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第二章=ネビア・フォレスタ②~

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 信念に誓った時、左手から噴出していた蒼い炎が爆発的な白い光を放出し、周囲の霧を全て取り払うかの様にして暗然たる木々を照らした。

 暫く経って白光によって眩んでいた視界が元に戻り、次第に瞼が開けてくると、僕の蒼い瞳がこれまでに見たこともない一齣(いっせき)を映した。


 「……蒼い炎が、白くなっている!」


 僕の瞳に映ったのは、これまで左手を覆っていた蒼炎が淡い雪色の様な白炎と化して燃えている姿だった。

 掌から伝わる雪の炎は、僕の心の芯を優しく包み込む様な温かさを示唆し、激しく燃え盛る蒼炎とは違って心なしか柔らかく感じた。

 蒼炎が敵を燃やし尽くす剛の炎だとしたら、白炎は荒れてしまった人々を深い内懐で包み込む柔の炎と言ったところだろう。

 問題は、この白炎をどのように扱って兵士を止めるかだ。この方法がわからなければ、いつまで経っても先に進めないどころか、最悪の場合僕が殺されてしまうという結末に陥るだろう。


 「目眩ましは効かないぜェ!」

 「……白炎の壁!」


 僕は兵士が先程と同じ体制で振り下ろした刃を噴出した炎の壁で防御すると、白炎の壁は向かってくる闇を浄化するかの様に刃を包み込むと、兵士と一緒に遠方へ弾き飛ばした。

 

 「ぐぁぁぁ!」

 「ちょっと聞くけどさ、君達兵士は何のために戦っているんだい?」

 「はぁ、はぁ、国王様の為に決まっているだろォ! 俺はあのお方の為に命を燃やすと決めたんだァ!」


 僕にはこの兵士の信念がよくわからない。仮に僕達が命を懸けてでも忠誠を誓いたいと思うのは以前の国王のはず。奴隷制度を取り入れ、戦争を繰り返し、国の経済を衰退させ続けている現国王に誓う覚悟は一体その心のどこから来るものなのか。僕は全く理解ができない。

 私情は腹の内に据えておくことにして、兵士の刃が白炎の壁に触れた時、彼の心臓部辺りに白い灯の様なものが光り輝いたのが見えた。それに兵士の今の証言からして、何かの覚悟を持って行動しているという事が明らかになった。

 ここで兵士の覚悟と、鎮静を持つ僕の白炎が共鳴したという仮説を立てたとすると、僕の白炎は信念に誓った敵の感情を鎮静できる能力を持つ。つまり、敵を落ち着かせる事ができるという結論に至る。


 (……希望が見えた)


 心の中で呟いた僕は白炎を纏った左拳を固く握りしめ、木の幹に寄りかかって倒れている兵士を見据えて勢い良く地面を蹴った。

 兵士は取り乱した形相で、背中を木に寄りかけているのにもかかわらず後退りを試みようと、慌てふためく手足を動かし続けたが、僕が接近するに比例して蛇に睨まれた蛙の様に身体を縮こませて表情が悪化していった。


 「来るな! 来ないでくれェ!」

 「大丈夫だよ、君を悪夢の中から救ってあげるだけだから」


 僕は鎮静の念を込めた左拳を銃の様に解き放ち、兵士の厚い左胸板へと捻じ込んだ。


 「うわぁぁぁァァァ!」


 兵士が発した絶叫を覆い隠す様に、僕の左手から噴出された白炎が蒼い光を纏いながら、闇に飲まれた彼の身体を大きく包容した。


 「……これがフォルツァの第二の力」


 その光景は、邪悪な魔物達が暮らす常闇の暗森にひっそりと現れた一つの美しい氷輪を思い上がらせた。

 僕が釈然としない気持ちで余韻に浸っていると、氷輪に包まれていた兵士が、輝きを増して漏れる白光と共に蒼白の殻から解き放たれた。


 「アッズリ、鎮静は上手くいったのかい?」

 「いいや、まだわからない。この兵士が目を覚ました時、僕達を襲ってきたら失敗だよ。そうなった場合、僕はこの人を斬るよ」


 ティノは知らない人を初めて見た子犬の様に警戒心を強める態度を見せながら近づき、僕の背中側に回った。

 僕は旅立つ時腹を括って誓ったんだ。生きて帰ると。約束したんだ、強くなると。

 こんな事で迷っていたら天国にいるリッキーや、家で僕等の帰りを待ってくれている母さんに心配をかけてしまう。


 「アッズリ、変わったね。凄く強くなったと思うよ」

 「……そうかな」


 僕とティノが話していると、木に凭(もた)れ掛かっている兵士が意識を取り戻したらしく、「……うぅ」と頭に手を当てて身体を起こそうとしていた。


 「気が付いたかい? 兵士さん調子はどう?」

 「うぅ、確か俺は国王のところに行って、変な炎を浴びせられて、記憶が……」


 (……変な炎?)


