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時き継幻想フララジカ 第二部 『乱界編』  作者: ひなうさ
第十六節 「銀乙女強襲 世界の真実 長き道に惚けて」
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~銀乙女強襲~

「あ、あいつは……!?」


 全員に緊張が走る。


 圧倒的な存在感、昂る命力を体に込めてゆっくりとグラウンドを横断するその者。


 命力の波動に髪を揺らし、光がまばらに反射して金色のソレを目立たせる女の姿。


「あ、あの人は……」


 心輝と瀬玲とジョゾウが唸る。




 彼女はかつて一年前、3人の前にふらりと現れ窮地を救ってくれた。

 彼等と面識を持つ彼女こそ……ラクアンツェその女性(ひと)だったのだ。




「あら、お久しぶりな面々もあるようねぇ」

「お、お姉様なんでこんなトコに!?」


 堪らず心輝が慌てふためき……瀬玲と共に彼女に近づく。


「あの時はすげぇ助かったッスよぉ~」

「あ、あの時は有難う御座いました……でも、これは一体……?」

「あぁこれねぇ~……」


 その瞬間、ラクアンツェの命力が強く波を打ち―――




コォンッ!!




 甲高い衝撃音が鳴り響いた。




 同時に、心輝と瀬玲の体が勢いよく宙を舞う。

 その凄まじい衝撃は空気の層を貫き……衝撃波を伴って二人を遥か後方、勇達の頭上を飛び越えた先へと追いやった。


「あ……シン……セリ……?」


 宙を舞う心輝と瀬玲の体が重力に引かれ、グラウンドへと落下し力無く転がっていく。

 微動だにする事無くその場に倒れこむ二人の姿を目にした途端……勇の震える瞼が徐々に下がり、その表情に怒りを灯した。


「キサマァ!! 何が目的だあ!!」

「カァーーーーーー!!」


 間髪入れず飛び掛かるアージとマヴォ、その両手には各々の魔剣がしっかりと握られていた。




だが―――




「素直ねぇ~……」




パパァン!!




 リズミカルな音が鳴り響くと、途端彼女の前で二人の巨体がくるりと宙を回る。

 まるで綿毛を扱う様に……その細い腕をしなやかに動かしただけで。


「ごあっ!?」


 声とも言えぬ鈍い音が二人の口から洩れた。




コォォォン!!




 そしてまたしても響く甲高い衝撃音。




 アージとマヴォもまた、心輝と瀬玲同様に左右へと弾き飛ばされていった。

 先の二人とは比に成らない程の巨体を持つ白の兄弟が、である。


「アージさん、マヴォさん!? クソォ!!」

「なんたる……強さよ!?」

「あ……あの方は……」


 圧倒的な強さを前に、ジョゾウは前に出る事が出来ず。

 レンネィは震え、それ以上の声すらも上げられずその場に立ち尽くす。

 アンディとナターシャに至っては、目の前の強大無比な命力を前にただ脅え震えるのみ。


 茶奈もそっとクゥファーライデを構えるが……先程の「不確定要素」という言葉が脳裏に響き、力を込める事が出来ないでいた。


「貴様ァ……何が目的だッ!!」


 勇がそんな彼等の前に立ち、ラクアンツェに向けて怒号を上げると……彼女がそっと口を開く。


「貴方達を試しに来たのよ……こんな所で終わる様であれば、『世界の(ことわり)』を前に抗う事など出来る訳も無いものね」

「何ッ!?」


 途端、「ニタァ」と彼女の唇が妖しい笑みを浮かべた。

 鋭角な口角は人が作るにしては異様なまでに……(いびつ)


 その表情を見た勇は「ゾッ」とする。




―――あの顔、あの笑い顔……見た事が有る―――




―――そんな顔をする人間は!!―――




パシィンッ!!




 勇の手に握られていた翠星剣に大きな命力珠が嵌め込まれる。

 そしてその紋様に強力なまでの光が伝わると……彼女を睨み付けた。


「お前を……生かして帰す訳にはいかない……!! 今すぐ、殺す!!」


 勇が命力を昂らせ、翠星剣の力を解放する。

 瞬く間に剣に伝わる命力が眩い輝きを放ち、激しく噴き出す光の刀身を形成したのだった。




キィィィィィンッ!!




 お互いの強力な命力が迸り、それによって無作為に押し出された空気が周囲に波の様な流れを形成していく。

 次第にその波は風と成り、二人の間に突風を生み出していた。


「み、皆さん……離れましょう!!」


 茶奈がジョゾウやレンネィ達の身を案じ、手を差し出して彼等の体を後ろに引く。




―――この場所は……巻き込まれてしまう!!―――




ゴゴゴゴ……!!




