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時き継幻想フララジカ 第二部 『乱界編』  作者: ひなうさ
第二十五節 「双塔堕つ 襲撃の猛威 世界が揺らいだ日」(東京動乱 前編)
303/329

~斬殺鬼~

ドォォーーーン……ッ!! ズズゥン―――


 暗闇に包まれ掛けた空を、赫の光が押し退ける。

 それ程までに轟々と燃え盛る本部屋上を背にして。


 空の戦士達が今、続く戦いの火蓋を切ろうとしていた。




「こ、これはッ!!」


 さすがのレヴィトーンも多くの増援を前に真なる怯みを見せる。

 増援が来るなどとは全く予想もしていなかったからこそ。


 ジョゾウだけでも手を焼いていたのに。

 新たに現れたボウジはあの魔剣【オウフホジ】をその足に掴んでいる。

 他の者達も魔剣こそ無くとも、相応に鍛えられているだろう。


 しかも大地ではウィグルイとバノがなお大暴れ中で。

 戦況は返され、もはや【救世】軍の劣勢は否めない。

 もう既にグラウンドを包む程の大群は二割程しか残っていないのだから。


「ドウベ、何故おぬし達がここに?」


「『てれぇびじょうん』とやらを見てな、事態に気付いて急ぎ参じたのだ。 さすがはボウジと言ったところか」


「おお、さすがは我が友たちよ。 見事な出立ぶりである」


 こうして参じた理由を聞けば、ジョゾウさえ驚きを隠せない。


 デュゼローの一件がテレビで報じられたのは僅か数時間前で。

 対して東北にあるカラクラの里からは、空を飛んでも同刻ほど掛かる。

 すなわち、ボウジ達はこの一件を耳にしてすぐに飛び立ったという事だ。

 デュゼローの語った真相も耳にしないままに。


 なんという思い切りか。

 これを成せたのがボウジの王としての器なのだろう。


 その全ては、ジョゾウという最も信頼すべき友を救う為に。


「そう……これだけの絆があろうな。 だからこそ諦めてはならぬのだ」


 こうして訪れた者達の想いが、身に染みて伝わるかのよう。

 自分の為に急いで飛んで来てくれたという、感謝の気持ちと合わさって。


 だからこそ、惚けていたジョゾウの嘴に力が籠る。

 「ググッ」と噛み締められる程に強く。


 間も無くジョゾウが翼を仰ぎ、ドウベの足から離れ飛ぶ。

 仲間達に貰った勇気が、希望が、戦う意思を再び燃やしたのだ。


 仲間という掛け替えの無い存在に応える為にも。


「レヴィトーンよ、これだけは譲れぬ。 例え命尽きようとも、この想いだけは失わせぬ!! 未来はこうして繋がねばならぬのだ!!」


「ならば貴様等が紡いだ繋がりは、この俺が全て断ち切ってやる!!」


「もはや繋がりは切れはせぬゥ!! 拙僧らが守り通す故なッ!!」


「敵はかの者一人ぞ!! 皆の者、ジョゾウに続けぃ!!」


 故に今、ジョゾウが、ボウジが、雄叫びを上げて力を奮う。

 レヴィトーンという脅威を退ける為に。


 ボウジの放った炎弾が狼煙となって。


ドドォンッ!!


 放たれた炎弾は二発。

 それも威力を抑えに抑えた豆粒状の。


 でもその速度は先程の比ではない。

 まるで弾丸の如く空を裂き、一直線にレヴィトーンへと襲い掛かる。


「チィ!?」


 小さくとも、その威力は魔者一人を焼くに充分。

 これにはレヴィトーンも躱す以外に道は無い。


 それに反撃も当然、不可能だ。

 まさに先程レヴィトーン自身が宣った理論の通りに。

 空の戦いにおいて、武器の可撃距離(リーチ)が長ければ長い程有利となるからこそ。


 ボウジの持つ魔剣【オウフホジ】は、その距離が限り無く長い。

 今の様な豆粒状の弾丸であれば、最大飛距離はおおよそ五〇〇メートル。

 その四〇分の一程度、たった八メートルの刀身では届く訳が無いのだ。


 しかもこの規模ならば、ボウジとて連射が可能。


ドドウッ!! ドドウッ!!


