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時き継幻想フララジカ 第二部 『乱界編』  作者: ひなうさ
第二十六節 「白日の下へ 信念と現実 黒き爪痕は深く遠く」
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~そっと今ささやくよ~

 突如として勇が復活を果たした。

 しかもデュゼローを圧倒する程の力を発現させて。


―――何なんだろうな、この力は―――


 ただ、勇自身もこの力の事は何もわからない。

 心の内からとめどなく溢れ、思うがままに解き放っているだけで。


 それでも何だか暖かくて。

 信じられる力だと思えるから、迷わず奮う。


 そんな心は妙に落ち着いていて。

 あの非情さを見せつけたデュゼローを前にしても、何故か怒り一つ湧き上がらない。


 むしろ今浮かんでいるのは―――哀悼だ。


 亜月を弄んだデュゼローへの哀れみである。

 〝どうしてここまでする必要があったのだろうか〟という疑念を携えての。


 けれど、その疑念はきっと晴れないのだろう。

 デュゼローが殺意を向けて立っている以上は。

 これ程の胆力を持つ男が今更手を引くなど、到底有り得ないのだから。


 だからこそ今、勇は迷いを断ち切って輝光を奮う事を選んだ。

 憎悪の根源を断つ為に、その哀れみさえも力に換えて。


「―――貴様は一体、何なのだ……ッ!?」


「俺にもわからないさ。 でも、何でもいい。 お前を止められるなら、何だって構わない……!」


「ちィ!!」


 その時、デュゼローがまた新しい魔剣を取り出し、殺意の二刀を見せつける。

 二刃一対を象った、刃を連ねた構えだ。

 力を見せつけられてもなお徹底応戦を貫くつもりなのだろう。


 勇もまたそんなデュゼローに対し、輝光剣の切っ先を真っ直ぐ向けて叛意で示す。

 ここまで持ち込まれた憎悪を全てを穿ち、断ち切るという意思を籠めて。

 その意思を灯す眼には、もはや一点の曇り無し。


 たちまち二人の間にまたしても緊張の静寂が。


 先程までの怯みながらの攻防とは訳が違う。

 今度は共に覚悟を向け合って挑んでいるからだ。

 ならば例え力の差があろうとも関係無し、激戦は必至である。

 どちらにしろ、直撃を貰えば一撃で死ぬ事には変わり無いのだから。




 しかしてその束の間―――




「な……ッ!?」


 またしても驚きがデュゼローを襲う事となる。

 なんと、勇が緊張の中にも拘らず近寄り始めていたのだ。

 それも剣を鋭く振り下ろして堂々と。


「もうこれ以上お前の策謀に躍らされる訳にはいかない。 だから終わらせる。 あずの様な犠牲者をこれ以上出さない為に……ッ!!」


 そう、勇はデュゼローの思惑に付き合うつもりなどもう一切無い。

 こうして隙を晒してでも勝てるという〝確信〟を感じているからこそ。


 例えかりそめの力だろうと。

 例えまやかしの力だろうと。

 この力を与えられた今だからこそ思う。


 〝デュゼローを止めろ〟と運命が導いてくれているのだと。


 だからこそ今、再び勇が駆け抜ける。

 雷鳴の如き激音を響かせ、雷光の如き速度で敵へと向けて。


 それも、先程よりもずっと鋭く力強く。

 まるで勇そのものが光となったかの様に。


「くぅおおッ!?」


 その際限なく上がる力を前に、あのデュゼローでさえ反応するのがやっとで。

 振り切られた横薙ぎ一閃を跳ねて躱し、その足はたちまち天井へ。

 魔剣の切っ先や外套の一部が焼き切られようと気にも留めず。


 でも見下ろした時、既に勇の姿は視界から消えていた。


 当然だ。

 勇は既にデュゼローの背後に迫っていたのだから。


 間も無く今度は天井が炸裂する事となる。

 勇の渾身の斬撃によって。


ギュオオッッ!!!


 またしても一刀溶断である。

 天井に続く硝子窓の一部さえも焼き飛ばす程の。

 しかも、空への空孔がぱっくりと開く程に広く深く。


 その様な一撃を前にすれば、デュゼローとて避け飛ぶ事しか出来ない。

 反撃さえも叶わないのだ。


 しかしそんな相手だろうと、もう勇は一切加減をするつもりは無い。

 その瞬間、展望台の空間内にまたしても雷光が突き抜ける。

 天井を、壁を、床を、瞬時にして跳ね進みながら。


 もはやこの広い展望台でさえ、勇の超速度を前にすれば狭い箱と同義だ。

 何せデュゼローが床に着くよりも先に回り込めるだけ速いのだから。


「なんだとおッ!?」


 それも斬撃で迎える程に。




キュィィィィーーーーーーンッ!!




