最終章~エピローグ・後書き④~
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「 「……入るよ」
うん、じゃあ行こうか」
僕は目先に立つドアの前で深呼吸をし、心を落ち着かせてドアノブを回した。
「ただい……うわ!」
「……アッズリ、ティノちゃん、おかえり」
僕がドアを開けた瞬間に目にしたものは、玄関で僕達の帰りを待っていてくれていた母の姿だった。旅立つ前に怪我をしていた母の右腕は包帯こそ取れていたが傷跡が残ってしまっていた。
「母さん、待っててくれて本当にありがとう」
「母さんも二人が無事で帰って来てくれて本当に嬉しいよ」
そう言った母は両腕を広げ、僕達を抱きしめた。母が僕を両腕から解放しても温かさは消えず、懐かしい温もりが僕を包んでいた。恐らく隣にいるティノも同じような感情に浸っていただろう。
「父さんも帰って来てるんだよ。早く夜ご飯を食べましょう」
「うん、その前に荷物を部屋に置いてくるよ。ちょっと待ってて」
「アッズリ、私も荷物置きに行く」
母が「わかったわ」と言ってので、僕はティノと階段を上り、久しぶりに自分の部屋に入った。
「変わってないな。ここも全然」
「うん。前に来た時と同じだ」
ドアの向こうの僕の部屋は、カーテンの隙間から侵入した橙色の光によって、初めてティノと出会った夕日が照らすオレンジ色の海岸の様に、部屋一面が夕日色に染め上げられていた。この光景は初めてティノが僕の部屋に入った時と全く変わっていなかった。
「その竹箒そこら辺に立て掛けておいて」
ティノは旅の最中あまり出番が少なかった竹箒を、机の横に立て掛けた。
「その竹箒ってさ、ティノが浄化魔法とか言って家の前で使った以来何も使い道……」
「んー? 何か言った?」
「いや何も」
恐らくティノ自身も竹箒をあまり使用していない事に、何かしらの不満に似た感情を抱いているのであろう。僕が考えるティノの竹箒の存在意義は、自分が魔法を使用できる高的存在であるというのを格好良く見せつけるためか、ただ単に持ち運んでいるためだと思っている。それかほぼ間違っていると思うが、魔力の出力口的な役割を持っている道具であるか。
「今アッズリが考えた最後の選択肢が答えだよ」
「うわ何で今考えてたことが分かるのさ!」
「私は読心術が使えるのさ。ふっふっふ」
ティノは占い師を装って不気味に笑うと、ドアに向かって歩いて行った。
「そろそろご飯食べに行こ」
「よし、行くか」
僕はこの時、すでに決心していた。悩みに悩んだ挙句一つに固まった僕の決意を皆に伝えると。何を言われても自分の道を突き進もうと。
階段を下ってリビングに入ると、食卓テーブルの上に煌びやかで豪華な料理たちが揃って並べられていた。
「ほら! アッズリ、ティノちゃん、座って座って!」
食卓テーブルを囲む椅子に腰を掛けていた母が口を開き、その隣には父が待ちきれない様子で此方に向かって手招きをしていた。僕達は両手をくっつけて合掌すると一斉に料理へと手を伸ばした。
「いただきまーす!」
「久しぶりだぁー! めっちゃ美味しいよ母さん!」
「本当に美味しい。懐かしいなー」
僕の斜め左前に腰掛ける父は、久々に餌に嚙り付いた猛獣の様に、烈火のごとく晩飯を食べて言った。父の心境は僕も凄く共感できる。暫くお袋の味を噛み締めていないと、久しぶりに食べた瞬間に腹の底から手が何本も伸びる程美味しく感じる。勿論いつも母の料理は美味だが、今日は格別だった。
「すいませんアッズリのお母さん、私で頂いちゃって」
「いいのよティノちゃん、私にとってもここにいる人全員にとってもティノちゃんは家族だから」
「全員って三人しかいないけどな! わっはっは!」
父さんの良い雰囲気壊しのスキルは全然衰えてないらしい。母も呆れて一つため息を漏らしていた。だがティノは楽しそうに笑っていた。
皆が食事を終えて雑談を広げていたところで、僕は本題を口にした。
「あの、母さん、父さん。話があるんだ……」
「やあ、ムーン」
「遅いよ……アッズリ」
僕は星屑が浮かぶ溟海色の夜空の元、夜風に肌を掠められながら家の近くの丘に来ていた。家を出る前にティノの様子を見てきたが、彼女は明日の朝出発が早いからと言って、早くも部屋あるハンモックに揺れていた。
「来てくれないんじゃないかって思ったよ」
僕は正直に言うとこの場所に来たくなかった。別にこの丘が嫌いという訳ではない。むしろ綺麗な絶景が見えるのでお気に入りのスポットと言える。ただ、裏の世界の現状を覗き見てしまい、尚且つ経験してしまった以上、本当の出来事を話したくはなかった。
「それで、どうしたのムーン。こんなところに呼び出して」
「誤魔化さないでちゃんと言って。アッズリが居ない間何があったの?」
誤魔化さないでと言われてそれに従う純粋な人物はなかなかいないだろう。僕はさらさら真面にムーンの全球ストレートを受けるつもりはない。
「森に入って遭難しちゃったんだよ。それでその時に父さんに偶然会ったんだ」
「私はアッズリが帰った来た時本当に嬉しかった。フリッツとブランも同じ気持ちだったと思うけどあの二人とは桁違いに嬉しかったと思ってる。だからあの時気づいたんだ」
「何に気づいたのさ? 僕を見て気づくことなんて何も……」
「二カ所。一つ目、首から背中にかけての大きな爪痕みたいな痣。二つ目にアッズリの瞳の色。前は赤かったのに今のアッズリの瞳は蒼くなっているんだ」
僕が予想していた以上に彼女の洞察力は優れていた。首周りの痣は服の襟を上限まで引き延ばして上手く隠し通せたと思っていたのに、僕の幼馴染を甘く見ていた僕が馬鹿だったと思う。それに瞳の色に関しては全然考えていなくて気づかなかった。だが少しだけ思考を重ねてみれば当然のことである。何故なら自分の中のダークフォルツァを蒼き力に変え、両眼ともにフォルツァにしたのは僕だからだ。
呆気に取られる僕を置いてムーンは続けた。
「それで今日私なりに考えてみたんだ、アッズリに何があったのか。勿論アッズリが今言った様に森や山で遭難したという場合も考えた。でもアッズリは私達以上にリア王国を詳しく知っている。その根拠はアッズリの日課にあるからね」
「僕が浜辺に行っている事、知ってたんだ」
「だから一つの大きな疑問に辿り着いたんだ。”アッズリは大変なことに巻き込まれているんじゃないか”っていう疑問にね」
どうやらムーンは洞察力だけじゃなく思考判断能力も優秀らしい。ここまで真相に近い核心に迫られているのであれば、もう僕が誤魔化せる手段が見当たらない。
「ふぅ、お手上げだよ。僕が町に居ない間に起ったことを包み隠さずに全て話すよ」
「本当!? やった! 推理を繰り返した甲斐があったよー!」
子供の様に無邪気に喜ぶムーンを前に、僕はこれまでの出来事を全部話した。ティノの事も変わってしまった国王の事も、僕がフォルツァと言う力に選ばれた事もダークフォルツァの事も。世界が今危険な状態にあるという事も全て話した。
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