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時き継幻想フララジカ 第二部 『乱界編』  作者: ひなうさ
第十八節 「策士笑えど 光衣身に纏いて 全てが収束せん」(分隊編 後編)
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~少女輝きし 纏うは新たなる可能性~

 無数の銃弾が茶奈を襲い続け、彼女は(うずくま)り丸まりながら耐え続ける。

 命力の盾の内側で、多数の傷から血が滲み出ていた。

 痛みに耐えながら地面に額を擦り付け……彼女は意識が今にも飛んでしまいそうな程に疲弊しきっていた。




―――このままじゃ……本当に……殺されちゃう……!!―――




 その時、冷え切っていく彼女の頬に熱い一筋が走り……それが地面へとしたたり落ちる。

 涙……今そこにある死への恐怖から、彼女が無意識に流した一滴(ひとしずく)




 そして彼女の脳裏に走馬灯の様に今までの思い出が駆け巡っていく―――




 自分の親に虐げられてきた人生。


 学校の教師に救ってもらった事。


 勇と出会った事。


 自らの意思で魔剣使いになった事。


 多くの友人に恵まれた事。


 新しい家族とも言える存在が出来た事。


 自分の部屋が出来た事。


 皆と笑い合った事。




 多くの思い出が過ぎ去り……思い起こす。




―――ごめんね勇さん……私、ここまでみたい……―――




 そしてその時……彼女の脳裏に映る彼の姿……。






 醜くだらしない顔で知らない女のオッパイを揉みしだく彼の情けない姿。




プツン……




 その瞬間……彼女の何かが切れた。




―――なんで……なんで貴方はこんな時にまでそんな事してるんですか……―――




 昏倒しかけた意識が脳裏に映し出された映像を今の事だと錯覚させる。

 すると抜けていた指の力が徐々に籠り始め、ぴくりと動きを見せた。




―――なんで貴方は……知らない人のオッパイなんて揉んでるんですか……―――




 握り締めた拳がギリギリと音を立てて有り余る力を体現する。




―――私の方が……おっきいのにーーーーーー!!!!!―――




ッボゥゥーーーーーーッ!!




 突如、彼女を中心に強い衝撃波が生まれた。




 命力を乗せた衝撃波が突風を呼び込み、乾燥した土煙をも巻き上げ吹き荒れる。

 周辺で銃撃を行うベゾー族達が余りの衝撃に体を浮かされ吹き飛ばされていった。

 耐えた者も立ち続ける事ままならず、その場に倒れこんでいく。


 まるで激しい嵐の様であった。

 衝撃波の後に来る突風が吹き飛んだ彼等の体を煽り、転がしていく。


 一体何が起きたのか、彼等には理解する事は出来なかった。




 そして衝撃波が過ぎ去った後……静かな静寂が束の間その場を包む。






クォーーーーーーンッ……






 だが突如、聴いた事の無い耳の籠る様な音が鳴り響き、その場に居た者達がそれに気付き始めた。

 そんな彼等が向ける先……それは茶奈の居た場所。


 衝撃波と土煙が過ぎ去った跡に残るその姿……彼等はその異様な光景を前にただ唖然とするのみ……。




 それもそのはず―――




 想像など出来るはずもない程に……神々しく光り輝く者の反り立つ姿が在ったのだから。




 全身を覆う命力の光は立ち上らずに密着する様に纏われ、手先や頭などの局部には超濃度ゆえに具現化する程までに形成された命力の鎧が備わっていた。


 余りの圧縮度により、幾多もの共振音が重なり響かぬ重低音が絶えず響き渡る。


 その者……茶奈の新たな可能性の姿。




クォーーーーーーンッ……




 ゆらり……不意にその体が揺てゆっくり一歩を踏み出すと、その先に居たベゾー族が怯えながら尻餅を突いた体で後ずさる。


 一歩、また一歩……目の前に居るベゾー族へ向けてその足を踏み出していく。




タァン!!

チュィン!!




 不意に銃声が鳴り響いた。

 だがその弾丸は彼女の「鎧」に弾かれ無為となる。


 銃声の元……それは彼女の裏に立つベゾー族の一人から放たれたモノ。

 その者の顔は引きつってはいるが……彼女に明らかな敵意を向けていた。


「コォォォォ……スゥゥゥ……!!」


 その鎧は物理的な遮断もされているのだろう。

 彼女の口元の部分の鎧だけが解けると、深く一呼吸が行われる。




 そして―――




ダンッ




 それは地を叩く音。




 刹那、彼女の姿がその場から消えた。


 敵意を向けたベゾー族はその目を疑う事となる。

 遠くに居たはずの彼女が既に目の前に立っていたのだから。




グォーーーーーンッ!!




 鈍い音が更に低く重い重低音を響かせた時―――




ボゴォッ!!




 ベゾー族の腹部へと茶奈の拳が深々と突き刺さる。

 超速度かつ超硬度の拳撃が打ち込まれ、その衝撃により殴られた者の体は一瞬にして空へと叩き上げられた。


 命力によって強化された拳には【弾  丸(コンポジットカノン)】の応用によって生み出された螺旋の腕甲が形成されており、その衝撃は計り知れない威力を誇っていた。

 拳を打ち込まれた魔者は叩き上げられた衝撃でグルグルと高速回転(きりもみ)しながら、林が並ぶ景色の向こうへと弾き飛ばされていった。


「ヒ、ヒィ!?」


 周辺のベゾー族達が彼女に脅える中、先程号令を上げた者が再び大声を張り上げる。


「ま、まだだ、撃て、撃ちまくれェ!!」


 その号令を聞くや、尻餅就く者も立ち上がった者も一斉に彼女へ向かって銃弾を撃ち放った。




パパパパッ!!

ドドドッ!!




 だが銃弾はいずれも彼女自身には届かず鎧に弾かれていく。


 焦って撃ったのだろう、ろくに訓練を行っていなかった彼等はミスを犯していた。

 彼女に当たり跳弾した弾が周辺の仲間達へ、当たらず通り過ぎた弾が対照上に居た仲間へと当たり、次々と倒れていく。

 彼女へ敵意を向けて放たれた銃弾は仲間への敵意とは成らず……誤射に対して彼等の防壁が働かなかったのだ。




グォーーーーーーンッ!!




 そして再び彼女が大地を蹴ると、目にも止まらぬ速さで周囲を駆け巡り、ベゾー族を次から次へと叩き飛ばしていった。




ドンッ!!


ボゴォ!!


ズンッ!!




 気付けば彼女を襲っていたほぼ全てのベゾー族がその場から姿を消していた。

 一部は恐れ戦き逃げ去っていった様だ。




 驚異を取り除いた事を確認した彼女は……その体に纏った命力の鎧を徐々に薄め、解き放つ。

 すると、体を覆う命力の鎧が崩れ……命力の塊がふわりと彼女の体から離れていく。

 あまりの濃度ゆえに……拡散された命力が体から完全に離れた瞬間、強い光を放って消えていった。


「ふぅー……」


 落ち着いたのだろう……途端に茶奈がぺたりと座り込む。

 その湿った額には滲む様に汗を浮かばせ、彼女の疲労感をありありと現していた。

 呼吸もままならない状態の戦闘で、彼女の呼吸は全速力で走りきったかの如く荒く……必死に酸素を取り込む為に深呼吸を行っているのか、その肩がゆっくりと上下に揺れていた。




 彼女の持つ超容量の命力だからこそ実現可能だった【命力全域鎧フルクラスタ】……それが無意識に導き出した新しい答えの形であった。




挿絵(By みてみん)

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