~ヒミツ ノ ナマエ~
茶奈の不機嫌な顔を頭に思い浮かべると、思わず心輝の表情が歪む。
腕を組み、顔を僅かに俯かせ……思った事が口から滑り落ちる。
「割と趣味は合う所があると思うんだけどさ、いざって時に我が強くなる所が妙に受け入れがたいッ!!」
「シン……アンタ何言ってるんスか……」
実際、心輝とよく話す様になってからというものの……茶奈がアニメやゲームの話題に乗る事が増えてきたのは事実。
お金にも余裕があるからだろう、彼女の部屋には興味の沸いたサブカルチャーグッズがそれなりに備えてある。
そこからアイディアが浮かび、戦闘方法開拓の為のインスピレーションを得るとなれば否定する事は出来ようもないだろう。
ウンウンと唸りながら四の五を踏む心輝を前に、カプロもレンネィも思わず苦笑う。
「きっと恋人なんて無縁ッスね」……そう語っているかの様な表情を浮かべながら。
「全く仕方ないわねぇ……それならちょっと付き合いなさい」
「へ? 付き合うって何に?」
「買い物」
「えぇ~……買い物~……!?」
そう言われた途端、心輝が不満満載の顔に眉間にシワを寄せ、上目遣いでレンネィを見上げる。
そんな態度に呆れつつも、そればかりは拒否られたくなかったのだろう……レンネィは笑顔のままで彼に食い付いていく。
「まぁそう言わないの……!! 私の車で連れて行ってあげるし、なんなら帰りも送っていくわよぉ?」
「お、マジスカ……あ~でもなんかレン姐さんの運転荒々しそうだよなぁ……『死のドリフト』とかやりそう」
「あ、そうッスね、やりそうッスね」
何故カプロがドリフトなんて言葉を知っているのかはさておき、その言葉に火が付いたレンネィが「ムッ」として二人に睨みを利かせた。
「まぁ失礼ねぇ~!! こう見ても公道ではちゃんと交通ルールに準拠した美しい走りのレンネィ様と呼ばれているのよぉ」
「それ誰に呼ばれてるんッスか……」
「え、あ……走り屋仲間?」
「レン姐さぁん……」
勿論彼女は暴走している訳でもなければ、死のドリフトをしている訳でもない。
2回ほど興味本位でサーキットを走った事がある、それだけである。
「フフッ、安心なさい……これを見よッ!!」
テテーン!!
そこに翳されたるは、彼女の運転免許証。
「ようやく運転歴1年が過ぎ……つい先日初心者マークが取れました!!」
「おぉ~!!」
些細な事ではあるが、彼女にとっては喜ばしい事だったのか……ドヤ顔で自慢げに見せびらかす。
だが次の瞬間……「ハッ!?」と空気を吸い込む拍子に霞む様な声を上げ……すぐさまその免許証を懐に仕舞い込んだ。
そんな彼女を見る心輝とカプロ……二人の目は座り、「ニヤァ」と口をにやけさせてレンネィを見つめていた。
そんな二人を見たレンネィが「ガチガチ」と歯を鳴らし震えあがる……。
二人には見えてしまっていたのだ。
彼女の見せた免許証に書かれた一行……「ピピルル・リャンネ・レンネィ・アパナパッピィ」という文字が書かれている所を。
「仕方ないっすねぇ、ピピルルさんがそう言うなら付き合ってもいいっすよ」
「そうッスねぇ~ピピルルさんの誘いなら断れねぇッス」
「イヤァーーー!!! やめてぇーーーーーー!!!」
いつも冷静なレンネィがいつになく動揺し、恥ずかしさの余り飛び上がりパニックする。
そんな珍しい光景を前に……二人は満足そうに光悦な笑みを浮かべていた。
雨が降りしきる外……そこを覗き込むかの様に映る光景が見えるその場所……魔特隊本部隊員だけが使う事を許可されている屋内駐車場。
そこに一台の車……小柄な軽自動車でピンク色の外装、ちらほらと飾りのステッカーが貼られ如何にも「女の子が乗る車」を装う様相を呈していた。
勿論その車を見る事が初めてではない心輝達はそれに驚く事もなく近づき歩く。
レンネィがキーレスエントリーのロック解除ボタンを押すと、「ガチッ」という音と共に車のロックが外れランプがカチカチと点灯した。
「はい、どうぞ」
「うっす~」
レンネィが運転席側に回り込み扉を開けて車内に入る。
すると心輝が助手席の扉を開けて体をしゃがめ、車内を覗き込んだ。
「ピピルルさんおなしゃーっす!!」
「ピピルルさん、シン、行ってらっしゃいッス!! アパナパッピィさん運転気を付けて下さいッス!!」
「アンタ達、いい加減しないと殴るわよ……」
二人を乗せた車がゆっくり前進し駐車場を出ていく。
それを見送ると……カプロは名残惜しそうに二人の乗った車が去っていった方を見つめ佇んでいた。
「羨ましいッス、ボクもどっか行きたいッス」
広い様で狭い檻に閉じ込められているカプロ少年は、近い内に外に出られるようになる事を願い……その場を後に本部事務所内へと戻っていくのだった。




