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時き継幻想フララジカ 第二部 『乱界編』  作者: ひなうさ
第二十六節 「白日の下へ 信念と現実 黒き爪痕は深く遠く」
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~胸にある夢は虹の世界~

 茶奈の放った巨大刃がギューゼルの両腕を断裂した。


 しかもそれだけに留まらず、捕縛の光さえも打ち砕いていて。

 たちまちギューゼルの体が背後へと跳ね飛んで行く。


 斬られる寸前で身を退けていたのだろう。

 だから体ではなく腕を裂かれたのだ。


「ぐがぁあーーーーーーッ!!」


 それでも、自慢の剛腕は肘下から断ち切られた。

 その事実からの絶望は深く重い。


 たちまち二階床を転がり、滑り行く。

 受け身さえもまともに取れない程に打ちのめされたが故に。


「お、おおお、うぐお……」


「もう終わりだぜ」


「貴方の負けよ、諦めたらどう?」


 加えて、囲むのは万全の心輝と瀬玲。

 更には階下から茶奈が睨みを向け、逃げ道を塞ぐ。


 もうギューゼルに退路は無い。

 恐らく当初の様な反撃もままならないだろう。


 しかし―――


「お、のれ……ッ!!」


「「「ッ!?」」」


「俺は……俺は【魔烈王】、ギューゼルだ……ッ!!」


 それでも、ギューゼルは立ち上がろうとしていた。

 痛みに耐え、先を失った肘を付いて体を起こして。

 歯を食いしばり、胸が持ち上がる程に大息を吸い込んで。


 内に燃やす意思、闘志を三度―――構内へと解き放つ。




「【魔烈王】にィィィ、敗北はぬぁぁぁいッッッ!!!!!」




 それは最後の咆哮か。

 それとも決死の逆転宣言か。


 たちまち体を床上で回転させ、長大な脚を振り回す。


 回転から生まれたのは旋風剛脚。

 その剛力から生まれた威力は当初と遜色無し。


 突然の事に驚く間も無く、心輝と瀬玲が打ち飛ばされていて。


ドガガアッッ!!


「がはっ!!」

「あぐっ!?」


 余りの威力故に二人揃って壁を跳ね、そのまま一階へと落ちていく。


 しかしその時、そんな二人と擦れ違う茶奈の姿が。

 ギューゼルの猛攻を止める為に跳び上がっていたのだ。


 それも光り輝く魔剣を振り上げながら。


 確かに、規模は先程ギューゼルの腕を両断した時ほどではない。

 様相はまさに斧槍(ハルバード)と言った所か。


 それでも、驚異の絶対断裂の一刀である事に変わりは無い。


 故に今こそ、その一刀を叩き込む。

 相手が体勢を整えていようとも構う事なく。


バッキャァーーーンッ!!


