~園部心輝~
学校の敷地内にある学生食堂……そこには学生だけではなく教師も、昼食を摂る為にその場所へ訪れる。
多くの者達がごった返す中、机の一つに心輝とクラスの友人二人が座る姿がそこにあった。
「園部最近お前羽振りいいよな……」
「んご……そりゃあれよ……バイトしてっからな」
心輝は昼休みが20分ほど経過した後もまだ食事中。
彼の前には、僅かに中身が残るどんぶりが3つ並んでいた。
一人が食べるには多過ぎると思われる量……それを惜しげも無く口に運ぶ。
心輝、瀬玲、あずーもまた戦いを通して勇程では無いが報酬を受け取っていた。
勇や茶奈の報酬額と比べれば半分以下という金額……それでも飛び切りな額の報酬に心輝達3人は目を丸くしていたものだ。
だがその甲斐もあり……心輝は思い切って、いつかやろうと思っていた「学食3丼一気食い」に挑戦しているという訳だ。
「んだよ、儲かるバイトなら紹介してくれよ?」
「ダメだな……これはあれよ、俺にしか出来ない奴だからな……選ばれし勇者の俺だけに与えられた特権って奴」
「お前が勇者なわけねー……せいぜい遊び人か妄想師だろ……」
「そうだな、俺は妄想を現実にする男だ」
心輝がいつもの様に適当な事を言いふらす。
彼が口にする冗談はその信憑性すら薄れさせ、期待ではなく呆れを友人達へ呼び込んだ。
そう仕向けたのがわざとなのか、天然なのか……それは彼のみぞ知る事であろう。
どんぶりを抱え、口に具を頬張っていると……彼等の前に茶奈が姿を現した。
「んおっ、おふおふ……茶奈ちゃんどうしたのさ?」
「心輝さん、勇さん見ませんでした?」
「んん、会わなかったか? さっきあずと一緒にここ出てったぞ」
他の男子が彼女の容姿に見惚れて口を閉ざす中、心輝が茶奈と会話を交わす。
だがまたしても勇に出会えなかった彼女は思わず眉間にシワを寄せていた。
「そうなんですか……すれ違ったかな……また後で!」
「おう」
素っ気なく返事を返すと、心輝は何の意も介さず丼ぶりの残りをかけ込んでいく。
そんな彼に微笑みを浮かべて茶奈が小さく手を振ると……心輝の友人達も思わず手を振り返した。
意にも留めずその場を立ち去っていく茶奈……彼女が駆けていく事で柔らかい髪が流れる様に波を描く。
そんな姿が魅力的で……二人は彼女の姿を追う様にじっと見つめ続けていた。
「あんな子いたっけ……めっちゃ可愛かった……」
「なんつーの、大和撫子とか絶対フレーズが似合う子だったよな」
ニヤニヤとにやけながら二人が茶奈の噂をしている中、最後のどんぶりをかけ込んだ心輝が「ドン」と音を立てて食器を降ろす。
そしてどんぶりを持っていた指から人差し指だけがピョンと伸び……覗いていた顔がゆるりと持ち上がり、声を小さく唸らせた。
「あの子は既に別の男の予約済みだ……手を出すと……色々死ぬぜ?」
「死ぬのかよ! つか別の男ってどう考えても勇だろ!? あの鈍感の!?」
「くぁー!! 俺も彼女欲しいぃ!!」
男達の空しい叫びが一角に聞こえるが、食堂の賑わいがそれすらも掻き消したのだった。