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時き継幻想フララジカ 第二部 『乱界編』  作者: ひなうさ
第二十五節 「双塔堕つ 襲撃の猛威 世界が揺らいだ日」(東京動乱 前編)
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~絆は天堕つ事よりも尊し~

 ふとしたきっかけで出会ったレヴィトーンという謎の魔者。


 しかしそのレヴィトーンの放った衝撃の一言が、ジョゾウに事実を悟らせる事となる。

 舌足らずでも分かり合えるが故に、多くの事実を。

 目の前の者が思っていた様な同類ではなかったという事を。


「ウッ!? 其方は……!!」


 その途端にジョゾウが低く身構え、レヴィトーンへと鋭い視線を向ける。

 翼を広げる様はまるで水鳥の威嚇のよう。


 でも対するレヴィトーンはと言えば、なお空を見上げ続けていて。


()くなよ、ジョゾウ。 空を見てみろ、静かなものだ。 俺達の気苦労などまるで知りもしないかの様に。 そこに浮世があると思えば、如何に我等が矮小な事か」


「ヌ……」


 それどころか戦意すら見せず、ジョゾウに空の再見さえ誘う程だ。


 ジョゾウが誘われるままに見上げれば、再び満天の空が視界に映り込む。

 そんな蒼天には雲一筋も無く、言う通りの美しくも静かな世界が広がっていた。

 自分達よりもずっとずっと大きく、全てを覆い尽くさんばかりの浮世(見えぬ世界)が。

 きっとレヴィトーンの言う通りに空が落ちたのならば、きっとこの世などひとたまりも無いのだろう。


 でもジョゾウは知っている。

 その先にあるのは浮世とやらではなく、無の空間であるという事を。


「こうして見ると、空が落ちる訳など無いのにな」


「ウム。 天に壁も無し。 在るのは『うちう』なる虚無の空間のみ……空は落ちぬよ」


「違う、違うのだよジョゾウ。 空は落ちるのだ。 我々の世界という空が今なお落ち続けているのだ」


 だが、その浮世が自分達の世界を指すならば話は別だ。

 浮世が落ちる事、それすなわち【フララジカ】を示す事に他ならない。


 レヴィトーンがその両拳を握り締め、腕ごとグッと脇に引き込ませる。

 翼が震え、羽根が揺れるほどに強く、強く。


 そう思い詰める程に苦しんできたのだろう。

 浮世(あちら側)を落とさない為に戦ってきたのだろう。


 その想いは誰よりも強く、そして儚い事も知っている。

 だからこそレヴィトーンは望む。

 絆でも無く、愛でも無く、泰平でも無く。


 ただ一つ、孤独の明日を。




「ジョゾウ、俺達と共に来い。 そして知るのだ。 世界は一人である方が、ずっと楽なのだと」


 


 だからこそ誘う。

 ジョゾウに同類の匂いを感じとったから。

 彼ならば同じ志の下で戦う事が出来るだろうと踏んだからこそ。


 共に戦い、共に孤独を求める者として。


 それは決して仲間が欲しいという意味では無い。

 〝互いに斬り合える世界を望む同志〟を欲しているのだ。


 それがレヴィトーンの言う〝常に一人〟の真意なのだから。




「……ハハハッ!」

「ッ!?」




 しかしその時、なんとジョゾウは笑っていた。

 透き通った空に響く程の笑い声を上げて。


 例えレヴィトーンが横目で睨んでいようとも。

 それに怯む事も、怖気付く事も無く。


「一人が楽……か。 そうであろう、一人は楽よな。 だが、それこそ違うぞレヴィトーンよ。 一人では笑えぬ。 話し合えぬ。 孤独は―――楽だが辛いのだ。 其方が落空(らっくう)の夢を見るのも、天涯孤独だからであろう」


「ヌ……」


()くる事は繋がりよ。 其が行いが知らず内とも巡り巡り、他者の恩恵となろう。 この世でも言うておる。 【もちつもたれぇつ】と。 だから我等は進めような。 一人では成せぬ事も、二人三人ならば、更に十人ならば容易にさえ出来よう。 そうして出来た物こそが進歩というものよ。 拙僧はその進歩というものが好きで堪らんのでな」


 引くはずも無い。

 ジョゾウには守るべき者達が、共に生きて歩む者達が今ここに居る。

 故郷でも、きっと彼の帰りを待っているであろう家族や同胞達が居る。

 それを素で良しとする男に、孤独など似合うはずも無いのだ。

 

 その在り方はまさにレヴィトーンの対極、陰と陽。

 孤独に寄り添う事を是とする者とは、願う世界がまるで違うのだから。


 それを悟ったのだろうか、レヴィトーンがそっと(あご)を落とす。

 ただジョゾウに視線を向ける事も無く、虚空を視界に浮かべたままで。


「やはりわからないか。 これだけ語ろうとも」


「想いはわかろう。 しかし慰めなどを欲している訳ではあるまい?」


「無論だ。 悲しみも、苦しみも、己という空壺に何度も沈め消して来た。 もはや慈しみさえ不要よ。 だがそれでも、出来うる事ならわかって欲しかったのだ。 孤独であるべきというこの想いをも……」


