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時き継幻想フララジカ 第二部 『乱界編』  作者: ひなうさ
第二十五節 「双塔堕つ 襲撃の猛威 世界が揺らいだ日」(東京動乱 前編)
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~今はただ心休めるのみ~

 聖夜が明け、朝が訪れる。

 クリスマス当日となれば、例え平日であろうと多くの人々が街を彩る。


 ―――はずであった。


 しかし不思議にも、外を歩く人の数は明らかに例年と比べて少ない。

 それどころか一般車両さえもどこか少なく、いつもよりも流れがずっと速い。


 平日ならば人が少ないのはわかるが、車両が少ないのは妙で。

 祝日ならばここまで少ないのは本来有り得ない。


 では何故ここまで人が少ないのだろうか。




 それは恐らく、勘のいい者が気付いたからだろう。

 「今日の東京は何かがおかしい」と。




 ただ、そう思うのも当然なのかもしれない。

 何せ警察車両が公道をひっきりなしに走り回っていて。

 時には本来通らないはずの自衛隊車両までが幾度となく姿を晒していたのだから。


 キッカケは当然、代々田公園での一件だ。

 そこから不穏さを感じ取った者が噂を流したのが始まりだった。


 〝先日の代々田公園で魔者が現れたらしい〟

 〝警察や自衛隊が魔者を探しているのでは〟

 この様な噂がSNS等に流れ始めたのである。


 噂はそれだけにはとどまらず、遂にはフェイクニュースまでが現れる程に。

 〝東京でまた変容事件が起きた〟だの〝隠れていた渋谷の魔者が出て来た〟だのと。

 根も葉もない噂があっという間に飛び交い、ネット上は大騒ぎで。

 だから誰しもが恐れて外出を避けている、という訳だ。


 今出ているのは詰まる所の情報弱者、あるいは噂など信じない現実主義者か。

 もしくは真実を確かめんとする変わり者か――― 一般人に扮して調査している捜索班くらいだ。


 とはいえ都内のどこでもそれらしい騒動は起きておらず。

 むしろ平和そのもので、ニュースもいつもと変わり映えしない。

 そんな事実に気付いた者達が外を歩き始めた頃には、すっかり今まで通りに。


 気付けば、いつもよりも静かなクリスマスが街中を彩り始めていた。

 ほんの少し、ただ人の少ないだけの。




 だが、それはすなわち何も終わっていないという事。

 デュゼロー達がまだ見つかっていないという事に他ならない。

 



 少なくとも、まだ魔特隊には何の情報も訪れてはいない。

 故にただただ待ち続け、気付けば時間はとうとう昼前に。

 勇達も代わり代わりに仮眠を取りつつ夜を明かしたとあって、ほんの少し寝不足気味だ。


 ここまでの時間となれば、ほぼほぼ全員が起きてきている訳だが。


 なお、緊急事態という事もあって安居料理長は自宅待機。

 本来雑務で訪れる人員も同様で。

 今本部に居るのは魔特隊の正式メンバーのみだ。

 例外としてニャラも居るが、本部住まいなので一応正式扱いである。


 ただし、そのニャラも今日だけは何の役目も無い。

 安居料理長が不在だから食堂は閉められたままで。

 おまけに余った食材も無く、一人で料理も出来ないという状況なので。


 お昼御飯として代わりに用意されたのは、笠本と平野が買い込んで来たコンビニ弁当程度。

 お陰で、事務室の中では「チーン」という軽快な音がひっきりなしに響き続けていて。

 その試練を乗り越えた数人が不満そうな顔付きで口にかけ込む姿が。


「なんていうかよぉ、この『コンビニベントー』ってのは味付けが単調に感じちまうな。 安居さんの料理が恋しくなるぜぇ……あの料理が如何に神がかってるか、今更ながらに気付いたわ。 あの人が女神に見えてきた」


「言うなマヴォ。 全て解決すればまた食べれる様になる。 とはいえ、この唐揚げの衣の出来損ない感よ。 どうしたらこう簡単に剥けるのだ? このへたり具合はどうにも納得出来んな。 俺が揚げた方がもっと良く出来る自信があるぞ……!」


 大きい体の二人が小さなコンビニ弁当を突く。

 その光景が如何にシュールな事か。

 放たれる愚痴が二人の大きささえも小さくしてしまうかの様だ。


 さすがにその体の大きさを弁当一個で賄えるはずもなく。

 机には三段積まれた他の弁当箱が高々と。

 出遅れて現在温め中な勇達の気を惹いてならない。


「なればアージ殿とマヴォ殿も料理をしてみては如何か。 今世の『いけめぇん』は料理も出来る事が『最モテ』の条件と聞き申すぞ。 『れいん』で仲良き『じぇいけい』からの確定情報に御座る」


