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時き継幻想フララジカ 第二部 『乱界編』  作者: ひなうさ
第二十五節 「双塔堕つ 襲撃の猛威 世界が揺らいだ日」(東京動乱 前編)
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~猛威の終焉~

 長い様で、短い戦いだった。

 夕焼けが沈みきるその時までの。

 それだけの中で激戦が始まり、収束を果たしたのだ。


 レヴィトーンを始め、カノバト、アンドルルゴーゼら代表格は全員戦死。

 残された【救世】軍はもはや烏合の衆、勢いに乗った魔特隊を止める事は叶わず。

 おおよそ二〇人程の捕虜を残し、ほぼほぼ殲滅という形で幕は閉じられた。


 捕虜曰く、本部の襲撃の目的は〝勇達の後援者排除〟なのだとか。

 後ろ盾を消す事で、都庁へ向かう五人の気力を削ぐ為だったそうな。

 でも、どうやって集まったかまでは知らされていないという。

 移動の時は目隠しされたままだったらしい。


 だからといってデュゼローを信頼している、という訳ではなさそう。

 でなければこうしてペラペラと語る訳も無いからだ。


 でもきっとそれはデュゼローの想定通りなのだろう。

 だからこうやって敗北し、目的を暴露する事も想定済みだったのかもしれない。


 そして魔特隊はその目論見にまんまとハマってしまった。


 その結果の代償はとても重い。

 仲間達一人一人に心の枷を嵌めてしまう程に。


 勝利と喜ぶ事など到底出来ない程に打ちのめされたのだから。






◇◇◇






「兄者、どこへ行っちまったんだよ、どういう事なんだよこれは……」


 マヴォがそう呟き項垂れる。

 ボロボロに朽ち果てたカノバトの亡骸を前にして。


 この場に居たはずのアージの姿はもう無い。

 加えて、父親同様の師が変わり果てた姿で捨て置かれていて。

 理由も何もわからなければ、答えを教えてくれる者も居ない。


 出来るのはただ、悲しみに暮れてすすり泣くのみ。

 怒りと悲しみを大地へひたすらぶつけ続けながら。

 

「なんでなんだよ、兄者……ッ!! 教えてくれよ、なあッ……師匠ッ!!」


 ただただ無念に打ちひしがれて、唸る事しか出来はしない。

 先程まで誇り高く咆えた者でも、今はもう。


 その落ちた心を掬える者など居はしないのだから。






◇◇◇






「彼の腕はもしかしたら治らないかもしれません。 相応の覚悟をしておいてください」


「そう、なんだ……」


 イシュライトがナターシャへと無情の結論を露わにする。

 当事者であるアンディが眠るその中で。


 曰く、アンディの左腕はほぼ千切れる寸前だったのだそう。

 秘術のお陰で壊死・切断こそ免れたが、以前の様に戻る可能性は絶望的らしい。

 なんでも、破壊から修復に至るまでの時間が開き過ぎたのが原因なのだとか。


 形は戻っても、並みに動かせるには時間が掛かる。

 相応のリハビリが必要となるだろう。


「生きてくれれば……それで充分だよ」


 それでも、ナターシャは微笑んでいた。

 疲れて眠るアンディの頬をそっと撫でながら。

 いつ起きても、安心させられる様にと。


 内心はきっと複雑だろう。

 でも、それでも生きてくれたから。

 だから今はナターシャも微笑む事が出来るのだ。


 ()()大切な人を失わずに済んだから。






◇◇◇






「私は守りきったぞ。 お前達が思う程、私は弱くなかったのだ。 いや、これからもっと強くなってみせよう」


 ズーダーが、かつての仲間の前でそう呟く。

 一つの想いを胸に、覚悟を決めて。


 同郷と決別する事を決めたのだ。

 デュゼローに賛同したグーヌー族達から。

 自身をも騙し、仲間を殺した事を是とした故郷から。


 許す事など出来はしない。

 ずっとずっと隠されて、騙されて。

 信じて来ても、使われていただけで。


 だからこそ誓う。

 もうそんな様にならない為にも、己の意思で戦うのだと。

 同じ境遇であるベーヨ―とゴーマーに報いる為にも。


 その想いは未だ複雑だ。

 だが、振り向かないと決めたから。


 だからズーダーは一心に戦う事を望んだのである。

 





◇◇◇






「ムベイ、ビゾ、よくぞ来てくれた。 礼を言う」


「ウム、間におうて良かった」


「しかし、ボウジ様は……」


 本部屋上。

 その黒煙が燻る中で、ジョゾウがムベイとビゾに感謝と労いを贈る。

 生き残ったのは彼等だけで、他はもうこの世には居ない。

 かつての精鋭七人衆も、もはや二人を残すのみ。


 本当ならば、一番に泣き崩れたいのはジョゾウなのだろう。

 最も情に深い彼だからこそ。


 でももうジョゾウに泣く事は許されない。

 真王と成った今、部下や逝った者達の前で弱みを見せる訳にはいかないのだから。

 

