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異世界人~檻中の英雄~  作者: リジア・フリージア
序章 第二幕の始まり
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序章0話 そして、世界は救われた「必要なのはノーマルエンド」

 今、俺の目の前に居るのは、高校生の俺と歳もそう変わらない様に見える黒い髪の男。

 彼は時折苦しそうに表情を歪ませるが、何かを待つようにこの部屋の入り口をじっと見つめ続け、決してこの場を離れようとしない。

 分かっているんだ。もう、自分の意思を保っておくのが難しいと……それでも、確かにこの世界に届いた自分の願いに縋り、少しでもタイムリミットを伸ばそうと必死に崩れて行く意識をかき集め、不格好に積み直し続ける。


 彼の願いが間違った叶えられ方をしたとも知らずに……。

 だけど……、俺は彼が願ったその願いを知っている。

 ここまで来るのに随分と時間がかかってしまったけど……設定された期間ギリギリで間に合った筈だ。だから、今その願いを俺が叶えよう。


 頭の中でスキルの発動を選択する。これまでの道程で培った流れるような準備動作を終え、俺はその一撃を男に向け……放った。


「な!」


 男には突然、自身の胸に矢が突き立ったように見えただろう。スキルと完全な不意打ちで必中となった一撃は、俺の目にだけ映る男のライフ表示の数字を瞬く間にゼロにした。


「き、君は……」「A、AAAAAA!」


 戦闘終了、この場の唯一のエネミーである男のライフがゼロになったことによって、部屋全体が揺れ、彼の身体が眩い閃光を放ち、その口から彼の物と彼の中に巣くう別の者の声が同時に漏れる。


「悪いな……俺はお前の望んだ勇者じゃない。けど、これで良いんだろ?」


 攻撃を行った事で俺の姿を隠していたスキルが効果を失い、突然目の前に現れた俺に対して男は少し驚いた後、穏やかな笑みを浮かべる。


「る……ありがとう……」「KUSOGAAA!」


 男の口から二つの言葉が漏れるが、俺は男の本来の言葉以外は聞き流した。

 部屋の揺れと閃光の演出が終わり、徐々に薄れてきていた男の身体が最後にひと際強く閃光を放ち、光の柱を天に飛ばすようにした後、消滅した。


「礼なんて要らない、俺は俺の為にあんたを殺しただけだ……」


 届く筈も無い言い訳を漏らしながら、俺はその時を待つ……。


 だが、いくら待ってもその時が訪れない……どうなってるんだ?

 正規の道順(ストーリー)をなぞっていないから俺の知っているエンディングじゃなくなっているのか?

 俺の知っている展開(ストーリー)ならこの後、俺は自室で目を覚ますことになる。そして、そこに今殺した彼が居ないだけの普通の日常に戻るのだが……。一向に場面転換する気配が無い。もしかして、自力で戻らないといけないのか? 自力で戻るとか無理だぞ。

 俺が本来ここに居る筈の勇者じゃないから駄目なんだろうか?

 本来彼を倒す筈の勇者と俺とでは帰る世界が違う。だからエンディングが機能していない?

 可能性はいくつか考えられるが、今考えても答えが出る訳じゃない。


「はぁ、どうしたもんかねぇ……」


 ほんっと、マジでどうしよう?

 道中に居た敵は全部ぶっ殺して来たから、主が死んだこの場に駆け付ける者は居ない。敵が湧いて来ないのは良いんだが、この後どうすればいいのか全く分からない。

 俺をこの世界に喚んだ筈の世界の意思はこの場と共に沈黙を保ち俺に干渉しようとはしない。


「魔王は倒したんだから元の世界に帰せよ……」


 呟いてみたが、世界は俺の願いには応えてくれない。これ以上どうしろって言うんだ?


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