振りかぶった俺をシフォンが慌てて止める。シフォンの指した先、扉の横を見ると壁に透明の石が埋められていた。
ドアチャイムか? この石、魔法石か? 透明って事は適性の必要が無い無属性の魔法を使うための媒介だな。
既に使う魔法を決める刻印がされているが、俺がゲームをしている中で覚えた刻印ではないのでどんな魔法が発動するのか分からない……まぁ、シフォンが呼石って言ってるんだからこれの効果はドアチャイムだよな? こんな屋敷に来る事なんて無かったからこの世界にこんなものが有る事すら知らなかったけど……。
とりあえず、透明の魔法石に魔力を流し込んでみる。持って行かれた魔力は数値にして2、微々たるものだ。これなら子供にだって使えるな。
魔法石に魔力を流してから3秒後、屋敷の中にピンポーンとどこかで聞いたことが有るような音が響く。さらに数秒待つと僅かに扉が開き中性的な顔立ちのメイド服の女性が……って、さっきの奴隷商のとこに居た店員? いや、ちょっと違う? 兄妹? 双子? ゲーム的に考えるなら顔グラフィックの使い回しか? いや、だからゲームじゃねぇよ、やっぱ双子とかか?
「どちら様でしょう? 本日の来客はもう無い筈ですが?」
声は奴隷商の店員よりは高いな。
「夜分にすみません、僕はシフォン、孤児院でお世話になっていたシフォンと言います。アルガーノさんに、えっとクラインさんに聞きたいことが有って……」
「シフォン様ですか? 主様から、訊ねて来たら通すように仰せつかっております」
お、シフォンが上手い事やってくれた。
俺も元の世界だと対人能力は悪くないと思ってたけど、こっちの世界に来てから殆どボッチで居たからな。まぁ、勢いだけでどうにかしてるけど、交渉事は出来るだけ避けたいところだ。
「そちらのお連れ様もどうぞ」
俺まであっさり通してくれた。これは話が早いかもしれない。ここの主、アルガーノはシフォンが居た孤児院に寄付とかしてたみたいだし、買われた子供たちにも今は奴隷の称号はついていない。孤児院を取潰されて更に奴隷にされた子供たちを保護したって所か?
店員似のメイドに案内されて俺たちは屋敷の一室に通される。紅茶を用意した後、主を呼んで来るとメイドが俺たちを残して出て行った。
「まぁ、すんなり事が運びそうで良かったな」
「え?」
「アルガーノもまともな奴みたいだしここに居る子供たちも奴隷って扱いじゃない、お前の事も探していたみたいだし、たぶん、孤児院が無くなった事に気が付いた後、奴隷になってた子供たちを保護したんだろ」
そんな事も分かるのかって驚いているが、適当に予想してるだけだから合ってるかどうかは知らねぇ。
適当にシフォンと会話して茶しばいてしばらく経つとメイドが気の弱そうな男性を連れて戻って来た。
「シフォン君! よく来てくれたね、心配したんだよ!」
男性、クライン・アルガーノは部屋に入って来ると大袈裟な位喜びを顕にしてシフォンを抱きしめる。
「クラインさん、苦しいです……」
「ああ、すまない! だけど本当に良かった。私が事態に気付いてから君以外の子たちは無事に保護できたんだが、君だけが見つからなくてね……本当に、無事でよかった」
あ~、なんだ、俺の予想は正解って事で良いのか? 目の前で完全に俺を無視して繰り広げられる再会シーンを見れば分かるんだが、一応確認はしておきたい。
「主様、シフォン様のお連れの方を放って置くのはどうかと」
俺がどこで声をかけようかとタイミングを計っていると、シフォンたちの会話の途切れたタイミングで俺より早くメイドさんが声をかけた。
「あ、そうだったね。君は今までシフォンを手伝ってくれていたって事で良いのかい?」
「まぁ、そうです」
正確には今日だけだけどな。
「やはりそうかい、なら何か礼をしなくちゃね。とりあえず晩御飯はまだかな? 用意させるからそれまで寛いでいてくれ、ああ、礼も用意したいから今晩は当家に泊って行くと良い」
アルガーノのおっさん、気が弱そうなのにガンガン来るな……思わず勢いのままに頷いて了承してしまった。まぁ、飯食わせてくれるなら遠慮無く食わせて貰うが……。
「シフォンは……そうだね、やっぱり子供たちに早く顔を見せてあげて欲しい、あの子たちも心配していたからね」
「そうですね、僕も皆に会いたいので……」
俺も子供たちの無事を確認……って、俺は子供たちにとっては全く知らない奴なんだよな、状況的に大丈夫そうだしこのままのんびりしているか。そう考えてシフォンとアルガーノを見送る。
「それでは、お食事の準備ができ次第呼びに参ります。御用の際はこちらに魔力を込めてお呼び下さい」
俺の二杯目の紅茶を入れ終えたメイドさんも、胸元から携帯電話ぐらいの大きさの板を取り出すとテーブルに置いて部屋を出て行った。
メイドさんの置いて行った板には魔法石が取り付けられている。多分入り口に有った呼石と同じ効果を持って居るんだろう。
こうして一人放置されたわけだが……暇だ。やっぱシフォンについて子供たちのとこに行けばよかったか?
「探すか……は?」
シフォンの位置を確認しようと戦闘マップを開いた俺の目に入ったのは敵を示す赤のアイコン。
赤のアイコンがこの部屋の扉の前にびっしり、窓の向こう側にも死角になると思われる位置に大量の赤マーカーが配置されている。視線だけで窓を確認するがやはり敵の姿は確認できない。
どういった状況だ? 狙いはアルガーノか、それとも俺か? 予想を立てる為に赤アイコンの詳細を確認すると、この部屋の周りを囲んでいる奴等はみんな騎士とか暗殺者と……ハインライトの関係者だった。
完全に俺が狙いだな。ったく、ティリアスは何やってんだ? まだ俺の無実が確認できてないのか?
お? 扉の向こうで動きが有るな。戦闘マップの扉にたかっている赤アイコンが左右に割れた。
赤アイコンが退いてできた隙間を1つの赤アイコンが進んで扉に向かって来る。
「勇者様! お迎えに上がりましたわ!」
バンッ、と扉が開き三十路が姿を現す。
「…………帰れ」
アイコンの詳細を確認していたから三十路だって事は分かっていたが、暗殺者やらを連れて迎えに来たは無ぇわ……。
「そう言わずに! 追っ手は全て私が抑えました。父は勇者様の価値を分かっていないのです! しかし、城に戻り私と一緒になっていただければ父も黙ります!」
倍近い歳の奴と一緒になれって、頭大丈夫か?
「断るって言ってるんだ、いいから帰れ」
追っ手なんざ逃げるかぶっ飛ばせば良いだけだから問題じゃねぇんだよ。
「むう、仕方ありません。力ずくです! 皆さん勇者様を捕らえなさい!」
結局力ずくか! まぁいい、とっとと片付けて逃げよう。武器を取り出して……室内で弓は使えないな、そもそも売っぱらったから持って無いんだけどな。
人質にしてやろうかと思った三十路は命令だけして下がりやがった。
もう素手で良い……。それと、机の上のメイドが残した板に目が行く。
せっかくだし、ちょっとだけ魔法使うか。