「拙僧にはわからぬよ。 家族も、仲間も居る身ゆえな」


「そうか……なれば、もはや語るまい」


 二人は思考こそ似ていても、その人生は似ても似つかない。

 溶け合いそうで合わない、水と油の様なものだ。

 そして魔特隊と【救世】という立場さえも異なれば。


 もはや相容れる事さえも叶わないのかもしれない。


 間も無く静寂が場を包み、枯れた風切音がぴゅうと互いの耳を突く。

 その二人も今や火照りを除く事も、安らぐ事も忘れ、互いに意識を向け合うのみ。


 構えずとも警戒を見せ続けるジョゾウ。

 横目を向けて静かに佇むレヴィトーン。

 そこにもはや先程の穏やかさは残されていない。


 するとそんな中、レヴィトーンが背を逸らしたままに片腕をすっと引き上げる。

 人差し指をゆるりと浮かせながら。


「ジョゾウよ、外を見てみるがよい」


「ヌ?」


 その指先が示すのは建屋の先、フェンスの向こう。

 先程まで見ていた空にはとても届きそうにない向きだ。


 あれだけ空に拘っていたからこそ、それがジョゾウには不思議に思えてならなくて。

 ふと、誘われるままにフェンス側へと一歩を歩ませる。


 そして間も無く気付く事となるだろう。


 レヴィトーンにはもう、語る必要が()()()()()()()のだという事実に。

 

「な、なんとおッ!?」




 なんと、数知れぬほど無数の魔者達が、魔特隊本部の外を覆い尽くしていたのである。




 それもジョゾウが見える範囲だけではない。

 敷地を覆う外壁全てを取り囲む様にして魔者達がひしめいていたのだ。

 それも、外に居たジョゾウにさえ気付かれずに。


 一体どこから現れたのか。

 どこに潜んでいたというのか。


 ただもう、その答えはわかりそうにない。


 魔者達は既に展開済みなのだから。

 それどころか外壁さえよじ登り、今にも敷地内へと入らんとしている。


 たまたま通り掛かった住人は当然逃げる一方だ。

 踵を返して駆け、車をバックさせたりなどで必死に。


 でも魔者達はそんな住人達に一切手を出そうとはしない。

 全てが全て、魔特隊本部へと敵意をぶつけているのだから。


「不味い!!」


 その様な魔者達をこのまま放置する訳にはいかない。


 ジョゾウが空かさずインカムを取り出し、強制通話スイッチへ指を掛ける。

 今まだ事務所に居るであろう仲間達へ危機を知らせる為に。

 

「皆の者!! 敵襲に御座るッ!! 本部が包囲されておるゥ!!」


 それも、地声だけで届きそうな程の大声で。




 だが―――




ピュインッ!!




 その瞬間、インカムが粉々に砕け散る。

 空を裂く一閃がその筐体を貫いたのである。


「おおッ!?」


 余りにも一瞬の出来事に、ジョゾウが驚き咄嗟に飛び退く。


 ただもうインカムなど気にしている場合ではない。

 その手には砕けた破片などでは無く、魔剣が携えられていた。


 目前の敵意へと備える為に。


 そう、既にレヴィトーンがジョゾウに敵意を向けていたのだ。

 その手に握る刃の切っ先と共に。


 恐るべきは、その刀捌きか。

 今の一閃はジョゾウさえ見切るに至っていない。


 それだけ、ただ―――速かったのだから。


「語りを聞いてくれた礼に、一度の報は許そう。 だが、それで終わりだ」


ピュピュインッ!!!


 再び刃が空を裂く。

 瞬時にして十字に。

 己の背丈をも超す刀をいとも容易く操って。


 そして身構えし姿は、まさに剣豪の威。

 掲げる様に構えた刀は刃を天に反らせ、切っ先を指でなぞらせる。

 その先に見据えたジョゾウへ殺意を、落ちる世界に叛意を。


 後はただ腰を落とし、来たるべき一瞬に備えて力を溜め込ませるのみ。

 細めに細めた鋭い眼で狙いを研ぎ澄ましながら。


「後は死合おうか……互いの意地と、信念を賭けてな」


「やはりわかり合えぬか、其方とはッ!!」


 もはや戦う以外に道は無い。

 それこそがレヴィトーンの意思であり、願いでもあるからこそ。


 孤独を求めし者に、敵など斬る以外の価値は無し。




 無数の魔者達が本部内へと進入を果たしていく中、二人はただ静かに対峙する。

 勝つのは、繁栄を護りし二刃の風来坊か。

 それとも、孤高を貫きし疾風の剣客将か。


 果たして―――




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