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時き継幻想フララジカ 第二部 『乱界編』  作者: ひなうさ
第二十五節 「双塔堕つ 襲撃の猛威 世界が揺らいだ日」(東京動乱 前編)
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~魔特隊本部強襲~

 『皆の者!! 敵襲に御座るッ!! 本部が包囲されておるゥ!!』


 それは夕暮れの陽気で気が解れ始めていた時の事。

 ジョゾウの叫びが突如として事務室内に響き渡る。


 それから起きる事はもう、何から何までが嵐の様だった。




「全員ゲートまで全力で走れェーーーッッ!!!」




 咄嗟のアージの叫びを皮切りに、全員が席から飛び出す。

 一部の者は机や椅子さえ足蹴にして。


「総員撤収!! 事務所を一時放棄しますッ!!」


 これには福留さえも必死だ。

 老人とは思えぬ瞬発力で駆け、扉の前で仲間を誘導していて。


 先陣は最たる実力者であるアージの役目だ。

 次いで他の者達が後に続いて事務室から一気に駆け出していき。

 最後にマヴォが後を護る様にして退出していく。


 するとその瞬間―――


ガッシャァァァーーーーーーンッ!!!


 なんと、魔者達が外から事務室へと飛び込んで来たではないか。

 窓すら無造作に砕き、更には事務用品なども蹴散らして。

 もはやそこに躊躇などありはしない。

 殺意を剥き出しにし、去り行くマヴォ達の背を追い駆ける。


「ンヒィーーー!!」


 突然の窮地に、誰しもが気が気ではない。


 戦闘員でもなく、人生経験も薄いカプロならなおさらで。

 恐怖の余り、よだれや鼻汁までをも撒き散らしてドテドテと駆ける姿が。 

 当然、笠本や平野やニャラも、そこまで酷く無くとも怯えを隠せない。

 あのズーダー達でさえ例外ではないのだから。


 それだけ、襲撃者達の威圧感が凄まじかったのだ。

 〝何が何でも殺してやる〟―――そう感じ取れる程に殺気を漲らせていたが故に。


「ヌオオッ!?」


 ただ、その殺気は決して背後だけから向けられているとは限らない。


 彼等が向かおうとしていた先、正門ゲート前。

 なんと、そこにはもう無数の魔者達がひしめいていたのである。

 今にも本館正面扉を打ち破らんとする形相で。


 ゲートはもう突破されたのだろう。

 最も事務室に近いからこそ。


「ぐぅ、正面はもうダメだッ!! マヴォ、お前が先陣を切れッ!! ここは俺が食い止めるッ!!」


「応ッ!!」


 ならば逃げ道はもう、比較的広いグラウンド方面にしか無い。

 そっちならばアンディとナターシャとの合流も容易だからこそ。


 そう察したアージが、おもむろに魔剣【アストルディ】で力一杯に横薙ぎる。

 正面扉ごと、飛び込んで来た魔者達を薙ぎ払ったのだ。

 さすがのアージか、無数の敵を相手にも怯む事は無い。


 ならばと、マヴォもその体に命力を迸らせる。

 背後から迫って来た魔者達に双刃を向けて。


ギャルルルッ!!


