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時き継幻想フララジカ 第二部 『乱界編』  作者: ひなうさ
第十六節 「銀乙女強襲 世界の真実 長き道に惚けて」
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~焦燥感、そしてぶつかり合う意思~

 ラクアンツェ襲来から1週間少しが過ぎ……土曜日。


 彼女が作った壁の穴の修復、勇の光壁によって(えぐ)られたグラウンドの修繕、壁の破片の撤去が完了した。


 とはいえ、それを行ったのはもっぱら事件を起こした張本人達ではあるが。




ガラガラ……




「……この世界は……不便ねぇ~……」

「仕方ないですよ、そもそもなんで壊したりしたんですか……飛び越せばよかったじゃないですか……」


 勇が、ラクアンツェが……工事用具を片付ける為に奔走する。

 その顔や衣服は既にドロドロ……ラクアンツェに至ってはセメントが体の魔剣にこびりつき、眉を細めた不快な表情を浮かべていた。


「何を言うのぉ……登場がセンセーショナルな方が様が付くじゃない?」




―――あ、やっぱりこの人、剣聖さんと同類だ……―――




 そう思いつつも口を出さないでいたが―――




ギュム。




「いって!!」


 不意に腕をつねられ痛みが襲う。


「今、剣聖と同じだと思ったでしょ?」

「え、お、思ってないですよ!?」


 妙に勘繰る力が強い点は剣聖以上かもしれない……勇はそうも(・・・)思った。




 高く作られた壁もタダではない。

 彼等の秘密を守る為に作られたその壁は特殊な構造を様している為……修繕費は当然高くつく。

 さすがに出来立ての施設がいきなり大幅修理が必要になりましたー……など箔が付いては今後の活動にも支障が出かねない訳で。


 結局、壊した張本人が直す様にという事になり……仲間達の協力は得たものの、こうして勇とラクアンツェが修繕に奔走しているという訳である。




 もっとも……台車を押す勇……そしてその上に正座で座るラクアンツェ。

 どう見ても彼女が働いてる様には見えはしないが。


「その魔剣、結構重イッて!!!」




再びギュム。




「心輝君達と違って……君はちょっと思いやりに欠けるんじゃないかしらねぇ~」


 そういえばと少し前に福留にも同じ様な事を言われたのを思い起こす。

 勇としては気付く点は無いのだが……二人の年長者に言われてしまえばさすがに再考せねばと心に思う。


「大事よぉ~、こういう心意気は」

「ウッス、精進します……」


 なんだか部活動のノリを思い出す……そんな気分に見舞われている勇であった。






 勇が駆けずり回っている傍ら……既に修繕が終わっているグラウンドの円周で、数人の走る姿が見受けられた。

 その外側ではメガホンを片手に叫ぶアージの姿……絶賛スパルタ中である。


「ハァッ、ハァッ……納得いかねぇ~!! なんでこんな……俺もラクアンツェさんとイチャつきてぇー!!」

「バカッ!! ハァッ、ハァッ……余計な話をしてると……!!」

「何を話しているかぁー!! もう一周追加するぞォー!!」

「ギャワーーーーー!!!!!!!」


 あずーの不運な事か……遊びに来たつもりが巻き込まれて今に至る。

 もっとも当然の結果ではあるが……当人は予想していなかっただけに、泣き喚きながらも走る事は避けられず。


 次々とノルマが加算されていく……そんな中、ジョゾウがアージの背後を通り、しれっと歩き去ろうとしていた。

 だがアージがそれを逃す訳は無い。


「ヌウ、ジョゾウ……早く貴公も走るのだ」

「ムゥ!! 断る!!」

「な、なにィ……!?」


 突然の拒否にアージが驚き歯軋りを上げた。


「キサマ、其れではいつまで経っても強くなれぬぞ!?」

「拙僧、走る事は苦手故……」


 鳥型(ゆえ)に。

 どちらかと言えば、二足歩行に適した鳥型なのだが。


「えぇい、御託をぬかすかぁ!?」


 言い訳を連ねるジョゾウに、アージもお冠だ。

 だが、激昂する彼を前に……ジョゾウは相変わらずの丸い目を見せる落ち着いた様相を浮かべていた。


「なればこうしよう、拙僧は走るので、アージ殿は飛ぶ練習をすればよかろうな?」


 ジョゾウの無茶な提案を真面目なアージが耳にするや……彼の脳裏には、空を飛ぶ練習をする為に両手をばたつかせる自身の間抜けな姿が思い浮かぶ。

 そんな姿を想像するや……恥ずかしさの余り、アージの顔には白毛に合い混じった桃色の顔色が浮き出ていた。


「ウ……ヌゥ……なればよし……」

「左様か、では御免!!」


 免除されたと認識すると……遠慮する事も無く、ジョゾウはバサバサと羽ばたき空へと飛び去って行ったのだった。


「ジョゾウさん逃げたなぁ……きったねぇー!!」

「それよか兄者が折れたのがウケるわ……俺も使おうかなアレ……イッヒッヒ」




ガッ!!




