第四章~最終決戦④~
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「……なっ! 貴様……!」
「はぁ、はぁ、やっと捕まえたぜレッダさんよぉ」
「……アッズリ、……素手で!」
刃を握る右の掌から腕を伝って血が滴る。その血は肌上で何度も枝分かれを繰り返し、正に欠陥が体外に浮き出された様な見た目をしていた。俺が船の土台であるレッダの動きを止めるという条件を満たす方法は、リスクを冒すこの方法しかなかった。
(……おかげで、用意が整った)
「お、おい! 何をする! や、やめろ! その右手の炎を早く収めろ!」
レッダが俺の右手に視線を落とし、焦った表情で怒号を飛ばした。だが俺はその言葉を無視してただ一点に集中した「。
「はぁぁぁぁぁぁあああ!!」
気迫、信念、覚悟、様々な感情を一つの束にまとめる様に、俺は体中を駆け巡る全ての神経を右手に集中させた。
掌に浮かぶ暁色をした小さい炎の玉は、次第に風船の様に膨れ上がると、その大きさの何十分の一程の形へと変化を遂げた。
「吹っ飛べレッダ! はぁあああ!」
俺が右の掌をレッダの腹部へ当てたと共に、小さい炎の玉は太陽が爆発するときの様に巨大な光を強く放った。そして俺の言葉と同時に、暁色の右手からレッダを飲み込む程の鋭い光線が放たれた。
「おわぁぁぁあああ!」
レッダの叫びが勢いよく噴出された光線に掻き消される。床を這いながら進む光線は部屋の壁を突き破り、瓦礫を崩しながら城外へと飛んでいった。
「アッズリ……」
「ティノ、安心して。今レッダを遠くに飛ばしたのは俺の中にあるダークフォルツァを鎮める為だから。もう、闇の力は使わないから」
「ダークフォルツァを鎮める……? どうやって?」
俺が一番最初にフォルツァを使用した時、あれはリッキーが死んで、優しいだけじゃ何も守れない自分への怒りが爆発して自分の中の蒼眼が目覚めたんだ。ネビア・フォレスタの時も、ティノを守ろうとした。ただ、誰かのために何かをしてあげたかった。
「ティノ、俺は気づいたんだ。フォルツァとは、優しさを象徴する力なんだって」
「……アッズリ」
「俺は自分自身の為だけの欲望の力、ダークフォルツァに手を伸ばした。だけどそれは全然不利益な事じゃなかったんだ。おかげでこのことに気づけた」
そう、俺はダークフォルツァに手を染めるという事をしていなければ、まだ単なる優しい少年と言う肩書だけで人生を終えていたかもしれない。
「もうすぐ、レッダが飛んでくるとおもう。だから、ティノ、一つだけ君に誓うよ」
「……うん」
俺は下ろしていた左手を握りしめ、あの時と同じように左胸に近づけた。そして、心の奥底に眠っているあいつに声を飛ばした。
--ルシオン、頼む、力を貸してくれ。
--汝よ、ならば強い信念を我に捧げて見せよ!