 「とりあえず兵士の覚悟を鎮めることができたみたいだね。良かったねアッズリ!」

 「うん、だけれどもちょっと気がかりなところがあるんだ。兵士さん、今の国王は嫌いかい?」

 「あ、当り前さ! あのレッダの野郎、俺達が真心込めて育てた野菜を全部持って行っちまったんだ! 何か気に食わないことがあれば俺らの地区にも嫌がらせしてきやがって、おまけに俺の友達が何人奴隷にされちまったかわかんねぇよ!」


 兵士は慚愧(ざんき)の念を浮かべた表情で嘆きの言葉と共に地面に拳を叩きつけた。

 レッダ・テルーノ、現リア王国の王様だ。年齢は不詳だが、未だ肌の艶が残っていて容姿は若く見える。何より、復活した後の底知れない闇を感じさせる風貌(ふうぼう」)と鬼のような性格から国民達に恐れられている。

 自我を取り戻した兵士がここまで言うとなると、先程僕の炎と接触した時に見せたあの感情の炎は、自分の意志ではなく他人の感情が宿っているという可能性が考えられる。そして、変な炎に浴びせられた後の記憶がない。となると、


 「操られちゃってたのかな、この兵士さん」


 僕の背中に隠れていたティノがようやく前に出て、地面に膝をついている兵士の前に立って言った。


 「確証はないけれどその可能性は高いね、という事は他の兵士達も操られていることになるってことだ。何よりまた国王を止める理由が増えたね」

 「国王を止めるだと!? ならば私も手を貸すぞ、どうだ?」

 「いや、良いよ兵士さん。貴方は一刻も早く家に帰ってすべきことがあるでしょう」

 

 それに、この兵士の身体のあちこちに切り傷や打撲の痣の様なものが見える。恐らく本人の意識がないまま町へ駆られて戦わされた後だろう。


 「アッズリ、先を急ごう。私達は一秒でも早く国王を止めなければならないよ。こんな所で道草食ってる場合じゃないよ」

 「そうだね。兵士さん、僕達はもう行くから。ここら辺に他の兵士達を見ても絶対に声を掛けないで、あいつらは前の状態の貴方みたいに自我を失ってる。なるべく見つからないように家に帰って」


 兵士は「わかった、世話になった、ありがとう」と僕達に簡潔に礼を言った後、僕達が辿ってきたルートをそのまま折り返して行った。


 「さて、僕達も……」


 --こっち。


 僕が足を前に出そうとしたところで、突如僕の頭に幼い声質の言霊(ことだま)が流れ込んできた。

 驚いてティノの方を振り返っても、彼女は色々な種類の花が集合した上を飛んでいる白い蝶々を追いかけていて、僕が聞こえた声に気づいていない様だった。

 

 --こっちよ。


 「ティノ、聞こえた? 僕達を呼んでるみたいだけど」

 「え、何が? 蝶々が喋ったの?」

 「いや違うよ、ティノと同じ幼そうな声だよ。あっちの方から聞こえたけど」

 

 声がした場所は城への小路から大方離れている訳でもなく、ここから真っ直ぐ進んだところに見える、草と草の隙間から光が漏れている叢(くさむら)を抜けた所にあるようだった。


 「じゃあ行ってみようか! 私達を呼んでいるなら何があるか分からないけど行かなきゃ冒険じゃないよね!」


 ティノは楽しそうな表情で、右手に持った魔法の竹箒を車輪の様に一回転させて見せた。

 

 (……さっき道草食っていられないよって言ったのどこの誰だよ)


 「じゃあ行こうか、出来るだけ兵士に見つからない様に静かに歩いてね」


 ティノは「わかったよ」と頷き、僕の横に並んで歩いた。

 言霊の先には何があるのか。率直な印象から言うとあの幼い声からして悪者という感じはしなかった。ただ、これから何が起こっても不思議ではない状況だ。僕は如何なる状況でも戦える様に兜の緒を締める気持ちを心に置いて、覆い茂った長草を魔の雑念を取り払う様に掻き分けながら姿が見えない声の元へ進んだ。

カクヨムにて応援よろしくお願いします。

なろうにて毎日連載中です。ブックマーク、感想、レビューなど頂けたら幸いです。


イラストや近況報告は北斗白のTwitter、活動報告にて掲載しておりますので、眼を通してくださるとうれしいです。

@hokutoshiro1010


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