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時き継幻想フララジカ 第二部 『乱界編』  作者: ひなうさ
第二十五節 「双塔堕つ 襲撃の猛威 世界が揺らいだ日」(東京動乱 前編)
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~先行く未来を掴む~

「ホハハッ!! さぁ掛かって来ぉい童ども、一撃で粉砕してやろぉう!!」


「ふざけやがって……!!」


 地下訓練場にて、アンディとナターシャが巨大な魔者アンドルルゴーゼと対峙する。

 しかし強力な命力とその体躯を前に、二人とも肝心の一歩が踏み出せない。

 初撃の奇襲を躱された事が余程堪えたのだろう。


 巨大な相手を中心に、二人が対角で周囲を回る。

 じりじりと距離を詰め寄りながら。

 そのどっしりと構えた敵の隙を伺うかの様に。


 対して、アンドルルゴーゼはと言えば―――


「んん~……じれったいなぁ」


 一向に踏み出してこない二人を前に退屈ささえ覗かせて。

 あろう事か「ふわぁーあ」と欠伸までかく始末だ。


 しかも、そんな舐めた様な素振りはこれだけに留まらない。


「ほらぁ、早くぅ、背中ががら空きだぞぉ?」


 遂には丸めた背中をアンディに向けて晒し。

 更に腰までゆらゆらと揺らし、隙だらけの姿を見せつける。


 これは明らかな挑発だ。

 二人が単純である事を知った上での。


 アンドルルゴーゼには自信があるのだろう。

 こんな姿を晒してもなお攻撃を凌ぐ事は出来るのだと。


 そしてあのアンディとナターシャが挑発に乗らない訳がない。

 例え罠である事が明らかだったとしても。

 そこにチャンスがあるのならば、掴み取ろうとするのが彼等なのだから。

 それは二人の人生が過酷であったが故に。




 でも、二人は至って冷静だった。

 冷静に、状況がしっかりと見えていたのだ。




 それは自分達が戦う意味を理解出来たから。

 多くの戦いを経て、命と向き合える様になったからこそ。


 だからこそ、二人が引く残光は―――今までよりもずっと強く輝かしい。


「行くぞナターシャァ!!」


「うんッ!!」


 その動きも同様、今までよりも更に速い。

 先程まで体を動かしていたおかげで気力に満ち溢れているからだ。


 命力光を迸らせながら、その勢いで床スレスレを這うかの如く突き抜ける。

 前から、後ろから、アンドルルゴーゼ目掛けて真っ直ぐと。




()()()()んだってぇ……!!」




 だが、その刃が届きそうになった瞬間にそれは起きた。

 あの巨体が突如として二人の視界から消えたのだ。

 それも場の暗がりに溶ける様にして。


「アニキーッ!!」


 でもナターシャにだけは見えていた様だ。

 その巨体がどこへ行ったのかという事を。


 巨体が居たのは、なんと二人の直上。


 音も無く飛び上がっていたのだ。

 それも無挙動で、瞬時と言える程の速度で。


 なんという身のこなしだろうか。

 まるで四メートルもある巨体とは思えない俊敏性。

 それでいて厳ついガタイとは思えない柔軟性。

 いずれも体躯からでは想像も出来ない、驚異の身体能力だ。


 しかも、ただ跳び上がっただけでは済まさない。


 その体躯から繰り出される攻撃はもはや、全てが脅威。

 それも両腕の魔剣が輝きを放てば、その威力は更に増幅されるだろう。


「ホッファアーーーーッッ!!!」


 この時繰り出されたのは二人に目掛けた超巨大な両拳による振り落とし。

 たちまち床面が光を放って爆裂し、周辺全てを瞬時にして真っ白に包み込む。


ドッゴォォォーーーンッ!!