 ただそれも間も無く、ギューゼルの蹴り払いによって弾かれる事に。

 魔剣の柄中心を狙う回転蹴りが炸裂した事によって。


 幾ら魔剣が主に吸い付こうが限度はある。

 【フルクラスタ】を纏っていない茶奈ならばその力は限り無く弱い。


 故に、空かさず魔剣が弾き飛んで行く。

 奇しくも、砕けて開いた壁の奥へと。


 しかも魔剣を失った茶奈に、ギューゼルの更なる追撃が。

 その身をも回転させた慣性で、もう片足による回し蹴りを見舞っていたのだ。


 だが、魔剣を飛ばしたのは悪手だった。


 その蹴りが直撃するも、間も無くギューゼルの体が宙へと固定される。

 茶奈が再び【フルクラスタ】を展開し、蹴りを受け止めた事によって。


『うあああーーーーーーッッ!!!』


 もはや今の蹴りに〝白極光の女神〟の防御力を貫く力は無い。

 故にこうなるのは必然だったのだろう。


 茶奈がその足を掴み取り、力の限りに振り回す。

 先程のお返しと言わんばかりに強く激しく。

 あのギューゼルが抗えない程に勢いよく。


「があああッ!?」


 その勢いのままに手を離せば、豪快極致の大旋風投げ(ジャイアントスイング)と化すだろう。

 たちまちギューゼルの巨体が一階床へと打ち付けられて。

 勢いは留まる事を知らず、更には入口格子を砕いて外へと飛び出していく。


 遂にはその巨体が都庁から飛び出し、議事堂との間にある広場へと。

 観衆が唖然と見上げ追うその中で。


 もちろんこのまま捨て置く訳にはいかない。

 最後の最後まで叩かなければ、安心して勇を追う事など出来はしないから。


 だからこそ茶奈が再び床を突く。

 ギューゼルを追ってトドメを差す為に。


 するとそんな時、彼女に向けて何かが飛び込んできて。


「うっ、これはっ!?」


 それはなんと魔剣【グワイヴ・ヴァルトレンジ】。

 心輝が纏っていた魔剣である。


「茶奈ちゃんッ!! そいつを使えェ!!」


 それは、ギューゼルへと必殺の一撃を見舞わせる為に。


 茶奈の【フルクラスタ】は威力こそあるが、決定力が無い。

 ギューゼルの肉体を完全に砕くには魔剣が必要不可欠なのだ。


 だからこそ託す。

 瀬玲がすぐに復調出来ない今、ここを逃せば勝機は薄れるからこそ。


 だからこそ受け取る。

 心輝と瀬玲の想いをも受け取り、強敵を完全に討ち倒す為に。


 だから今、茶奈が腕甲魔剣を両手に嵌め込む。

 自らの意思を貫かんと。


「ありがとう、シンさん!」


 まるで両手と一体化したかのよう。

 そう思える程に吸い付き、自由に動かせたから。

 魔剣が応えてくれる、そう信じられる。


 ならばもう迷わない。

 己の意思に従い、ギューゼルを追うだけだ。

 

「やらせはせぇん!!」


 そんな中、門番のあの二人が駆け出した茶奈の前に立ち塞がる。


 デュゼローに否定的だった二人だが、ギューゼルに対しての想いは強いらしい。

 身を挺して進路を塞ぎ、魔剣を抜いて徹底応戦の構えだ。


 例え格下だろうが手練れであればそう簡単には退けられない。

 そう察した茶奈に苦悶の表情が浮かび上がる。


 だが―――


ギャギャンッ!!


 その間も無く、二人の魔剣使いが光槍に貫かれる事に。

 瀬玲が倒れたまま、【カッデレータ】の矢弾を撃ち放っていたのだ。

 ただでは転ばない瀬玲の報い一矢である。


「行き、なさい……ッ!」


 そのお陰で道は拓かれた。

 だからこそ今、茶奈が跳ぶ。

 爆炎を両腕から解き放って。


 再び観衆が空を見上げる中、茶奈が空を行く。

 その両腕に力を籠めながら。


 そうして刻まれしは―――虹。

 闇夜を切り裂く虹のアーチが都庁から広場へと向けて刻まれたのだ。


 茶奈の強大な命力は炎を白の先へと進化させた。

 解き放ちせし虹炎は心輝の炎さえ霞む程に大きく強大で。

 【フルクラスタ】の光さえも凌駕した虹炎鎧としてその身を包む。


 そのまま着地を果たせば、視線の先には今にも立たんとするギューゼルの姿が。

 この場所を拠点としていた記者達が逃げ惑う中、二人がまたしても対峙する。


 でも、茶奈にもうこれ以上長引かせるつもりは、無い。


「もう、終わりにしましょう……ッ!!」


 この時、虹炎が激しく燃え盛る。

 階上の観客へと届かんばかりの炎が。


 余りの圧力故に、魔剣にも変化が。

 徐々に歪み、ひしゃげ、潰れて削れていく。

 茶奈の出力に魔剣筐体が耐えきれていないのだ。


 しかしそれでも構わない。

 この一瞬に全てを注ぐ為に、魔剣に力を全て注ぎ込む。


 するとどうだろう、突如として虹炎が収束し始めていくではないか。

 その両掌に、まるで吸い込まれるかの如く。


 そうして集まった炎が光となり、遂には光球と化す。


 出来上がった二対の虹光球。

 更にはそれを突き合わせ、力の限りに両掌で潰し込む。


ギギィィィーーーーーーンッッッ!!!!


