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時き継幻想フララジカ 第二部 『乱界編』  作者: ひなうさ
第十六節 「銀乙女強襲 世界の真実 長き道に惚けて」
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~剣と金の会合~

 都内中央部にある大きな病院……そのとある隔離された一角で、一人の大男がベッドに横たわり静かに本を読んでいる。

 微かな風に揺られ、開いた窓から晒された白のレースのカーテンが(なび)き、さらさらと音を立てて舞い踊っていた。


 白に囲まれた風景……それは優しくも……男にとってはただの退屈な空間。




 そんな場所に、彼にとって聞き覚えのある声が(ささや)く様に聞こえてきた。




「……随分と大人しくなったものね」


 その声を聞くや……男が不意に「パタン」と本を閉じて顔を上げる。


「……ラクアンツェか……随分久しいじゃあねェか」


 部屋の入口にいつの間にか一人の女性が立っていた。


 ドアの淵に背を当てて立つその女性……跳ね毛一つ無い艶やかでありながらふわりと柔らかい質感の金色の長髪が、露出度の高い衣服から覗く白い肌と相まって煌びやかに魅せる。

 微かに吹き込み流れる風に煽られ髪を靡かせながら……男を細い瞳で見つめていた。


「貴方がいつまでもそうだから……心配して来てみたけれど……存外平気そうね……」

「おうよ……っつうかおめぇ……俺の怪我知ってやがったのかぁよォ……」

「フフッ、どうかしらねぇ~……」


 知ってか知らずか、曖昧な答えではぐらかすが……まるでそれが判っていたかの様に男が返す。


「チッ……相変わらずおめぇは何も変わりゃしねぇ……めんどくせぇ奴だぜ」

「それは貴方にだけは言われたくないと思うけれど」


 お互いが憎まれ口を叩きあうも……その顔はどこか嬉しそうで。


「……おうラクアンツェ、折角だぁちょい頼みがある」

「何かしら?」

「どうせ知ってるだろうから単刀直入に言うが……面倒見て貰いてぇ奴らが居る」

「そう……彼等ね」


 ラクアンツェと呼ばれた女性が察している節を見せると、男は笑窪を高く上げて白い奥歯を晒す。


「あぁ、そうだぁよ。 あいつら今のままじゃ危なっかしくて見てらんねぇ」

「……フフ、いいわ……でもね剣聖……私は貴方の様に優しく(・・・)は無いのよ」


 ラクアンツェはそう呟くと、妖しく微笑んだ。

 そんな顔など見慣れているかの様に……男は視線をやる事も無く。


「そうさな……まぁあいつ等はちったぁ厳しくしてやった方が伸びるのさ……俺ァ加減が出来ねぇし、今はこのザマだからなぁ~」

「分かったわ……でも、彼等が見込みがないと判断した場合は―――」


 そう言い掛けた時、不意に彼女の背後……廊下の先から声が響き渡った。


「リハビリの時間ですよ~」


 部屋の外から若い女性の声が聞こえてくる。

 そして入口から姿を現したのは彼専属の看護婦だ。


「おぉ、もうそんな時間かよ……しっかし、もう平気だからよォ~時間ぐらい自由にさせろや」

「そうもいきませんよ~無理してまた倒れたら怒られてしまいますぅ~」


 そうゆるりとした口調で話されると、男の顔がしかめっ面になる。

 どうやら彼女には頭が上がらないようで。


「ところで……今誰かとお話してましたか~?」

「いんやぁ、知らねぇなぁ(・・・・・・)

「そうですかぁ、それじゃあ行きましょうか~」


 そう言われると、彼女が持ってきた大きな車いすをベッドの傍に付ける。

 すると男は自力で車いすに乗り込み……看護婦を残したまま、車輪を自力で回し部屋から出て行った。

 その顔は面倒臭そうにしかめっ面のままで。




―――まぁ、アイツラならちょっとやそっとじゃヘコたれねぇだろう

                           ……やり過ぎなきゃなぁ―――




 この男……剣聖。


 『あちら側』の人間にして最強の魔剣使い「三剣魔」の一人として名高き者。

 勇と茶奈を導き、彼等の成長に大きく貢献したもう一人の師である。


 1年前のカラクラの里での戦いの折に不覚を取り、心臓に致死的なダメージを受けるも持ち前の命力と茶奈の助けにより万が一に命を取り留める事に成功した。

 今もなお不安定な部分が残るも、体の調子を戻す為に今もなお不機嫌になりながらリハビリを続けている訳である。


「剣聖さぁん、無茶しないでくださー……」


 彼の乗った車いすが埃を高く巻き上げる程の猛スピードで駆けていき、あっという間に彼女の声が届かなくなっていった。

 リハビリ施設へと直行する為に誰も居ない廊下を突き進み、思うままに行く。




 彼が復帰する日も……恐らくはそう遠くないだろう。




 剣聖が居た部屋のカーテンがひらり靡くと……その勢いに揺られて一筋の透き通った髪がふわりと舞い踊っていた。


 ラクアンツェ……彼女の行く末を知る者は剣聖のみ。


 果たしてその意図は―――




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