 規模こそそれ程ではない。

 精々アンドルルゴーゼ本人の身体程度の大きさの爆発だ。

 でもその威力は計り知れない。

 巨体の重量と腕力、落下慣性と魔剣の威力を合わせた強烈な一撃だったのだから。


「んん~~~惜しい、惜しいねぇ。 なかなかやるねぇ君達ぃ」


 とはいえ、それが必ずしも当たるとは限らない。


 粉塵が周囲を包む中、アンドルルゴーゼが唸りを上げる。

 両拳を通して感じていたのが固い床の感触だけだったからこそ。


 そう、アンディとナターシャは今の一撃を躱していたのだ。

 躊躇する事無く、勢いのままに飛び込みきる事で。


「あぶねぇ……!!」


 魔剣の【共感覚】能力が声よりも先に危機を伝え、瞬時に対応させた結果である。

 後一瞬気付くのが遅れていれば結果は悲惨だった事だろう。


 互いに床を滑り、再び姿勢を取り直す。

 油断ならない相手だとわかった以上、隙を見せるのは危険だ。


「ホホ、だぁがぁ~今の様になったのは必然だよ、君達ィ?」


「んだと……!?」


 ただ、アンドルルゴーゼは相変わらず攻めてこようとはしない。

 体に付いた埃を「パンパン」と叩き落とし、悠長に語るだけで。


「君達の攻撃は速度こそ速いがぁ、タイミングが早いのだよぉ」


「どういう事さ!?」


「つまりだねぇ~君達は命力の光を灯すのが 早 い と言っているのさぁ」


 しかも何故か、二人に助言する様な話題を。


 それだけ実力に自信があるのか。

 それとも、この体躯に似合わず親切なだけなのか。

 いずれにしろ、皮肉そうに語るからこそ後者には到底見えないが。


「命力を篭めるのはぁ当てる瞬間だけでいいッ!! じゃないとねぇ、残光で軌道がバレてしまうよぉ~?」


「ッ!?」


「ホハハッ!! 素人魔剣使いがよぉく陥り易い事だぁ!! 力も出るし加速もする、派手で見栄えもいいからと調子に乗ってぇ、そ れ で 簡単に俺に殺されるぅ!! 楽しいんだけどねぇ~味気ないよねぇ~? もうちょっと頑張ってくれた方が俺的には嬉しいからさぁ。 頑張ってる奴を見るのも俺の趣味だからなぁ~!!」


 どうやら助言をする理由は〝両方〟らしい。

 〝どうせ叩き潰す事には変わりないのだから、少しでも強くなって欲しい〟

 〝ただ一方的ではつまらない、時間を掛けてなぶり殺しにしたいから〟


 動機こそはこうも歪み切っているが。


「だからこそ、俺の今の一撃の様にぃ~!! インパクトの瞬間を狙い、全てを掛けた方が攻撃も避けられ難いのだぁ!! そしてぇ!! その力の使い方に特化したこの魔剣【アズンダーヴ】ならばぁ、今の様に強烈な一撃も可能ッ!! つまり、俺は最高に強いという訳だぁ~!!」