 その途端、周囲全てを共鳴音が支配した。

 まるで金属と金属を荒々しく擦り合わせたかの様な音が。

 それだけの圧力が二つの光球に篭められていたが故に。


 そんな異音の中で出来上がったのは、小さな一粒の虹光球。

 先程よりもずっと小さな、豆の様な虹閃珠である。


 だがそれを目の当たりにしたギューゼルは即座に理解し、そして戦慄する。

 その虹閃珠が、もはや全ての次元を超越した代物であるのだと。


 


「私達は、行きます。 明日を―――未来を見捨てない為に」




 だからもうギューゼルは動けなかった。

 これだけの力を体現した茶奈の真意を垣間見たから。

 このたった一言で、逃げる意思を失ったが故に。


 それは絶望では無く、一つの希望として。


 その意思を茶奈が理解したかどうかはわからない。

 けれど、そんな意思は関係無いのだろう。


 どちらにしろ、茶奈は涙を流していたのだから。


 これから放つ一撃が如何な威力かは、本人が一番理解している。

 打ち放ちたくないという気持ちが強くなる程に。


 でも放たなければならないから。


 だから茶奈は行く。

 覚悟を決めたギューゼルへと向けて。

 至高の一撃を以って戦いを終わらせる為に。


「こぉぉぉいッッ!!! 乗り越えて進むならばァァァッッ!!!」


「はあああーーーーーーッッッ!!!!」




 少女が駆け抜け、鬼神が迎え撃つ。


 最後の輝きを共に放ちながら。


 虹の橋を描き進んで。


 その手に虹を、その手に愛を。


 二つの想いが肉迫した時、光が包む。


 少女の掌から虹の閃光が。


 鬼神の胸では愛の裂光が。


 悲哀を乗せて、希望を乗せて。


 今、暗夜を穿つ極光矢(オーロラルレイ)となろう。




 虹閃珠の解き放った力は何もかもを打ち上げた。

 ギューゼルの巨体をも一瞬にして、遥か上空へと。

 不壊を誇っていた胸甲魔剣をも粉々にして。


 その時彼は何を思ったのだろうか。

 何を考えたのだろうか。


 音が付いてこない。

 重圧が体を潰す。

 風さえもが体を斬って。


 でも何故か、心地良かった。


 その時ギューゼルの目に映っていたのは、関東の灯火で。

 地平線を交えて見えるその光景が、今まで見た景色よりもずっと綺麗だったから。


 こんな景色など見た事が無い。

 そもそも興味など無かったのに。


 けれど今、その景色がとても愛おしくてたまらない。

 両腕があったなら包みたいと思えてならない程に。


「未来―――か、そうだな……彼女達なら、きっと」


 だから願う。

 本当は抱きたかった想いを乗せて。

 素直に思うがままに突き進む若者達へと。




「ああ、エナ……俺も今、逝く。 君が願った未来を、託せたから―――」




 そしてその願いは今、閃光と共に世界を舞う。

 東京を、日本を、地球を照らす輝きとして。


 太陽の如き輝きと共に、その願いが星を包み込んだのだ。




 失った両腕と、成せなかった想いの代わりとなって。











「終わっ……た……」


 その時地上では、膝を付く茶奈の姿が。

 放った一撃が命力を根こそぎ奪ったのだろう。


 そんな彼女に近づこうとする者は居ない。

 声を掛けようとする者さえも。

 繰り広げた全てが次元を超え過ぎて、誰しもが委縮していたからこそ。


 するとそんな中、観衆の頭上からまたしても人影が飛び込んできて。

 

「大丈夫かぁっ!?」


 心輝が追い駆けて来たのだ。

 瀬玲を背に担ぎながら。


 ただ心輝も比較的キツめか。

 着地を果たすも、堪らずどたりと膝を付いていて。

 心配してからの有様に、「なはは」と照れ隠しの笑いを見せつける。


「ハァ、ハァ、しばらく、休憩が必要かもですね」


「私も駄目そう……げふ」


 いくら回復したとはいえ、満身創痍である事に変わりは無い。

 体を追い込んだ事で精神的にも相当消耗しているはずだ。

 今すぐ戦うなど、到底不可能だと思える程に。


 だが―――


「でも行かなきゃ……」


 それでもゆっくりと足を踏み出し、茶奈は行く。

 支えねばならぬ人が居るから。

 戦わねばならぬ相手が居るから。


 もちろんそれは茶奈だけではない。

 心輝も、瀬玲も同じ気持ちだったからこそ。


 三人が揃って再び都庁へと進む。

 勇がまだ戦っているはずだから。




 そう願う茶奈達だから―――まだ、止まれない。




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