 旋回しながら逃げ飛ぶレヴィトーンを空からの連装弾が襲い行く。

 例え当たらずとも、牽制となれば充分。

 その威力を前に、逃げるしか道は無いのだから。


 更にはそのレヴィトーンを囲う様にしてジョゾウ達が舞う。

 その数を活かして逃げ道を塞ごうというのだ。


 これこそカラクラ族の誇る戦術が一つ、【籠い舞い(ゴントウゲ)】。

 魔剣【オウフホジ】を使用した狩りの手法である。


 それもただ囲うだけでは済まされない。


「「カァッ!!」」


 レヴィトーンの左右から、ドウベとロンボウの持つ六角棍棒が同時に突き出される。

 身の丈以上にも長い、空戦仕様の足掴み棍棒だ。

 それも先読みしたが如く、進行方向へと。


 その攻撃の真髄は、獲物の退路を塞ぐ為にこそある。

 仕留められれば良し、逃げ道を遮り軌道を崩せば充分と。


 なればレヴィトーンとて凌ぐ以外に道は無い。


「クゥオオッ!!」


 レヴィトーンがその一瞬で刀を正面に立て、二対の棍棒を同時に防ぐ。


 しかし押し退けたのでは無い。

 剛に構えられた交差棒を足場として、刃を滑らせて「するり」と乗り越えたのだ。

 羽毛の如き体の柔らかさと、迫る二人の間を突き抜けられる度量を以って。


「なんとおッ!?」

「こやつゥ!?」


 なんという技術か。

 本来ならば上下に逸れるであろう攻撃を、真っ直ぐ進んで避けたのだから。

 ドウベもロンボウも、このレヴィトーンが魅せた動きを前に驚愕を隠せない。


 だが、そんなレヴィトーンの技術を知ってる者が一人居る。


 そう、ジョゾウである。


「行かせぬゥ!!」


 ジョゾウはそう避ける事さえ予想していた。

 そうするだろうと、既に先回りしていた。


 棍棒を乗り越えた先、その下方から迫ったのだ。

 自慢の瞬発力と突貫力を生かして。


「おおおッ!?」


 それに気付いた時、既にジョゾウは目前に。

 突如として現れた伏兵に、レヴィトーンが慄きで牙を剥く。


「やらせぇんッ!!」


 それでもなおレヴィトーンは諦めようとはしない。

 途端に体を捻り、その身をコイルの如き螺旋運動へと導いて。

 ジョゾウの攻撃のみならず、続く炎弾さえも「するりするり」と避け飛んでいく。

 例え羽根の一部が切られようと、掠れて焼かれようと構う事無く。


 他の者達の追撃も同様だ。

 いずれもレヴィトーンの空中疾走を止める事叶わず、全てが無為と帰す。

 なれば反撃こそ無くとも、その脅威の運動能力を前に戦慄さえ走ろう。


「なんという身のこなし!!」

「タダ者ではない!!」

「当然だ!! 俺はこの日まで、全てを斬る為に鍛え上げてきたのだッ!! この身を極限にまで行使してなあッ!!」


 この動き、まさに鳥型魔者における究極の形とも言えよう。

 ただの鳥は愚か、魔者でさえ並みでは叶わぬこの体術は。


 鳥の長所とはすなわち、その軽さ。

 空気に乗って舞う事を許される身軽さこそが強みだ。


 しかし飛ぶ以上は筋肉と骨を張って羽ばたかなければならない。

 そこで襲われたならば、大体は長所を生かせずに捕食者の餌食となるだろう。


 だがレヴィトーンは違う。

 この男は空に居ようが羽根を畳む事を恐れない。

 例え落下しようとも復揚出来るという自信があるが故に。


 だからその身軽さを如何なく発揮する事が出来る。


 すなわち、この身のこなしこそが空戦の理想。

 如何なる戦術であろうとも乗り越えられる、空の常識を覆す在り方なのである。


「さすがに止まらぬかッ!! だがしかぁし!!」


