第三章~リア城編②~
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「ん、真っ暗だ。何も見えない」
僕が入った部屋は大広間にあった松明の灯が一つも見当たらなく、三百六十度見回しても瞼の裏を見ている様な常闇の景色しか映らなかった。
「良く来たな、アッズリ・アベントリエロ。歓迎するよ」
「誰だ! 姿を隠さないで出てこい!」
「隠すも何も、お主の前にいるだろう」
僕が困惑に包まれた瞬間、真っ暗だった部屋が「パッ!」という音を先頭にして次々に明かりが灯り、最終的には天井の端から端まで松明の赤い光でライトアップされた。
そして僕が立つ赤絨毯の先には、二、三段高くなった舞台の上に位置する王座の椅子に腰を掛けたレッダ・テルーノと思われる黒いコートに身を包んだ人物が待ち構えていた。そして、その舞台の天井に立方体の鉄格子がぶら下がっていて、両手を手錠で繋がれたティノが力なく座っていた。
「ティノ! 大丈夫か!?」
僕の問いかけにティノは答えなかった。それどころか身体を一ミリさえも動かさなかった。
「レッダ! ティノに何をしたんだ!」
レッダも椅子に腰を掛けたまま、ティノと同様に口を開かなかった。そして無言のまま腰を浮かすと、赤絨毯を辿って僕に近づいてきた。
(……誰が相手だろうと負けるもんか)
僕は左手の蒼炎を纏い直して、拳に力を込めた。
「……行くぞ」
言葉の合図と共に、レッダが黒いコートからナイフの様な小型の刃を光らせて向かってきた。僕は左手から噴出する蒼炎を大剣に変化させ、向けられた刃を水の流れの様に県の平らな部分に当て滑らせると、間合いが近くならない様に距離を取った。
僕は絨毯の上で方向転換を決め、間髪を入れずに攻撃の体制に移った。
「くらえっ!」
「がァァァ!」
蒼い火花を散らしながら地面を這う様にして振り上げられた大剣は、兵士が試みた剣での防御を破って彼の右肩先をかすめた。
(……この勝負いけるんじゃないか?)
心の中でそう感じた僕は左手の蒼炎を鎮静の白炎へと変化させた。別に油断しているという訳ではなかった。ただ、リア王国という一つの国を闇へと導いた男の力はまだこんなものではないだろうと思っただけだ。
「はっ! はっ! とりゃぁぁ!」
僕は白炎で大剣を形成し、レッダに息つく間も与えない様に早い速度の猛攻撃を仕掛けた。レッダは僕にされるがままの防戦一方状態で、特に抵抗するわけでもなく攻撃を受け続けた。
(……わざと僕の攻撃を受けているのか?)
僕が繰り出した怒涛の攻撃の網羅は徐々にレッダを白い光で包んでいき、ネビア・フォレスタの兵士の時と同じく氷輪の様な美しい満月となった。
僕は動きすぎて荒くなった息と共に、髪の生え際から流れる一滴の汗を赤絨毯の上に落とした。
「……やったのか?」
満月の解き放った白光が、土星を取り巻く環をいくつも形成する様に氷輪を囲むと、環は一層と膨らんでいき、最大に膨れた風船が破裂する様に勢い良く光の粒子が四方八方に飛び散っていった。
「……アッ……ズリ」
「……その……声は!?」
黒いコートから放たれた声は、僕が以前聞いたことのある国王のとは異なっていた。ただ、どこか懐かしい様な聞き覚えのある声と類似していた。
男は倒れていた体をゆっくりと起こすと、両手を切磋琢磨して動きずらそうに黒いコートを宙に放り投げた。
「……久しぶりだな、アッズリ」
「父さん! 何で……」
黒いコートの男の正体、それは国王レッダ・テルーノではなく半年前の戦争に駆り出されて亡くなってしまったはずの実父、フランツ・アベントリエロだった。
「すまない、今は再会を懐かしんでいる暇はあまり残っていないんだ。早くしないとあいつが来る」
「あいつって、レッダの事?」
「ああ、そうだ。そこまでわかっているのなら何故ここまで来たんだ?」
「僕は使命を果たしに来たんだ。他の誰でもなく、僕だけが果たす事の出来る使命を」
僕は消していた蒼の炎を再び灯した。確かに父の言う通り今はゆっくりしている暇はないのだ。すぐにでもレッダを見つけ出して倒さなければいけない。
「その炎は……! フォルツァか、伝説には聞いたことがあるがアッズリが選ばれし人だとはな」
「父さんこの力を知っているの!?」
「まあな、それよりも本当にお前でなければだめなのか? 今にでも家に帰ることはしないのか?」
「何言っているんだよ、僕は腹を括ったんだ。今更家になんか帰らないよ。それとまずティノを助け出さないと」
僕は高くなった舞台の天井に繋がれている鉄格子へと向かった。
「待てアッズリ! そこに近づ……」
「……! うわぁぁぁ!」
ティノがいる鉄格子の真下に言った瞬間、天井に繋がっていた鎖が千切れて僕の頭めがけて落下してきた。
「アッズリ危ない! うぉぉぉ!」
僕の身体を突き飛ばして身代わりとなった父は、舞い上がった埃の中、右足を鉄格子に踏み潰されて抜け出せない状態となってしまった。
口を開けたまま立ち尽くす僕を見向きもせずに過ぎていくひと時の間に、鉄格子の重力は肌色の父の足を薄い臙脂色へと変化させていった。
「……父……さん」
「ちゃんと親の話を最後まで聞かなきゃ駄目だろ……アッズリ。この檻に閉じ込められているのはレッダの炎で作られた少女そっくりの人形さ。恐らくアッズリの言うティノとやらに酷似して見えたんだろう」
「……これが、人形……? あ、それよりも鉄格子をどかさないと! 父さんちょっと待ってて!」
僕は父の足で浮いた床と鉄格子の間の隙間に両手を入れ、左右の太腿に力を込めて奥歯を食いしばった。だが、鉄格子が持ち上がる見込みはなく、へとへととなった息をただ鉄に当てるだけだった。
「アッズリ、もういいんだ。我が息子に刃を向けた罰が当たったんだ。私はここで命の灯が消えゆくのを待つとするよ」
「そんな……! 嫌だよ父さん、せっかく会えたのに……! そんなの、そんなの……!」
「……最高だよなァ!」
突然僕と父がいる舞台の上に大量の黒い人魂の様な物が襲い掛かる。黒い炎が僕に衝突した時、憎悪、悲痛、殺意などが交雑した人間の内に秘めている醜い感情が僕の身を焦がした。
「うわぁぁぁ!」
「アッズリィィィ!」
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