 でも言っている事は決して間違いではない。

 少なくとも、敵の意表を突くのに残光を引く必要は無いのだから。




 魔剣に命力を灯らせる戦い方は魔剣使いの基礎とも言える。

 ただし、それはある一定の経験を積んだ時点で不要にもなり得る技能でもある。


 それというのも、この戦い方には大きな優位点(メリット)劣位点(デメリット)があるから。


 メリットは至極単純だ。

 一撃により強い威力を乗せる事が出来るからである。


 命力残光はただ派手に見えて、実はそれなりに意味があって。

 振ろうとした魔剣の斬速を加速させるなど、物理的な影響を与えてくれる。

 ただの光としてではなく、魔剣を押し出す物質として放出されるからだ。

 それがひいては使用者自身の加速にも繋がり、戦い易くもなるだろう。


 しかしそれが逆にデメリットにもなる。


 命力とはすなわち意思の形で。

 残光も同じで、その形や動きから感情などを読み取れる。

 勘が良い者ならば、残光を見るだけで軌道を予測する事も出来るだろう。


 つまり、加速する反面、攻撃が読まれやすいという事なのである。




 この事から、実力者となればおのずと戦い方が変わってくる。

 例えるならアージとマヴォが良い例で。

 アージの様な猛攻特化型(パワーファイター)なら残光を引く戦いの方がずっと強くて。

 マヴォの様な瞬撃特化型(スピードトリッカー)なら一瞬に力を注いだ方が有利に戦える。


 そしてアンディとナターシャは後者、瞬撃特化型だ。


 だからアンドルルゴーゼはこう助言したのだ。

 〝お前達は一瞬に力を注いだ方が強い〟と。

 そもそもが速いからこそ、確実に当てる手段に講じるべきなのだと。


「だから早くかかってきたまえ。 言われた通りに君達の最大で―――」


 けれどそんな助言など二人には大きなお世話だ。

 少なくとも、やりたいようにやる事をモットーとしている二人にとっては。


ギャリンッ!!


 その後の一瞬で、アンディの斬撃がアンドルルゴーゼの腕甲に再び走る。

 ただし、言われた通りの〝一瞬での命力炸裂〟によって。

 素早く、そして隙の無い奇襲攻撃を。


「ホッホウッ!! そうだ、それでいいんだぁ!!」


 アンドルルゴーゼにはそれが〝素直に従った〟と見えたのだろう。

 攻撃を辛うじて防ぐも、その腕の影から「ニタァ」とした笑みが覗く。


 でもそれはただの勘違いだ。

 アンディはその手段の有用性をただ確認しただけに過ぎない。

 自分達の誇る戦闘スタイルと、どっちが相応しいのかという事を。


 そしてその答えはどうやら、もう出たらしい。

 

「ナターシャ、行くぞッ!!」


「うんッ!!」


 二人ならば、それ以上の言葉は要らない。

 導き出した答えはもう、心で共有しているから。


 後はその掛け声と共に、力の限りに飛び出すだけだ。


「なッ、なぁにぃ~~~!?」


 ならばもはや、アンドルルゴーゼに驚く以外の答えは無い。




 二人はまたしても残光を引いて駆け抜けていたのだから。




 さすがのアンドルルゴーゼもどうやら憤りを隠せない様だ。

 今の語りが彼にとって最大の譲歩であり、親切心だったが故に。

 先程までの緩んだ表情がたちまち強張り、鋭い目を光らせていて。


 迫り来るアンディとナターシャを前に、とうとうその両腕を拡げて戦意を見せつける。


「教えた事は守りなさぁいッ!! それでも守れないと言うのならぁもういいッ!! 死体になってしまいなさぁ~いッ!!」


 走る残光。

 迫る斬撃。

 疾風の如き同時攻撃を、アンドルルゴーゼが両腕で叩き上げ。

 たちまち火花が天井向けて激しく舞い上がる。


ギャギャンッ!!


 その光の灯す先には、クルリと舞う二人の影が。

 それも間も無く、命力走光と共に床へと飛び抜けて。

 途端に床面へと幾重もの鋭角軌道が刻まれる。


 そして間髪入れず、二人の斬撃が再びアンドルルゴーゼへ。


 先程よりも更に加速しているのだ。

 防がれようが関係無く、その一撃を届かせる為に。


 同時攻撃がダメなら時間差攻撃で。

 それもダメなら両方を織り交ぜて。

 上下左右と所かまわず攻撃を続け、相手の巨体を徐々に追い詰めていく。


「き、君達ねぇ~~~!!」


 もうその顔に先程までの余裕は残されていない。

 それは憤っているからではなく、実際に余裕が削ぎ落されているという事だ。


 それだけ、二人はなお加速し続けている。

 天井など知らないと言わんばかりに。


ギュンッ!!


キュンッ!!