 ただ、その様な強者に弱点が無いとも限らない。


 ジョゾウは今の最中に気付いたのだ。

 レヴィトーンが躱す為に見せた行動から、その弱点に。


 厳密に言えば―――魔剣【エベルミナク】の欠点に。


「捉えたぞ、其方の弱点を!! 皆の者ッ、彼奴の剣は光る切っ先こそ恐れど、手元に力無しィ!!」


 そう、これが欠点。

 恐れるべきは光刃()()であり、本体の刃に殺傷力が無いという事だ。


 魔剣【エベルミナク】。

 使用者の命力を使い、圧倒的な長さの光刃を生み出す驚異の魔剣だ。

 でもその力を発現した時、欠点さえも露わと成ってしまう。

 本体刀身から命力が消え、ただの鉄の塊と化すのである。


 だから先程、ドウベとロンボウの攻撃を前に躱すしか出来なかった。

 もし力が籠っているならば、六角棍棒など斬り裂けばよい。

 なんなら追撃で振り払えば、この二人は間も無く死んでいただろう。

 他の者達に対しても同様に。

 魔剣を使っていなすだけで、斬ろうとはしなかったから今も生きている。


 何より、先程受けたジョゾウの傷が証拠となるだろう。

 光刃を砕かれた刃で斬っても、それほど深くは無かった。

 あれはすなわち、振り切った時にはまだ命力がそれ程巡っていなかったからこそ。


 敵意があれば魔者同士でも障壁は働く。

 それ故に、命力が籠らなければ切れる事は無い。


 そう気付いたからこそ、ジョゾウは咆えたのだ。

 魔者である自分達ならば、懐に飛び込めば勝てるのだと。


 勝機はもはや、それしかない。


「それがわかった所で、どうせ貴様らから近づけはせんわッ!!」


 もちろんその欠点はレヴィトーン自身も知る所。

 そう、近づけさせなければ良い。

 近づけたとしても、何もさせなければ良い。


 ならばその秘策も既にあろう。


「なれば見ろォ!! 俺の命の輝きを!! 全てを斬ると公言せし力をッッ!!!」


 この時、レヴィトーンの魔剣が再び強い輝きを放つ。

 光刃を生み出す命力の輝きを。


 ただその輝きは、先程よりもずっと強い。


 光が、伸びに伸びていく。

 強く眩しく轟々と。

 共鳴音すら掻き鳴らし、周囲の家屋を震わせる程に。


 そうして見せたのはもはや驚異そのもの。




 なんと、先程の倍ともあろう長さの光刃が形成されていたのである。




「な、なんという事か!?」

「恐るべし!! これがかの伝説の魔剣の真なる力なのかあッ!?」


 その圧倒的な輝きを前に、ボウジ達が、ジョゾウさえもが驚き震える。

 闇夜をも切り裂かんばかりの光を放つ刃を前にして。


「近づけるものか、やらせるものか!! 俺は斬らねばならんのだ……全てを斬り、全てを滅ぼすまで、空から堕ちる訳にはいかんのだあッ!!」


 その一振りならば、まさに百の首も飛ばせよう。

 その切っ先ならば、如何な魔剣と言えど砕けよう。


 これぞ真なる伝説の顕現。

 レヴィトーンは今、かつての英雄と同等の力を奮っているのだ。

 それにジョゾウ達が慄かない訳が無い。

 例えその真相を知らなくとも。


 充分過ぎる威圧感がそこに秘められていたからこそ。


「俺は全てその為に力を費やしてきたッ!! そんな俺から守るだとッ!? 救うだとッ!? そんな事など出来はせんッ!! もしそれを成せる者が居るならば、それこそが巨悪だッ!! 力有る者が居るから破壊があるのだッ!!」


 そしてその極限の輝きは、使用者にさえも力を与えてくれる。

 空を支配し、縦横無尽に飛び回ったとされる英雄の力を。


ドォンッ!!


