~コイゴコロ~
車の進むがままに走り、気付けば都内のマンション……レンネィの住む家へと辿り着いていた。
雨が降っているという事と、太陽が落ちて出来た薄暗さが助長し……マンションから漏れる明かりが妙な高級感を彩っていた。
実際に彼女の住む家はそれなりにお高いマンションだ。
一人暮らしで住むには大きいと感じる程の。
地下に備えられた住人用駐車場へと車を入れ、それを停めると彼女達が降車していく。
周囲には目に入れる事も憚れるような高級車がいくつか並んでおり、逆に彼女の軽自動車が妙に際立っていた。
後部座席から手に持てるだけの荷物を抱えると……二人が協力してエレベータを介して彼女の家へと運んでいく。
それを4回ほど繰り返すと……ようやく車の中に詰められていた荷物が無くなり、落ち着きを見せたのだった。
「はい、おしまいっと……誘っておいてなんだけど……ありがとうね、シン」
「ウ、ウス……助けになって良かったっす……」
先程からしおらしい態度を見せる心輝を前に、レンネィがまたもや疑問を浮かべ顔を傾けるが……何かを閃いたのか、僅かに目を見開くと途端に微笑みを浮かべた。
「もうだいぶ経ってしまったし……折角だから晩御飯食べて行きなさいな、私が腕によりをかけて美味しいもの作ってあげるわよぉ」
「マ、マジスカ……!?」
思いがけないサプライズに心輝の顔に喜びが「パァ」っと浮かび上がる。
そんな彼の反応が予想外だったのだろう……思わずレンネィが僅かに首を引かせた。
だが……その反応が彼女の心にジワジワと高揚感に似た感情を沸々とさせ、その顔にニッコリと笑顔を浮かび上がらせる。
そのままレンネィは鼻歌を鳴らしながらキッチン奥へと姿を消していった。
それを見送ると……心輝は部屋の中央に備えられたソファーへと腰を掛け、ガラス窓越しの外を見つめた。
「はぁ~……ヤベェ、ドキドキが止まらねぇ……」
ショッピングモールを出る時から、彼の鼓動はずっと高鳴りっぱなしであった。
こんな経験など一度も無かった彼にとって、それが「恋」なのだろうと本来は気付くはずも無いが……既に彼はそれを認識していた。
―――あんな事に続いて家にまで躊躇なく入れて貰えて挙句手料理だとォ……―――
「なんだこの……出来過ぎイチャラブシチュエーションッ……!!」
まるで大人向けのドラマを彷彿とさせる展開に動揺を隠せない。
不意に振り向くと……そこには広い部屋を無駄に使わんばかりに置かれたダブルサイズベッドが。
―――……ンマッ……マジかよ!?―――
レンネィには恋人や配偶者が居るとは聞いていない。
なのになぜダブル……そう思うと心輝の脳裏に如何わしい映像が流れ……その頬を更に赤く染めていく。
「あぁそれ、私寝ぐせ悪くてねぇ~大きい方がいいなぁと思って」
そんなベッドを見つめる心輝に、不意に後ろから現れたレンネィが察したのか丁寧に説明を始める。
それに気付いた心輝が「ハッ」として顔を正面に戻すと……既に彼女は彼の前に立っていた。
突然の彼女の再来に思わず心輝はドキッとして体が固まる。
「そ、そうっすか……た、大変っすね……」
「慣れたもんだけどね~男の子を誘って一緒に寝る事も出来るし、一石二鳥かなぁって」
―――誰とですかぁーーーーーー!?―――
「も、もう一緒に寝た奴とか居るんですかね……?」
恥ずかしげもなくそんな事を話すレンネィに……心輝がついつい口を滑らしてしまう。
だがそんな反応を見ると……レンネィは「フフッ」と笑い、そっと彼の顔の傍へその頭を降ろす。