 その瞬間、走るマヴォの頭上で「ミシリ」と鳴り、軋む痛みが襲う。


「俺は折れたのではない……寛大なだけだッ!!」

「ギニャァーーーーー!!!」


 アージいつの間にか並走していたのだ。


 心輝と瀬玲とあずーがビビり脅える中、マヴォの頭がギリギリと締め付けられ悲鳴が高々と上がった。

 無情の叫びは……青空に吸われて消えゆくのみ。






 マヴォがリタイアし、心輝達とアンディ、ナターシャが走り終え、グラウンドの端で息を切らせながら皆が座り込んでいた。

 肩を揺らせながら呼吸するその姿は既に限界まで走り込んでいる事を物語る。


「ゼェ……ゼェ……もーだめだ……もー走れね……」

「だらしない奴らだ……勇殿はもっと行けるぞ?」

「勇と一緒にしないで……下さい……ハァッ、ハァッ……」

「アチシもうだめぇ……」

「だらし……ねぇなぁ……ハァハァ……オイラ達の方がもっと走れるぜ」

「だよねー……」


 だがふと、アージが気付く。


「ヌ……そういえば茶奈殿は……」

「あ……」




彼女はまだ、グラウンドを走っていた。


勇ましく、優雅に、力強く……ではなく、今にも死にそうな顔をして。


「ブフッ……ウゥ……ゼェーーヒュー……ゼェ―ーヒュー……」

「あー……あそこにいたわ」


 負けず嫌いな所があるのだろうか……最初に課せられたノルマをこなす為に一歩一歩踏みしめてはいるが……何分遅い。

 彼女が食べるのが遅い様に……一歩一歩が、遅いのだ。


 徐々にその姿が近づき大きくなってくると、心輝達の側を通り……泣き出しそうな顔つきで訴える様にチラ見しながら……通過していく。


「ちゃ、茶奈殿はもういい……それくらいにしておこう」


 鬼のアージも彼女の情けないまでの姿を見て虚しくなったのだろう……そう引き留めると、途端に茶奈はその場に膝を突き……うずくまる様に倒れこんでしまった。


 大型爆弾を持つハムスターは……滑車を回す事もままなら無い様だ。


「はぁ~……魔剣さえ使えりゃこんな周回なんざ余裕なんだけどなぁ~……」

「ほんとほんと……あたしのエスカルオールちゃんならぶっ飛びトップでいけるわぁ」

「ヌゥ……それでは修練に成らぬではないか……あの時の勇殿の強さを見て今でもそう思えるお前達の心持ちの方が心配だぞ!!」


 アンディとナターシャを相手にした勇の気迫と技術を前にして以来、アージはいつも以上に気合いを入れて練習する事が増えた。

 それはもう心輝達がうっとおしいと思うくらいに強くなる事に拘ったアージは、勇から強さの秘密を聞くや実践へと移し始めている……という訳だ。


「だからって一朝一夕で習得出来る訳じゃねーっすよぉ……順序良くいかなきゃあ……」

「そんな事を言って世界が分断してからでは遅いのだぞ!?」

「分断したら俺達関係なくなっちゃいますよォ~」

「ヌウ!! キサマ、その程度の考えで……!!」


 その一言を前に、アージが怒りを隠せない。

 だが今回ばかりは……心輝も妙に突っかかる。


 なにせ、アージが空回りしている様に見えるからだ。


 焦りが無い訳では無かった。

 ただ、見えぬ未来の形など解る筈も無いから……心輝は確実に身になる為の行動をしようと考えているのだ。

 それは彼なりの導き出した答え。


「焦ったって、なるようにしかならねーっすよアージさん……今はやれるだけの事をやるべきじゃあねーっすか」

「だがな心輝、そうしてのらりくらりと過ごしていれば、お前の実力では敵わぬ相手が現れた時……貴様は後悔するぞ!!」


 お互いが火花を散らす様に睨みあい、持論を飛ばしあう。

 周囲の視線を集める中……その言い合いは更に激化していった。


「そうかもしれねーっすけど、だからこうやって毎日進んでやってきてるんすよ……ただガムシャラよりも……やれる事をちゃんと見据えてやった方がいいと思いますよ?」

「やる事は決まっている!! ただ、それを実践すればいいというだけなのに何故そこで改めて見据える必要が有るというのだ!?」


 ヒートアップし、水掛け論にもなりそうな勢い……制止しようにも聞きそうにない。


 そんな時……本部の方から一人歩く姿が……福留である。


「おやおやお二人共喧嘩はいけませんよぉ? 仲良くやりましょう」

「いや、決してそういう訳では無くてだな……」

「魔剣使いなら、魔剣を有効利用出来る解決方法がいいっすよぉ絶対」


 煽る様に心輝が口を挟むと……アージも心輝を睨み付け、「なぁにぃ!?」と声を漏らす。

 留まる事を知らない状況に、福留は仲裁する体で二人の間に入り笑顔を向けた。


 だがそんな笑顔はどこか、したり顔で―――


「まぁまぁ……確かに最近暗い話題ばかりでみなさんのストレスも溜まってるようですし……ここは一つ、ちょっとしたイベントでも如何でしょうかねぇ」

「イベント……?」

「えぇ、折角ですから勝敗が決せられて、かつ危なくない勝負を。 そしてお互いの強みが発揮できる……ね?」


 福留がそんな事を思わせる表情を浮かべる時は、何かしらよからぬ事(・・・・・)を思い浮かべた時だ。




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