 この鳴音はすなわち、斬裂が空気を擦って生じさせた摩擦音である。

 その圧倒的圧力が、形の無い気体ですら金属の様に削り取る事さえ可能とする。


 余りの鋭さ故に、大気が裂ける。

 余りの圧力故に、空間が削れる。

 躱そうとも体勢維持が出来ない程の気圧変動を伴って。


「かああッ!!」


 それでもデュゼローは凌ぎ、反撃を見舞っていた。

 光の剣を紙一重で躱し、落ち行く勢いのままに剣を振り下ろしていたのだ。


ガキィンッ!!


 ただその様な斬撃はもはや児戯に等しい。

 腰の入っていない、落下のままの斬撃など。


 脆弱だ。

 勇が左拳で刀身を弾ける程に。


 これだけの速さを体現出来る今、動体視力すら常軌を逸している。

 この程度の斬撃など、止まってさえ見えよう。

 ならばこうして剣の腹を叩いて退けるなど造作も無い。


 更には、反撃さえも可能とするだろう。


 迫るデュゼローに対して繰り出したのは―――なんと頭突き。

 それも叩き付ける程に振り被って打ち放った強烈な一撃である。


ガゴンンッッ!!


 それがデュゼローの額へと打ち当たり、瞬時にして跳ね飛んで行く。

 身体能力に見合った一撃だっただけに、床に跳ね転がる程の勢いを伴って。


 でも勇は止まらない。

 もう一切の躊躇もするつもりは無いから。

 盛大に跳ね飛ぶ敵へと向け、その足を踏みしめるだけだ。

 

 デュゼローも怯まない。

 如何に強烈な一撃を貰おうとも、自慢の胆力で。

 迫る勇を迎え撃たんと、二本の魔剣を巧みに突いて態勢を整える。


 その間も無く、二人が再びその目を合わせる。

 共に剣を振り上げながら。


 その中で先に振り降ろしたのは―――なんとデュゼロー。

 己の誇る身体技術を駆使して勇の先手を取ったのだ。

 上半身全てを捻り、押し出す様に振り抜いた事によって。


「例え力があろうともォォォーーーッ!!」


 狙うは勇の首。

 もはやその斬撃に一切の躊躇いは無い。




 だがその覚悟も、経験も、技術でさえ、今の勇は全てを凌駕する。




 この時、デュゼローの魔剣が輝く。

 でも決して剣そのものが輝いているのではない。

 剣の先が、輝いているのだ。


 なんと勇が迫る刃と合わせる様に輝光剣を振り込んでいたのである。


 ならばその結果はもう言わずと知れた事。

 たちまち魔剣の刀身が蒸発し、柄と腕だけが振り切られる事となる。


 そう、完全蒸発だ。

 刀身全てがこの場から瞬時に消し飛んだという事だ。

 つまり打ち合う事さえ出来ない。

 させてくれない。


 触れただけで即、消滅。


「うおおッ!? 馬鹿なあッ!?」


 この事実を目の当たりにしたからこそ、デュゼローが再び驚愕する。

 互いが擦れ違う中、柄だけとなった魔剣を前に。


ガゴォッ!!