「ボウジはもうおらん。 だが、俺が居る。 ボウジは言うた、『其方が守れ』と。 だからこそ俺は戻ろうと思う。 再びカラクラが王と成りて、命ある限り皆を守る事を改めて誓おう」


 ジョゾウはもう最初から王だったのだ。

 誰に言われるまでも無く。


 きっと今の彼ならば、ボウジも笑って託すだろう。

 もう何も心配は要らないのだと。


 親友の死を乗り越えて、ジョゾウは今、王としての信念を貫く事を決めた。

 勇との誓いを胸に、それさえも乗り越えて。


 もうそこに何一つ、迷いは無い。






◇◇◇






「っつてて……なかなかやらん事をするもんでねぇな」


「師匠も歳なんだから無茶しちゃダメッスよぉ」


 そこは訓練場一階、体術訓練室。

 その中央に敷かれたマットの上にバノがうつ伏せで寝転がる。

 暴れ過ぎた所為だろうか、悲痛の声を上げながら。

 そんな巨体の背には素足で踏み解すカプロの姿が。


「修行が足りんのぉ。 腰くらい、ほれぇ儂が一発喝を入れてやろうか?」


 そしてその傍にはウィグルイも。

 こちらはニヤニヤといじらしい笑みを浮かべて見下していて。

 バノの情けない姿を前に笑いを堪えきれない様子。


「やめぇや、んなのぶち込まれちゃ腰が砕けちまうわ」


 どうやら共に戦う事で妙な友情を抱いたのだろう。

 実力差こそあれど、互いに認め合えた様だ。


「情けないのぉ、お主の様な者であれば鍛え方次第ではもっと強くなれるだろうに」


「あぁん? わしゃ今でも強いぞぉ!! っででで!!」


「お師匠!! だからあれほど無茶するなと言ったはず!!」


 そんな二人のやりとりも、このカプロの前では形を潜める事となる。

 それだけ場違いとも言える存在なだけに。


 でもカプロはどこか嬉しそう。

 どこで聞いたかわからない台詞を放ちながらも、愉快げにバノの背中を跳ねていたのだから。






◇◇◇






「もうこんな事はこりごりだわぁ~」


「申し訳ありません……こんな戦いに巻き込むつもりは無かったのですが」


「いえいえ~。 でも魔剣を持つなんて初めてだったので、なんだかドキドキしちゃいましたぁ」


 ニャラはどうやら使っていた魔剣が気に入った様子。

 その刃に命力を灯らせて輝かせ、「ウフフ」と妖しく笑いを上げる。

 福留が苦笑いを浮かべるその傍らで。


 遂にはステップを踏んで事務所の方へ。

 何を思って去っていったのかは彼女のみぞ知る事だ。


 ここは本部建屋とグラウンドの境。

 福留と平野、笠本、そしてバノを連れて来た御味が揃って空を見上げる。

 戦いの終焉を肌で感じながら。


 とはいえ彼等の仕事はまだ終わった訳ではない。

 勇達が帰ってくるのを待つという仕事が残っているのだから。


 でももう勇達に連絡出来る手段は無い。

 インカムの電波を中継する機器が襲撃者達に破壊されてしまったから。

 狙って破壊されている辺り、第一目標の一つだったのだろう。


 だから出来るのはもう真に待つ事だけだ。

 勇達が無事に帰ってくる事を願って。


「後は勇君達が上手くやってくれる事を祈るばかりです」


「彼等ならきっとやってくれますよ」


「そうですね、彼等は強いですから」


「ええ、きっと彼等なら生きて帰ってきますとも。 いつもみたいにケロッとね」


 フェンスの外はもう人だらけだ。

 騒動が落ち着き、安全に気付いた野次馬が集まったのだろう。

 当然、真相を求めたマスコミや、それらを阻止する警察までもがこぞって周辺を騒がせる。

 きっと野次馬もマスコミも、ここが魔特隊関連施設だと気付いているだろう。

 だから上げるのはいずれも罵詈雑言で、とても聴けたものではない。


 しかしそんな騒音が皮肉にも、福留達の心を落ち着かせる事になるとは。

 全てが終わったと悟らせるには充分な程に賑やかだったから。




 本部の半壊して荒れ果てた様を、民衆はどう受け止めただろうか。

 それが何を象徴しているかなど考えただろうか。


 いや、きっと誰も考えはしないのだろう。

 彼等の中での答えはもう、【救世】のそれに近いものだったのだから。


 だからひたすらに怒りを放ち、声を上げ続けるのみ。


 そうする事でしか、人々はもう不安を取り除く事が出来ないのだから。






 この日、世界が震えた。

 そしてその余波がたちまち人の心を奮い立たせる事となる。


 公認された敵意。

 それがまるで免罪符の様に、ただ人を暴力へと掻き立てたのだ。


 デュゼローの真意とは。

 世界の真実とは。




 そしてなお世界は揺れ動き続けるだろう。

 勇とデュゼロー、二人の存在が引き合い、そして決着を付けるその時まで。


 真なる平和が如何なる事かを示す、その時まで。







第二十五節 完




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