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時き継幻想フララジカ 第二部 『乱界編』  作者: ひなうさ
第二十五節 「双塔堕つ 襲撃の猛威 世界が揺らいだ日」(東京動乱 前編)
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~全世界に向けた声明~

 〝東京都庁が魔者達によって占拠〟

 この前代未聞とも言える大事件により、東京が、日本全土が騒然とする事となる。


 事件が発覚したのは発生後間も無くの事だった。

 逃げおおせた者達がこぞって警察に飛び込み、あるいはSNSを通して拡散したからだ。


 事態は瞬く間に進み、現在都庁周辺は警察と自衛隊によって包囲済み。

 とはいえ場所が場所とあって完全に封鎖する事は難しく。

 更にその周りを大量の報道陣とやじ馬が囲い込み、都庁周辺を賑わせる。


 きっと誰しもまだ、これはただの占拠事件としか思っていないのだろう。

 当事者になりえるとは思っていないのだろう。

 ただ本物の魔者を見る為だけに来た者も居るのだろう。


 だが、すぐに彼等は知る事になる。

 自分達が見せつけられているのが、決して暴力やテロリズムではないという事を。


 自分達が決して蚊帳の外の人間なのではないという事を。






 都庁が魔者に占拠された話は、勇達魔特隊の下にも当然届いている。

 警察を通して情報がリークされたからだ。


 それに、テレビももう既に緊急特番だらけで。

 どの放送局もがこぞって事件の現場を克明に伝え続けている。

 わざわざ現地に赴かなくとも状況がわかる程に。




 そう、勇達はテレビを通して現場の状況を確認している。

 まだ本部に居たのだ。




 それもそのはず。

 今回の事件がデュゼロー達の仕業とはまだ証明されていないからである。

 これ程の騒ぎの中でも、当人を映した証拠映像が見つかっていないのだ。


 関係している事はほぼほぼ確実と言えよう。

 しかし当人の姿は未だ見られず、画像なども上がっていない。

 庁舎の中で悠長に写真を撮る者など居なかったから。

 

 そうなれば、この都庁制圧が罠である可能性も否定出来ない。

 意図が読めない以上、迂闊に飛び込むのは危険だ。


 そういう事もあって国からの出撃許可はまだ下りず。

 福留も「まだ出撃するべきではない」と待機指示を出したまま。

 今はただ、目前の映像に歯痒さを噛み締める他ない。


 とはいえ、その歯痒さは少し別の方向性(ベクトル)の話題に対してだが。


「コイツラ、ほんと好き勝手言ってんなぁ」


 こうして心輝がイラつきを見せるのは、テレビそのものに対してだ。


 それというのも、特番に合わせて現場聴取(インタビュー)や〝専門家〟の意見までが飛び交っていて。

 いずれもがどうにも見当違いな事ばかりを述べるものなのだから。


 彼等が宣っているのはこんな意見ばかり。


 〝こんな事件を引き起こして、警察や自衛隊は何をしていたのか〟

 〝政府は何故彼等を侵入させてしまったのか、政治責任だ〟

 〝東京の安全意識に問題があるのではないか〟

 〝テロリストを許す様な税金の使われ方でいいのか〟

 〝即刻魔者達を射殺して都庁を取り返すべき。 彼等は人間ではない〟


 ―――全く以って的外れだ。


 治安を守るのが警察の役目だが、その警備網も完璧ではなく。

 デュゼロー達の様に巧妙に隠れて動かれれば、察知する事は困難で。

 自衛隊に至っては精々海・空域くらいしか防衛行動を起こしていない。


 政治追及に至っては筋違いもいい所だ。

 彼等は日本の統括政治を行うだけで、直接治安を守っている訳ではないのだから。


 安全対策もこれ以上は厳しいだろう。

 国民自身気付かない者も多いが、これでも世界を誇る程に治安維持が徹底されている。

 それでもなお潜り抜けられるデュゼロー達が巧妙過ぎるのだ。


 そして何より、最後の意見が最も無神経で。

 これには勇達もが憤りを隠せない。


「手を出せる訳がないだろ……魔者に普通の武器が効かない事はもう皆知ってる事じゃないか。 それに簡単に殺すなんて、そんな事をどうして平気で言えるんだッ!!」


 そう宣う者に魔者への人権観はもはや存在しない。

 だからさも当然の様にそんな事を言い放つ事が出来る。

 理屈的にも、倫理的にもおかしいと思わずに。


 それに、世界には魔者の特性も既に公表されている。

 直接的な通常兵器は不思議な力で弾かれて、通用しないのだと。

 命力というキーワードこそ伏せられているが。


 故に彼等は〝自衛隊が魔者を殺せる武器を持っている〟とでも思っているのだろう。

 その武器のお陰で魔者達を〝従えている〟のだと。


 だからこそ勇達は憤る。

 自分達の勝手な思い込みで何でも出来ると信じ切っている事が。

 それ程までに、まだ人々が魔者に対して〝同等の価値観〟を持てていないという事に。


 魔者達と手を取り合う為に今日まで戦ってきた。

 それを否定されたかの様で、悔しくてならなかったのだ。


 そうなれば嫌気も差すだろう。

 何も知らずに無責任な事を語る者に。

 何かと政治批判に繋げる報道陣に。

 なまじ全容を知っているからこそ。


「福留さん、俺達は一体いつ出撃出来るんですか……?」


「まだわかりません。 今はまだ相手の目的も意図も読めませんし、中の状況すらわかりませんから。 都知事の姿が無い所を見ると、恐らく人質に取られているのでしょう。 迂闊に手を出して人質に被害が出るのだけは避けねばなりません」


