表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時き継幻想フララジカ 第二部 『乱界編』  作者: ひなうさ
第十四節 「新たな道 時を越え 心を越えて」
9/329

~藤咲勇と田中茶奈~

 茶奈が校舎裏から回り込む様に歩き、周囲を見渡しながら勇を探す。

 しかしどこを見ても彼の姿は見つからない。


「勇さん……またあそこ(・・・)かな……」


 そうぼそりと呟くと、彼女は周囲に人が居ないかどうかを確かめる様に辺りを見回し始めた。

 その時彼女の視界に映ったのは……校舎と敷地内に立つ大きな木の合間。

 そこを見つけた茶奈は周囲を確認しつつ、その場所へと足を運ぶと……両腕を左右に広げその手に命力を込める。

 すると彼女の周囲の空気が持ち上がる様に動き、彼女の着る制服や柔らかい髪がゆらゆらと揺らぎ始めた。


「んっ!!」




ボウッ!!




 その瞬間、低く弾ける様な音と共に彼女の体が高く高く飛び上がった。


 あっという間に校舎の上空にまで到達した彼女の体が、青い空の下に晒される。

 露出した肌が太陽の光を吸い込んで白く瞬かせながら……彼女はその肢体を手馴れた様にくるりと捻り、弧を描いた。


 誰にも気付かれる事無く……彼女の軽い体が校舎の屋上へと到達し、堅い靴底がコンクリート製の床に当たって高々な音を響かせる。

 そんな彼女の視線の先は屋上入り口を覆う壁……視界にはそこにもたれかかる勇の姿が映っていた。


「勇さん、やっぱりここにいた……」

「茶奈……どうしてここに?」


 彼女の突然の登場に気付いた、勇が驚いた顔で彼女を見つめる。

 勇が驚いたのは彼女が跳んできたからではなく、(ひとえ)に彼を追ってやってきた事に対してだ。


「最近勇さんは目を離すとすぐ一人になろうとするので心配なんです」


 少し尖った様な口調でそう語ると……茶奈はゆっくり勇の下へ歩み寄っていく。


「ごめんな、静かに過ごしたくてさ」

「それなら静かに隣に居ますから」


 茶奈は勇の傍まで来ると、彼と同様に壁にもたれかかり空へ視線を移す。

 勇もまた彼女に釣られる様に空を見上げた。


 二人の頭上に広がるのは一面の青。

 透き通った白を淡く抱く空色は、ただ見るだけでその心を落ち着かせる程に壮大で……それでいて、何者も混じる事の無い孤独だった。


 彼の左目が空と同じ青の瞳を覗かせ、日光を吸い込んでその色を白く輝かせる。

 空と一つに成りそうな程に……そのコントラストは空の景色に馴染んでいた。


「またコンタクト外して……また風に飛ばされても知りませんよ?」

「はは……ごめん、目が乾いちゃってさ」


 獅堂との戦いの折、勇の左目の網膜はエウリィと同じ空色へと変化した。

 それは戦いが終わった今でも治す事無く、なお在り続けている。

 それが目立つのは不味いという事もあり、普段はカラーコンタクトを付けて誤魔化している訳だ。


 再び手に持っていたコンタクトを手馴れた様に左目へ着けると、以前と同じ濃い茶色の瞳が両目に揃う。

 よく見ればそのコンタクトの裏から若干青い瞳が透けて覗かせていた。




 春の風が二人を煽り、時折髪を揺する。


 気付けば世界が変わりもう1年……そのたった1年で勇という少年の人生は大きく変わったのだ。


「なぁ茶奈……」

「うん?」


 その1年で茶奈という少女の人生も大きく変わった。


「……風、気持ちいいね……」

「……うん……私好きだよ、この風」


 大きく変わった世界……しかしこの普段の生活は何も変わらない……。

 そんな毎日が訪れ続けたらいい……そう思いたくもなろう。


 そう思う程までに彼等の人生は大きく変わったのだ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