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時き継幻想フララジカ 第二部 『乱界編』  作者: ひなうさ
第二十五節 「双塔堕つ 襲撃の猛威 世界が揺らいだ日」(東京動乱 前編)
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~世界が揺らいだ日~

「では語るとしましょう。 その全容を」


 遂にデュゼローによる演説動画が始まった。

 今、世界で起きている事の真相を語る為に。

 それも世界中の人々を巻き込む形で。


 その語りが人々を惹き付ける。

 その話題が好奇心を惹き付ける。


 その果てに待つ真実を望むままに。


「今、皆様の世界と我々の世界―――言わば異なる二つの世界が今、一つになろうとしています。 その原因は我々の世界の複雑な事情から成った事であり、皆様の世界はそこに巻き込まれた形となります」


 デュゼローがその時して見せたのは、自身の両手を使ったジェスチャーで。

 両拳を双方の星と見立てて動かし、合わさる様子を再現させる。


「我々の世界は元々、皆様の世界と同じ()()()を持っておりました。 この大きさとは質量の事ではなく、いわゆる存在定義の事です。 ですが、遥か昔に愚かな一人の神が我々を嫌い、世界を二つに分けてしまったのです。 神々の世界と、我々の世界を切り離す為に」


 その拳が開かれ、双手の指が合う。

 一つの星となる様にして。


 でも、それも再び切り離される事となる。

 それも千切るかの様に荒々しく。


 そして掲げるのは、その内の左手のみ。


「しかし、存在が半分となった我々の世界はそのままでいようとはしませんでした。 元の大きさに戻ろうと、なんと次元を超えた先にある別世界との繋がりを欲してしまったのです。 その結果、皆様の世界を見つけてしまった。 だからこの様に重なり合ってしまった、という訳です」


 その中で再び現れた右拳。

 すると突如、左手がその右拳を覆い包む。

 まるで獲物に噛り付く獣の様に。


「そして今、二つの世界が一つになろうとしています。 我々の世界の一部が皆様の世界に侵食するという形で。 これがいわゆる【変容事件】と呼ばれる転移現象の正体です。 これは断続的にですが、今なお続いています。 これはきっと、世界が完全に一つになるまで続くでしょう。 我々はこの事象を研究資料にあった名称に肖り、【フララジカ】と呼称しております」


 すると再び画面が遠ざかり、登場人物全員が映り込む。

 気付けば、いつの間にかイビドとドゥゼナーが別のフリップに持ち替えていて。

 そこには【フララジカ】、【Frala'Jicka】という文字が。


 この話を間近で聴いていた大間も、動揺を隠すので精一杯だ。

 顔を強張らせ、厳格さを更に引き立たせているかのよう。


 どうやら彼は【フララジカ】については何も知らされていなかったらしい。

 すなわち、ここまでの話に関しては蚊帳の外だったという訳で。

 驚愕の事実と合わせ、俄然納得いかないのだろう。


 総理大臣と同等の立場とさえ言われる東京都知事の立場でありながら、何も知らされていない。

 厳格な大間にとって、これが如何に屈辱的な事か。


 とはいえ、そんな大間の感情などで話が遮られる訳でも無く。

 一つの節目を終えたという形で、デュゼローの語りが徐々にトーンを落としていく。


「この【フララジカ】という事象は言わば世界の意思であり、我々人や魔者の意思とは無関係です。 ですが、敢えてここでまた一つ謝罪をさせて頂きたい。 その世界の一部である者達の代表として、巻き込んでしまった皆様に対し、深くお詫び申し上げます」


