~ウシロ ミルコトナカレ~
いつもの様な笑みを浮かべ、そう自分の中で纏めると……福留は部屋の外から彼等を労う。
「皆さん、短い聴講でしたがご苦労様でした。 ああ言っておられますが、皆さんの活躍を期待してのお言葉ですのでどうか勘違いしないようにお願い致しますねぇ」
そう答え「ウンウン」と頷き、手を二振りほど振って彼等に挨拶すると……福留はその場を後にした。
そんな様子を見た勇達も、その場を支配し張り詰めた空気が一気に吹き抜けるかの様に澄んだ空気へと変わり、その表情を緩ませていった。
「アレがこの国の支配者ッスかぁ~面倒臭そうな人ッスねぇ~うぴぴ」
戦闘員でない事が他人事とさせるのだろう……カプロはそんな中、ニヤニヤと珍妙な笑顔を浮かべて憎まれ口を叩く。
その事は誰しも分かっているのだろう、それに釣られて心輝が口を開いた。
「だ・よ・なぁ~……あの人だけはどうにも好きになれねぇよぉ」
「全くだ」
珍しくアージも心輝に同意し首を縦に振る。
「心輝達はまだ同じ世界の人間のしがらみがあるかもしんねぇけどよ、俺達は別にあんな奴に義理立てする理由もねぇんだ……あんな事言われて大人しく従うつもりはねぇな」
マヴォが口を「へ」の形にして言葉を連ねる。
彼等魔者側もまた彼女の言葉には納得出来る筈はないだろう。
それは彼が言った通りの意味だからこそ。
「けれどこの国を拠点にしている以上、その『しがらみ』に多少なりに恩恵を受けている事は忘れてはダメよ?」
「わかっている……だが物言いこそ限度もあろう。 互いが利用しあう仲で在りたいのであれば……指導者ならばなおさらよ」
「あの者、真意こそ測れずとも拙僧等を良しとは思うておらぬ節を感じような」
カプロの言葉を皮切りに『あちら側』の者達の不満が噴出する。
勿論勇達もまた彼等の言葉には同意であったが―――
「皆、待ってほしい」
そう、口を挟んだのは勇だった。
「確かにあの人の言い分は押し付けにも聞こえて気持ちのいいもんじゃない……けどそれはあの人の本心ではあっても俺達の行動理念じゃあない。 皆は俺達がやらなきゃいけない事を理解しているハズだろ……なら、あんな言葉そのものに耳を貸す必要なんてないんじゃないか?」
そんな勇の言葉に一同が静かに聞き耳を立てる。
「例え結果がどうなってもさ、 あの人の言葉が俺達のやる事に対して何の意味も成さないなら、俺達のやる事は何も変わらないんだ……それでいいんじゃないかなって俺は思う」
無責任であろうとする事……それは決して彼等が責任を放棄するつもりである訳ではない。
ただ、彼等にとって「やらなければならない事」は決して個人の感情に左右されるものではない……それを誰もがわかっているからこそ……彼等は一同に頭を縦に一傾させた。
「それじゃあさ……ラクアンツェさんに教えてもらった事を生かす為にどうするべきか、話し合わないかい?」
「さんせー!!」
「そうね、その方が生産的だし」
そうして、彼等の自己研鑽が再び始まり……場が纏まる。
様々な人々の思惑が交錯するものの、彼等の想いは最早不変にも近い程に固まりつつあった。
そんな『いつか来るべき平和』の為に向けた彼等の『戦い』はまだ、始まったばかりだと言えるだろう。
手探りとも言えるたった今を彼等は迷う事無く進み続ける。