 ただ、だからと言って感情のままに動く事も出来ない。

 動いてしまえば勇達の存在が露呈しかねないのだから。


 やり場の無い焦りが勇達を包む。

 ただ刻々と番組が情報を垂れ流し続ける中で。




 するとその時、突如として室内に電子コール音が鳴り響く。

 スマートフォンの着信音だ。




 それに気付いて筐体を持ち上げたのは、他でも無い福留で。

 手早く通話を始め、淡々と相槌を打つ。

 勇達が静まりかえる中で。


「はい、えぇ……えッ!?」


 しかし間も無く何かに驚き、動揺を見せていて。

 空かさず電話を充てたままテレビのリモコンを手に、チャンネルを切り替える。


 そしてその時初めて、勇達は気付く事となる。

 切り替えた先のチャンネルだけが、他の局とは全く異なる様相を誇っていた事に。


 映し出されたのは、あの日之本テレビのチャンネルだ。

 その伝えていた内容はと言えば―――




「―――繰り返します。 当局の報道員が都庁を占拠したテロリストの首謀者と思しき者達と接触し、彼等の声明を直に伝えるとの事です。 情報ですと、これより……三分後、15:00より報道員からの映像が動画投稿サイトにて生放送されるという事です―――」




 この急展開に、さすがの福留も眉を細めさせる。

 もはや表情は真剣そのもので、いつもの余裕は見られない。


 何せ出し抜かれたといっても過言ではない状況なのだ。

 用意周到とも言える事態の連続に、焦燥感を感じずにはいられないのだろう。


「福留さん、これって……!?」


「えぇ、きっと(デュゼロー)の仕業でしょう。 さて、何をしでかしてくれるのでしょうねぇ」


 そんな事をぼやきつつ、勇達が目の前の画面に釘付けとなる。

 黒い画面を流し続ける番組へと、ただただ静かに。




 これから始まるのは、海外企業運営の有名動画投稿サイトでの生配信動画である。

 つまり国境無し(グローバルフリー)の動画だという事だ。


 要するに、これから流れる映像は日本のみならず、世界が閲覧する事となる。

 果たしてそれが吉と出るか、凶と出るか。


 勇達にそれを推し量る事は、まだ出来そうにない。 

 





 今この時も、多くの者達が動画開始を今か今かと待ち続けている。

 それは勇達の両親や愛希達、池上や倉持も決して例外では無かった。

 





 藤咲家では―――


 早い時間にも拘らず、父親が帰宅を果たす。

 勤務先の会社が異様な状況に気付き、社員に帰宅を促したからである。


 母親の方は元々休みの在宅中で。

 夫が帰って来た時には驚きを見せたものだ。


 でも、勇達の事情を知る二人としては内心気が気でなかった事だろう。

 魔者による都庁占拠など、明らかに息子の活動範疇と言える出来事だったのだから。

 深くその事情に関わっているだけに、不安を隠せない。


「日本は一体どうなっちゃうのかしら……」


「大丈夫さ、きっと勇達が何とかしてくれるよ」


 ただ、勇達が強い事も知っている。

 これまで幾度と無く苦難を乗り越えてきた事も。

 だから今は信頼し、状況に身を委ねるだけだ。


 心配そうな母親の肩を、そっと父親が腕で包んでその心配を和らげる。

 そうして今は彼の胸に頭を預け、二人は寄り添いながら静かにテレビを眺めるのだった。






 愛希達は―――


『藍:テレビ見た!? ヤバイ!!』


『風香:日本終了ってやつ?』


「バーカ、そんな簡単に日本が終わる訳ないっての……」


 現在、愛希は状況も知らないまま受験勉強中。

 今年度最後の入試に向け、必死に参考書を読み回している最中で。

 そういう事もあって、この時間は仲間とも連絡し合わないはずだったのだが。


 突如グループメッセージが入り、いざ覗いてみれば―――『日本終了』の文字が。

 半ば呆れ気味にシャープペンシルを指先でくるりと回し、スマートフォンをコトリと机に戻す。


 とはいえ、そうボヤキつつもやはり何か気になった様で。

 好奇心のままにテレビの電源を付けてみれば―――

 

「何、これ……」


 画面に映り込んだ現実が、たちまち愛希を愕然へと追い込む事となる。


 余りにも常軌を逸した状況に、もはや絶句する他無く。

 勉強の熱意すら吹き飛び、ただただ画面に釘付けとなっていた。






 倉持ジムでは―――


 池上が一心不乱にサンドバッグを殴り続ける。

 部屋の隅に設置されたテレビに視線を一切移す事無く。

 粗雑な彼の事だ、きっと世俗には一切興味が無いのだろう。


 ただ、オーナーである倉持は別な様だ。

 

「おいコウ、ちょっとこっち来てみろ。 とんでもない事になってるぞ」


「オーナー、試合近いんスよ? ちょっとでも仕上げとかねェと」


「馬鹿野郎、その試合すら怪しくなるレベルでヤバそうだ」


「あん?」


 そう言われ、池上が腕を動かしつつもテレビへ視線を向ける。


 とはいえ、動画開始にはまだ至っておらず。

 画面はまだ黒の映像が続くだけで動きは全く無い。


 ただ、逆にそれが際立って見えたのだろうか。

 腕の動きが次第に緩みを帯びていく。

 それも口をポカンと開かせながら。


 単純に、状況が理解出来ていないが故に。

 なにせたった今からテレビを見始めたのだから無理も無いだろう。






 彼等だけではない。

 日本だけではない。

 事を知った多くの者達が、世界中でこぞって待機中の動画ページを開いていく。

 それは米国外交官のミシェルや、中国軍人の龍なども例外ではなく。


 そんな者達の不安と期待が入り混じえながら、時は過ぎ―――




 そして多くの人々が注目する中、問題の動画が遂に配信開始されたのだった。




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