「んなあっ!?」


 その速度が、動きが、延々と成長していく。

 二人が跳ねて走るたび、鳴音がこうして轟く程に。


 二人の攻撃が止まらない。

 止まるはずが無い。

 敵を倒すまで、止まるつもりは無い。

 息つく暇すら与えるつもりも無い。


 それこそがアンディとナターシャが導いた戦闘スタイルの力なのだから。


 瞬撃特化でありながら猛攻特化。

 速度と攻撃力を両立した速攻特化(ファストアタッカー)である。


 このスタイルは、並みの魔剣使いでは決して真似する事は出来ない。

 成しうる程の高い命力と体力、そして相応の能力を持つ魔剣が必須となるからだ。


 でもアンディとナターシャはもうその条件を満たしている。

 勇の命力鍛錬法によって培われた肉体と、【共感覚】という力があるからこそ。

 更に際限なく加速し続ける事が出来るから。


 そうなればもはや、アンドルルゴーゼとて防ぎきるのは困難を極めよう。


「んごおおおおッ!?」


 凄まじい攻撃の嵐が巨体を包み込む。

 すぐに消えない程の濃い残光を跡に残して。


 それに対抗して腕を振り回そうとも―――


 当たらない。


 止まらない。




 止められない。

 



「貴様ら雑魚が!!」


キィンッ!!


「幾ら速かろうが!!」


チュインッ!!


「俺に勝てるとッ!!」


カァンッ!! ギャアンッ!!


「おもっ―――」


ギンッ!! キュウンッ!! ギャギャギャッ!!


「がああッ!!」


 加速は遂にアンドルルゴーゼの口さえ遮る程の成長を果たす。

 既に攻撃を躱すだけで精一杯で、先程の様な軽快さを見せつける余裕は皆無だ。


「ウグッ!! きさ!! まらァ!?」


 走る残光はもはや消えるどころか巨体を包み込む程に。

 遂には二人そのものが銀光・紅光と化し、大地と敵を繋ぐ歪な球を形成していく。

 無数の斬撃音を奏で続けながら。


 その様子はまるで、主星を回る二つの衛星が如し。




 この形を敢えて名付けるならば、【共鳴光跡軌(サテライトツインズ)】。




 しかしそれでも彼等は更に望む。

 加速の加速、その先を。

 見え始めていた未来の自分達を。


 意識までもが加速して見せた、その先を。


 だから手を伸ばすだろう。

 その先にある未来を掴む為に。




 だが、その未来を掴んだのは―――あろう事か、アンドルルゴーゼの方だった。




「ッガァァァアアアアッッッ!!!!」


 それは追い詰められて腕を伸ばしたその時。

 その手が偶然にもアンディの斬撃軌道を遮って。


 なんと、その拍子にアンディの左腕を掴み取ってしまったのである。


「なッ!?」


 斬撃の拍子に伸ばしてた事があだとなったのだろう。

 その大きな手が掴み取ったのは、魔剣を含めた腕ほぼ全域。


 そして、その偶然を―――アンドルルゴーゼは見逃さない。


ブヂブヂブヂィ!!


 その瞬間、まるで重ねた厚布を引き裂いた様な鈍い音が響き渡る。

 無情にも、アンディの左腕が握り潰されたのである。


「がぁあああーーーーーーッ!?」


 それも、掌の隙間から鮮血が飛び散る程に激しく強く。


 その巨大な手ならば、人間の細腕を潰す事など簡単な事だ。

 例え鍛えられたアンディであろうと例外ではない。


 しかもアンドルルゴーゼの怒りはそれだけで収まる事はなかった。




「こンのクソ雑魚がァァァ調子に乗るなァァァーーーーーッッ!!!!」




 いっそ腕が千切れた方がどれだけ救いだったか。


 なまじ鍛えられていたから、潰された腕はなおその身体と繋がり続けていて。

 だからこそ、もはやされるがままに。

 その小さな身体が勢いのままに振り上げられれば―――


 後は力一杯に、床へと激しく叩きつけられる事となる。




ガッゴオッッッ!!!!




 たちまち周囲におびただしい鮮血が飛び散って。

 更には離されて自由となった体が二転三転と床上を跳ねていく。


 それもただただ、力無く。


 そして転がり、勢いが留まっても、アンディは動かなかった。

 うつ伏せになったその身を横たわらせたまま―――


 その瞳に、虚空を覗かせて。




「ア、アニキィーーーーーーッ!!」




 ナターシャの悲痛な叫びも、今は虚しく響くのみ。




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