 ただ一扇ぎ、羽ばたいただけだった。

 たったそれだけで、レヴィトーンの姿が消えた。


 とある者以外の視界から。


 本当に一瞬の出来事だったのだ。

 その一瞬で、レヴィトーンは―――ドウベの目前に居たのである。


 しかも、その光刃を深々と突き刺して。


「がはッ……!?」


 それでも、光刃の長さを見れば半分にも到達していない程だ。

 それだけ突き刺せば十分だったが故に。


「ド、ドウベ―――」


 そう叫びたかった。

 そう伝えたかった。


 でもジョゾウのその叫びはもう、届かない。




バンッッッ!!!!




 この時、無情の刃が横薙ぎされて。

 あろう事か、ドウベの身体が真っ二つに切り裂かれていく。

 容赦も無く、躊躇も無く。


 血肉が散り、羽根が舞う。

 ドウベを形作っていたモノがくるくると。

 ただただ勢いのままに、大地へ目掛けて力無く。


「こうやって……守ると言って、散っていった」


ヴァァァンッ!!


 しかもその凶刃はなお止まらない。

 薙ぎられた刃はなおも止まらない。


 もう一人のカラクラ戦士の首を刎ねてもなお。


「友が、仲間が、妻が、子供がッ!!」


ヴゥンッッ!!!


 円を描いた軌跡はなお続き、遂にはジョゾウにさえ及び。

 辛うじて防ぐも、盾と成った魔剣【テオグル】が砕け散る。

 ジョゾウ自身さえ弾く程に強い衝撃を与えながら。


「それでもなお言うのだ!! 無念を晴らせ、敵を殺せとおッ!!」


「おのれぇーーーッ!!」


 その最中、見かねたロンボウが決死の覚悟で突撃していく。

 光刃が過ぎ去った後を狙う様にして。


 だが―――


「力及ばねば、それさえも成せぬ!! この様にィ!!」


 レヴィトーンの怒涛の勢いはもはや止まりはしない。

 なんとレヴィトーン自らもがロンボウに向けて突撃していたのだ。


 突如として超接近した相手に、ロンボウが対応出来る訳も無い。

 その意表を突いた行動が意図せぬ接近を叶わせる。

 レヴィトーンの片足がロンボウの頭を掴み取るという形で。


ガッ!!


 それも、その勢いのままに大きく回り。

 遂にはロンボウの大きな身体をも強引に振り回し始め。


「ガァーーーーーーッ!!」


 そして荒れ狂わんが如き素顔で凶行をも成す。


 次の瞬間には空中へと放り投げていて。

 勢いのままに空へと向けてくるりと回る。

 光刃をも伴って。


 そうして生まれたのは、超範囲の斬り上げ回転斬撃。

 放り投げられたロンボウも、もう一人のカラクラ戦士をも真っ二つに切り裂くまでの。


 彼等()()()()()ももう動かない。

 首を、身体を切り裂かれたのだから。

 後は血肉として、地上へと降り注ぐのみ。


「ドウベ、ゴボ、ロンボウ、ビシャ……なんたる、なんたるゥ……ッ!!」


 一瞬の出来事だった。

 あっという間に、四人もの戦士が光刃の餌食となって地へ堕ちたのだ。


 凶刃を奮うレヴィトーンにもはや慈悲は無い。

 戯れる気概も残されてはいない。


 ただただ道を阻む敵を容赦無く斬り捨てるのみ。




 怨念を渇望するこの男に、斬殺以外の取るべき道など元より無いのだから。




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