 こうして謙虚な姿を見せるのも、伝える上で大切な事なのだと理解しているのだろう。

 例え自分達に何の責も無いとしても。


 それに謙虚だけが素直な対応とは限らない。

 語る相手に寄り添う事もまた一つの手段だと知っているからこそ―――


「さて、現状の状況を伝えた所で一つ息を整えたく思います。 そこで、千野アナウンサーに一つ質問をして頂きたい。 今の話から思った事を何でも訊いて頂いて構いません」


「は、はい。 では―――」


 こうして現在の『こちら側』の代表でもある千野に話の機会を与える。

 それもまた、動画を視聴している者達への一種のサービスに見える事だろう。


 ただ、この振りの事を千野は知らされていない。

 つまり、質問をアドリブで行う必要がある、という事だ。


 故に、千野の声が詰まる。

 彼女もまた、真実を聴かされたばかりだからこそ。


 肩を揺らして呼吸する様からして、千野が動揺している事は明らかだ。

 しかしそれでもモッチは役目を果たす為に、カメラを彼女へと向ける事を止めない。

 それは単に、モッチが千野の事を信じているから。


 こういう時こそ彼女の本領が発揮される時なのだと。


 その想いが通じたのか、それとも無意識的になのか。

 千野の唇が「キュッ」と絞られ、間も無くゆるりと解かれる。


 覚悟を決めた時の仕草だ。


 それに気付き、モッチの操るカメラがズームインしていく。

 彼女の顔へと目掛けて真っ直ぐと。


「せ、世界がもし一つに()()()()()しまったら、一体どの様な事が起きえるのでしょうか?」


 そんな千野が何よりも求めたのは―――本筋の続きだった。


 デュゼロー自身の事よりも、他の些細な事よりもずっと大事な話だと思えたから。

 〝今はただ真実を知りたい〟という欲求に従った結果、この質問に至ったのである。


 ただ、それはデュゼローにとっては望む所だった様で。

 画面の外で僅かな微笑みを返し、こくりと頷きを見せる。


「いいでしょう。 ですがその話は伝えたい事の根幹にも繋がりますので、心して聞いて頂きたい」


 そして根幹に繋がる話だからこそ、纏う雰囲気をガラッと変える事となる。

 優しさの一切を排した、真剣で厳しい表情へと。


 再びカメラがその姿を映し込む中で。




「一つに成りきった世界は―――即時に崩壊し、全てが一からやりなおしとなるでしょう。 二つの世界で培われてきた文明も、人類も、生命も物質も何もかもが、物理現象すら分化崩壊させ、全く新しい世界が構築される事になると私は結論付けています」




 その時、世界は揺らいだ。


 揺らがないはずが無かったのだ。

 世界の根幹をも崩壊させる事象が起きると言われてしまえば。


 この動画は日本向けではあるが、実は字幕の表示が出来る様になっている。

 本筋の語りに限り、主要言語全てに対応しているのである。


 だからこそ、動画を見ていた者は即座に知る事が出来てしまった。

 世界の行く末が原初への崩壊であるという事実を。




 とはいえ、きっとこの事情を知る者達は大して驚く事は無かっただろう。

 デュゼローの語った事は、ラクアンツェから伝えられた事と全く同じだったから。

 これもまたまじないの結果か、未発達の脳から出て来た妄想に過ぎないのだと。


 今までのスタンスを変える必要は無いとさえ思っていた事だろう。


 だがその者達はこの時、改めて考えさせられる事となる。

 自分達が如何に思考停止していたのか、と気付かされる事によって。




「―――ですが、その崩壊を免れる方法が()()()()存在します」




 その一言が、全ての者達の意識を画面へと貼り付けたのだから。

 大間が、千野が、モッチが、世界の民衆が。

 動画を見ていた勇達もが。


「要は二つの世界が一つに成る前に事象の動きを止めればよいのです。 私は【フララジカ】の事を知って以来、身体に宿る力を以って寿命さえ伸ばし、三〇〇年を掛けて多くの情報を集め回りました。 当然、この世界に訪れてからも。 そしてその結果、とうとうこの事象を止める方法を突き止めたのです。 都庁を占拠したのも、その方法をより多くの人々に伝えたいが為の事でした」


 その方法はまだデュゼロー達にしかわからない。

 でも、多くの者達の知る必要があったのだろう。

 そうしなければならない理由があるのだろう。


 だからデュゼローは都庁を占拠したのだ。

 注目度を上げ、世界中の人間に真実を理解してもらう為に。


 更には、その対策手段をも知ってもらう為に。


 全ては救世の為に。

 その一心で語るデュゼローに、全ての人間が期待を向ける。

 そして願い求めるだろう。


 その〝世界を救う〟方法を。






「世界の融合を止める方法はただ一つ。 皆様の世界の者と、我々の世界の者とで憎み合い、恐れ合い、奪い合い、殺し合えば良いのです……!!」






 だが、その期待は間も無く崩れ去る事となる。

 明かされた方法が、とても〝救世〟とは言い難い手段であったが故に。


 余りにも残酷過ぎる現実に、人々はただただ茫然とする他なかったのである。


 それは大間や千野、モッチも一緒で。

 ただただ唖然とし、何一つ言葉が出ない。

 カメラを動かす事さえ忘れてしまう程に。


「そしてそれは、皆様の世界の者同士、我々の世界の者同士が争う事でも更に効果を発揮出来る事でしょう。 その理由は、『相手を否定する』という意思こそが大事な要素となるからなのです」


 それでもデュゼローは語る事を止めない。

 例えそれが自身の望まない結論であろうとも。


 その方法だけが、世界を救う唯一の手段だと信じているからこそ。

 その方法こそが、長年研究し続けて導き出された結果だったからこそ。


「二つの世界の融合はいわば世界の意思の為せる業でしょう。 ですがその世界の一部たる人間や魔者が相手の存在を拒絶する事で、結果的に世界の融合を拒絶する事に繋がります。 その果てに否定の想いが強く極まった時、混ざる事を嫌った世界が完全に融合を止める。 それこそが今の状況を止めるただ一つの手段なのです」


 故に男は世界に告げる。

 人を憎み、魔者を恨み、他者を否定する事を。


 それこそが【救世】。

 それこそが【真実】。


 それを誰が疑えるだろうか?

 それを誰が批判出来るだろうか?

 それを誰が是正出来るだろうか?


 出来るはずも無い。

 誰も、真実を知りはしないからだ。


 誰も、その結論を覆す証拠など持っていないからだ。


 誰も、その証拠を導こうとは……していなかったからだ。




 それは、この世界の事象を知っていた魔特隊でさえも決して例外では無い。




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