 なればたちまち、その者達も倒れる事となる。

 マヴォ得意の光輪刃(ドゥル・オッヴァ)ならば、雑兵を裂く程度など造作も無いのだから。


「お前達ッ!! 俺に付いてこぉい!!」


 勇達が居ない今、戦力の要はまさにこの二人だ。

 故に、これほど頼もしいと思えた事は未だかつて無かっただろう。


「グーヌーの底力を見せるぞ!! 何としてでも皆を護れェ!!」


 ズーダー達も負けてはいない。

 マヴォが事務室から流入する魔者達を押し退けている間に、代わりの先導で逃げ道を確保する。

 通路を駆け抜け、グラウンドまで一気に突っ切るつもりだ。




 だがそんな時、誰よりも素早く、群を抜いて駆け出した者が一人。




 カプロである。

 先程まで怯え慌てていたカプロが突然、力の限りに駆けていたのだ。


「カプロ殿ォ!?」


「忘れてたッス!! 日誌がまだ工房に置きっぱなしなんスよぉ!!」


 余りの突然の出来事で忘れていたが故に。


 しかしこうして思い出してしまえば、もう捨て置く訳にもいかない。


「んなもん、置いてけェ!!」


「そうはいかねッス!! あれは勇さんから託された大事なモノなんッスよおおーーー!!」


 グゥの日誌(終わりト始まりノ書)は紛れも無くカプロの宝だ。

 皆にとってはなんて事の無い本であろうとも。

 グゥから引き継ぎ、勇に託された、彼等にとっての絆の証であるからこそ。


 故にカプロがその勢いを止める事は無く。

 再びマヴォが列尾に付くも、もはや列そのものが瓦解寸前だ。


「ズーダァー!! 工房までカプロ達を護れェ!! 俺はこいつらを薙ぎってからすぐに行くッ!!」


「わかった!!」


 幸い、工房を控える廊下への敵流入はまだ無い。

 ならば今は事務室からの流入を押し返せばよい。

 そうすればカプロ達も、アージの背後も護る事が出来るから。


 だからこそマヴォは猛る。

 敵を一人残らず切り裂く為にも。

 その手に持つ双斧魔剣【ヴァルヴォダ】と【イムジェヌ】に光を灯して。


「カァァァーーーーーーッ!!!」


 狭い通路だろうが関係は無い。

 その身のこなしは場に囚われぬほど縦横無尽だ。

 壁を、天井をも足場にし、迫る敵を片っ端から翻弄する。


ババババッ!!!


 その姿、まるで廊下を吹き抜ける螺旋疾風の如し。

 瞬時にして五人もの魔者達を切り裂き弾いていく。


 でも着地を果たしたマヴォの表情は優れない。

 一人残らず斬ったのにも拘らず、空かさず振り返っていて。




 それもそのはず。

 斬ったはずの魔者達が立ち上がろうとしていたのだから。




 それは確かに全ての敵ではないのだが。

 立ち上がる者達はいずれも大事に至らず、敵意をなお向け続けている。

 

「まさかこいつら……ッ!?」


 今の斬撃が防がれていたのである。

 いずれも辛うじてであるが、致命傷を避ける様に。


 各々の手に持つ武器によって。


 そう、魔者達はなんと魔剣を持っていたのだ。

 それも使いこなせる程に馴染ませた物を。


 一つ一つは初級魔剣程度でしかないのだろう。

 しかしそれでも馴染んでしまえば充分に戦う事が出来る。

 多人数相手に力が分散されれば、こうして防ぐ事も難しくはないのだから。


「馬鹿なッ!? なんでこんなに魔剣があるんだッ!?」


 だからこそマヴォが驚愕を隠せない。

 恐らくは今頃アージも同様に思っている事だろう。


 今までに見ただけでも相手は十数人。

 本部を取り囲むのなら百人以上は固い。


 もしその全てが魔剣を有しているのだとしたら、驚愕しない訳がない。


「クソッ!! どうやら一筋縄ではいかなさそうだな……ッ!!」


 魔特隊に入るまで、アージとマヴォは魔剣使いを屠る為に旅を続けていた。

 その期間、おおよそ十年。

 その間に倒した魔剣使いは数知れず、()()()にも(のぼ)る。


 魔剣とは本来、それだけ希少な物なのだから。


 それが今こうして、かつてを凌駕する数を取り揃えている。

 かといって新しく製造したものとも思えない。 

 いずれも形や大きさがバラバラで、集団へ配る為の量産品とは到底思えないからだ。


 だからこそ信じられる訳も無い。

 一体どこにこれだけの魔剣が隠されていたのか、と。




 アージが、マヴォが戦慄に唸りを上げる。

 突如として現れた魔剣使いの大集団を前にして。


 だがこの後、彼等は思い知る事となるだろう。

 この襲撃がまだほんの序章に過ぎないという事を。




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