~老人は無念を抱えて~
一方、魔特隊本部では―――
デュゼロー達による動画が終わった直後より、勇達は慌ただしく動き回っていた。
「勇さん、コイツを持っててくださいッス!!」
「これは魔装と魔甲?」
「今の勇さん用にチューンした特別仕様ッス。 今までよりずっと楽に戦えるハズッス!!」
「ありがとうカプロ! よし、これで準備万端だッ!!」
そう、戦闘準備である。
満を持して福留から出撃指令が出たのだ。
動画を通してデュゼローから挑戦状も届いた。
それに都知事が人質に取られているのならば、行かない理由はもう存在しない。
準備が整えば、後はもう出立するのみ。
再び事務室に全員が集まり顔を合わせる。
「未だ小嶋総理からの出撃命令は来ていませんが、もはや一刻の猶予もありません。 ですので彼等の通告通り、勇君達には早速出撃して頂きます。 亜月さんは入院中に付き行けませんが、恐らくは平気でしょう。 狙いはきっと勇君のみですから」
「俺もそう思います。 でなきゃわざわざ東京のど真ん中で〝挨拶〟なんてしやしない……!!」
どうやら福留はデュゼローの意図も読み取ったらしい。
ただでは項垂れていなかったという事か。
悔しがりながらも、思考は巡らせていたのだろう。
もう二度と間違える事はあってはならない、と。
デュゼローの狙いは間違い無く、勇ただ一人なのだと。
何故なら、勇がキッカケとなって魔特隊が生まれたから。
リーダーではなくとも、仲間達の中心に居るからこそ。
中心的存在を討つ事で魔特隊という組織そのものを瓦解させるつもりなのだろう。
デュゼローがどうしてその事実関係を知ったかは定かでない。
だがこれは紛れもない真実で。
皆もそれをわかっているからこそ、疑いようも無い結論だと至ったのである。
「ならば我等も―――」
「勇君達のみでお願い致します。 これは決定事項です」
だからといって無用な勇み足は許されない。
人の命が、世界の行く末が掛かってるからこそ。
アージの進言にも、福留が空かさずその手で制して見せる。
「指名されていないメンバーは魔特隊本部内にて待機。 有事の際のバックアップ要員として動いて頂きます」
「ヌウ……わかった」
今は信じるしかないのだ。
勇達がデュゼロー達の策略を押し退ける事を。
「心輝君、車の運転は出来ますね?」
「おう、免許取ったばかりだけどな!!」
「では、私の車を使ってください。 どう扱おうが構わないので。 警察にも道を空けてもらいます。 彼等の誘導を見つけたら指示に従ってください」
「了解だぜ!!」
すると福留が内ポケットからキーを取り出して放り投げ。
心輝がそれを空かさず「バシッ」と掴み取り、魔剣を抱えたまま駐車場へ。
そして福留の視線がゆっくりと勇へと向けられる。
「勇君、都庁で何が待ち構えているかはわかりません。 ですが、無理をするなとも言えません。 くれぐれも気を付けて、無事に帰ってきてください」
「わかりました……必ず帰ります!」
その時、二人は手を握り交わしていた。
互いに想いを篭めた、力強い握手を。
相変わらず、福留の手は年寄りとは思えない程に暖かい。
この時の為に温もりを溜めていたのかと思える程に。
でもその温もりが、今の勇にこれ以上無い勇気を与えてくれる。
今までと同じ様に。
だから勇は―――勇達は胸を張って行く事が出来る。
福留達が背中を支えてくれるからこそ。
もうそこに、不安も迷いもありはしない。
勇達が去り、事務所に再びの沈黙が訪れる。
今残された者達に出来る事は何も無いからこそ。
ただただ無念に想いを馳せ、勇達が去った後も見送り続けるのみ。
「いつもこうですね。 私はこうやって送り出すだけ……全く情けない話です」
「仕方あるまい。 指揮官は座して構える事が大事なのだ。 こちらの兵法書にもある事よ」
けれどきっと、その想いは伝わっただろう。
心の色を、肌を通して、勇達は感じ取っていたはずだから。
そう信じているからこそ、アージ達は揃って福留へと頷いて見せる。
「ええ、信じましょう。 デュゼロー達が如何に強力な相手だろうと、勇君達ならきっと突破出来るでしょうから」
例えその心に、一抹の不安が残っていようとも。
それさえも振り払ってくれるだろうから。
今はただ、信じ続けよう。
勇達の勝利を願って。