「あらぁ~相変わらずジョゾウさんって博識ねぇ~。 ところで『じぇいけい』って何かしら? 諜報員かしら~?」


 一方で、ジョゾウが器用に箸を操っては素早い動きで具を口へと運んでいく。

 それと交互に放たれる話題や言葉を前には、アージもマヴォももはや困惑気味だ。


 情報的にはとても為になる良い話なのだが。

 何分、専門用語が多過ぎて『あちら側』勢は誰も付いていけない模様。


 ニャラがなぜ『諜報員』などという言葉を知っているのかはさておき。


「なぁなぁ、オイラ達飯食ったら地下で修行してていい?」


「アタイもやるー!」


「まぁ皆ここに居るし、すぐ戻って来れるから良いんじゃん?」


 そんな緩い彼等を前にすれば、アンディもナターシャも妙に真面目と見えてならない。

 出会った頃からまだ一年経ってもいないというのに、随分な変わり様だ。


 もっとも、それは彼等の今のトレンドが「修行」というだけに過ぎないが。

 

 バイタリティは人一倍あるだけに、やる気も充分なのだが。

 コンビニ弁当は口に合わなかったのか、お肉を摘まんでおしまい。

 アージ達同様、安居料理長の料理で舌が肥えたのだろうか。


 瀬玲もあまり口にしたい物ではないみたいで。

 ほんの少しだけ突いて、意識は既にスマートフォンへ。

 それでも二人に返事を返す辺り、見るものはしっかり見ている様だ。


「何かあるかわかりませんし……はむ……しっかり食べておく事も体造りの基本だと思います!」


 一方で、見ている様で見ていない者も居る。

 そう、食べ物に関しては誰にも譲れない、茶奈である。


 その瞳は残された弁当箱に向けられていて。

 二人が去った後だというのに突然の一人語り。

 この調子だと瀬玲の弁当まで狙い始めそう。


 どうやらこの()()は、事を重ねるごとにレベルアップしていくらしい。


 もう既に五個の空き容器が机の上に転がっているというのに、まだ食べる気なのだろうか。

 確かに、もうすぐ戦闘が待っているのかもしれないけども。


「気張る必要は無いさ。 今まで通りで行こう。 あいつらみたいにさ」


 そんな現実に目を逸らし、勇がそっと事務室の端へと指を向ける。

 その先には、急遽設置されたテレビを見て笑い転げる心輝とカプロの姿が。


「ウピピピ!!これはいつ見てもたまんねッス!!」

「昼間こんなのやってたのかよ!! おっもしれぇギャハハハ!!」


 この二人だけは相変わらずマイペースだ。

 現在厳戒態勢の真っ最中だというにも拘らず。


 レンネィが居ない今、騒ぐ二人を止める者は居ない。

 というか誰も止めるつもりが無い。

 気付けばジョゾウまでが混じって笑いを上げる有様である。


 だが、止める必要も無いのだろう。


 福留の言った通り、敵はいつ姿を現すかわからない。

 故に、こうしてリラックスする事もまた大事に備える一つの手段となる。

 気を張り詰め続けるよりもずっと能率的だ。


 要は、戦いの時に全力を振り絞れれば良いのだから。


 なお、平野は特設室で仮眠中。

 笠本は別室で福留の代わりに各機関との連携の真っ最中。

 どちらも戦闘員ではないからこそ、今が彼等の戦い時なのである。




 勇達は今まで通りであろうとしていた。

 過ぎ去っていく時に焦りを感じながらも。


 全ては、これから起きうる大事に備えて。

 牙を研ぐ様に、心を研ぎ澄ます様に。

 それが戦士の成すべき事だと、誰よりもよく理解しているからこそ。






 一方、同事務棟内、相談室。

 そこでは福留とズーダー一人が顔を合わせて話し合っていた。


 それというのも―――


「さて、本題に入りましょう。 こうして呼ばれたのが何故なのかは察していますでしょうか?」


「ええ。 恐らく、例の隠れ里の連絡手段に関する事でしょう」


「その通りです。 そこでズーダーさん個人にお願いをしたく、お呼びさせて頂きました」


 福留が次の疑いを、隠れ里の通信網(ネットワーク)に向けたからだ。


 魔特隊を知るのは政府筋だけではない。

 アルライ族もまた、勇達を良く知る者としてそれなりに情報を持っている。

 グーヌー族が勇達を知っていたのも、隠れ里が持つ通信網を介して伝えられたから。

 となれば、今現在繋がっている他の隠れ里も、勇達の事を知っているという事になるだろう。


 もしもその繋がった一つに、デュゼローと関わる者達が居たらどうだろうか。


 そうなれば当然、流された情報は筒抜けだ。

 その情報を元に追跡すれば、()()()活動を知る事が出来てしまう。


「ただ、これから話す事は結果的にズーダーさんが嫌うお話となります。 なので敢えて始めに伝えますが、これから言うのはいわば〝お願い〟です。 それに強制力を持たせるつもりもありません。 どうでしょう、聞いて頂けますか?」