そして腰を下ろしている彼のすぐ耳元で……艶めかしく呟いた。
「……まだ誰とも寝てないわよぉ……」
甘く囁かれたその言葉、その息遣いに……心輝の背筋に「ゾクゾクッ」とした痺れが駆け巡る。
快感にも似た感覚に、心輝の思考が堪らず停止した。
レンネィがそっと頭を持ち上げると……「ウフフッ」と一笑し、再びキッチンへと戻っていった。
誘っているのだろうか……心輝の脳裏にそんな言葉が思い浮かぶ。
もしそうだとしたら……彼女を押し倒せばそのまま……なんて事を考え始め、心輝の目が「ピクピク」と痙攣し始める。
―――いやいや……レン姐さんの事だ。
きっと揶揄ってるだけ……―――
そう自分に言い聞かせるも、眉間から熱い汗が滴り落ちていく。
「落ち着けぇ俺、考えるなぁ俺……そうだよし、ダイジェンディ―を組み立てよう……」
現実逃避の為におもむろに側に置いてあったプラモデルの箱を持ち上げ、正面にあるガラス張りの机の上にそっと置くと……歪んだ箱を揺すって上蓋を滑らせ開いた。
そこに映るのは大きな説明書やランナーに繋がれたプラモデルの部品が沢山詰まった中身の様子。
ボリューミィとも言えるその内包量に、心そこに在らずのはずの心輝が「うおぉ」と声を上げる。
ギークな彼が歓びを上げる程の徹底的な部品の数々、オタク心を刺激するセットの小道具の数々を前にし……ようやく彼らしい表情が戻って来ていた。
「マジかよ……オーバーレイヤーマントまであるのかよ……!! これ作った奴、わかッてやがる……!!」
作中に僅かにしか出てこない小道具までも盛り込んだそのキット内容に舌を巻く。
もし彼が通常の状態でこのプラモデルを前にしていたら、きっと大声を張り上げていただろう……「これを待っていたのだぁー!!」と。
さすがにレンネィの家である手前、そんな事が出来る訳も無く、ビニール袋に梱包された部品を包装ごと一つづつ箱から取り出し中身を暴いていく。
箱の側面にも作品の絵などの印刷が施され、至る所にファンを唸らせる趣向を凝らす作りに身を打ち震えさせていた。
「すげぇ……マジすげぇこれ……!!」
取り出した袋を掲げ中身を凝視すると、見た事のあるパーツが目に留まり「おお……」と声を上げる事数回……拘りぬいたディテールに「ダイジェンディ―愛」をひしひしと受け取った心輝の顔は既に子供の様な無邪気な笑顔へと移り変わっていた。
そんな彼の側へ再びキッチンから出てきたレンネィが歩み寄る。
「あらシン、とうとう我慢出来なくなっちゃったのねぇ」
「ウ、ウス……けどこれはマジで半端ねぇっすよ……!!」
「へぇ~どれどれ?」
「例えばこれなんすけど……!!」
興味本位で聞くレンネィを前に、心輝がオタク心満載で語り始めると……彼女がそれを嫌がる事もなく真面目に話を聞き入れる。
「これが彼の本音なのだろう」……彼女が素直に彼の言葉に相槌を打つのは、今の彼が紛れもなく好きなのだと思わせる程に真っ直ぐだったからだ。
お互いが本音で語り合い、本音で在りあう……今となってはそんな事が珍しいとも言える今の時代で、住む世界が異なっていた年の離れた二人の男女が語り合う。
決してそれはお互いの趣味が似ている訳でも、方向性が同じという訳でもない。
ただ、それが自分であるとハッキリと前に出しあう事が、二人の距離を近づけたきっかけとなったのだろう。
その日、レンネィの手料理を堪能した心輝は、二人が眠くなるまでお互いの趣味の話を語りあった。
互いにとって、それはきっと今までに無い楽しい時間だっただろう。
今はまだ、それ以上の関係では無いのだとしても……。




