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時き継幻想フララジカ 第二部 『乱界編』  作者: ひなうさ
第二十五節 「双塔堕つ 襲撃の猛威 世界が揺らいだ日」(東京動乱 前編)
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~かの者アイツのお師匠様~

 決死の加速連撃によって、遂にアンドルルゴーゼが倒れた。

 辛くも勝利した兄妹だったが、アンディはもう戦闘不能に。

 そこでナターシャが【レイデッター】を受け継ぎ、兄を背に地下訓練場から駆け登る。


 もうナターシャは言われるままに動く子供ではない。

 アンディを、(本部)を守る為に、自らの意思で戦場へと向かっているのだから。


「アニキ、もうすぐ地上出るよ。 頑張って」


 こう声を掛けてもアンディから返事は返らない。

 意識はあっても、返す程の元気は無いから。

 でも、今は聴いてくれるだけでも充分だ。

 少しでも長く意識を繋ぎ止められるならば、それだけで。


「もうすぐ皆の所に―――」


 地上とを繋ぐ階段はとても長く深い。

 けれど今のナターシャならこれくらい簡単に駆け登れられる。

 そうなればもう地上はすぐ目の前だ。


 しかしその時、階段先の通路に一人の人影が。


 なんと魔者が階段先の通路から姿を見せたのだ。

 まるでコアラの様な耳の大きい灰毛の魔者が。

 ただし細身でどうにも強そうには見えないが。


「なあッ!? アンドルルゴーゼさんを退けたのかあッ!? チッキショオ!!」


 どうやらこの魔者、階段上を守っていた見張りだったらしい。

 ナターシャを見つけた途端、魔剣を光らせながら駆け下りてきて。


 たちまち、二人が階段上で相まみえる―――


キュウンッ!!


 ―――が、雑兵如きに止められるナターシャではない。


 一閃の名の下に、魔者の身体が真っ二つに切り裂かれていく。

 速く鋭い反撃一閃(カウンター)によって。


「おっとと……いけないけない、静かにー」


 結果的にだが、相手が飛び込んできてくれた事が幸いとなった様だ。

 真っ二つにしてしまえば叫ばれる事も、仲間を呼ばれる事さえなくなる。


 となれば様子を確かめる猶予も出来よう。


「アニキ、ここでちょっと待っててね、すぐ戻ってくるから」


「ああ、気を、付けてな……」


 とはいえ、アンディを担いだまま戦うのはいささか不利というもの。

 そっと床へと降ろし、上着を枕にして寝かせる。

 上半身がブラジャー一枚だが、今は恥ずかしがってもいられない。


 空かさず曲がり角の壁に身を貼り付けて。

 通路の先へと顔を覗かせて見れば―――


 そこには数人の魔者の姿が。


「なんであんなに魔者が……」


 先に見える施設入り口前に二人。

 手前の中部屋に一人。

 奥の設備室に二人。


 見えているのだけでこれだけ。

 他に居るかどうかは見ただけではわからない。

 いずれにも気付かれていないのが幸いか。


 だからといって命力レーダーの類も使えない。

 そうすれば逆に感知される可能性もあるし、そもそもナターシャに技能が無い。


 なんにせよもしバレれば最後、他の仲間を呼ばれて一貫の終わりだ。

 だからバレない様に一瞬でこの場に居る全ての敵を倒さなければならない。

 倒した後も、即座に立て直す必要がある。

 何が待ち構えているのか見当も付かないからこそ。


 僅かな可能性を狙い、神経を研ぎ澄ます。

 魔者達が隙を見せるその一瞬を見逃さない様に。


 今までそうして生きて来たから、なんて事は無い。

 ずっとそうやって大人達から逃げてきたのだから。

 



―――ズズゥーーーンッ!! ドォーーーンッ!!




 するとそんな時、突如として大きな音が地響きと共に鳴り響く。

 しかも断続的に、でもナターシャに伝わる程大きく強く。


 外で何かが起きているのだ。

 大気を、大地を揺らす程の何かが。


 その異変に施設内の魔者達も気付いて動き出す。

 奥に潜んでいた魔者もが慌てる様にして。


 全部で七人。

 それがなんと全て入り口前に集まったのだ。

 なんという偶然だろうか。


 この機をナターシャは逃さない。

 二本の魔剣を携えて、その力を迸らせる。


 それは先の戦いと同じ、強い輝きと共に。


 なんと、【レイデッター】と【ウェイグル】にはまだ先程の加速現象が残り続けていたのだ。

 二人の高め合った力の結晶がなお、加速を求めるかの様に。


 ならばナターシャは見える未来のままに突き抜けるのみ。




 そうなればもう、全ては一瞬だった。




 光の如き速度でナターシャが飛び出して。

 床を、壁を、天井を、縦横無尽と跳ね進み。


 魔者達全ての首を二刃閃の下に、刎ね飛ばす。


 銀と紅の輝きは一人になってもそのまま。

 刻まれた二つの軌跡はまるで靡く襟巻(マフラー)の如く。

 そのまま地面を滑るナターシャへと舞い降り、小さな体を光で包んでいて。


「やった!!」

 

 光から感じる暖かさが、成功の喜びに拍車を掛けたのだろう。

 いつものナターシャらしい大きな笑顔がふわっと露わに―――




ガクンッ!!