強い信念。もう迷わない。俺が今ルシオンに誓う事、それは一つしかない。
「ティノ、俺は、僕は、君を絶対に守って見せる!!」
「アッズリ・アベントリエロォォォォオオ!」
「ドゴーン!」という衝撃が部屋に鳴り響くと共に、半壊の壁際に荒くなった息を吐き捨てている男が一人立っていた。
「早かったね、レッダ」
「うるせえ! 俺は頭に来たぞ! もう容赦し……おい、何だその『両眼』は。何故、何故どちらも蒼眼なんだ……!」
「簡単な事さ、僕はもう立ち向かっていくって決めたんだ。自分の弱さに。ダークフォルツァは自分の弱さその物の現れさ。だから自分自身に負けてる君みたいな人には負ける気しないね」
ダークフォルツァを宿していた時とは少し違い、心の奥から優しい様な温かい力が体内に溢れてくる。まるで、母さんや他の大切な人に支えられているというのが力となって実際に具現化されているかの様だ。
「僕は背中に多くの人達の思いを背負ってきている。レッダが昔そうであった様に。今思い出させてあげるよ、大切な人達の思いを!」
僕は両腕を交差させて夜空に掲げ、心の奥に神経を集中させた。
「これがフォルツァの本当の姿さ!」
両掌に集められた二つの蒼炎が稲妻を纏いながら、それぞれ剣の形へと姿を変えていく。やがて形が整われると白の鎮静の炎がそれらを覆っていった。
「なっ! 双剣だと!? だがお前なんかにすぐに扱えるはずがない!」
「それなら僕の攻撃、全部かわして見せてよ」
僕は腰を下げてレッダとの間合いを均衡に保ちながら、二つの刃でレッダに攻撃を仕掛けた。双剣は一つの刃しか持たない大剣と違って早い速度で連続的に攻撃ができる。それに大剣よりも軽いので小回りが利きやすい。それに、次に僕がとるべき行動が頭の中に瞬間に流れてくる。
「……はぁ、はぁ、何故初めて扱った武器をここまで綺麗に使いこなせるのだ! これまでに一度も使用したというデータは流れて来なかったのに……!」
「僕は……ね!」
「ガッキーーン‼」と刃同士が当たる鋭い音が響く。
「くっ……! ……まさか、昔フォルツァを使用した奴の記憶が貴様の頭の中に蓄積されているとでもいうの!?」
「当たり。昔闇を鎮め世界を光で照らした少年が使用したと言われているフォルツァの戦闘の記憶が頭の中に流れてくるんだ。だから、経験値で言うと君と然程差はないよ、むしろ僕の方が一段上かな」
「なんだと……! 舐めた真似を‼」
フォルツァが両眼に宿ったことによって、相手の行動を予測することやより細かい動きを観察することがしやすくなった。そこに先人の記憶であるフォルツァの知識が加わり、この数分間で格段に経験値を手に入れる事ができた。
これなら、この力があれば、レッダを倒す事ができる。
「うぉぉぉぉぉぉおおお‼」
「ぐわァァ、ああああ‼」
レッダは暁色の大剣を自らの前に翳して、防戦一方で何とか僕の双剣の攻撃を受け流している様に見える。だがこのままならそう長くは持たないだろう。この光景を客観的に傍観するとなれば、大広間で開催された舞踏会の中で、赤絨毯の上で優雅に双剣を扱いながら乱舞をしている姿が想像できる。
僕は双剣を両手に握りしめてレッダの懐付近に接近し、レッダが構えている大剣に重点を当てて、下から上に双剣で振り上げた。「カキン!」と短く音を上げた大剣は回転しながら空中に抛られた。
「レッダ、これで最後だ……!」
僕は二つの剣を蒼の炎に還元し、すぐさま両手分の蒼炎を使用して巨大な大剣を形成した。
「じゃあね、レッダ。来世は良い人間に生まれ変わって再び僕と巡り合おう」
「ザンッッッ!!」と真空を斬った様な音が部屋に響く。
「がァァァああああ!!」
レッダは腹から赤黒い血を噴出させながら空中に散っていった。やがて空中に抛られていた暁色の大剣が床に突き刺さる。
「……終わった、のか?」
「アッズリ! 良かった、良かった……!」
僕は一つ、安堵の息を漏らすと、急に力が入らなくなり、その場に膝から抵抗なく崩れ落ちた。
「アッズリ!? 大丈夫!?」
「あ、ああ平気さ、ちょっと安心しただけだよ。それよりもちょっと待ってて、今助けるよ」
僕が膝に力を入れようとしたその刹那、急に床がグラグラと揺れ出し、壊れた天井から瓦礫の破片がぼろぼろと落ちてきた。
「……な、何だ!?」
「……う、ウ、ウォォォォォォォオオオオ!!」
一層強くなる自身の様な揺れと、地の底から鳴り響く殺意の現れの様な咆哮に僕は怯んだ。
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