~キョウダイ ノ アリカタ~
トルコ共和国……ヨーロッパと中東のおおよそ間とも言える場所に存在し、多くの文化が入り混じる、国土の大きな国。
自然環境にも恵まれた土地でもあり、そういった方向性での観光地としても評価は高い。
観光都市として有名なイスタンブールからマルマラ海を挟み遥か南方、ウルバト湖の南の山岳部に位置する場所……小さな村の同士の間にあるその場所に、彼等の目的地である『あちら側』の国……「リジーシア領国」が在った。
「あれがリジーシア……」
そこから遠く離れた場所に勇達Aチームが立つ。
目的はリジーシアという小国との交渉、あるいは問題解決。
遠くから双眼鏡で覗き見る勇の眼前に映るのは、広範囲に渡り大きな外壁に囲まれた領地。
一部がウルバト湖を巻き込み水面から外壁が突き立ち、転移がその一帯にも及んでいる事がはっきりと解る。
近隣にある家には人が住んでいる様には見えず、恐らく既に避難している事が伺えた。
「これだけ大きいのに……小国とか言われてもよく判らないよね」
「でもさセリ姉ちゃん、『トーキョー』と比べたら小っちゃいじゃん」
「そりゃそうだけど……小国って呼ばれてるのは『あちら側』の世界での話よ?」
外敵……主に魔者であろう驚異から身を守る為に造られたと思われるその外壁は、勇達が近づくに連れてその存在感を示す。
高さはおおよそ20m程であろうか……木材とバラバラの大きさの石材から構築された粗雑な作りの壁が近くに来る事でハッキリしていく。
石段でしっかりと作られていたフェノーダラの城壁と比べると、よほど切羽詰まっていたのだろうと予見出来る程、作りに安定感の無いつぎはぎにも似た様相を伴っていた。
もっとも、外装にこだわる必要など無ければ内部までは判らない為、外見だけで物事を判断する事など出来ようもないのだが。
『もしもし、四人共聞こえますか?』
「ええ平野さん、聞こえてますよ」
各自の耳に取り付けたインカムから平野の通信が届くと、全員がそれに応える。
『そこからおよそ300mほど壁に沿って南下した辺りに入口の様な場所が見受けられます。 先ずはそこへ向かいましょう……念の為、戦闘準備は怠らない様お願い致します』
「了解……皆行こう」
四人は指示に従い、壁に沿って道なき道を行く。
当然の様に道中に人影など無い……僅かな茂みを分けて進むと時折見た事の無い虫が空へと舞い上がり逃げていった。
こんな風景は勇と瀬玲にとっては最早見慣れたものだ。
異国の生物事情など詳しい訳も無く、その生き物達が『こちら側』固有なのか、『あちら側』固有なのか……それともそれらが交配して出来た新種なのか……そんな事など彼等には判別など付きようも無い。
そんなものに怯む事も無く……いや、若干気色悪がっている者が一名程居るが……彼等は歩みを止めずに突き進む。
「ししょ……ちょっとまってぇ……」
そんな中、ナターシャが堪らずとうとうべそをかいて勇を呼ぶ。
元々北国育ちの彼女にとって虫は馴染みのないモノ。
それに加えて今回初任務ともなればこうなってしまうのも仕方のない事なのかもしれない。
「ナターシャぁ……メソメソすんなよぉ、おいてくぞぉ?」
「アニキィ~そんな事言わないでぇ~……」
しかしそこは曲がりなりにも共に暮らしてきた兄妹……アンディが彼女の甘えを引っ張る様に諭し、その手を取る……そんな二人の姿を見た勇は心なしか二人の姿に自分と茶奈を重ねた。
―――兄妹ってこういう事なんだろうな―――
二人に師匠と呼ばれている勇ではあったが……人生経験で言えばたった数年の差。
そんな二人の姿から彼が学ぶ事は多い……。
茶奈が居候を始めてから約2年……始めは悶々とした頃もあったが、今となっては家族の様な対応が出来る様になっている。
だがそれでも、二人の間には『赤の他人』という壁がいまだ事実として存在する。
それを解決するカギは……アンディとナターシャの関係にあるのかもしれない。
そう思いつつ……遅れてやってくる二人を足を止めて待つ。
「あの二人って見てて微笑ましいよね」
「だよな」
そんな二人を見守る勇と瀬玲の口元には、緩やかな笑みが浮かんでいた。
アンディとナターシャが追い付くと、勇と瀬玲が二人の外側に立ちそれぞれの手を繋ぐ。
四人が連なるとナターシャも少し勇気が出たのだろう、二人に支えられる様に歩く兄妹の足取りは先程と比べてはっきり判る程に速く、軽くなっていた……。




