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時き継幻想フララジカ 第二部 『乱界編』  作者: ひなうさ
第十七節 「厳しき現実 触れ合える心 本心大爆発」(分隊編 前編)
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~ソレゾレ ノ イマ~

 時間が経ち……昼前。


 すっかり落ち着いた事務所では、カプロによる文字を書き連ねるペンの「タッタタッ」という机を叩く音が響き渡り静かな様相を見せていた。

 外で降りしきる雨の絶やまぬ地面を叩く音が窓を通して事務所に僅かに響き、ペンの音と混じっていく。


 レンネィは読書の続き、心輝はカプロが持ってきた資料へ目を通し、ジョゾウは本当の眠りに落ち……久方振りの『何もしない時間』がゆっくりと過ぎ去っていた。


 このまま一日が何も無く過ぎる……そう思えた矢先―――


 不意に……レンネィの机に置いてあったスマートフォンが振動し、小さな音が周囲に響き渡る。

 レンネィが落ち着いた様子でスマートフォンを取ると……目にした画面に「福留さん」と文字が浮かび上がっていた。


「あら、決まったかしら」


 心輝とカプロが静かに見守る中、画面に表示された「通話」ボタンを押し側頭部にスマートフォンを充てて会話を始める。




 彼女達がここに留まる理由……それは彼女達Cチームの動向が本日決定する為であった。

 福留が先方との調整の為出っ張らっているという事もあり……連絡が着次第すぐに情報共有が出来る様その場に集まっていたという訳である。

 福留だけに働かせるのは忍びない……皆がそう思ったからこそ、全員がそこに集まっていたのだ。


 ただしカプロに関してはただの暇潰しではあるが。




「はい、そうですか……分かりました、そう伝えます。 ……はい、ご苦労様です」


 福留との会話を終え、そっとスマートフォンを降ろすと……表示された「終了」ボタンを押す。

 そしてそのまま「フゥ」と溜息を吐きながら椅子の背もたれに大きくもたれ掛かった。


「結果どうなったんすか?」


 その様子を見て心輝が問い掛けると、レンネィがそっと右手を上げ……「グー」と「パー」を交互に繰り返して見せる。


 そのジェスチャーの意味は―――




「御・破・談……先方と折り合いつかなかったんだって。 ……という訳で本日は解散~」

「ありゃ……そりゃ残念ッスね」




 国とのやり取りであるが為に、依頼主の都合、条件などが噛みあわない場合はこの様に対応が中止になる事もありえる。

 彼等の存在が貴重であるからこそ、全て向こうの望む条件に合わせる訳にはいかないのだ。

 それは決して金額のやり取りでは無く、彼等を如何に安全に任務に当たらせる状況を作るか……それに他ならない。


 とはいえ、今回が初の中止案件ではあるが。




「マジっすかぁ~……今日やる事何も思いつかねぇ~!!」


 今はやりたいゲームも見たいアニメも無いのだろう、いわゆる「間」と呼ばれる停滞期……サブカルチャー大好きの心輝にとってはこの上ない退屈な期間の真っ最中なのだ。


「それなら……上の二人に混じってくれば?」

「それは勘弁……あそこに入れる気がしねぇ~」




―――

――




 そう彼等が語るその間……事務所の真上にあるレクリエーションルーム……そこに立ち、お互いを睨み付ける二人の戦士の姿があった。


「フゥー……!!」

「ハァー……!!」


 互いに上半身の服を脱ぎ、その目に力を篭める。


 アージとマヴォ……二人の兄弟が恒例の『儀式』を行う為に対峙していた。


「容赦はせん……!!」

「生憎だが勝たせてもらうぜ……!!」


 命力を伴わない肉体だけでの対峙。




 その二人の前に立ち聳えるのは……卓球台。




 お互いがラケットを構え……そしてアージが……撃つ!!




カカンッ!!




「カァッ!!」



カカンッ!!


「フンッ!!」


カカッ!!


「ダッ!!」


カカカカカカッ!!

「フンフンフンフンフン!!」

「ズゥエァァーーーーー!!」


 あっという間に凄まじい勢いのラリーの応酬へと変わり、二人の動きがプロ顔負けの様相を見せていた。


 全てがスマッシュ並みの速度で撃ち抜かれ、それを拾い返す。

 その巨体に見合わぬ様な素早い上半身の動きと、キレのある下半身の動きがマッチし、人知を超えた卓球勝負がそこに生まれていた。




 お互いの全力を解き放ち戦う……それが彼等の戦う前に行う儀式。

 今はただその手段が卓球に置き換わった、それだけなのだ。




 彼等の足元には潰れた卓球の球が無数に転がり、激しい戦いを物語っていた。




――

―――




「全く我儘ねぇ……なら茶奈とデートでもしてきたら?」

「手を出したら勇に殺されるわ……つか、茶奈ちゃんにも殺されるわ。 今下手な事したら茶奈ちゃんにブチ殺されるわ」


 勇の出発の前から不機嫌丸出しの茶奈を見ているからこそ彼は淡々と呟く。




―――

――




 その頃、ショッピングモールがある通りに建つ1件のレストラン……「満足太郎」と書かれた看板を掲げるその店内で、茶奈と愛希達が席に着いていた。


 そこは食べ放題、飲み放題含め約2000円程度で済むリーズナブルな店だ。

 食品のクオリティは……お世辞でも高級とは言えないが、安価でありながら普通に食べる上では問題ない味を誇り、かつ焼肉から出来合いの調理品、寿司、スィーツまでを取リ扱う事から家族連れが多く……昼前にも関わらず人が既に多く入っており、半数が埋まっていた。


 店内で複数の店員が茶奈を見つめ警戒する中……山の様に積まれた出来合い料理を乗せた皿を「ドンッ」とテーブルの上に乗せる。


 愛希達が驚きの目を浮かばせ箸を止める中……焼肉には目も暮れず、ひたすら凄まじい勢いで出来合い料理をかけ込んでいった。




バクバク、ズゾゾ、カカッ、ハフハフ……




 いつもとは異なりスピード感の溢れるその食べっぷりを前に……見慣れたはずの愛希達もさすがに驚きを隠す事は出来ない様だ。


「茶奈ぁ、また勇さんと喧嘩したの?」


 途端、落ち着きの顔を取り戻した愛希がゆるりと彼女に本音をぶつける。

 どうやらこんな様子は初めてではない模様。


「あの人は……もうっ!! 知らないです!! もう!!」


 そう叫ぶ様に言い放つ彼女の側に置かれ山となっていた料理は既に消え……おもむろに彼女が立ち上がると……再び料理が置かれた場所へと歩いていった。


「あんだけ食べて太らないんだから羨ましいよぉ、私なんか最近また増えちゃったのに」

「全部胸に行ってるんでしょ……チートよ、あの子の存在そのものが」


 あながち間違いでは無いが。


「藍……ちょっとダイエットしたら?」

「えー諦めた感~……それは茶奈に言ってあげてよ~」


 彼女達にとっては日常の姿であるその光景。


 満足太郎の店員達にとって地獄と化したその時間帯……外側から見れば微笑ましい時間がこうして過ぎ去っていった。




――

―――

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