 ただ、魔剣に向けられていた意識も間も無くブレる事になるが。

 勇の後ろ回し蹴りが腹側部へと打ち込まれた事によって。


「ガハッ!?」


 そしてまたしてもデュゼローの体が床へと転がり行く。

 それでもなお諦める事無く、懐から新しい得物を手に。

 魔剣だったモノを投げ捨てて。


「だが負けん……負ける訳にはいかんのだあッ!!」


 デュゼローに諦めの二文字は無い。

 例えどれだけ打ちのめされようとも。


 どちらかが死ぬまで―――どちらも止まるつもりは、無い。






 二人の激しい攻防の中、千野とモッチはただただカメラを回し続ける。

 微動だにする事も無く、ただ静かに同じ光景を。

 追うよりも、動くよりも、その方がずっと効率的で、安全だと思ったから。


 もう二人は声すら出せはしない。

 巻き込まれる事を恐れての悲鳴さえも。

 ただ攻防を繰り広げる二人を信じ、この場に居続けるしかないのだ。


 そう思える程に、全ての攻撃が千野とモッチを避けていたのだから。


 故に今はただ撮り続けるのみ。

 この人知を超えた戦いの結末を記録に残す為に。

 今ここで起きている空想的な現実を世界へとくまなく伝える為に。


 それが自分達にしか出来ない唯一無二の事だと信じて。




 そんな彼女達が撮った映像は今なお、世界に配信され続けている。

 例え何が起きているのかわからなくとも関係無く。


 この映像を観た人の半数は、もしかしたらただの創作物(フィクション)と思っているかもしれない。

 ただ、そうであろうとも衝撃を受けた者は少なくないだろう。


 勇とデュゼローの戦いは元より。

 デュゼローの救世主宣言も然り。


 でも、それよりもずっと衝撃的(センセーショナル)だったのが―――亜月の死だった。


 彼女の死が世界の人々動揺させ、混迷を誘ったのである。

 〝デュゼローは本当に救世主なのか?〟

 〝女の子を容赦なく殺す男を信じていいのか?〟と。


 故に今、世界は揺れている。

 勇とデュゼローによる再びの熾烈な戦いを前にして。

 誰しもが期待を抱かずには居られなかったのだ。


 この戦いの末に、正しき未来が導かれる事を。


 故に人々は願う。

 勇の勝利を。

 デュゼローの勝利を。

 戦いの収束を、あるいは激化を。


 世界は様々な想いを交錯させて。

 この戦いが終わるその時まで揺れ続ける事だろう。


 その果てに垣間見る世界へ不安さえも抱きながら。

 





◇◇◇






「勇、頼む!! 行けぇ!! 勝ってくれぇ!!」


「勇君……!!」


 勇の復活を最も強く願っていたのは他でも無い、彼の両親だろう。

 息子の快進撃を前に思わず拳を振り上げ、あるいは祈りで声援(エール)を贈る。


 勇が強くなった理由はこの二人も当然知らない。

 でもそんな事などどうでも良かったのだ。


 ただ単に、勇が立ち上がってくれただけで充分だったから。


 そして今その奇跡に震え、心を奮い立たせた。

 体裁も忘れ、年甲斐も忘れて声を張り上げて。


 更にはそんな声援が外からも。

 藤咲家の警護にやってきた警官もが動画を見ていたから。

 やはり警官といえど未来を願う人間で。

 この一大事にはさすがにじっとしていられなかった様だ。




 こうして繋がった声援は天へと巡る。

 例え声が届かなくとも。


 祈りと、願いと共に―――今、星を駆け抜ける。






◇◇◇






「勇さん、あずの仇をお願い……ッ!!」


 亜月の死。

 予想もし得なかった出来事が愛希の心を貫いた。


 二人は決して相容れる仲では無かっただろう。

 でも、それでも二人は妙な絆で結ばれていた事に違いは無い。

 仲違いしながらも楽しみ合う、そんな仲だったから。

 きっとそれもまた一つの友情の形だったのかもしれない。


 それに気付かされたから、愛希は願う。

 勇の勝利を、亜月の敵討ちを。


 親友の無念を晴らしてくれと、只願う。


 恐らくは今頃、風香も藍も同じ様に思っている事だろう。

 あの二人もまた、亜月に対しては愛希以上に仲が良かったから。

 二人の仲違いを笑って見守れるくらいに。


 だからこそ彼女達は祈り、願う。

 勇が希望をもたらしてくれる事を。




 こうして結びついた希望は天へと巡る。

 例え意思が届かなくとも。


 祈りと、願いと共に―――今、星を駆け抜ける。






◇◇◇






「うおおおッ!! 行けッ!! ブチかませッ!! 藤咲いッ!!」


「おおっ!! おおーーーッ!!」


 気付けば、倉持ジムは叫びに包まれていた。

 他の練習生などそっちのけで、池上が、倉持が声を張り上げていたが故に。


 突如始まった激戦を前に、あの池上が闘争心を奮い立たせない訳も無い。

 遂には試合張りに拳を打ち、勇の戦いに合わせて拳を振り抜く程で

 隣の倉持も同様、両拳を力一杯に握り締めて震わせている。

 二人共もはや大興奮気味だ。


 それだけこの二人には衝撃的だったのだ。

 勇の復活が、その猛追が。


 そして今なお戦いが激化し、二人の心を刺激し続ける。

 更なる興奮を求め、これ以上の激戦を望む程に。


 例えその願いが世間から無分別だと言われようが関係無い。

 より強く、より示威的に魅せる事こそが彼等にとっての戦いだからこそ。

 

 だから池上達は祈り、願う。

 勇が勝利を魅せてくれる事を。

 自分達を満たしてくれる程の圧倒的な勝利を。




 こうして絡み合った欲望は天へと巡る。

 例え真意が届かなくとも。


 祈りと、願いと共に―――今、星を駆け抜ける。






◇◇◇






 この戦いを見守っていたのは、勇の両親や愛希達、池上達だけではない。

 亜月を失い、悲しみに打ちひしがれる園部家も、瀬玲の両親も。

 勇達を良く知る友人達や元クラスメイト達も。

 

 亜月の為に付き添ってくれたあの担任教師も。


 それだけではない。

 健気に戦った亜月に心を打たれた人々も。

 その末に命を落とした事で怒りを憶えた人々もが。


 皆が願う。

 勇の勝利を。

 希望を、切望を。

 羨望、欲望までをも織り交ぜて。


 今はただその心を震わせ、想いを天へ。


 


 そして今、無数の心が駆け巡る。


 平和を望む心が世界を今―――駆け巡る。




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