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時き継幻想フララジカ 第二部 『乱界編』  作者: ひなうさ
第二十五節 「双塔堕つ 襲撃の猛威 世界が揺らいだ日」(東京動乱 前編)
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~神業の剣客将~

 魔特隊本部屋上はそれなりに広い。

 長方形の建屋上ほぼ全域を自由空間としているからだ。

 その様相はビルというよりも学校の校舎に近く、フェンスに囲われていて。

 ちょっとした宴会くらいなら、簡単に催す事が出来るだろう。




 そんな建屋屋上。

 茜差すその場に、斜陽の陰りを纏いて睨み合う二人の戦士が居た。


 ジョゾウとレヴィトーンである。


 互いに魔剣を構え、僅かにも視線を外そうとはしない。

 間合いをジリジリと詰めるも、共に動く距離はごく僅かだ。

 どちらも隙を伺っていて動けないのだろう。


 ジョゾウが二刃の魔剣を逆手に握り、朱光をきらりと瞬かせる。

 深く腰を落として身構える姿は、〝隙あらば攻める〟という意思を見せつけるかのよう。

 大事な者達を守らんとする意思が、不退転の覚悟を形としたのだ。


 それに対するレヴィトーンはと言えば―――不動。

 青白い刀身が茜色と混じり、紫紋の鮮光に換えて空へと還す。

 そんな曇りなき輝きを放てる程に、上反り刃の構えは揺るがない。

 まるで確固たる信念を映すかの如く。


 どちらも譲らない。

 譲れない。

 頑なな信念がそこにあるからこそ。




 ならば、より突出した意思が先手を打つのは必然だ。




 その時飛び出したのは当然、ジョゾウ。

 なんと、瞬時にしてレヴィトーンの背後へと回り込んだのである。


 魔剣【天之心得】の推進力ならば、この程度の距離を瞬時に詰めるなど造作も無い。


「おおッ!?」


 強者であろうレヴィトーンも、その驚くべき速力を前には目を見張らせる事となる。

 瞬時にして死角に回られ、あまつさえ背後を取られたのだから。


 それにこれは既にれっきとした死合(ころしあ)いだ。

 正々堂々を重んじる健全な試合などではない。

 とすれば背後を取った時、何をするかなどもう決まっていよう。


 そうして刻まれたのは、抉らんばかりに地を()ける鋭い一閃。

 それが遂には鋭角軌道を描き、レヴィトーンへと目掛けて垂直疾走していく。

 

キュウンッ!!!


 レヴィトーンはその速度に追い付けていない。

 それどころかなお背を向けたままだ―――




 いや、向ける必要など無かっただけか。




 この時、ジョゾウは目を疑う。

 渾身とも言える今の一撃を、レヴィトーンが紙一重で避けていたのだから。


 しかも少しも視線を向ける事無く、ただ体を僅かに傾けただけで。


「なんとおッ!?」


 まるで見えているかの様だった。

 何もかも見通しているかの様だった。

 それだけ、殆ど動いていなかったのだ。


 構えすら解かれぬ程に。


「クゥアッ!!」


 でもそれだけで止まるジョゾウではない。

 躱されたのなら追撃するだけだ。

 小回りの利く短刀ならばそれも可能だからこそ。




 だがその時、またしても信じられぬ出来事がジョゾウを襲う。




 魔剣が突如としてその手から抜け飛んだのだ。

 追撃の一閃を振ろうとしたその瞬間、意思に反して勢いよく。


 それはレヴィトーンの神業が故に。


 なんと魔剣の柄同士をぶつけ、叩き飛ばしたのである。

 脇腹裏から迫る斬撃に対し、それさえも凌駕する刀捌きによって。


 それも当然の如く、背を向けたままで。




 しかも、神業はこれだけに留まらない。




 この時、怯んだジョゾウの視界に映ったのは―――転身せしレヴィトーン。

 まるで車輪の如く、地面スレスレを縦にぐるりと大きく回っていたのだ。


 ならば刀も回る。

 それもただ回転しているのではなく。

 刀の重心を軸に、自分自身を遠心力へと換えた自走旋動機(セルフタービン)として回っていたのである。

 そこに命力光が伴えば、真円の輝きが生まれ出づる。


 この輝きこそまさに、月光の如し。


「【虚月映転(こげつえいてん)】……ッ!!」


 この一撃、もはや斬撃と認識する事さえ困難を極めよう。

 それ程、自然と流れる様にして繰り出されたのだから。


ビョオオオッッ!!!


 風を裂き、音を斬る。

 そう成せるまでの斬撃が、敵を引き込むが如く待ち受ける。




 しかし―――


 ジョゾウは勢いを堪えていた。

 反撃に気付き、辛うじて踏みとどまっていたのだ。




 遂には踏みとどまらせた足がその身さえも跳ね上げ、たちまちクルリと宙を舞う。

 再び二人の間に距離をもたらしながら。


 そうして地へと着くが、表情はどうにも優れない。

 たった今見せつけられた技術に圧倒されたが故に。

 それだけ驚異的だったのだろう。

 何せ、あと一歩踏み込んでいれば死は免れなかったのだから。


 その証拠に、鳩胸を象る羽毛に深々とした縦一筋の切れ込みが。

 奥には鳥肌さえ覗き、刻まれる寸前だった事を物語る。


 これぞまさしく間一髪。

 ―――いや〝間一羽毛(はつ)〟と言った所か。


「つ、強い……」


 圧倒的な実力を前には、そんなぼやきさえ思わず零れる。

 もはや今のジョゾウには一寸の余裕も残されていない。 


 対するレヴィトーンはなお澄ましたままだ。

 回転を止めた後も構えを保ちつつ、そっと向き直していて。


 またしても見せつける天逆の意思を前に、ジョゾウは戦慄さえ憶えてならない。


 今のレヴィトーンに隙は無し。

 正面も、背後も左右も上も下も。

 周囲全てが刀の間合いなのだから。


「それで終わりかジョゾウよ? なれば次は俺から()こう」


 そして戦意も何一つ削がれる事は無く。

 先程と変わらぬ鋭い眼がジョゾウ一身へと再び向けられる。




 その瞳の奥に秘められた底力は未だ、未知数。




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