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時き継幻想フララジカ 第二部 『乱界編』  作者: ひなうさ
第二十五節 「双塔堕つ 襲撃の猛威 世界が揺らいだ日」(東京動乱 前編)
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~双塔に向かいし者達~

 デュゼローが勇を執拗に狙う真の理由はわからない。

 でも、その存在がかねてより勇達に悪影響を及ぼしていた事はもはや明白である。


 考えても見れば、その影はずっと前から見え隠れしていたのだから。


 最初は空島で、ゴゴンと出会った時。

 彼は確かにこう教えてくれた。

 「得体の知れない()が言っていた」と。


 その男の正体は極めてデュゼローに近いだろう。

 本人か、あるいは同等の仲間か。

 なにせあの我が強そうなメズリやグルウ(空島で戦った者達)を言い包められる程の存在なのだから。


 次に、オッファノ族のウロンドと別れる時。

 彼はこう言い残して去って行った。

 「()に気を付けろ」と。


 これは紛れも無くデュゼローの事だ。

 何故なら、ウロンドはその存在を直接見た事があるのだから。


 実はあの会議後、福留とウロンドは再び話し合いをしている。

 その際「〝奴〟とは誰なのか」と尋ねていて。

 ウロンドはそれにこう答えたのだという。


「知らない、名前。 ただ、ディビー達、連れて来た。 危険だ、あの()()の男は。 知っていた、お前達が来る事。 〝フジサキユウを狙え〟、こうも言っていた」


 惜しむらくは、オッファノ族に絵画(デッサン)の文化が無かった事か。

 故に、男の存在を図として証明する事は出来ず。

 人間が全部同じに見えるという魔者の欠点があだとなったらしい。


 惜しむらくは、その情報を手に入れるのが遅かった事か。

 オッファノ族との戦いと今回の事件に後一ヵ月ほど間があれば、警戒も出来ただろう。

 しかしそれも叶わないまま戦いが始まってしまった。


 これが福留の抱く不安である。


 相手は何重にも罠を張り巡らせている事だろう。

 正直な所、勝ち目が全く見えない状況だ。

 なのに何の万全も期す事出来ないまま勇達を送り出さねばならない。


 それが如何に悔しいか。

 それが如何に苦しいか。


 〝いっそ自分の様な老人が犠牲になって済むなら良いのに〟

 こんな事さえ考えて止まらない程に。


 だからこそ福留は今この時、自分が出来る事を全てこなしてみせる。

 それが勇達へと出来る詫びであり、贖罪であると思ったから。


 そして願わくば、真の意味で生きて帰ってくる事を願って―――






 魔特隊本部ゲートが開き、勇達の乗った車が姿を現す。

 そうなればもう、後はただ突き抜けるだけだ。

 心輝らしい粗々とした運転のままに。


 指定時刻までの残り時間はおおよそ一時間半。

 都庁へ辿り着くには申し分無い。


 運転席には心輝、助手席に勇。

 後部座席で茶奈と瀬玲が並んで座る。

 長物の【イルリスエーヴェ】が車内中央を貫いて窮屈だが、この際だから仕方ないだろう。

 

 しかし車内は至って静かだ。

 喋ったりする気にもなれず、陰鬱な雰囲気すら漂わせる。


 ただ、そんな空気に耐えられない者が一人居る訳だが。


「なぁ勇、デュゼローの野郎にタイマンで勝てる自信あるか?」


 斜陽が街を包み、気持ちにさえ陰りを誘う。

 そんな淡い朱空(たそがれ)は、勇の気持ちをも代弁するかのよう。


 その空を彩る陽と同様に、表情もまた浮かなかったから。


「わからない……けど正直な所、勝ち目が有るとは思えない」


 これが今の勇が持つ答えだからこそ。


 デュゼローの見せた力の片鱗は未だ計り知れない。

 その僅か一端を見せつけられただけで、勇は何も出来なかった。

 動きを止められ、隙まで与え、良い様にされてしまったのだ。


 もし同様の事が戦闘で起きれば、まず間違いなく負ける。


「相手は剣聖さん並みの実力者なんだ。 それに俺は今にも命力が切れそうなポンコツだしな」


「まぁ、な……」


「翠星剣の命力も半分くらいしか溜まってないんだ。 それでどこまで戦えるか、って所だろうな」


 訊けば訊く程、絶望的な答えしか返ってこない。

 それは心輝達も例外ではないが。


 オッファノ族との戦いでの消耗はまだ尾を引きずっている。

 体調は優れていても完全とは言い難いし、装備もあの時から整備が行き届いてない。

 せいぜい勇の魔装と魔甲が新品に変わったくらいで。


 万全なのは()()くらいだ。




「それなら、皆で一緒に戦えばいいんです」




 そんな提案が背後から聴こえ、勇がふと振り向く。

 すると視線の先には、優しく微笑む茶奈の素顔が。


「勇さん一人では無理かもしれないけど、私達が全員で掛かれば―――きっと勝てますよ!」


 そう、茶奈だけは万全だ。


 完全な茶奈ならばもしかすればデュゼローにも太刀打ち出来るかもしれない。

 例え相手の実力が上でも、それを圧倒出来る程に多大な命力が有るのだから。


 それに、彼女の言う通りでもある。

 タイマンで勝てなさそうなら、全員で掛かればいい。

 いくらデュゼローでも、四人で仕掛ければひとたまりもないだろう。


 茶奈の応援の様で緩い気合いの一声が、勇達の不安をふわっと吹き飛ばす。

 どうやら勇達にはこういう時こそ彼女の様な緩さが必要らしい。


「茶奈……そうだな、皆で力を合わせよう。 それしかデュゼローに勝てる手段が無いのなら!!」


「あぁ~それなら大賛成だぜ。 なんなら俺がトドメにブッ飛ばしてやんよぉ!!」


「フフッ、面白くなってきたじゃん。 また本気で暴れられそ」


 準備は万端でなくとも、気力だけは充分だ。

 それでこうして息が合ったなら、恐れる事は何も無い。


 デュゼローの無慈悲なる救済を食い止める為にも。

 自分達が信じる真の未来を勝ち取る為にも。


 今はただ前を見据えるだけだ。

 悲観なんてかなぐり捨てて。




 例え間も無く東京が夜に包まれようとも、まだ勇達の心から光は消えていない。

 ならばその光が道を照らし続ける限り、希望は迷わず進める事だろう。


 その希望と期待を胸に、勇達は行く。

 暗くなり始めた国道を突き抜けて。


 〝必ずデュゼローを止めてみせる〟

 そう、心に誓いながら。




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