 命力の波動がお互いを押しあい、地面と空気を揺らす。

 もはや臨戦態勢と言える状態の二人を前に……茶奈達はそこから生まれるジリジリとした感覚をも気付けない程に、膝を突いてただただ身構えるのみ。


「フフ……貴方に、それが出来るかしら……」

「やってやるさ……悲劇はもう……沢山だッ!!」


 勇が猛り、剣を両手で掴む。

 激しい光を伴った刀身はそのまま捻られた体ごと、背後に回す様に斜に構えられた。


 己のありったけの力を魔剣に込めて、勇が咆える。




「オオオォォォォーーーーーーッ!!」




 直視する事も出来ない程の強烈な光を放つ翠星剣の刀身が、大地をなぞる様に一筋の軌跡を作り大きく振り込まれた。




 その時……命力が破壊力へと変わり、大地を貫いて光が無数に噴き出し―――




「こ……れがッ!?」




―――ラクアンツェ目掛けて光の壁を形成していく。




 まるで彼女に向けて放たれたその『敵意』をなぞるかの様に……大地を裂き、天を突く程の高く吹き上がる光の柱が彼女へと一直線に向かっていった。




ギィィィィィィィィンッ!!!




 大地の割れる音が掻き消される程に強烈な命力の波動音が周囲に鳴り響く。

 そして遂に……巨大な光の壁と成ったその一撃がラクアンツェへと激しく見舞われたのだった。




 これこそが勇の持つ最高最大の技……【片翼の光壁(ライジングウォール)】。


 翠星剣に取り付けられる最大級の命力珠に篭められた力を全て解き放って撃ち放たれる最高峰の一撃である。

 この一撃の前には……並みの魔剣使い(・・・・・・・)であれば魔剣ごと真っ二つにされる事は避けられない。




ギュィィィィィィィンッ!!




 だがその時、奇妙な音が交わる様に耳を突いた。




 光の壁が彼女を斬り裂いた……と思った途端の出来事である。




シュィィィン……ッ!!




「なッ……!?」




 誰しもが、その眼を疑う他無かった。


 細い腕をクロスさせ、体全体で受け止める様に光の壁の噴出を防ぐ女性の姿が映っていたのだ。


 光の噴出が彼女の体を沿うように弾かれ四散していく。

 その顔は依然……笑顔のまま勇を睨み付け―――




 激しい力の噴出が、彼女を覆う衣服を弾き飛ばし粉々に切り裂く。




 そして、翠星剣の力が徐々に弱まり、光の壁が徐々に大気に消えていくと……太陽の光に照らされた彼女の、堂々とした裸体がありありと勇達の前に晒されたのだった。




「そ、そんな……あれは……ッ!!?」




 その姿……露出していた一部の肌を除き、体のほぼ半割(はんわり)が銀色。

 甲冑ともスーツとも言い難いその姿……それは異質そのもの。


 金の髪を靡かせた銀の体の女は不敵な笑みを浮かべたままその場に再び立ち上がった。


 さも、何事も無かったかの様に。


「ウゥ……ッ!?」


 自慢の【片翼の光壁】を破られ、勇が堪らず怯む。

 妖しげな笑みを浮かべたまま徐々に近づいてくる「敵」に対し、再び剣を構えるが……切っ先が触れてしまう程に近づいた彼女を前にして、攻撃を行う事が出来ないでいた。


「フフ……さぁ、どうする?」

「くっ……!!」


 圧倒的な存在を前に……勇の体はずしりとした重みを感じてしまっていた。

 それは命力が残り少ないという証拠……必殺の一撃は彼の力の殆どを消耗してしまう。


 だがその意思だけは失われていなかった。


「俺は……諦めない……もう……二度と……!!」


 勇は「ギリリ」と歯を食いしばり、彼女の前から退こうとはしない。


 立ち止まる事で失うものが多過ぎるから……何度も、失ってきたから……。


 だから諦めない。


 最後まで、諦めない。




 その瞬間―――




パゥォーーーーーーンッ!!




「ぷおっ!?」




 鳴り響く衝撃音……いや、炸裂音と言った方が正しいだろうか。




 ラクアンツェの両掌が勇の両頬へと叩きこまれ……唇を「むいっ」と突き出されていた。


「はい、合格っ」

「ふぇ!?」


 そう言い放つと両手に掴んだ勇の顔を押し出す。

 その勢いで勇の体が後ろによろけるが……ふらふらとしつつも、その足を地に突いて体勢を整えた。

 何が起きたのか……勇はただ茫然と立ち尽くすが、目の前の相手を再び視界に映した途端「ハッ」として気付く。


 彼女の顔はいつの間にやら……当初の細い目と微笑みを浮かべた澄まし顔に戻っていたのだ。


「さぁさ、行くわよぉ~……寝ている子達を起こして早く移動なさい?」


 ラクアンツェは「パンパン」と手拍子をしながら勇の横を過ぎ去って歩いていく。

 状況が全く理解出来ず……周りの誰しもが唖然とその後ろ姿を目で追う。


 機嫌が良いのだろうか、そんな彼女からは鼻歌の様な声が聞こえてきていた。


 一枚の布すら被らず堂々とその裸体を晒しグラマラスに歩くその姿は……色んな意味で異様以外の何物でもなかったのは言うまでもないだろう。




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