「……いいでしょう、話を聞かせてください」


「わかりました。 単刀直入に言いますと、私は今、グーヌーの里を疑っております」


「ッ!? ……やはり、そうでしたか」


 そう、福留はその〝関わる者達〟がグーヌー族ではないか、と疑っているのだ。

 厳密に言えば、そこから紐づく繋がりを。


 グーヌー族は現在、カナダ政府と密な関係を築いているという。

 それはグーヌーの里が比較的早めに見つかり、カナダ政府と協力関係を結んだから。

 だから彼等は秘密裏に提携して勇を呼び出し、善か悪かを見極めようとしたのだろう。

 ジヨヨ村長が言う通りの人物か否かを。


 でももし、それがデュゼロー達の思惑によるものだったら。

 カナダ政府が持つ情報を得て、それを横流ししているのだとしたら。


 もしも、カナダ政府自体がデュゼロー達を手引きしているのだとしたら。


 可能性はあり得なくも無い。

 外部の手引きがあれば、東京という人口密集地帯のど真ん中で姿を晒す事も不可能ではないから。

 現代を知り尽くした者ならば視線を潜り抜ける事も出来るだろう。

 例えば、曇り窓(スモーク)を張った車を利用しての移動などで。


 そう思える程に、デュゼロー達の行動が現代に馴染み過ぎていたのだ。

 いずれも『あちら側』の者でありながら。


「グーヌーの里とカナダ政府―――私はそこの繋がりに少し疑念を抱いています。 そこでズーダーさんに頼みたいのは、里長にそれとなくその辺りを聴き出していただけないかと。 カナダ政府への揺さぶりは私の方でするつもりです。 あちらにも私の友人がおりますので」


「ふむ……」


 ただ、それでもあくまで疑念に留まる事で。

 確証には至っていないからこそ、真相を探る必要がある。

 だから福留はズーダーに頼もうとしたのだ。

 里長の息子である彼ならば、さりげなく訊き出す事が出来るのではないかと。

 誰よりも穏便に、それでいて最も効率的に。


 もちろん、福留がズーダーを呼んだのはそれだけが理由という訳ではない。

 彼がグーヌー族五人の中で誰よりも信頼出来るからである。


 先日の検査の際、ズーダーが見せた行動は間違いなく本心だった。

 疑う事を嫌い、仲間を庇う為に体を張る。

 その姿は紛れもなく信頼に値する行動で。

 だからこそ真に信じる事が出来たのだ。




 ただ、そうだとしても曲げられない事もある。

 例え、互いに信頼し合う仲だとしても。




「―――申し訳ありませぬが、その願いは断らせて頂きたい」


 この時ズーダーが見せたのは拒否の意。

 ゆっくりと顔を横に振り、小さな溜息を漏らしていて。


 福留もこれには「ふぅむ」と唸り、視線を逸らさせる。


「……その理由をお聞かせ願えますか?」


「理由は二つ。 一つ目はご存知の通り、私は里を裏切りたくはない。 故郷を信じていますから。 そんな事はしないと断言出来る程に。 皆、良い者達ですよ。 信頼し合い、助け合える家族なのですから」


「ええ、ええ。 その故郷を想う気持ちは実に素晴らしいですねぇ。 それで二つ目は?」


「二つ目ですが、里長はきっと私をまだ許してはくださらないでしょう。 あの方は厳格ですからな。 なのできっと、私がそう訊いても『今のお前にはそこまでの話は早い!! 出直せ!!』とどやされて終わると思います。 恥ずかしい話ですが、不肖の息子でして」


「はは、なるほど、そういう理由でしたか……ならば仕方ありませんねぇ」


 でもこうして理由を知らされれば、納得せざるを得ない。


 どうやらズーダーには言うほど里へのアプローチ力は無いのだろう。

 里長の息子だからと特別視も出来ない程に。

 それは本人がよく知っている事な様で、そう語る上で「ハハ……」と苦笑を零す姿が。


 そんな姿はどこか勇とも被る。

 もしかしたら、ズーダーもまた隠し事が苦手な方なのかもしれない。


「わかりました。 では今の話は無かった事に。 ズーダーさんを信じて、今はグーヌーの皆さんを信じるとしましょう。 今がどうあれ、いずれ真相は確かになるはずですしね」


「理解して頂き感謝します。 そして改めて、我儘を貫いてしまい大変申し訳なく思います」 


 続いて謝罪する姿はとても落ち着いたもので。

 不肖とは思えない、出来上がった態度だ。

 福留もそんなズーダーを前に強く出る事は無く、ただただ微笑みで「ウンウン」と返すのみ。


 こう話すだけでズーダーの意図が汲み取れたのだから、充分だったのだろう。




 こうして、福留とズーダーの裏話も終わりを告げ。

 勇達もゆったりとした昼を過ごす事が出来ていた。


 一切の何事も無く。


 まだ、デュゼロー達の行方はわからないままだ。

 今もなお捜索班が探し続けているのにも拘らず。


 果たして、彼等は一体どこへ。

 何をしに東京に来たのだろうか。




 時が過ぎ去る度に、その謎が―――不安を呼び続ける。




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