~小身怯みし 計略に掛りし者と非ざる者~
黒煙から飛び出した茶奈は引力と慣性に身を任せ、勢いよく地面へと激突した。
全身を覆う命力の盾により衝撃波吸収されるものの……吸収されきれない衝撃が彼女を襲い、「ウグッ!!」と鈍い声を放たせる。
ドガッ!! ガッ!!
平地に墜落した彼女はその勢いに引きずられたまま地面を転がっていく。
ザザザザッ……!!
その勢いが止まると、震えた体を何とか起こそうと地面に肘を突いた。
全身がバラバラになりそうな程の激痛が体中に走り、立ち上がるのも億劫になる程に倦怠感が襲いかかる。
爆音によって鼓膜にも影響を及ぼしたのだろう……頭を突く様な痛みが伴い、耳に入る音はほとんど無い。
だがそれでも彼女は力を振り絞り、立ち上がろうと重い腰を上げる。
衣服はほぼ焼け落ちており、彼女の素肌が曝け出されるが……もはやそんな事など気に止める事すら無く、フラフラになりながらも立ち上がった。
「うぅ……いか……なきゃ……」
自分を求める人が居る。
やらねばならぬ事が有る。
使命感が彼女を動かし、その歩みを強制させるのだ。
茶奈がフラフラになりながらも歩みを止めず前に進む。
だがそんな彼女を見逃す敵など居はしなかった。
途端、周囲から武装したベゾー族達が姿を現す。
その手に持つのは拳銃、アサルトライフル、マシンガン……。
多種に渡る銃火器を携えたベゾー族達が彼女の前に現れ―――
「今だ、撃てェ!!」
無慈悲にも攻撃指示を出すリーダー的な存在の声に反応し、ベゾー達が一斉に手馴れた様に銃火器を撃ち放っていく。
彼等が現れた時に危険を感じ、命力の盾を展開していた彼女に容赦の無い弾丸の嵐が浴びせられていった。
パパパパッ!!
チュンッ!! チュインッ!!
タァン!! タァン!!
「ウゥーーーー!?」
四方八方からの銃弾の嵐に堪らず彼女が膝を突き防御に徹する。
だが、展開したばかりの命力の盾はムラがあり……その隙間を縫う様に弾丸が掠め、彼女の表皮を削り取っていった。
その度に彼女の顔が苦痛に歪み震えを誘う。
いつまでも鳴り止まない発砲音。
ベゾー達は延々とその銃撃を続けられるよう、変わり代わりに発砲者を入れ替えて攻撃を続けていたのだ。
銃とは……人間が人間に対して使う武器である。
例え魔者に通用しなくとも、人間には通用する。
だからこその「対人間魔剣使い」に用意された武器なのだろう。
痛み、眩暈、息苦しさ、倦怠感、衝撃……そういった自身を追い込む要素が幾多にも重ねられ……彼女の体はついに地面に肘をも突き、地面に蹲っていく。
「うああーーー……ッ!!」
もしも彼女の心が折れたならば……集中力は途切れ、命力の盾は消えるだろう。
いつ自身を守るモノが消えるかもわからない銃弾の雨の中……彼女はただひたすらに耐え続ける事しか出来はしなかった……。
―――
そんな彼女を遠くから見つめる王が軽く呟く。
「さすがだネェ、けどネェ……『人間』だからこそお前はここで終わりだネェ……ヒヒッ!!」
妖しい笑みを浮かべる王。
だがすぐにその笑いは止まり、ニタリとした笑みは真剣な面持ちへと移り変わった。
「さすが、白の兄弟と名高い猛者……想定してない行動を起こすとはネェ……」
そう漏らす彼女の遥か裏に立つ者こそアージであった。
息を切らせる程の速力でこの場所へと辿り着き、今ここに立つ。
シャララン……
王が振り向き、その手に持つ杖状の魔剣に飾り付けられた金属の編み紐が音を奏でた。
「キサマがベゾー王だな……ッ!! 今すぐに終わらせる!!」
「ハハハーッ!! やッて見せナァ片割れ如きがァ!!」
途端、お互いの命力が昂り光を体へと纏わせた。
均衡しつつも互いの強力な命力が今か今かとその間をせめぎ合う様に、ゆらゆら……ごうごうと不均一に揺れ動く。
「そうそう……コイツが何かわかるかネェ……?」
二人の拮抗が揺らぐ中、突然見せつけるかの様に黒い金属の玉の様な物を自身の手に転がして見せるベゾー王。
「……知るかッ!!」
そんな問いを無造作に払いのけるが……そんな事に意も介せずベゾー王が語りを続ける。
「ヒヒッ、知ッてるかネェ……こちら側の武器でもネェ……一部は魔者が魔者相手に使う分には充分効力があるのさぁ……」
「何ィ……!?」
するとベゾー王がその黒い玉に付いた細長いピンの様な物を引き抜くと……おもむろに部屋の中央に投げつけた。
バッシャアーーーー!!
途端、二人が勢いよく部屋から飛び出し、入り口を覆う木々の弾ける音が鳴り響く。
そして―――
ッドッゴォォォーーーーーーンッ!!
間髪入れず、部屋が爆音と共に閃光に包まれ、灰色の煙を吐き出した。
「勘が強いネェ!! だがそれだけじャあアタイには勝てないんだよッ!!」
部屋を飛び出し着地したアージであったが……爆発の衝撃が体勢を崩し、その巨体が前のめりにぐらつく。
ベゾー王はその隙を見逃さなかった。
隙を突く様に、素早い足捌きでアージの懐へと向けて一気に距離を詰めた。
「死になぁ!!」
同時に手に握られた棒型魔剣がアージへと突き出される。
「カァ!!」
キィンッ!!
その棒型魔剣の突撃を……間一髪、アージがアストルディの大きな横腹で受け止めた。
だがその時、ベゾー王の睨み付ける瞳が怪しく光る。
「カカッ!! 甘ちャんだよお前はァ!!」
「ヌゥオォォッ!?」
その瞬間……ベゾー王の魔剣の先端が光り輝き力を放つ。
そしてそれは熱量を持つ光の弾へと収束していった。
「ぶちまけナァ!!」
キィーーーン……
カッ!!
キュオォォォーーーンッ!!
収束された光の弾がさらに圧縮され……それは遂に巨大な光線へと変化し、アストルディごとアージを巻き込んでいく。
隙間から漏れた光の熱が彼の体を焼きながら。
「ウオォォォォォ!?」
ズオォォォーーー……!!
光の柱にも見える破壊の力が彼の体を完全に包むと……煙を上げながら光の進む先へと吹き飛ばしていったのだった……。
「ハハッ!! 消し炭だッ!!」
高らかと笑いを上げ、棒型魔剣の柄を地面へ突く。
拍子に飾りが「シャララン」と音を立て、強くなってきた風に煽られた。
茶奈の光の柱とも性質が似た攻撃を行うベゾー王。
その圧倒的な命力の高さこそが彼女の持つ自信の表れ……。
その力強く自信に満ち溢れた目は、再び茶奈達の居る方へと向けられていた。




