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時き継幻想フララジカ 第二部 『乱界編』  作者: ひなうさ
第二十五節 「双塔堕つ 襲撃の猛威 世界が揺らいだ日」(東京動乱 前編)
262/329

~訪れた大事な日~

 来たるべき十二月二十四日、クリスマスイヴの朝。

 恋人達が、夫婦が、子供達が、多くの人々が待ち望んだ祝日である。


 街はもうクリスマスの赤一色で。

 クリスマスソングが至る所で流れ、多くの関連商品が店先に並ぶ。

 それを求める者達でごった返すのはもはや毎年恒例と言えよう。

 大きなショッピングモールともなればもう、車の停める場所に困ってしまう程。


 そしてこの日は、勇とあずーの初デートの日でもある。


 待ち合わせに選んだのは、勇の住む街にある多目的公園。

 いつか小さい頃、あずーが心輝においてけぼりにされたというあの思い出の場所だ。

 ここは決して記憶のまどろみから生まれた架空ではなく、ちゃんと存在していて。

 むしろ勇の様な地元民からしてみれば馴染み深い場所とも言えよう。


 公園の面積はざっくり一〇〇平方メートル程と中型。

 中央は子供が走り回るには十分な広場となっていて、端には砂場や立体遊具、鉄棒などが。

 でも昔の色鮮やかな思い出とは違って、遊具はいずれも色褪せている。

 ふと自分の小さい時の姿が思い起こせるくらいに懐かしい風貌だ。


 祝日ともあれば子供が遊んでいる姿も見受けられるものだが、その姿はどこにも見当たらない。

 日が日なだけに、子供達は家族と出掛けるか家で遊んでいるのだろう。


 そんな無人の公園入り口に勇が立つ。


 ひと気が無いのはある意味で言えば助かる所で。

 しきりに見渡している辺り、人生で()()初めてのデートともあって緊張を隠せない様子。

 こうして辿り着いたのも予定時刻三〇分前と、歩いてすぐな距離にも拘らずの早準備だ。

 服装こそいつも通りのナンセンスな私服であるが、ここは直しようがないので置いておくとしよう。


「まだかな、あず……」


 しかし、そんな勇の口からはぼやきが漏れる。


 それもそのはず。

 確かに辿り着いたのは三〇分前だ。

 でも現在の時間はと言えば、それからおおよそ一時間三〇分後。


 そう、あずーは予定時刻から一時間過ぎてもなお姿を見せていない。

 「今来たばっかりだよ」なんて言葉を掛けるのもおこがましい程の、壮大な遅刻をキメているのである。


「まったく、アイツ本当に楽しみにしてたのかぁ?」


 遂にはその口から呆れ声までが溢れ出る始末。

 とはいえ、寒空の下で一時間も放置されれば愚痴の一つや二つ漏れるものだろう。


 この場所と時間を指定したのは当然、あずー本人だ。

 ちゃんと公園の下調べ(リサーチ)までした上で、複数ある入口のどこで待つかも全て彼女が決めた。


 なのにこの惨状。


 未だ本人の姿が現れない現状に、勇の溜息が止まらない。

 遂にはスマートフォンを取り出し、暇潰しまで始めていて。

 もはや先程までの緊張感は微塵も残されていない様子。


 なおSNSやメールの返事も皆無だ。

 既読が付けばまだいいが、それすら無いのだから困ったもので。

 さては体調でも崩したのか、それとも何かアクシデントに巻き込まれたのか。

 そんな事まで脳裏を過り、不安すら感じさせてならない。


 ただ、そんな不安も間も無く掻き消される事となる。




「―――勇くぅ~~~ん!!」




 その時打ち上がったのは、聴き慣れた甲高い大声。

 朝の住宅街であろうとお構いなしに響き渡る。


 あずー、ようやくの到着だ。


「やっと来たか。 遅過ぎるだろぉ……」


 声が最初に聞こえてくるのはもはやお約束か。

 間も無くその姿が道角から飛び出して、土煙を巻き上げて駆け抜けて来る。

 力強く見えるのは、きっとその脚に命力をふんだんに篭めているからだろう。

 「ドドド!!」と馬の走りが如き効果音が聴こえて来そうな荒々しい走りだ。

 いや、実際聴こえてる。


ズササー!!


 遂には野球選手も真っ青なスライディングで勇の前へと滑り込み。

 そしてスライムを思わせる柔軟さでその体を勢いよく持ち上げては―――


「ごめぇーーーん!! 寝過ごしたぁ~!!」


 「ビシィッ」としたお辞儀が勇に向けて深々と下げられる事となる。

 流れる様に行われた、実に見事な謝罪である。


「よりにもよって一番情けない結果かよぉ……」


 なお、謝罪を向けられた当人としてはもはや脱力モノ。

 深々と頭を下げるあずーの前で、頭と肩が堪らずコテンと落ち込む。


 いっそ体調不良かアクシデントなら言い訳も付くのだろうが。

 壮大な寝過ごしという結果に、勇ももはやガッカリ感を隠せない。


「楽しみ過ぎて夜更かししちゃって、でも気付いたら寝ちゃっててー! 今さっき起きたのー!!」


「正直なのは良い事だけど、開き直っても駄目だからな?」


 しかしこんな事にめげないのがあずーの良い所(?)とも言えよう。

 たちまち勇の前で「クルクルー」と愉快に回って誤魔化す姿が。

 例え昔の無茶振りが落ち着いたとはいえ、このテンションの高さは相変わらずだ。


 ただ、それでも勇の目だけは誤魔化せない。


「にしても、いいのかぁ? そんな格好で」


「え、えへへ……ちょっと整えたいかも?」


 勇には見えていたのだ。

 あずーの様相が崩れていた事をハッキリと。


 急いで準備したから何もかもが適当だったのだろう。

 服はヨレヨレでボタンがズレて留まっていたり、スカートの裾高さが左右で違ったり。

 鞄の口が開きっぱなしだったり、ピンクのリップが唇からはみ出していたり。


 見た目はまるで仕事に疲れたOL、どう見てもデートに行く様相には見えない。

 むしろ家から出て来れた事が驚きのレベルだと言えよう。

 それだけ焦っていたのだろうが、もはや言い訳にすらならない程に酷い。


「今日一日時間あるし、一旦家に帰る?」


「そ、そうしよっかな~……」


 という訳で結局、二人は一度園部家へと戻る事に。


 どうやら寝過ごしたツケは相応に重かった様だ。

 大好きな人との幸せな時間は、遅刻分だけに留まる事は無く。

 あずーが複雑な心境を表情に表していたのは言うまでもないだろう。


 そんな彼女を前に「電話かSNSで連絡すれば良かったのになぁ」などと思ってならない勇なのであった。




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