 だがその時、予期せぬ事態がナターシャを襲う。


 なんと、膝が突然崩れたのだ。

 途端にガクリと地へ突き、遂にはぺたりと腰まで落としていて。

 上半身はなんとか両腕で支えるも、気を抜けば倒れてしまいかねない。


「あッ、はあッ……!?」


 この症状をナターシャは知っている。

 何が起きたのか、すぐにでも理解する事が出来るくらいに。


 そう、命力切れである。


 でも、何故こうなったのかがわからない。

 ナターシャ自身の命力はそこまで消耗していなかったにも拘らず。


 まるで()()()()で全てが持っていかれたかの様に。


 考えられるならば、それしかないだろう。

 今の一撃こそが何よりもの原因なのだと。




 【共感覚】とは本来、二人で使う力である。

 二人の意識を高め、加速し、力を循環させる事で成り立つからだ。

 この魔剣を授けた男もきっとそれを知って使わなかったのだろう。

 それを理解した上で兄妹に分けて渡したのかもしれない。


 しかし今、ナターシャはその力を一人で使った。

 それも、二人で高め合った加速度合いのままで。




 そうなれば、消耗は二人の時よりも二倍―――いや、それ以上となる。




 だから消耗し尽くしてしまったのだ。

 たった今の一撃だけで。

 意識を保つ事が精一杯となる程に。


「うぅ、動かないと……動かないとアニキが―――」


 だからと言って諦めるつもりはない。

 今はもう自分しかいないのだから、と強い意思を抱いているからこそ。


 ただその意思も、現実を前に大きく揺らぐ事となる。


 そう言い掛けた時、ナターシャには見えてしまったのだ。




 入口の先(グラウンド)に蠢く、無数の魔者達の姿が。




「あ……」

 

 その瞬間、ナターシャの揺れていた心がポキリと―――折れた。


 それだけの数がひしめいていたのだから。

 数えきれない程に、信じられない程に。


 対して今の彼女はもう立つ事すらままならない。

 襲われれば、抵抗さえも叶わないだろう。


 そして付近の魔者達もまた、ナターシャに振り向いていたのだ。

 今倒された者達の落体に気付いて。


 こうなった時、ナターシャの目に涙が浮かぶ。

 絶望が、後悔が心を包み始めていたから。


 折角、強敵を倒す事が出来たのに。

 折角、ここまで道を切り拓けたのに。

 それが全部、こんな所で無駄になって。


 アンディを助けたかったのに。

 勇達とまた笑い合いたかったのに。

 それももう叶わないと―――悟ってしまったから。


 もう泣き声さえも上げられない程に。


「コイツ、アンドルルゴーゼさんの標的じゃねぇか!!」

「だとすると、あの人はやられたのか?」

「でもコイツもボロボロよ? 今のうちに殺すべきね!」


 魔者達もこうして殺意を露わにしている。

 故に、もう逃げ道も無い。

 例え泣いて詫びても逃がしてはくれないだろう。


 歩み寄る魔者達。

 愕然と項垂れるナターシャ。


 刻一刻と迫る絶望の一瞬に、もはや震えて待つのみ。




―――ュンッ……ヒュンッ!!




 そう、それしか出来ない。

 絶望を打ち砕く奇跡が迫っていたなど、気付くはずもないのだから。




ッズドォォォーーーーーーンッッッ!!!!




 その瞬間、突如として施設入り口前が炸裂する。

 地面のアスファルトを粉々に打ち砕きながら。

 ナターシャを襲おうとしていた魔者達をも吹き飛ばして。


 ナターシャにも何が起きたのかはわからない。

 炸裂した大地を見届けただけだったから。

 目の前で起きた事を唖然と眺めるだけで。


 ただ、その原因となる物に見惚れるのみ。




 大地を打ち砕きしは、黄金槌。

 人程に長い柄を持ち、地へと突き刺さる姿は堅牢豪胆そのもの。

 その輝きだけでも慄く程に重厚、滲み出る威圧感こそ畏怖のそれ。


 しかしてその主の正体は―――




「ったくのォ、()()なんざ無い方がええんじゃがぁ」




 今まさに、訓練場の屋上からその身を投げていた。




ズズゥンッ!!


 たちまちその巨体が大地へ到達し、再び地響きをもたらす事に。


 そして見せるだろう、その雄姿を。

 誰にも負けぬ程の巨大な体躯と、有り余る力に溢れたその腕を。

 タンクトップを身に纏い、はち切れんばかりの大胸筋を見せつけて。


 見せる姿は、敢えて呼ぶならば―――毛玉の王。


「そうも言ってられんのォ、あの小僧が望む様にゃ出来んかもしれんがぁ。 だからと言って、儂ァこの状況を見過ごす様な(おとこ)じゃあねぇ……ッ!!」


 その名はバノ。

 カプロの師であり、アルライ族の里を守りし巨人である。


 その男―――漢が今、遂に秘められし力を解き放つ。

 巨大な手に黄金槌と、鈍銀の金槌を携えて。

  

 その力を奮い、今こそナターシャ達を救う奇跡となろう。




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